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三章 「どうだっていい」
25話
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イグゼンツヴァイ帝国 王城
「お父様、例の術式が完成致しました!」
第二王女クラウディア・レイ・イグゼンツヴァイは、興奮した様子で皇帝ユーリスの元へ駆けつけた。
各地から寄せられた報告の書類から目を離す。
「落ち着け、ディア。あの術式が完成したとは、本当なのか?」
顔が紅潮する程に息を荒げている。王女とは言え、皇帝の前では無礼とされるだろう。事が事だけに、誰も彼女を責められはしないのだが。
ユーリスは冷静にクラウディアを宥める。
「はっ、見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありませんでした。術式については間違いありません。現在、奴隷魔法士を配備していますので、直ぐにでも使えます」
「そうか。良くやったぞ、ディア。では、余もその術式を見に行くとするか」
ユーリスは徐に座を立ち、クラウディアを伴って執務室から退出する。
クラウディアが完成させたと言う術式は、近年魔物が活性化してから、イグゼンツヴァイに必要になってしまったもの。異世界から適正のある者を喚び出し、力を与える。
即ち、勇者召喚。
文献によれば勇者とは、数多の魔物を切り倒し、強大な魔法で魔族の軍勢をなぎ払い、人族に光を齎す者とされている。
一国軍にすら匹敵する戦力を持つと呼ばれる者を喚び出す術式だけあって、発動には膨大な魔力を必要とする。今回も、貴重な奴隷魔法士を三十人も、それこそ使い潰す事も承知で。
魔法の実験場。闘技場に次いで広い場所であるそこには、巨大な魔法陣が描かれていた。そして魔法陣の端には、一様に同じ杖を持った人達がいた。
彼らこそが奴隷魔法士であり、勇者召喚と言う重役を担わされる者達だ。
「ほう、これが勇者召喚の術式か。ディア、召喚を始めよ」
「はい」
ユーリスの言うがままに、クラウディアは奴隷魔法士に命じる。
【皆さん、魔法陣にありったけの魔力を流して下さい】
命令権。奴隷術によって主従関係を確立された時、主人側に与えられる権利で、奴隷はこれに逆らえない。
奴隷魔法士たちは機械的に杖を構え、自らの魔力を余す事なく魔法陣に流し込んでいく。
主人の命令は絶対。これが示す通り、魔力の枯渇で気を失おうとも、身体は魔力を流し続ける。
クラウディア、及びユーリスがその様子を息を呑んで眺めている。
何度か交代をさせ、魔力ポーションで無理矢理に回復をさせて魔力を流し数十分後、魔法陣が光を放ち始める。
【カス程の魔力もあまさず搾り出して。もう少しです】
クラウディアの命令に従い魔力を流す奴隷魔法士。まともに意識を保てている者はもういない。
魔法陣の光が増し、辺りを包み込むまでになる。
そして……
「……この凄まじい気配。成功したようです」
光な収まり、魔法陣の中心に先ほどまでは居なかった浅黒い肌の男が立っていた。
身長は目算で270cm、そこらの兵士などが小さく見える程の巨漢。勇者とは、とてもでは無いが呼べそうもない。
見張りの為に配備されている兵士が槍を構え、警戒する。
ユーリスが口を開いた。
「……ディアよ、この者が勇者なのか?」
クラウディアはそれに答えず、ゆっくりと、歩いて、巨漢の元へ向かう。
兵士がそれを止めようとするが、目線と手で制される。
「良く、私の召喚に応じてくれました。私の勇者」
イグゼンツヴァイ帝国皇帝ユーリスは、決して察しの良い方では無い。しかし、勇者と思われる巨漢に対する娘の言葉に、彼ですら違和感を覚えずにはいられなかった。
私の勇者。王女クラウディアは、確かにそう言った。
クラウディアは、帝国の戦力を強化する為に勇者召喚術式を模索している筈だった。しかし彼女自身がそれを否定する様な事を言う。私の、と。勇者を、まるで自身の所有物であるかのように。
「お父様。私、嘘をついていました」
ユーリスに振り返り、クラウディアは微笑みながら語る。
「私が探して、完成させようとしていた術式は勇者召喚などではありません。ここにいる彼は、勇者などと言う存在では無い。
……肩に乗せて貰えますか」
男は、クラウディアの言葉に応じて彼女の身体を抱き抱え、自らの肩に座らせる。
その様子を緊張感のある面持ちで眺めるユーリスと兵士達。
「おっと、思ったより高いですね。落ちないように支えてて下さいね?
