異世界の神子は、逆ハーを望まない

一花八華

文字の大きさ
18 / 49
第1章

15

しおりを挟む
「とっても素敵です! ミコト様!」

   店員の女性。リタさんが、頬を蒸気させながらはしゃぐ。

「リタさん。大袈裟ですよ……」

 恥ずかしくて、顔を伏せどもってしまう。こんな風に洋服に合わせて髪型を変え、お化粧をするなんて事……した事ない。

「そんな事ありませんよ! ミコト様! 本当に素敵です! ああ、本当に愛らしい!」

「それは、リタさんが綺麗にしてくれたからで、私が素敵なわけじゃ……」

 本当に、リタさんは凄いと思う。手際よく、髪を纏めあげたかと思ったら、サラサラとメイクまで、流れるように施してくれた。

 私の3分で終わる手抜きメイクと違って……短い時間の中できっちりと、ナチュラルにメイクを仕上げてくれた。

 ほんと、リタさんはすごい。鏡に映る自分を見て、そう思う。詐欺だよこれ。だって、雰囲気が全然違うもの。

「ミコト様は、無頓着過ぎなのです! 何故そのように美しい髪と愛らしいお顔をお持ちなのに、何もなさらずそのままなのですか!?」

「私は、貴女が当店に入られた瞬間からこう思ってたのです。【勿体ない!】っと!」  

「素材が良くても、何もしなければ宝の持ち腐れです! それに、ナチュラルなのと無頓着はぜんっっっぜん違いますからね!」

 そして、先ほどから私は、こんな感じで絶賛お説教を受けています。

 3分間メイクなどもっての他だ!っと一喝されました。いや、ちゃんと日焼け止めは塗ってますよ?乾燥防止にリップも塗ってるし……あっ、リタさんがますます険しい顔を……これ以上何か言うの止めておこう。火に油な気がする

「可愛いは、作れるのです! 綺麗もしかり! 女は、磨いてなんぼ! 化けてなんぼなんですよ!」

 おおっ……何かのスイッチ入っちゃってませんか?

「はぁっ……はぁっ……すみっません。少々取り乱してしまいました」
「はっ、はい」
「─さて」

 リタさんは、口元に手を添えコホンと誤魔化すように咳をする。

「それでは、行きましょうか。ヴォルフ様もお待ちですし」

 あっ。そういえば忘れてた……。

「リタさん」
「はい」

 席を立つ際に、疑問を投げ掛ける。

「ヴォルフって、何者なんですか?」
「? ヴォルフ様ですか?」
「あっ、いや。この街に来てからのヴォルフが、私の知ってるヴォルフと違ってて……」

 ……私の知ってるヴォルフ。女好きで、掴み所がなくて、神出鬼没で、人をからかうのが好きな嫌な性格の奴。

「年に数回。お洋服をお買い上げになられる、お得意様ですよ」

 やっぱり、常連なんだ。こんな貴族御用達みたいなお店の常連って……。

「ヴォルフ様のお選びになるお洋服は、とてもセンスがよく、私達も参考させていただいてます」

「いつもは、愛らしい物をお選びになるのですが……本日は、とてもシンプルで大人っぽい物ですね」

 そう言って私の方を振りかえるリタさん。

「着られる方の、本来の魅力を引き出すような……ええ。これを選ばれた理由がよくわかります」

 そうにっこり微笑まれた。

「……ミコト様?」

「あっ、すみません。ちょっとボーッとしてしまって。行きましょう! 待たせすぎちゃってるし、急がなきゃ」

 いつもは、可愛い物を?なんだか胸の奥がもやもやする。あれ……おかしいな。私、何モヤっとしたんだろう。

 眉間に入る縦筋を指で伸ばす。
 変なの。



 ─そして、この時感じたモヤモヤを、私が自覚するのは、すぐ後の事だった。─

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...