キコリのエルフ、冒険者になります!!~危機一髪?!霧の村の秘密を暴け~

野良トマト

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後編

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「ここで、間違いない?」
「すんすん……うん、間違いないよ! たぶん!」

 若干の不安を感じる返答だが、ともかくキコリスの鼻を頼りに、二人は村の外れにある小屋にたどり着いた。
 相変わらずの濃霧で見晴らしは悪いが、周囲に人の気配はない。むしろ、これからやろうとしていることを考えれば、この状況は好都合とも言えた。

「さて、まずは鍵をどうにか――」
「ていや!」

 キコリスが元気に扉を押すと、ばきりという破壊音と共に、勢いよく内側へと開いた。

「あ、レイちゃん、何か言った?」
「…………いくわよ。」

 言いたいことは両手いっぱいにあったが、アレイラは持ち前の知性でそれを押し殺すと、足を前に動かした。

 中に入ってみると、床は土のままで、地下へと降りる大きな斜めの穴が掘られていた。
 ようするに、本体はこの穴蔵で、小屋はそれを覆っている入口部分なのだ。

「なるほど、倉庫……ね。」

 地下の温度は安定しているので、村の食べ物や酒類の保存に使われていたのだろう。
 でも、恐らく今は――

 ランタンに火を移し、穴の奥へと進んでゆく。
 すると、湿気とカビの匂いに紛れて、間もなく獣の匂いが漂ってきた。

「……! レイちゃん、あれ……!」
「やっぱり……ね……」

 そこには、小さな檻と――その中につながれて、弱り果てた、幼い熊の姿があった。

 それはこちらを見て、頭を少し持ち上げたが、鳴くこともせず。代わりにその首を繋ぐ鎖がこすれ、チリチリと小さな音を立てた。

「ハニーベアは普段温厚だけど、子育ての時期に巣に近づくのは危険、って言われてるわ。さっき襲ってきたのは……こういうわけね。」
「助けてあげようよ、レイちゃ――」
「おっと。そいつは困るなァ。」

 突然、背後からの声。
 弾けるように振り向くと、先のローブの男が三人、入口を塞ぐようにして立っていた。

 熊の子供に気を取られていたのもあるが、気配を全く感じなかった。
 こいつら、ただの村人じゃない。

「さて、どういうつもりかな、冒険者さん方。そんなのでも、うちの大切な商品なんだがね。」
「……あなたたちこそ、どういうつもりかしら。魔物の飼育も、生きたままの輸送も、どっちも禁止されてるわ。」
「へぇ? それは知らなかったな。次から気を付けるよ。」

 そのわざとらしくおどけた口調に、アレイラは顔をしかめた。
 背後の男たちも、ニヤニヤと笑いながら、ゆっくりと短剣を腰から抜く。

「レイちゃん、この人たち……」
「ええ、悪いヤツらよ。」

 恐らく、この男たちは密猟団かなにかで、この村――いや、この廃村跡を、『商品』の置き場として使っていたのだろう。
 それがバレた今、私たちをそのまま逃がすとは思えない。

「おっと、変な気は起こすなよ。」

 先頭にいた男が、何やら金属製の振り子のようなものを突き出した。
 それが揺れだすと同時に、謎の波動のようなものが周囲に広がっていく。

「……! それは……?!」
「ハハッ! かかったな、これは魔法を使えなくするアーティファクトだ。戦えるのはそっちのエルフだけだろう、これでお前たちの命は――」

 その言葉の続きは、男の顔面にめり込むキコリスの拳によって、すっぱりと中断された。

 男はそのまま背後に吹っ飛ぶと、壁に衝突し、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。

 そして一瞬、奇妙な静寂が訪れた。

「あれ。ごめんレイちゃん、あれ最後まで聞かないとダメなやつだった?!」
「……いや、うん。いいわ。そのままやっちゃって。」
「よかったぁ!」

 そう叫ぶや否や、キコリスはぴょんっと飛び跳ねたかと思うと、その衝撃で背から離れた斧をキャッチして、一回転させながら正面に構えた。
 ほぼ同時に、残る二人のフードの男が短剣を構え、左右から同時に飛び掛かる。

 実はキコリスは対人戦において、謎の優位性がある。

 通常、エルフは『弓使い』か『魔法使い』なので、できる限り距離を詰めて戦うべきだ。対して、キコリスは近接特化型の脳筋ファイターなので、どうにかして距離を詰めて戦いたい。