……英雄召喚。私が求めていた術式の名です」
体勢が安定せずに少々ぐらつく。男はクラウディアを手で支える。
場合によれば微笑ましく見えなくも無い光景を前に、しかしユーリスは表情を険しくする。
「クラウディア、お前は何をしようとしている?」
「おや、いつもの愛称で呼んで下さった方が嬉しいのですが」
「答えよ!」
問いに対して茶化すクラウディアに、珍しく怒声を上げるユーリス。だが、クラウディアは薄く笑って流すだけ。
何をしている訳でも無い以上安易に動く訳には行かず、奇妙な膠着状態に陥っていた。
クラウディアが動いたのは、英雄召喚の為に気絶していた奴隷魔法士が起き上がり始めた時だ。魔力も少しは回復した頃ね、と呟いてから、奴隷に対する命令権を行使する。
【槍を構えている兵士を、全員拘束して】
「ッ! 此奴等、奴隷……」
「くっ!」
クラウディアの命令を聞いた奴隷魔法士たちがクラウディアに、正しくはクラウディアを肩に乗せている男に槍を向ける兵士に対し、飛び掛かる。
魔法士であるが故に身体能力自体は低いが、しかし個の能力が圧倒的に離れていない限りは、数の差がものを言う。兵士は十人程度で、奴隷魔法士は三十人。単純に考えて三倍だ。
更に、奴隷と兵士と言う違い。
「ひぃっ!」
兵士の一人が情けない声を上げ、奴隷魔法士に捕まった。一人が腹に槍を突き刺して武器を封じ、それで及び腰になった兵士にもう一人がタックルを仕掛けて倒す。
奴隷は命令によって強制的に動く為、感情の縛りを受けない。恐怖を感じようが、それによる支障が全く存在しないのだ。
「ぐ…魔力の切れた魔法士など恐るるに足らんだろう、早く捕らえよ!」
ユーリスが、甲斐無い動きをする兵に罵声を浴びせる。無理だ、と、兵士たちは心の中で叫んだだろう。
奴隷のように魔法的な制約の無い兵士では、感情が枷になってしまう。現状はクラウディア側に分があった。程なくして、兵士の全員が組み伏せられる。
「ねえ、お父様。さっき、私が何をしようとしているのかと、訊いてくれましたよね?」
目の前の光景を信じられないと言う風に眺めるユーリスに、クラウディアは心底愉快そうに声をかけた。
「私は、イグゼンツヴァイ王家を潰したいのです。別に恨みがあるとかそう言った事は無いのですが、私の目的の為に」
「……目的、だと?」
「ええ、此処で死ぬお父様たちには、知る由もありませんが」
威圧を乗せた視線を受けながらも、何でもないように受け答えるクラウディア。
「少し騒ぎ過ぎてしまいました。もう直ぐ警備兵が駆け付けて来ますね。
……降ろして下さい」
クラウディアに従い、肩から彼女を降ろす男。クラウディアはありがとう、と感謝の意を述べる。続いて、奴隷魔法士に命令した。
【火属性魔法で、組み伏せている兵を殺しなさい】
それから間を置き、発光と悲鳴。肉の焼ける音。
実験場の外から、声と足音が聞こえてくる。
「何事だ! ッ、へ、陛下!? こ、これは!?」
扉を慌ただしく開け放ち、駆け付けるのは警備兵。それからユーリスが目に入り、次に実験場内の惨状が目に飛び込んできた。
その姿を、クラウディアは笑いながら眺めるが、長引かせるつもりは無いからと数歩下がり、男へとお願いをする。
「彼らを、なるべく惨い死体になるように皆殺しにして下さい」
……その後の顛末を一言で表すならば、圧倒的暴力による蹂躙。これに尽きる。
クラウディアが英雄召喚で喚んだ男は、その場の誰も反応できない程の速度で歩き、ユーリスの頭を、恰も果実のように握り潰す。
そのまま、ユーリスを掴んだ男は腕を高々と挙げて、実験場の床に叩き付けた。
飛び散る血と肉片。他の者は、瞬きする間の一瞬で起こった出来事を呆然と眺める事しか出来なかった。
駆け付けた警備兵たちも、折られ潰され捩じ切られ、男の配慮で顔だけ形を保ったまま、呆気なく無残に命を落とした。
「ありがとう、もう良いわ」
それをただ見せられる形になったクラウディアはと言うと、そう望んだとは言え自らの身内が殺される光景に、僅かな苦痛も感じた様子は無く。男を呼び寄せると、血で真っ赤に汚れた彼の手をハンカチで拭いて、また肩に乗せるようにお願いした。
