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Period 1 ならまちを知りましょう。
第14話 奈良漬け 前編
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今日は紗穂ちゃんのお土産屋さんにお母さんとお邪魔した。この間、私を介抱して送ってくれたお返しとして、家で作ったおかずのおすそわけと大仏プリンを携えながら。
「場所、分かるの?」
「ちゃんと覚えた。もうすぐ着くよ」
自転車で行った道を歩きで行くのは結構キツい。息を切らして、そろそろヤバいかもと思った所で「土産屋 あき月」は見えてきた。
土曜日の若草山は観光客で溢れており、紗穂ちゃんも紗穂ちゃんのおばあちゃんも接客に忙しそうだった。二人は私たちを見つけると、にこやかに手を振ってくれた。
「あら夕凪さん。お茶出したげるから中で待っとって。休憩もうすぐやから行くわ」
「えっ、あっ、はい。ありがとうごさいます。お邪魔します」
私たちがお礼を言いに来たはずなのに、こっちがもてなされてどうする。こちらを見ることなく、外国人観光客の応対をしているおばあちゃんはなんだかかっこよかった。しかしなんという圧。同じ商人である母でも、この圧には素直に屈服した。
「ちょっと、こっちがもてなされてどうするるの」
「知らないよ。お母さんがお邪魔しますって言ったんじゃん」
私は左手に持った大仏プリンと、同じ店で売っていた珈琲の粉をラッピングした紙袋をその場に置いた。あれ以来、私はすっかり大仏プリンの虜になってしまい、一週間に一回通うようになったのだ。おばあちゃんには抹茶味の小サイズ、紗穂ちゃんにはショコラ味の小サイズを買った。どれも私が前に食べたことのあるものだから信頼できよう。
「いらっしゃい。今日はただお土産買いに来たわけじゃないみたいやなあ。どないしはった?」
約十分ほどで、お店の方からおばあちゃんと紗穂ちゃんがやって来た。おばあちゃんの言葉は、優しく包み込むような優しさがある。
「この間は春夏がお世話になりました。そのお礼に参りました」
「なんや、そんなことかいな! また紗穂がご迷惑かけたんかと思ってヒヤヒヤしたわ」
「おばあちゃん、私変なことしないよ」
和室のちゃぶ台に置かれたお茶をずず、と啜りながら紗穂ちゃんが言った。床の間や付書院まである立派な和室だ。心が和んで仕方がない。
「そうや、こないだアンタ──そうや、名前はなんて言いはるん? 私は草薙花絵言います」
苗字が秋月でないのなら、母方のおばあちゃんなのか。
「申し遅れました。夕凪鈴です」
「鈴ちゃんね。ほんで鈴ちゃんがこないだ定食屋やってる言うたやろ? どんな料理出してんの?」
「あっ、こんな感じのメニューです」
お母さんはウチの店のホームページをおばあちゃんに見せた。それを見て「全部ホンマに美味しそう」と零してくれたが、当たり前だ。どれも最高の状態で、一番美味しく見えるアングルで撮ったものだから。
「今日の夜、伺ってもええ?」
「はい、もちろんです! 時間指定してもらえれば貸切も出来ますが……」
おばあちゃんは数秒考えて、口を開く。
「ほんなら営業時間の最後の三十分ぐらいに行きますわ。なんか悪いな」
私は二人がお店に来てくれることを嬉しく思った。
「いえいえ。それじゃあ午後の仕込みを夫に任せっきりなので私たちはこの辺でお暇させてもらいます。またごゆっくりお越しくださいね」
よそゆきの口調でお母さんは言う。他人には「宏樹くん」なんて死んでも言わないだろう。しかも仕込みなんてロクに今までしてきたこともないだろう。大人というのはいとも容易く嘘を吐く生き物だと思う。
私たちは手土産を渡して、「土産屋 あき月」を後にした。
「場所、分かるの?」
「ちゃんと覚えた。もうすぐ着くよ」
自転車で行った道を歩きで行くのは結構キツい。息を切らして、そろそろヤバいかもと思った所で「土産屋 あき月」は見えてきた。
土曜日の若草山は観光客で溢れており、紗穂ちゃんも紗穂ちゃんのおばあちゃんも接客に忙しそうだった。二人は私たちを見つけると、にこやかに手を振ってくれた。
「あら夕凪さん。お茶出したげるから中で待っとって。休憩もうすぐやから行くわ」
「えっ、あっ、はい。ありがとうごさいます。お邪魔します」
私たちがお礼を言いに来たはずなのに、こっちがもてなされてどうする。こちらを見ることなく、外国人観光客の応対をしているおばあちゃんはなんだかかっこよかった。しかしなんという圧。同じ商人である母でも、この圧には素直に屈服した。
「ちょっと、こっちがもてなされてどうするるの」
「知らないよ。お母さんがお邪魔しますって言ったんじゃん」
私は左手に持った大仏プリンと、同じ店で売っていた珈琲の粉をラッピングした紙袋をその場に置いた。あれ以来、私はすっかり大仏プリンの虜になってしまい、一週間に一回通うようになったのだ。おばあちゃんには抹茶味の小サイズ、紗穂ちゃんにはショコラ味の小サイズを買った。どれも私が前に食べたことのあるものだから信頼できよう。
「いらっしゃい。今日はただお土産買いに来たわけじゃないみたいやなあ。どないしはった?」
約十分ほどで、お店の方からおばあちゃんと紗穂ちゃんがやって来た。おばあちゃんの言葉は、優しく包み込むような優しさがある。
「この間は春夏がお世話になりました。そのお礼に参りました」
「なんや、そんなことかいな! また紗穂がご迷惑かけたんかと思ってヒヤヒヤしたわ」
「おばあちゃん、私変なことしないよ」
和室のちゃぶ台に置かれたお茶をずず、と啜りながら紗穂ちゃんが言った。床の間や付書院まである立派な和室だ。心が和んで仕方がない。
「そうや、こないだアンタ──そうや、名前はなんて言いはるん? 私は草薙花絵言います」
苗字が秋月でないのなら、母方のおばあちゃんなのか。
「申し遅れました。夕凪鈴です」
「鈴ちゃんね。ほんで鈴ちゃんがこないだ定食屋やってる言うたやろ? どんな料理出してんの?」
「あっ、こんな感じのメニューです」
お母さんはウチの店のホームページをおばあちゃんに見せた。それを見て「全部ホンマに美味しそう」と零してくれたが、当たり前だ。どれも最高の状態で、一番美味しく見えるアングルで撮ったものだから。
「今日の夜、伺ってもええ?」
「はい、もちろんです! 時間指定してもらえれば貸切も出来ますが……」
おばあちゃんは数秒考えて、口を開く。
「ほんなら営業時間の最後の三十分ぐらいに行きますわ。なんか悪いな」
私は二人がお店に来てくれることを嬉しく思った。
「いえいえ。それじゃあ午後の仕込みを夫に任せっきりなので私たちはこの辺でお暇させてもらいます。またごゆっくりお越しくださいね」
よそゆきの口調でお母さんは言う。他人には「宏樹くん」なんて死んでも言わないだろう。しかも仕込みなんてロクに今までしてきたこともないだろう。大人というのはいとも容易く嘘を吐く生き物だと思う。
私たちは手土産を渡して、「土産屋 あき月」を後にした。
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