 お分かりいただけただろうか?
 キコリスから見れば、『なぜだかみんな、自分の得意な間合いに飛び込んでくる』のである。

「なんなんだ……コイツは?!」
「にひ。うーりゃっ!!」

 二人の男が振り下ろした短剣は、斧の刃と柄に止められていた。
 キコリスはそれを力任せに押し上げ、バランスを崩した二人のうち、片方の腹を斧の背で叩き飛ばした。

「くッ……死ねェ!」

 残る男は再び短剣を振り下ろしたが、強引に引き戻した斧の背がそれを受け、火花が散る。
 よろめいた男の胴目掛けて、左手の拳がクリーンヒット。一瞬宙に浮いたその体を、今度は右手の斧の背で、地面に叩きつけた。

 二人が動かなくなったのを確認して、キコリスはぶんっと斧を回すと、元気に頭上に掲げた。

「いっちょあーがりっ!」
「……ふぅ。流石ね。」

 アレイラも緊張を解いて、小さく手を叩いた。

 彼らも弱くはなかったハズだ。こちらの戦力がエルフだけと知った上で、地下の閉所に誘い込み、魔法の対策までする徹底ぶり。
 そのエルフがキコリスだったという謎の不運には、敵ながら同情する。

「さてと……」

 倒れた男たちを横目に、アレイラは地面に落ちた振り子を拾い上げた。
 つんと小指の先で弾くと、肌がぞわりとするような、魔法の余韻を感じる。

「レイちゃん、それ……」
「うん、確かに、アーティファクトね。ついてるわ。」

 アーティファクト。魔法が込められた、古代の道具。
 誰が作ったのかも、どうして魔法が使えるのかもわからない、神秘の遺物。

「わあ! もしかして、レイちゃんの言ってたやつ?」
「馬鹿ね、私たちが探してるのは、そんな簡単に見つかるものじゃないわ。」
「むぅ……そっかぁ……」

 私たちの旅の目的は、とある『失われたアーティファクト』を探し出すこと。
 もちろんこれとは似ても似つかないけど、それでも不要ってことはない。

 なぜならアーティファクトは、そこそこいい値段で取引されるからだ。
 旅を続けるにも路銀がかかるわけで、資金はいつでもカッツカツ。お金になるものなら、正直なんでもありがたい。

「こいつらも突き出したら、賞金とか出ないかしら……」

 そう、何気なく地面に目を向けて、アレイラははっと息を止めた。
 最初にキコリスが殴り飛ばした男がいない。視界にあるのは、先ほどの二人の男の体と、短剣が一本だけだ。

「――おっと、動くな。」
「!!」

 首筋に当てられた冷たい感覚で、さっと血の気が引く。

「レイちゃん!!」
「動くなっつってンだろうがッ!! さっきは当たらなかったがな、コイツにはたっぷりと毒が塗られてんだ。少しでも乱暴に動かしたら……わかるな?」
「え……っ」

 首筋の短剣が、ぎりりと強く押し付けられ、思わず顔をしかめる。
 それを見て、キコリスは走り出そうとした足を、力なく止めた。

「キコ……リス、かまわず、に……!」
「レイ、ちゃん……」

 しばらく斧を持って動揺していたキコリスだったが、やがてゆっくりとうなだれると、斧から両手を放した。
 それは地面に突き刺さり、重く鈍い音を立てた。

「レイちゃんを……離して、ください……」
「この……バカ……っ」

 なんとか声を出そうとするが、喉をきつく抑えられ、これ以上喋れない。

 気づけば、残りの二人もフラフラと起き上がり、アレイラの左右に立っていた。
 おそらく、二人も気絶したフリをして機会を伺っていたのだろう。
 頬に汗が伝うのを感じる。

 甘く見ていた。
 こいつらは、人と戦うプロじゃない。人を騙すプロなんだ。

「フフフ……いい子だ。なに、殺しはしないさ。むしろ、大切に扱ってやるよ……『商品』としてなぁ……!」

 三人の下卑た笑いを聞きながら、アレイラは唇を噛み締めた。
 キコリスは顔を真っ青にして、涙をためてその様子を見ていたが――ふいに顔をあげ、目を丸くした。

「あ、あの……」
「ん? なんだ。」
「う、後ろ……」

 そのキコリスの言葉に、三人はポカンと固まったあと、盛大に笑い出した。

「ひゃはははっ! 誰がそんな手に引っかかるか!! バカなのか?!」
「……?」

 そう。この状況、誰が聞いたって、苦し紛れの嘘にしか聞こえない。

 でも、私だけは知っている。
 この子には、キコリスには、そんなことを。

 ――グォオオオオオオオアアアア!!