「それにしても予想以上の力ね。流石よ」
英雄は答えない。クラウディアの評価に、首を縦に振るのみ。
「うーん、話せない筈は無いでしょう?」
また頷く。
「それじゃあ、私が話しかけた時は、できるだけ声を出して答えてくれないかしら?」
「……わか…っ……た………」
今度は確かな声で、クラウディアに答える。クラウディアはそれに気を良くし、笑みを浮かべる。
「うふふ、ぎこちない。話す練習もしないといけませんね」
「…ご……めん」
「謝らなくても良いわ。ところで貴方、名前はなんて言うのかしら?」
「なま………え…?」
クラウディアの問いに、首を傾げる男。
「そう、名前。私はこれから、貴方と一緒にいるつもりだし、名前を知っておかないと困るでしょう?」
なるほど、と言いたげに男は頷く。そして一言、クラウディアに自身の名を述べる。
「クリストフォロス」
「クリストフォロス、ちょっと長いわね。クリスって呼んでもいいかしら?」
「…うん」
「ふふ、私はクラウディア。ディアで良いわ。宜しくね、クリス」
「よろ……し…く……ディア?」
その日、イグゼンツヴァイ帝国の王城は、何者かによる襲撃によって崩壊した。皇帝ユーリス、女帝シルヴァニア、第一王子アスタレス、第二王子フォティス、第三王子コンスタンティン、第一王女フローラ、大臣、上級武官、文官、使用人に至るまで、徹底的に、無残に、皆殺しにされていた。
唯一、第二王女クラウディアの死体のみが見つからなかったのだが、見つからないだけで死んだのだろうと言う認識だ。その一方で、クラウディアは生きていると言う噂も流れているが、今は確かめる術も無い。
兎も角、唐突な王城陥落によって、イグゼンツヴァイは大混乱に陥る。指導者を失った国は機能をほぼ停止し、国家組織は瓦解。抑止力すら消え、イグゼンツヴァイは犯罪者の坩堝と化している。
人族の大国の一つが消え去るのに、然程の時間も必要としなかった。
「お父様、例の術式が完成致しました!」
第二王女クラウディア・レイ・イグゼンツヴァイは、興奮した様子で皇帝ユーリスの元へ駆けつけた。
各地から寄せられた報告の書類から目を離す。
「落ち着け、ディア。あの術式が完成したとは、本当なのか?」
顔が紅潮する程に息を荒げている。王女とは言え、皇帝の前では無礼とされるだろう。事が事だけに、誰も彼女を責められはしないのだが。
ユーリスは冷静にクラウディアを宥める。
「はっ、見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありませんでした。術式については間違いありません。現在、奴隷魔法士を配備していますので、直ぐにでも使えます」
「そうか。良くやったぞ、ディア。では、余もその術式を見に行くとするか」
ユーリスは徐に座を立ち、クラウディアを伴って執務室から退出する。
クラウディアが完成させたと言う術式は、近年魔物が活性化してから、イグゼンツヴァイに必要になってしまったもの。異世界から適正のある者を喚び出し、力を与える。
即ち、勇者召喚。
文献によれば勇者とは、数多の魔物を切り倒し、強大な魔法で魔族の軍勢をなぎ払い、人族に光を齎す者とされている。
一国軍にすら匹敵する戦力を持つと呼ばれる者を喚び出す術式だけあって、発動には膨大な魔力を必要とする。今回も、貴重な奴隷魔法士を三十人も、それこそ使い潰す事も承知で。
魔法の実験場。闘技場に次いで広い場所であるそこには、巨大な魔法陣が描かれていた。そして魔法陣の端には、一様に同じ杖を持った人達がいた。
彼らこそが奴隷魔法士であり、勇者召喚と言う重役を担わされる者達だ。
「ほう、これが勇者召喚の術式か。ディア、召喚を始めよ」
「はい」
ユーリスの言うがままに、クラウディアは奴隷魔法士に命じる。
【皆さん、魔法陣にありったけの魔力を流して下さい】
命令権。奴隷術によって主従関係を確立された時、主人側に与えられる権利で、奴隷はこれに逆らえない。
奴隷魔法士たちは機械的に杖を構え、自らの魔力を余す事なく魔法陣に流し込んでいく。
主人の命令は絶対。これが示す通り、魔力の枯渇で気を失おうとも、身体は魔力を流し続ける。
