ならまち、食べ尽くそうや!

おろしちみ

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Period 1 ならまちを知りましょう。

第13話 大仏プリン 後編

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 近奈良きんならの前の自転車置き場に自転車を停め、まずは初めに広場っぽいところに行った。そこはこの間訪れた「中谷堂なかたにどう」の真反対で、行基ぎょうきの像が洗われていた。いや、本当に。噴水のど真ん中に行基さんがいて、一定時間ごとに噴水が作動して行基さんが洗われるのだ。どうやらそこは定番の待ち合わせスポットらしく、奈良のハチ公といった具合だ。ベンチがあったので、本日の本題へ早速入った。モヤモヤしたままだと美味しいものも美味しく感じられなくなるだろうし。
「あのさ、なんか叶恋かなこ、私に遠慮してない?」
 突然言われて叶恋も準備が足りなかったのだろう。「んえ?」と変な声が出てしまっている。
「だからね、なんか叶恋って私にどこか遠慮してるなぁーって思ったんだけど」
「そういうことか……。確かに春夏はるかの言う通り、私は春夏に遠慮してる部分がある。だって怖いから」
「んえ?」
 予想外。私も準備不足だったみたいだ。まさか私が怖いなんて。私は全くそんな感じじゃないのに、なんで。
「おほんっ……。具体的にどういうところが?」
「なんか……ラスボス感があるからかな。あんなに怖い希咲きさきを手なずけてるのが私には怖くて仕方ないんだ。しかも、実際私は一回希咲にメンチ切られてるし。今度春夏に変なことしたら下手したら殺されるんじゃないかと思うと、言動選んじゃうよな」
 本当に希咲は中学時代、何をしでかしていたんだ。ということは、私に遠慮しているのではなく、希咲にビビっているということなのか。私に遠慮しているのではなくて良かったけど、これは叶恋の心の持ちようによるな………。
「なるほどねぇ~。私に関しては基本なんでも許せるよ」
「嫌いって言ったら泣くじゃん」
「うるせ。まあ今みたいな弄りは普段から家でされてるから大丈夫。希咲にはつよーく言っとく。っていうかお前も初めて友達になったとき引くほど泣いてただろ」
「うっさいなぁ」
「そうそう、そんな感じでいいんだよ。じゃあ早速……」
「地下行くか」
 なんだか足が軽くなった気がする。地下への階段で下り、ちょっと前にチラッと見た風景を目の前に広げる。色んな美味しそうなものの匂いが鼻腔を掠める。
「これ、何ー?」
「大仏プリンだね。美味しいよ」
「いらっしゃいませ~。ご試食なさいますか?」
「あ、はいもちろん」
 即答すると、店員さんはふふっと笑って紙コップに入ったクリーム色と透き通らずその味の濃さを表現しているカラメル。その見た目から教えてくれる。
「なにこれ、美味しい!」
 めちゃくちゃ美味しい。普通のプリンじゃんと思ってた私をどうか許してっ、大仏様! 大仏様に頼んでも仕方がないかな。それにしても美味しすぎる。カラメルが濃ゆいが、クリーム色の部分がとてもシンプルな甘さなので、良い感じにマッチしていてしつこくない。
「はい! これ買います!」
「大きさはどうなさいますか?」
 ショーケースを見ると、どうやら壺サイズのガラス容器に入った「大」と、大サイズをそのまま握って小さくしたような「小」がある。小サイズの方はレアチーズやショコラといった味が豊富だ。
 私は悩みに悩んだ。大サイズを買ってみんなで分けるもよし、小サイズを買って各々で好きな味を食べるのもよし。しかしお母さんとお父さんが何味がいいのか分からない。
「初めて買うんなら大きいやつでいいんじゃない? あとこの容器、洗えば便利だよ。結構モノ入るし」
 叶恋が横からアドバイスする。確かに、このぐらいの大きさなら容器としても機能するだろう。お母さんが喜びそうな工夫してやがるぜまったく。
「じゃあこのカスタードの大サイズ一つください」
「かしこまりました。家までお時間はどのくらいでしょうか?」
「五分から十分ぐらいです」
「じゃあ保冷剤おひとつだけ入れておきますね」
 お姉さんは優しそうな営業スマイルで言った。この店、制服がめちゃくちゃ可愛いな。それを見て、私が越してきて奈良に抱いていたイメージがカチッとハマった。今まではただただ古いイメージだった。しかし、古さを重んじながらも現代に向かっていこうとしている奈良、あるいはならまちはなんだか「オシャレ」だ。しかもオシャレの中でも「カジュアル」なのだ。お姉さんの制服が、まるで大仏プリンのカスタードのような色をしてカジュアルだったからそう思ってしまった。
「叶恋は買わないの?」
「私の場合は勝手に二人が作るもんで。でも時々買いに来てるよ。ここが一番近いけど、JRにもあるし、支店にめちゃくちゃ可愛い外見のところがあるんだ」
 二人とは叶恋の両親のことだろう。そう言えば叶恋は喫茶店の娘だった。それより最後の言葉、なんだか気になるぞ。
「可愛い外見?」
「『プリンの森』のことでしょうかね」
 お姉さんは梱包し終えたがそのまま立ち話でも、と言いたげに話し出した。
「そんなのがあるんですね」
奈良坂ならさか、と言えば分かりますか?」
「いえ。最近の市内に越してきたもんで」
鴻ノ池こうのいけ陸上競技場は分かりますか?」
「あっ、はい。弓道場もあるところですよね」
 そこなら県大会の時に何度も行ったことがある。
「そうですそうです! こちらの方面からノ池に向かって、鴻ノ池を通り過ぎてそのまま真っ直ぐ進むんです。そうすればすぐに着きますよ。案内も一緒に入れておきますね」
 なんと親切なお姉さんなのだろう。そうなれば歩きでは厳しいだろうか。自転車で一人でもいいから……いや私は方向音痴なんだった。誰か連れて一緒に行くことにしよう。
「平日でも結構混んでますので覚悟はしておいた方が良いと思いますよ。あそこのおかげでうちのお客さんが……」
 お姉さんは憎たらしい、と言うような表情を浮かべる。
「お姉さんにも色々あるんですね……またこちらにもお伺いしますよ」
「あっ、余計なことを……。ありがとうごさいます!」
 私はそんな癒しのお姉さんから紙袋をもらい、その場を後にした。叶恋とまたあのベンチに座り、近くのコンビニの珈琲を飲んだ。
「喫茶店の娘としては、コンビニコーヒーはどんなもん?」
「さすがにその違いは分かるよ。でもなぁ……」
 叶恋は自嘲するように苦笑した。
「私、あんまり珈琲飲めないんだよな。今は恥ずかしくて珈琲買ったけど、ミルクも砂糖もたっぷりだよ。あぁ、でも違いは確かに分かるよ」
 喫茶店の娘だから珈琲は飲めて当たり前だというステレオタイプはどうやら間違っていたらしい。叶恋のことだから、渋っくて苦っがい珈琲を飲んでそうで飲めないだろうとは思っていたが。試しに叶恋の珈琲を飲ませてもらうと、ミルクと砂糖使いすぎて店員さんに怒られたのではないかと思うほど甘かった。
「叶恋のこと、もっと好きになれたよ」
「っ……! だ、だからそういうとこだって春夏は……」
 叶恋が顔を真っ赤にして俯く。また私はやってしまったのだろう。何も知らないふりをして、私はブラックコーヒーを飲んだ。甘い気がしたのは気のせいだろう。
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