転生×召喚 ~職業は魔王らしいです~

黒羽 晃

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二章 「初めて会った時から」

12話

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 折角なので、ガズルドの言っていた北東の宿屋へ来てみた。
 ギルドの近くにも宿屋はあったが、どこも沢山の冒険者が泊まっていて、満室のところも少なくなかったし、中身は別として、女二人だけで居ると色々と面倒が起こりそうだったからだ。

「にしても、言うほどボロい訳では無いな」

「こんな所に私の知らない宿があったなんて……迂闊でした」

 リリスは良く分からない事でショックを受けているみたいだ。因みに、リリスはギルド近くの比較的安めの宿に泊まっていたらしい。クランに入ると、そう言うところが面倒だな。

「まあ良いじゃないか。部屋も空いてそうだし、取り敢えずは入ってみよう」

 俺は宿屋の扉を開ける。中に入ってみると、中々に清潔感のある、こじんまりとした良い宿のようだった。
 続いて入ったリリスも、軽く息を吐いている。

 一階部分の奥の方にカウンターがあり、そこには赤髪の若い女性がいた。何やら本を読んでいる様だが。

「えと、こんにちは」

 そう挨拶すると、女性はぴくっと反応して、本を閉じてからこちらを向いた。
 歳は、二十前後だろうか。

「なんだ、お客さんか。こっちに来るなんて珍しいね」

「はい、こっちに来ちゃいました」

「そうか。暫くは誰も来なかったからね、碌なサービスも出来ないよ。あんまり期待はしないでくれ」

「充分です。ここなら静かに過ごせそうなので」

「ははっ、他に誰もいないからかな。まあ、ゆっくり寛いで頂けると嬉しいよ」

 彼女はそう言って、カウンターの奥の方へ駆けて行った。
 十数秒後に戻って来る。宿泊者名簿を持って来たようだ。

「宿泊料は、一人部屋で銅貨3枚、二人部屋なら銅貨5枚だよ」

 リリスの気配が固まったような気がした。振り向いて見てみると、引きつった笑みを浮かべている。どんだけ違うんだ、ギルド近くの宿屋とは。
 リリスは直ぐに踵を返し、宿屋を出て行こうとする。

「ってちょっと待てリリス。何処に行く気だっての」

「昨日まで泊まってた宿屋を引き払いチェックアウトに行きます。あそこ、一人部屋で一泊銀貨2枚もしたので」

 そう言い、俺の手を振り払って行ってしまった。
 ……銅貨と銀貨って、どれくらいの差があるんだろうな。
 おっと、関係無い事を考えてしまっていたな。

「楽しいお姉さんだね、羨ましい限りだ」

「いや、姉じゃあ無いんですけど」

 赤髪の女性が朗らかに笑う。姉妹ではないので、取り敢えずそこは否定しておいた。

 俺とリリスが姉妹だと思われたのは、門兵の時とあわせて二度目。おそらくはもっと多い。その原因は髪の色。
 偶然にも、リリスの髪も銀色だったのだ。ただ、俺のよりは黒に近い銀ではあるが。

「へえ、姉妹じゃないんだ。似てると思ったんだけどな」

「ひょんな事で助けただけですよ。出会ったのも今日ですし」

「ふうん、仲よさげだったし、確信してたんだけどなあ。洞察力が足らないな、相変わらず。
 じゃあさ、次は完全に勘で訊くんだけど」

 女性の目が鋭くなる。その、髪色とは対照的な蒼の瞳は、俺の、その奥の何かを見据えていた。
 そしてはたと気付く。そして、それは間違いなく正鵠を射ていると。直感がそう告げていた。

「君さ、人間じゃ無いんじゃない?」

「ああ、奇遇ですね。俺もついさっき、貴女が人では無いんじゃないかって思ってました」

 全くもってその通り。相変わらず、殺気を感じていないと気が緩んじまうのは悪い癖だな。
 実のところ、こっちのも完全なる勘だ。若干、人間から感じる気配と違うかもしれないと、それだけの事。

