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三章 「どうだっていい」
33話
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「少々、遅かったようね」
ここはシデン王国、シンラ。かなり広い領土を持ち、王都も含め集落や都市がまばらに所在しているこの国の中で、王都に最も近い街である。
そのため王都との交通が多く、王都までの乗合馬車も少なくない。週に3~4回程度の頻度で出ている。
クラウディアおよびクリストフォロスは、これに乗って王都まで行こうと、そう思っていたのだが。
「完全に入れ違いになったわ。なるべく急いだつもりだったのだけど」
クラウディアが街に入ったのとほぼ同時刻に、王都行きの馬車が出て行っていたのだ。次に馬車がでるのは明後日。まる二日の足止めを食う事になってしまった。
現在地は喫茶店。クラウディアは、持て余す時間をどう使うかで頭を悩ませる。テーブルにだらしなく突っ伏している姿を見て、もはや誰も彼女が一国の王女であったなどとは思わないだろう。
そしてその対面に座るクリストフォロス。その巨体でコーヒーを飲む姿はあまりにシュールで、店内の誰も目を向けようとはしない。普段ならもう少し音のある店内が、この男の姿だけで静かになっていた。
しかしそんな人々の思いなど気にもせず、クリストフォロスの頭の中には一つ疑問があった。
「ディア」
「どうしたの?クリス」
「どうし、て……そんなに、急い…で?」
「ああ、ムラサメに行くのに急ぐ理由ね」
相変わらず舌足らずと言うか、言葉足らずなクリストフォロスの意図を読み取り、クラウディアは答える。
「実際にはそんなに急ぐ必要は無いのよ。今ここで暇を持て余しているように、他の場所でやる事が無いだけ。それと、暫く王都に滞在する予定だから、早めに地理を頭に入れておきたいって言うのもあるわね」
「……」
「それと、さっきの張り紙。一巡後あたりに武闘大会があるって言うじゃない? ちょうど私の目的に合っているのよ。シデンの武闘大会って世界的にもかなり有名で、毎回実力者が集まるの。各国の英雄が集まった、なんて事もあったらしいわ」
「英雄…?」
「そう。単騎で戦略的価値が発生する戦士、それが英雄。たいていが戦場で生きる武人らしいわ。実力を誇示したり、あるいは鍛錬の一環として大会に出る事もあるから、今回のにも何人か出場するかもね」
続ける。
「目的は名声。あの大会で良い成績を残せば、否応無しに注目されるわ。冒険者ならお偉方から指名の依頼を受けたり、ギルドからランクを上げてもらえたりする。傭兵なら、貴族の警護などの報酬の高い仕事を貰えるようになる。優勝すれば莫大な賞金を獲得できるから、それを狙って腕に自慢のある者もたくさん来るでしょうね」
続ける。
「彼らを倒すことで、私の注目度を上げる。実力は充分だと判断しているわ。目標は優勝ではあるけれど、目的ではないから重視しなくてもいいわね」
と、ここで気付いた。
クリストフォロスが感じるに、クラウディアは大会でクリストフォロスを使う気が無いようなのだ。
実際その通りであり、クラウディアは自分だけで大会を勝ち抜くつもりであり、クリストフォロスを使う気は無い。
「疑問ありげな顔ね。おおよそ、自分は戦わなくていいのかって感じかしら」
クラウディアはクリストフォロスの思考を敏感に察知し、言う。
「それに対しては簡単な答えを返しておくわ。これは私自身で行わなければならない事なの。クリスを従える私では無く、強大な魔法士である私としての名を知らしめる必要があるわけ。わかった?」
……。
クリストフォロスは思う。
意図はわかった。大会に出る目的も。
ただ、真の目的が見えてこない。ディアが何をしようとしているのか。ディアしかわかる者がいない。
話している間に冷めたコーヒーをすする。
クリストフォロスは思う。
だが、自分はそれでいいのだと。
英雄はただ従うのみ。クラウディアが望む時に望むように使われるが本懐。
だが、予感があった。
「ディア」
「どうしたの? クリス」
「僕も、出る」
「……」
クラウディアが、目を見開いた。
クリストフォロスが、自分の目的を無視するように大会に出ると主張した事に、ではなく。
クリストフォロスが、初めて自分の意志による要求をした。その事に驚いた。
「……ええ、構わないわ。クリスがそう言うのなら、したいようにしなさい」
「あり…がとう、ディア」
予感があった。