クラウディア、及びユーリスがその様子を息を呑んで眺めている。
何度か交代をさせ、魔力ポーションで無理矢理に回復をさせて魔力を流し数十分後、魔法陣が光を放ち始める。
【カス程の魔力もあまさず搾り出して。もう少しです】
クラウディアの命令に従い魔力を流す奴隷魔法士。まともに意識を保てている者はもういない。
魔法陣の光が増し、辺りを包み込むまでになる。
そして……
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光な収まり、魔法陣の中心に先ほどまでは居なかった浅黒い肌の男が立っていた。
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見張りの為に配備されている兵士が槍を構え、警戒する。
ユーリスが口を開いた。
「……ディアよ、この者が勇者なのか?」
クラウディアはそれに答えず、ゆっくりと、歩いて、巨漢の元へ向かう。
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「良く、私の召喚に応じてくれました。私の勇者」
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私の勇者。王女クラウディアは、確かにそう言った。
クラウディアは、帝国の戦力を強化する為に勇者召喚術式を模索している筈だった。しかし彼女自身がそれを否定する様な事を言う。私の、と。勇者を、まるで自身の所有物であるかのように。
「お父様。私、嘘をついていました」
ユーリスに振り返り、クラウディアは微笑みながら語る。
「私が探して、完成させようとしていた術式は勇者召喚などではありません。ここにいる彼は、勇者などと言う存在では無い。
……肩に乗せて貰えますか」
男は、クラウディアの言葉に応じて彼女の身体を抱き抱え、自らの肩に座らせる。
その様子を緊張感のある面持ちで眺めるユーリスと兵士達。
「おっと、思ったより高いですね。落ちないように支えてて下さいね?
……英雄召喚。私が求めていた術式の名です」
体勢が安定せずに少々ぐらつく。男はクラウディアを手で支える。
場合によれば微笑ましく見えなくも無い光景を前に、しかしユーリスは表情を険しくする。
「クラウディア、お前は何をしようとしている?」
「おや、いつもの愛称で呼んで下さった方が嬉しいのですが」
「答えよ!」
問いに対して茶化すクラウディアに、珍しく怒声を上げるユーリス。だが、クラウディアは薄く笑って流すだけ。
何をしている訳でも無い以上安易に動く訳には行かず、奇妙な膠着状態に陥っていた。
クラウディアが動いたのは、英雄召喚の為に気絶していた奴隷魔法士が起き上がり始めた時だ。魔力も少しは回復した頃ね、と呟いてから、奴隷に対する命令権を行使する。
【槍を構えている兵士を、全員拘束して】
「ッ! 此奴等、奴隷……」
「くっ!」
クラウディアの命令を聞いた奴隷魔法士たちがクラウディアに、正しくはクラウディアを肩に乗せている男に槍を向ける兵士に対し、飛び掛かる。
魔法士であるが故に身体能力自体は低いが、しかし個の能力が圧倒的に離れていない限りは、数の差がものを言う。兵士は十人程度で、奴隷魔法士は三十人。単純に考えて三倍だ。
更に、奴隷と兵士と言う違い。
「ひぃっ!」
兵士の一人が情けない声を上げ、奴隷魔法士に捕まった。一人が腹に槍を突き刺して武器を封じ、それで及び腰になった兵士にもう一人がタックルを仕掛けて倒す。
奴隷は命令によって強制的に動く為、感情の縛りを受けない。恐怖を感じようが、それによる支障が全く存在しないのだ。
「ぐ…魔力の切れた魔法士など恐るるに足らんだろう、早く捕らえよ!」
ユーリスが、甲斐無い動きをする兵に罵声を浴びせる。無理だ、と、兵士たちは心の中で叫んだだろう。
奴隷のように魔法的な制約の無い兵士では、感情が枷になってしまう。現状はクラウディア側に分があった。程なくして、兵士の全員が組み伏せられる。
「ねえ、お父様。さっき、私が何をしようとしているのかと、訊いてくれましたよね?」
