泣きゲーの世界に転生した俺は、ヒロインを攻略したくないのにモテまくるから困る――鬱展開を金と権力でねじ伏せろ――

穂積潜

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第44話 製作費と作品のおもしろさはイコールとは限らない

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「では、受けて頂けるんですね!」



 電話を片手に、俺は興奮気味に言った。



「ええ。そろそろうちとしても、小百合を女優業に進出させたいと思っていたところだし、なにより当の本人がとても乗り気だから」



 小百合のマネージャーこと、佐久間さんがキビキビとした仕事人の口調で言う。



「ありがとうございます。これできっと、最高の映画が撮れます!」



 正直、ほっとした。小百合たちにはかなりの恩を着せてはいるが、超多忙なアイドルのスケジュールを押さえられるかはかなり不安だった。



「ん、まあ、正直、言うとね。最初この話をもらった時、私はあまり乗り気じゃなかったのよ。いくら小百合の命の恩人でも、ズブの素人作品に出して、彼女のアイドルとしてブランドを傷つけるくらいなら、私が憎まれ役になってでも断ろうと思っていたの」



「それは、当然の懸念ですよ。でも、受けて頂いたということは、そちらの事務所もご納得してくださったと考えてもいいんですよね?」



「ええ。脚本が想像以上に良かったから。それに加えて、あの白山監督がメガホンをとるんでしょ。これは断れないわよね。それにしも、あなたも、随分思い切った賭けに出たものね」



 佐久間さんが感心したように言う。



「え? まあ、確かに、かなりの予算を積みましたので、冒険といえば冒険ですが……」



 俺は佐久間さんの意図を掴めず、曖昧に言葉尻を濁す。



「いえ、そういうことじゃなくて、白山監督の起用のことよ。あの監督の性格を知ってて、それでもこれだけの予算を任せるって決めたんでしょ。安パイを狙うつまらない映画ばがりが増える中、素晴らしいチャレンジスピリッツだと思うわ」



「……えっと、白山監督は、そんなにアレですか?」



 白山監督は、くもソラのゲームじゃなく、かつての現実世界にも存在した映画監督である。



 前になんかの映画賞を取った時のインタビューを見た限りでは、割と常識人ぽかったんだけど……。



「――まさか、知らずにオファーしたの? じゃあ、白山監督が、前の映画で揉めて監督を途中で投げ出して、それで干され気味になってることも? 業界人ならみんな知ってる話よ?」



(知るか。そんなの! あああああああ! どうりで名監督が何の実績もない俺の出資の映画を撮ってくれると言うはずだよ!)



 言うまでもなく、俺はギャルゲーマニアではあるが、映画マニアではない。監督の裏事情なんて知るか。



「えっと、それは、俗に言う、セクハラとか、パワハラとか?」



 ヒロインたちに変なトラウマを植え付けるような奴だとさすがに困る。



「いや、もちろん、そういうのではないけど、とにかく映画に関しては妥協を許さないタイプよね。前の映画では、政治的キャスティングされた大根役者の演技が気に食わなくて、泣いても喚いても絶対に認めずに、大幅にスケジュールをオーバーしてからの途中降板よ」



(政治的キャスティングって、まさに今俺がやろうとしてるやつじゃん)



 俺は冷や汗を掻く。



「ははは、なんだ。それならいいんです。ほら、優れた芸術家というのは、往々にして狂気を孕むものですから」



 俺は強がってそう言った。



 今更後悔しても、もう遅い。金は払ってしまってるし、後戻りはできない。



「そうね。私も、下手な演技なら通さない監督だから、小百合を出すことにしたんだし。『アイドルだから』と馬鹿にされるような安い映画なんて御免だわ」



「ええ。そうですね! 日本の映画界に白山あり、女優界に小百合ありというところ、見せつけてやりましょう!」



 俺は開き直って叫んだ。



「やる気満々ね。もうすぐクランクインよね。小百合は子役時代の撮影が終わってからの後のりだけれど、スケジュール管理、頼むわよ。いくら白山監督作品でも、小百合のスケジュールは伸ばせないから」



 佐久間さんが念押しするように言った。



「はい! 俺の地元なんで、監督のわがままにも融通が利きますから、きっと上手くいきますよ!」



 ここまで来たらやるしかねえんだ! 頼むぜ癖強監督!

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