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Period 1 ならまちを知りましょう。
第12話 大仏プリン 前編
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大概のものは美味しいと思えるおめでたい味覚を持っている私でも、珈琲の善し悪しぐらいは分かる。まだ珈琲を飲めるようになって一年も経っていないから酸味とかコクとかそういうのは良く分からないが、直感的に「あ、これ美味しい」と飲んでいると分かる。インスタントのものと、ミルで挽いたものでは圧倒的に違う。
と言いながら飲んでいるのは、きちんと豆からミルで挽いたものではなく、近鉄奈良駅の成城石井で買ってきたインスタントの珈琲だ。なんだそれ。今までの珈琲論はなんだったんだ。まあ重要なのは珈琲ではない。
近鉄奈良駅、それはならまちの中心に存在する基幹駅だ。ならまちと呼ぶに値するのはせいぜい三条通り間だ。その一本の線を平行に動かして面を作る。その面がならまちだ。そして、私たちの通学路にあるJR奈良駅は、その三条通りの端にあるのでギリギリならまちとしか言えない。
しかし近鉄奈良駅はならまちの中心に位置するので、完全にならまちと言える。近鉄奈良駅のことはどうやら「近奈良」と呼ぶらしく、可愛い。近奈良もJR同様綺麗な駅舎で、当たり前だが木造ではない。そしてその近奈良にはテーマパークのようなワクワクを感じた。チラーっと見ただけだったけれど、美味しそうなお土産屋さんがたくさんあった。
「もう、言いたいことは分かりますよね綴喜さん」
「はぁ」
一週間ほどですっかり春の装いは剥がれた。四月だというのに今朝の天気予報では25度を超えるだろうとお天気キャスターが言っていた。地球温暖化を身にしみて感じる。
そして、弓道場は日射しが照りつけようが、雨が降ろうが全く影響はない。私たちが弓を射る場所はひさしが付いているから。じゃあなんでわざわざ天気の話をしたのかと言えば、特に意味はない。珈琲の話といい、天気の話といい、今日の私はどこか蛇足だ。蛇足、の使い方がこれで合っているのかと言われても知らない。普段使わないし。じゃあなんで使った(以下略)
「近奈良に行きたい、と」
部活の休憩時間、私は叶恋と共に世間話に興じていた。私はよく人に「話してばっかだね」と言われてしまうことが多いので、叶恋の話も聞くようにしている。しかし叶恋はどこか私に遠慮がちで、どうも私を持ちあげようとする。なんとかその理由を聞きだしたくて、元より行きたいと思っていた近奈良の地下だ。叶恋と二人っきりで行く日があってもいいだろう。
「良いけどさ、なんで二人? 希咲と紗穂も一緒に行けばいいのに。真っ先に誘うのが春夏だろ?」
なるほど、私はうっと唸る。この場でそれを聞かれても困る。他の先輩たちがいるような場所じゃなくて、完全に二人だけの時間に話そうと思っているのに。
「ま、理由はまた言うよ。しっかし今日は暑いね~」
「えっと、春夏?」
「はい」
「なんなの? もしかして私、ヤバいことしちゃった?」
叶恋はまさか私がタイマンを張ろうとしていると思っているのか? 希咲じゃあるまいし、私はそんな物騒なことはしない。いや、希咲でも殴り合いの喧嘩には発展しているところは見たことが無い。しかもわざわざ近奈良に行ってまで喧嘩なんて、無意味すぎる。
「いいから! 私が叶恋と一緒に行きたいの! 分かったらすぐ来る!」
「わ、私と一緒に……。うん、分かった」
おーい、表情をもっと隠せ。ニコニコ顔がバレバレだぞ。叶恋のぼっち歴につけ込むわけではないが、なんだか扱いやすいなぁと思う。私も一種のワクワク感から、早く部活が終わらないかなーと思っていた。別に、部活が嫌なわけじゃない。
「ごめん、今日は叶恋と話したいことがあるんだ。先に帰っといてくれる?」
希咲には本当のことを言った。隠して余計に変な気持ちにさせてしまうかもしれないからだ。希咲に言えば、そのまま紗穂ちゃんにも伝えてくれるだろう。まあ紗穂ちゃんは積極的に私と共にどこかへ寄り道したいとは思っていないだろうが。
「いいけど、叶恋と二人で何の話?」
希咲はなんだか嬉しそうに言った。何かを期待されても困る。