目の前の光景を信じられないと言う風に眺めるユーリスに、クラウディアは心底愉快そうに声をかけた。
「私は、イグゼンツヴァイ王家を潰したいのです。別に恨みがあるとかそう言った事は無いのですが、私の目的の為に」
「……目的、だと?」
「ええ、此処で死ぬお父様たちには、知る由もありませんが」
威圧を乗せた視線を受けながらも、何でもないように受け答えるクラウディア。
「少し騒ぎ過ぎてしまいました。もう直ぐ警備兵が駆け付けて来ますね。
……降ろして下さい」
クラウディアに従い、肩から彼女を降ろす男。クラウディアはありがとう、と感謝の意を述べる。続いて、奴隷魔法士に命令した。
【火属性魔法で、組み伏せている兵を殺しなさい】
それから間を置き、発光と悲鳴。肉の焼ける音。
実験場の外から、声と足音が聞こえてくる。
「何事だ! ッ、へ、陛下!? こ、これは!?」
扉を慌ただしく開け放ち、駆け付けるのは警備兵。それからユーリスが目に入り、次に実験場内の惨状が目に飛び込んできた。
その姿を、クラウディアは笑いながら眺めるが、長引かせるつもりは無いからと数歩下がり、男へとお願いをする。
「彼らを、なるべく惨い死体になるように皆殺しにして下さい」
……その後の顛末を一言で表すならば、圧倒的暴力による蹂躙。これに尽きる。
クラウディアが英雄召喚で喚んだ男は、その場の誰も反応できない程の速度で歩き、ユーリスの頭を、恰も果実のように握り潰す。
そのまま、ユーリスを掴んだ男は腕を高々と挙げて、実験場の床に叩き付けた。
飛び散る血と肉片。他の者は、瞬きする間の一瞬で起こった出来事を呆然と眺める事しか出来なかった。
駆け付けた警備兵たちも、折られ潰され捩じ切られ、男の配慮で顔だけ形を保ったまま、呆気なく無残に命を落とした。
「ありがとう、もう良いわ」
それをただ見せられる形になったクラウディアはと言うと、そう望んだとは言え自らの身内が殺される光景に、僅かな苦痛も感じた様子は無く。男を呼び寄せると、血で真っ赤に汚れた彼の手をハンカチで拭いて、また肩に乗せるようにお願いした。
「それにしても予想以上の力ね。流石よ」
英雄は答えない。クラウディアの評価に、首を縦に振るのみ。
「うーん、話せない筈は無いでしょう?」
また頷く。
「それじゃあ、私が話しかけた時は、できるだけ声を出して答えてくれないかしら?」
「……わか…っ……た………」
今度は確かな声で、クラウディアに答える。クラウディアはそれに気を良くし、笑みを浮かべる。
「うふふ、ぎこちない。話す練習もしないといけませんね」
「…ご……めん」
「謝らなくても良いわ。ところで貴方、名前はなんて言うのかしら?」
「なま………え…?」
クラウディアの問いに、首を傾げる男。
「そう、名前。私はこれから、貴方と一緒にいるつもりだし、名前を知っておかないと困るでしょう?」
なるほど、と言いたげに男は頷く。そして一言、クラウディアに自身の名を述べる。
「クリストフォロス」
「クリストフォロス、ちょっと長いわね。クリスって呼んでもいいかしら?」
「…うん」
「ふふ、私はクラウディア。ディアで良いわ。宜しくね、クリス」
「よろ……し…く……ディア?」
その日、イグゼンツヴァイ帝国の王城は、何者かによる襲撃によって崩壊した。皇帝ユーリス、女帝シルヴァニア、第一王子アスタレス、第二王子フォティス、第三王子コンスタンティン、第一王女フローラ、大臣、上級武官、文官、使用人に至るまで、徹底的に、無残に、皆殺しにされていた。
唯一、第二王女クラウディアの死体のみが見つからなかったのだが、見つからないだけで死んだのだろうと言う認識だ。その一方で、クラウディアは生きていると言う噂も流れているが、今は確かめる術も無い。
兎も角、唐突な王城陥落によって、イグゼンツヴァイは大混乱に陥る。指導者を失った国は機能をほぼ停止し、国家組織は瓦解。抑止力すら消え、イグゼンツヴァイは犯罪者の坩堝と化している。
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