「あれ、気づいちゃった? うん、私は人間じゃ無いよ。悪魔族デーモンって言う、魔族の一種でさ。純血じゃないんだけどね」

「人間とのハーフって事ですか。それとも他の種族か」

「人間との、だね。ネィレンだと人族至上主義でしょ? 半分でも悪魔族デーモンの血が入ってると迫害の対象になっちゃうんだ。
 だったらネィレンから出れば良いじゃないって話なんだけど、そう簡単な事でも無くてね」

 彼女が、何処か遠い目をする。
 ネィレンから離れられない理由でもあるのか、いや、それにも一種の確信を得ている訳だが。

「この宿屋、ですか?」

「そう。人族の母さんが経営してたんだよ、ここは。昔は結構繁盛しててね、冒険者の宿泊者も少なくなかった。
 ギルドの方に宿屋が出来てから客足は多少遠のいていったけど、それでも泊まる人は多かった」

 目の、悲しみの色が濃くなる。
 俺は黙って、話を聞き続けた。

「そこにさ、現れたんだ。当時Sランク冒険者だった男、【剣聖】アルバートが。
 アルバートはネィレン出身の、生粋の人族至上主義者だった。そいつは、魔族の気配がすると言って、その時ちょうど宿屋の様子を見に来ていた父さんの首を刎ね飛ばしたんだ。
 冒険者の殆どは人族と魔族の差別はしない人たちばかりで、ネィレンには、生まれた時から魔族は殺さなくてはならないと教えられている者がいる事を忘れていたんだ」

「……」

「アルバートは他の冒険者たちから糾弾されたけど、王宮からは逆に褒賞を受けた。国から脅威の種を排除したって。
 Sランク冒険者であるアルバートに喧嘩を吹っ掛けられる実力者もいなくてね。その後もアルバートは、悠々と冒険者活動を続けた。
 父さんが目の前で殺されたショックで、母さんはしばらく茫然自失になってしまって、居た堪れなくなった客たちが次々と離れて行っちゃってさ。それが三年前の事だったかな」

 その後、母親が病床に伏してしまい、二年前に亡くなったと、彼女は語った。

 陰鬱な空気の中、再び切り出したのもまた彼女だった。

「ごめん、お客さんにする話じゃなかったね。余り気にしないでもらえると助かるよ」

「気にするなって言うのも無理のある話だと思うんですけどね」

「はは、本当にごめんね。
 ところでさ、君って名前は何て言うの?」

「……炎真です」

「エンマちゃんか、珍しい名前だね。私はセシリア、よろしく」

「あ、はい」

 いきなり自己紹介?
 つい答えてしまったが、何がしたいんだ、えっと、セシリアさんは。

「単刀直入に訊くけどさ、君って狐人でしょ」

 だがまあ、少なくとも只者では無いな。俺が人間じゃ無いと感じ取った勘も含めて、流石だと思う。

「そうですが、どうして分かったんですか?」

 こっちは純粋な疑問だ。
 仮に魔族だと言うところまでは勘で当てられる可能性もあるが、それが狐人だとまでは流石に分かる筈は無いだろうし。

「うーん、そうだな。たまに父さんの方について行く機会があって、そこで魔族と会う事もちらほらあったんだ。その中に狐人もいて、エンマちゃんから感じる魔力がそれと似ていたから、もしかしたらって」

 ……いや、本当に只者じゃない。
 その狐人と会ったのって何年前だよ、その頃に感じた魔力を覚えているって、どんだけだ。

「普通じゃないですね、セシリアさん」

「ふふっ、そう言われたのは初めてかな」

「それも初対面に」

 さっきまでの話の重さはどこへやら。
 俺とセシリアさんは顔を見合わせる。

「「ぷっ」」

 それは、どちらが先だったか。ほぼ同時にも感じたし、後で考えても仕方の無い事だったのだろう。
 俺たちは、笑い合った。

 初対面の人に対する警戒心も無く、ついさっきまで他人だった人と。
 家族のようでも、主従のようでも、恩人のようでも無く、あたかも友達のように。

「エンマさーん! 引き払いチェックアウト済ませて来ました!
 ……ってあれ、取り込み中でしたか?」

 その直後にリリスが戻って来て、二人揃ってリリスの方を向き。
 なんでか可笑しくなって、また笑った。

「ど、どうして笑うんですかぁー!?」
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