「な、何ッ?!」

 男たちの背後、つまり入口の方から、耳が割れんばかりの轟音が響く。
 次の瞬間、アレイラの体は宙に投げ出されていた。

「きゃあっ?!」
「レイちゃんっっ!!」

 その体を抱きとめると、キコリスは何度か地面を跳ね転がり、小熊の檻に衝突した。
 腕の隙間からどうにか頭を上げると、アレイラはようやく何が起こったのかを理解した。

 背中に傷を受け、ばらばらに倒れている男たち。
 その奥でゆっくりと立ち上がったのは、右腕に傷のある魔物――キコリスたちが戦った、あのハニーベアだった。

「あいつ……戻ってきたの……?!」
「レイちゃん、レイちゃん! 大丈夫!?」

 そのキコリスの声にはっとして、首筋を触る。短剣の傷はなく、体のどこにも痛みはなかった。
 でもその代わりに、目の前のキコリスは傷だらけで、そこかしこに血がにじんでいた。

「ばっ……キコリス、あんた……!」
「えへへ……レイちゃん、よかったぁ……」

 いろいろと言いたいことはあったが、その擦り傷だらけの笑顔を見ると、どうにも言葉が出てこない。
 アレイラは目をそらして、「バカ」とだけ呟いた。

 ――グルルルルルル……

 そうしている間にも、ハニーベアは一歩、また一歩と、こちらへ近づいてきていた。

「クソっ……撤退だ!!」
「あっ、アイツら……!」

 いつの間にか入口の上の方にいた三人が、傷を庇いながら逃げていく。
 そのしぶとさと手際の良さには思わず感心してしまうが、こちらも他人事ではない。

「キコリス、私たちも逃げるわよ!」

 今、ハニーべアと戦う余力は残っていない。
 でも、こいつの目的は子供のはず。今なら少し気をそらせれば、逃げられる。

 そう思い、キコリスの方を見ると――

「ん~~~っ!!」
「ばっ、な、何してんのよ?!」

 当のキコリスは、あろうことか小熊の檻の前に屈みこんで、鉄の棒を引っ張っていた。
 もちろん、やろうとしていることはわかる。明白だ。この期に及んで、この小熊を逃がそうとしているのだ。

 でも、今そんなところにいたら、真っ先に襲われて――!

 ――グルル……

「え……」

 驚いたことに、ハニーベアは一切動かず、ただ檻の中を見つめるのみだった。

 アレイラは目を白黒させながら、檻を引っ張るキコリスと、動かないハニーベアを交互に見ていたが、やがて思い切ったように地面を蹴った。

「あーーッ!! もうッ!! この馬鹿ッッ!! 流石にあんたの力でも、鉄の檻は無理よ! 貸しなさい、このタイプの鍵はねぇ……!」
「あ……レイちゃん……!」

 もうこうなったら、なるようになれだ。
 文句はあとでたっぷり言ってやる。

 そうして、キコリスとハニーベアが見守る奇妙な状況の中、震える手を押し殺して、どうにか檻を開けることに成功した。

「やったぁ! よかったね、クマさんっ」
「あっ、ちょ……っ」

 開いた檻からキコリスが小熊を持ち上げので、アレイラは心臓が止まりそうになったが、親熊はゆっくりと子供に近づいて、嬉しそうに頬擦りをしただけだった。

 穴倉から出ると、親熊は小熊を咥えて取り上げ、背中に乗せると、森の方へと静かに歩いて行った。
 早朝の青白い光に照らされながら、アレイラは呆然とそれを見送っていた。

「……こんなことも、あるのね……」
「ふふ、レイちゃんにも、知らないことってあるんだねぇ。」
「アンタねぇ……」

 しかめっ面でそれだけ言うと、アレイラはくすりと笑った。
 それ以上の言葉は、今は出てこなかった。

 朝日が昇り切ると、霧はすっかり晴れ、街道もくっきりと見えるようになっていた。
 アレイラは再び地図を広げ、キコリスは山のような荷物を背負って、いつものように歩き出す。

 ふと、遠くで鳴き声が聞こえた気がして。
 二人が振り返った先には、綺麗な虹がかかっていた。


~Fin~
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