元勇者が教える、モブのスキルの活かし方 ~ベンチャーギルドが勇者ギルドを超えるまで~

Deadhimo

文字の大きさ
2 / 6
【プロローグ】人類の敗北 〜ラタイアイ平原の決戦〜

第2話 ギルドマスターとサブマスター

しおりを挟む
 ラタイアイ平原はひどい有様だった。〈魔界の怪物=モンスター〉に殺された兵士や《勇者ギルド》のギルドメンバーが草を血で赤く染めていた。

 〈モンスター〉達は既に目的を達したのか、平原を通り過ぎてしまっていた。

 そんな中で、転がる死体が数体、光をまとい始めた。

 《復活の加護》の発動だ。

「いたたたた!」

 もはや静寂に包まれた草原で初めて声を上げたのは、《勇者ギルド》のサブマスターであるセフィアだった。
 彼女の折れた腕や大きくえぐれた傷が、光とともに正常な身体に戻ってゆく。
 大きな傷が治るごとに「痛い!」と彼女は高い声を上げた。

「セフィア、静かに」

 次に声を出した男は、ギルドマスターであるブレウス。

「……!ああ、良かった。復活できたのねギルドマスター」

 セフィナはブレウスの方を見て、まるで復活時の体の痛みを忘れたように、安堵しながら彼女は言った。

「いてて、相変わらずこれはキツいなあ」

 静かに―――と言ったブレウスも、同じく表情は厳しかった。そして復活の痛みは彼にもあるようで、しばらくは二人とも苦悶を続けていた。

「……とりあえず、平気になったら状況を確認しよう」

 ブレウスはギルドマスターらしく、復活したばかりというのに状況の確認を始めた。
 また、時を同じくして6人ほどの《勇者》が復活を果たし、それぞれブレウスの元へやってきては、指示を受け、現状を把握しようと平原に散らばっていった。
 そしてすぐにセフィナが〈異常〉を見つけた。

「あらアレス、まだ寝てるの」

 仲間の《勇者》であるアレスの死体だった。
 これを見つけたセフィナは、彼の死体を蹴った。

「みんなもう復活してるのに、気楽なもんね」

 いつになったら復活するのよ、と零しながら。彼女はアレスの身体を見て、心臓があるだろうから復活すると考えたのだろう。
 しかし数度蹴ってきても彼は復活してこないので、この死体をどうするべきかと、セフィナはしばらく悩んだ。
 すると、立ち止まっている彼女を気にして、ギルドマスターが歩み寄った。

「何してるんだい」
「アレスがまだ死んでるわ、どれだけのんきなのかしら。こいつも他のモブどもと変わらないわ」

 彼女の呆れた声と同じように、ブレウスも呆れたような視線をそれに向け、ため息をついた。

「仕方ないよ、セフィナ。とりあえずアレスを担いで」

 そこまで悪態をついていたセフィナだったが、ブレウスの命令には「はい」と、二つ返事でアレスの体を担ぎ上げた。

「時は一刻を争う。速やかに王国に戻らなければいけない」

 彼は続ける。

「僕たちは敗北したらしい。そして、死んでいる〈モンスター〉の数は多くない。つまりあいつらはこのまま王国に向けて進んでいるはずだよ」
「そうね、急ぎましょう。こっち側の大陸(ルビ:北の砂時計)まで奪われるわけにはいかないわ」

 彼女は頷き、答えた。





 ―――今わかっているこの世界には、大陸が二つあった。

 片方の大陸(ルビ:南の砂時計)は既に〈モンスター〉を率いる魔界の軍隊に支配されていた。そして、彼らの住む大陸も現在進行形で侵略されている。

 小さな海峡でつながれた二つの大陸は、地図上ではまるで「砂時計」のような地形をしていたので、それぞれ「北の砂時計」「南の砂時計」と云われた。

 この《ラタイアイ平原》の決戦より前は、この二つの大陸をつなぐ小さな海峡を集中して防衛することで、「北の砂時計」への本格的な侵略は何とか防ぐことができていたのだが、同じ手は何度も通じない。
 魔界の軍隊は今回の侵攻ルートを海峡を通らないように変えてしまったのだ。

「もっと良い作戦が考えられていれば……悔しいよ」

 「北の砂時計」の中心部に位置する彼らの王国と、海峡の間に《ラタイアイ平原》はあった。そして、今はそこで敗北したーーーつまり魔の手は確実に王国へ迫っている。

 これを完全に把握していた彼の表情はとても暗かった。

「死ぬまで、戦いましょ」

 セフィナも希望のない目で彼に言った。

 ―――王国へ《勇者》たちが向かう道中、彼らは状況についてさらに整理しようとした。

「僕達が死んでいた間はおそらく朝方から今の昼下がりにかけてだ。〈モンスター〉の進軍速度を考えると、半日で奴らはラキア王国につくだろう」

 ラキア王国というのが彼らの住む国の名前だった。

「じゃあ、あと少しだけ猶予がありそうね」
「アレスさえ居れば、こんな距離はすぐなのになあ」

 ギルドマスターはアレスの《加護》を思い出し、残念がった。セフィナもそれに同意するように、

「あいつのスキルが役に立つのなんて移動くらいだったわね」

 こう嘆いた。

「そもそもこいつが《勇者》なんておかしな話よ。わたしたちのスキルに比べたらほんとしょうもないのに」

 これまで暗い表情をしていた《勇者》たちは、くすくすと笑い始める。

「セフィナ、死人に鞭打つのは良くないよ……w」
「復活したら罰としてもっかい死んでもらいましょ」

 彼女はアレスを殺すイメージトレーニングをするように、腰のダガーを抜き、くるくると回した。

 彼らが、アレスがもう復活しないと気付くのは、もう少し先の話。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...