異世界の神子は、逆ハーを望まない

一花八華

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第1章

16

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個室ルームを抜け、ラウンジへと通される。
白で纏められた室内は、質素でいて上品で、落ち着くようで落ち着かない。こんな場所に慣れていない私は、借りてきた猫のようにギクシャクと前に進む。

白い皮のソファーに、深々と身をうずめ優雅に寛ぐ人と目が合う。

「ヴォルフ。」
「…」
「ごめん。待たせたよね。」
「…」

あれ?返事がない。待たせ過ぎたのか、機嫌が悪い。

「ヴォルフ?」

近づいて、顔を覗き込む。目を見開いてこちらを凝視してる。えっ。もしかして、驚く程似合ってない?何時もなら【綺麗だお嬢さん。とても似合ってるよ。】とかなんとか、手放しで誉めてくるのに。

「…似合って…ない?」

うー。リタさん。お化粧までしてこの反応だと、私流石に凹みますよ。

「…お嬢…さん?」
「うん。」
「その、髪型と…姿は…」
「髪型は、洋服に合うようにって…リタさんが。」

姿は、貴方が選んだ服だけど?

「リタ?」
「店員の」
「ああ。そう。」

聞いてきといて、その生返事は無いんじゃない?
そんな風に、まじまじと見つめられるのも…居心地が悪いんだけど…。

「…参ったな…。」

口元を抑え、そう呟くと私から視線を外す。

「ヴォルフ?」
「ああ。いや、こっちの話。それじゃ行こうか。街を案内するよ。」

立ち上がると、歩き出してしまう。

ーそれだけ?
もっと何か言ってくれても…

いや、なんでそんな気持ちに。
別にヴォルフに、褒めて貰いたかったわけじゃないし。これは勝手にリタさんがやったわけで…。

でも…
思わず、服の裾をぎゅっと握りしめ俯く。

「お嬢さん?」

ヴォルフに声をかけられ、慌てて指の力を緩める。いけない。洋服に皺ができちゃう。
せっかく綺麗にしてもらったのに…。
リタさんやお店の方にお礼を告げ、外にでる。

どうしてだろう。
さっきまで、弾んでいた気持ちが、今はなんだか重くて…

「…お嬢さん。」

見上げると、ヴォルフが困った顔をしてこちらを見ていた。

「その。自分で選んでおいて…言うのもあれなんだけど。その格好…よく似合ってるよ。」

眉尻を下げ、口元に手をあてながら言葉を選ぶように喋るヴォルフ。

「…別に。お世辞なんていらない。」
「お世辞なんて。寧ろ、綺麗過ぎて言葉が見つからなかった。それに、髪やメイクまで…。」
「似合わないのは、わかってる。」

だから、何も言わなかったんでしょ?

「似合い過ぎてるから…困るんだ。」

私から視線を外し、髪をくしゃりとかきあげる。

「その格好、失敗したな…。セシル…いやルドルフの旦那にも見せたくない…。」

失敗したって…失礼な。思わずカチンとくる。

「そこまで変なら、メイクも落とすし、髪も戻す!一緒に歩くのが嫌なら、私ひとりで散策するから!ヴォルフは、宿にでも帰っててよ!」

ほんと失礼!確かに、私はちんちくりんかもしれないけど、綺麗にしてくれたリタさんにも失礼だ!

「いや、だからそういう意味じゃないって。参ったな。お嬢さんとだと調子狂う。」

「綺麗だから、他の奴に見せたくないって言ってるんだよ。って何言ってんだ俺…あー。」

俯き、頭をわしゃわしゃと崩し呻くヴォルフ。

「ヴォルフ?」

それは、褒めてくれてるの?覗き込もうとしたら、片手で制止される。

「あー。今、俺の顔見ないでくれる?」

「えっなんでよ。」

「今、見たら。さっきの続きする。お嬢さんが嫌がっても、止めないから。」

下を向いたまま、恐ろしい事を告げてくる。
さっきの続きって…あの…キスの…続き?

いやいやいや!
あれ、反省したんじゃなかったの!?
貴方、さらっとセクハラ宣言してんじゃないわよ!この変態!!!



◇◇◇



「なー。お嬢さん。機嫌をなおしてよ。」

後方で、変態が声をかけてくる。
無視だ無視!あれは、害虫!歩くセクハラ魔人!

「ひとりで歩くと危ないよ。お嬢さん。」

今は、貴方と居る事が危ないんです。
ほっといてください。って、うわっ!

「ごめんなさい!」

前方から歩いて来た人と、ぶつかりそうになり慌てる。

「ほら、危ないからさ。」

困ったように笑うヴォルフに、腕を掴まれ思わず叫ぶんでしまう。


「エッチ!チカン!ヘンタイ!触らないで!女の敵!」
「ちょっ。お嬢さん。」

うわっ。いけない。街中で叫ぶものだから、周りの視線が…。

更に人の目を引いてしまい、私はその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになってしまった。なんでこんな事に…

「ちょっと…何騒いでんのさ…みっともない。」

おろおろとしていたら、いきなり腕を掴まれた。ざわざわとどよめく人混みの中、ぐいっとひっぱられ、よろけそうになる。ーぽふん。
頭に、厚く弾力のよい感触。がっしりとした腕が私を包み込み、支える。

「危ない。セシル、神子殿の腕を引っ張るな。」
「…だって。」
「大丈夫か?神子殿。」

見上げるとルドルフさんが、苦笑しながら私を支えてくれていた。横には、私の腕を掴み、頬を膨らませたセシル君の姿が。

「あんた達が遅いからさ。迎えにきたわけ。」

つーんと剥れた顔で、セシル君が喋る。

「買い出しは?」
「目当ての物は無事買えたぞ。神子殿達は?」
「あー。ソレが色々あって…」

ルドルフさんの言葉に、ヴォルフが頭をかきながら言い淀む。

「そうね。ほんと…色々あったわよね。」

ギロリと睨み付け口にする。言葉に刺があるって?ふん。知った事じゃないわよ。

「何があったわけ?詳しく知りたいんだけど。」

私とヴォルフの様子を、じと目で見ていたセシル君が、ムスっとしたまま尋ねてきた。
セシル君…目が据わってるよ。機嫌まだ治ってなかったんだ。そんなに買い出し嫌だったんだね。無理に行かせてごめんね。

「それに…ミコト。なんで着替えてるの?お洒落までして…まるで…」
「む。デートでもしていたのか?」
「やっ。違う!違います!これは、川に落ちちゃってそれで!!」
「なんで、川に落ちたのさ。」

おおうっ。セシル君ったら。顔に似合わず低いお声。

「あー俺がちょっとばかし、ヘマをしちゃったからだよ。」
「ヘマ?ミコトにナニかしたわけ?エッチとか叫ばれてたけど、ヴォルフ…ミコトに変な事…してないよね?」
「セシルに言う必要ないだろ?」

目を細め笑うヴォルフを、セシル君が睨み付けてる。

「それとも何?お嬢さんにナニかする時は、セシルの許可がいるわけ?」
「ーっ!!」

「許可が合っても、何もするな。」

呆れたように言いながら、ルドルフさんが仲裁に入る。

「神子殿に危害を加える事は、私が許さん。」

ルドルフさんの言葉に渋々頷く、ヴォルフとセシル君。

いや、なんか私を巡って喧嘩はやめて!っという逆ハーテンプレヒロインの台詞が頭を過りかけた…。

いやいやいやいや、どんだけ自意識過剰なんですか!私!
逆ハーなんて望んでませんからね!?
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