「別になんでもないよ。じゃあね」
「春夏ちゃんのケチー」
希咲がべぇっと舌を出す。可愛いなぁと思いながら私は叶恋と共に自転車を走らせた。叶恋はまだ不安を感じていることだろう。出来る限り早く打ち明けたくて、私はやや速めに自転車を走らせた。
と言いながら飲んでいるのは、きちんと豆からミルで挽いたものではなく、近鉄奈良駅の成城石井で買ってきたインスタントの珈琲だ。なんだそれ。今までの珈琲論はなんだったんだ。まあ重要なのは珈琲ではない。
近鉄奈良駅、それはならまちの中心に存在する基幹駅だ。ならまちと呼ぶに値するのはせいぜい三条通り間だ。その一本の線を平行に動かして面を作る。その面がならまちだ。そして、私たちの通学路にあるJR奈良駅は、その三条通りの端にあるのでギリギリならまちとしか言えない。
しかし近鉄奈良駅はならまちの中心に位置するので、完全にならまちと言える。近鉄奈良駅のことはどうやら「近奈良」と呼ぶらしく、可愛い。近奈良もJR同様綺麗な駅舎で、当たり前だが木造ではない。そしてその近奈良にはテーマパークのようなワクワクを感じた。チラーっと見ただけだったけれど、美味しそうなお土産屋さんがたくさんあった。
「もう、言いたいことは分かりますよね綴喜さん」
「はぁ」
一週間ほどですっかり春の装いは剥がれた。四月だというのに今朝の天気予報では25度を超えるだろうとお天気キャスターが言っていた。地球温暖化を身にしみて感じる。
そして、弓道場は日射しが照りつけようが、雨が降ろうが全く影響はない。私たちが弓を射る場所はひさしが付いているから。じゃあなんでわざわざ天気の話をしたのかと言えば、特に意味はない。珈琲の話といい、天気の話といい、今日の私はどこか蛇足だ。蛇足、の使い方がこれで合っているのかと言われても知らない。普段使わないし。じゃあなんで使った(以下略)
「近奈良に行きたい、と」
部活の休憩時間、私は叶恋と共に世間話に興じていた。私はよく人に「話してばっかだね」と言われてしまうことが多いので、叶恋の話も聞くようにしている。しかし叶恋はどこか私に遠慮がちで、どうも私を持ちあげようとする。なんとかその理由を聞きだしたくて、元より行きたいと思っていた近奈良の地下だ。叶恋と二人っきりで行く日があってもいいだろう。
「良いけどさ、なんで二人? 希咲と紗穂も一緒に行けばいいのに。真っ先に誘うのが春夏だろ?」
なるほど、私はうっと唸る。この場でそれを聞かれても困る。他の先輩たちがいるような場所じゃなくて、完全に二人だけの時間に話そうと思っているのに。
「ま、理由はまた言うよ。しっかし今日は暑いね~」
「えっと、春夏?」
「はい」
「なんなの? もしかして私、ヤバいことしちゃった?」
叶恋はまさか私がタイマンを張ろうとしていると思っているのか? 希咲じゃあるまいし、私はそんな物騒なことはしない。いや、希咲でも殴り合いの喧嘩には発展しているところは見たことが無い。しかもわざわざ近奈良に行ってまで喧嘩なんて、無意味すぎる。
「いいから! 私が叶恋と一緒に行きたいの! 分かったらすぐ来る!」
「わ、私と一緒に……。うん、分かった」
おーい、表情をもっと隠せ。ニコニコ顔がバレバレだぞ。叶恋のぼっち歴につけ込むわけではないが、なんだか扱いやすいなぁと思う。私も一種のワクワク感から、早く部活が終わらないかなーと思っていた。別に、部活が嫌なわけじゃない。
「ごめん、今日は叶恋と話したいことがあるんだ。先に帰っといてくれる?」
希咲には本当のことを言った。隠して余計に変な気持ちにさせてしまうかもしれないからだ。希咲に言えば、そのまま紗穂ちゃんにも伝えてくれるだろう。まあ紗穂ちゃんは積極的に私と共にどこかへ寄り道したいとは思っていないだろうが。
「いいけど、叶恋と二人で何の話?」
希咲はなんだか嬉しそうに言った。何かを期待されても困る。
「別になんでもないよ。じゃあね」
「春夏ちゃんのケチー」
希咲がべぇっと舌を出す。可愛いなぁと思いながら私は叶恋と共に自転車を走らせた。叶恋はまだ不安を感じていることだろう。出来る限り早く打ち明けたくて、私はやや速めに自転車を走らせた。
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