おそらくはこの大会で、クラウディアの目的は完全には達成されない。と。
【英雄の宿命】が、そう囁いた。
ここはシデン王国、シンラ。かなり広い領土を持ち、王都も含め集落や都市がまばらに所在しているこの国の中で、王都に最も近い街である。
そのため王都との交通が多く、王都までの乗合馬車も少なくない。週に3~4回程度の頻度で出ている。
クラウディアおよびクリストフォロスは、これに乗って王都まで行こうと、そう思っていたのだが。
「完全に入れ違いになったわ。なるべく急いだつもりだったのだけど」
クラウディアが街に入ったのとほぼ同時刻に、王都行きの馬車が出て行っていたのだ。次に馬車がでるのは明後日。まる二日の足止めを食う事になってしまった。
現在地は喫茶店。クラウディアは、持て余す時間をどう使うかで頭を悩ませる。テーブルにだらしなく突っ伏している姿を見て、もはや誰も彼女が一国の王女であったなどとは思わないだろう。
そしてその対面に座るクリストフォロス。その巨体でコーヒーを飲む姿はあまりにシュールで、店内の誰も目を向けようとはしない。普段ならもう少し音のある店内が、この男の姿だけで静かになっていた。
しかしそんな人々の思いなど気にもせず、クリストフォロスの頭の中には一つ疑問があった。
「ディア」
「どうしたの?クリス」
「どうし、て……そんなに、急い…で?」
「ああ、ムラサメに行くのに急ぐ理由ね」
相変わらず舌足らずと言うか、言葉足らずなクリストフォロスの意図を読み取り、クラウディアは答える。
「実際にはそんなに急ぐ必要は無いのよ。今ここで暇を持て余しているように、他の場所でやる事が無いだけ。それと、暫く王都に滞在する予定だから、早めに地理を頭に入れておきたいって言うのもあるわね」
「……」
「それと、さっきの張り紙。一巡後あたりに武闘大会があるって言うじゃない? ちょうど私の目的に合っているのよ。シデンの武闘大会って世界的にもかなり有名で、毎回実力者が集まるの。各国の英雄が集まった、なんて事もあったらしいわ」
「英雄…?」
「そう。単騎で戦略的価値が発生する戦士、それが英雄。たいていが戦場で生きる武人らしいわ。実力を誇示したり、あるいは鍛錬の一環として大会に出る事もあるから、今回のにも何人か出場するかもね」
続ける。
「目的は名声。あの大会で良い成績を残せば、否応無しに注目されるわ。冒険者ならお偉方から指名の依頼を受けたり、ギルドからランクを上げてもらえたりする。傭兵なら、貴族の警護などの報酬の高い仕事を貰えるようになる。優勝すれば莫大な賞金を獲得できるから、それを狙って腕に自慢のある者もたくさん来るでしょうね」
続ける。
「彼らを倒すことで、私の注目度を上げる。実力は充分だと判断しているわ。目標は優勝ではあるけれど、目的ではないから重視しなくてもいいわね」
と、ここで気付いた。
クリストフォロスが感じるに、クラウディアは大会でクリストフォロスを使う気が無いようなのだ。
実際その通りであり、クラウディアは自分だけで大会を勝ち抜くつもりであり、クリストフォロスを使う気は無い。
「疑問ありげな顔ね。おおよそ、自分は戦わなくていいのかって感じかしら」
クラウディアはクリストフォロスの思考を敏感に察知し、言う。
「それに対しては簡単な答えを返しておくわ。これは私自身で行わなければならない事なの。クリスを従える私では無く、強大な魔法士である私としての名を知らしめる必要があるわけ。わかった?」
……。
クリストフォロスは思う。
意図はわかった。大会に出る目的も。
ただ、真の目的が見えてこない。ディアが何をしようとしているのか。ディアしかわかる者がいない。
話している間に冷めたコーヒーをすする。
クリストフォロスは思う。
だが、自分はそれでいいのだと。
英雄はただ従うのみ。クラウディアが望む時に望むように使われるが本懐。
だが、予感があった。
「ディア」
「どうしたの? クリス」
「僕も、出る」
「……」
クラウディアが、目を見開いた。
クリストフォロスが、自分の目的を無視するように大会に出ると主張した事に、ではなく。
クリストフォロスが、初めて自分の意志による要求をした。その事に驚いた。
「……ええ、構わないわ。クリスがそう言うのなら、したいようにしなさい」
「あり…がとう、ディア」
予感があった。
おそらくはこの大会で、クラウディアの目的は完全には達成されない。と。
【英雄の宿命】が、そう囁いた。
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