20 / 49
第1章
16
しおりを挟む
個室ルームを抜け、ラウンジへと通される。
白で纏められた室内は、質素でいて上品で、落ち着くようで落ち着かない。こんな場所に慣れていない私は、借りてきた猫のようにギクシャクと前に進む。
白い皮のソファーに、深々と身を埋め優雅に寛ぐ人と目が合う。
「ヴォルフ。」
「…」
「ごめん。待たせたよね。」
「…」
あれ?返事がない。待たせ過ぎたのか、機嫌が悪い。
「ヴォルフ?」
近づいて、顔を覗き込む。目を見開いてこちらを凝視してる。えっ。もしかして、驚く程似合ってない?何時もなら【綺麗だお嬢さん。とても似合ってるよ。】とかなんとか、手放しで誉めてくるのに。
「…似合って…ない?」
うー。リタさん。お化粧までしてこの反応だと、私流石に凹みますよ。
「…お嬢…さん?」
「うん。」
「その、髪型と…姿は…」
「髪型は、洋服に合うようにって…リタさんが。」
姿は、貴方が選んだ服だけど?
「リタ?」
「店員の」
「ああ。そう。」
聞いてきといて、その生返事は無いんじゃない?
そんな風に、まじまじと見つめられるのも…居心地が悪いんだけど…。
「…参ったな…。」
口元を抑え、そう呟くと私から視線を外す。
「ヴォルフ?」
「ああ。いや、こっちの話。それじゃ行こうか。街を案内するよ。」
立ち上がると、歩き出してしまう。
ーそれだけ?
もっと何か言ってくれても…
いや、なんでそんな気持ちに。
別にヴォルフに、褒めて貰いたかったわけじゃないし。これは勝手にリタさんがやったわけで…。
でも…
思わず、服の裾をぎゅっと握りしめ俯く。
「お嬢さん?」
ヴォルフに声をかけられ、慌てて指の力を緩める。いけない。洋服に皺ができちゃう。
せっかく綺麗にしてもらったのに…。
リタさんやお店の方にお礼を告げ、外にでる。
どうしてだろう。
さっきまで、弾んでいた気持ちが、今はなんだか重くて…
「…お嬢さん。」
見上げると、ヴォルフが困った顔をしてこちらを見ていた。
「その。自分で選んでおいて…言うのもあれなんだけど。その格好…よく似合ってるよ。」
眉尻を下げ、口元に手をあてながら言葉を選ぶように喋るヴォルフ。
「…別に。お世辞なんていらない。」
「お世辞なんて。寧ろ、綺麗過ぎて言葉が見つからなかった。それに、髪やメイクまで…。」
「似合わないのは、わかってる。」
だから、何も言わなかったんでしょ?
「似合い過ぎてるから…困るんだ。」
私から視線を外し、髪をくしゃりとかきあげる。
「その格好、失敗したな…。セシル…いやルドルフの旦那にも見せたくない…。」
失敗したって…失礼な。思わずカチンとくる。
「そこまで変なら、メイクも落とすし、髪も戻す!一緒に歩くのが嫌なら、私ひとりで散策するから!ヴォルフは、宿にでも帰っててよ!」
ほんと失礼!確かに、私はちんちくりんかもしれないけど、綺麗にしてくれたリタさんにも失礼だ!
「いや、だからそういう意味じゃないって。参ったな。お嬢さんとだと調子狂う。」
「綺麗だから、他の奴に見せたくないって言ってるんだよ。って何言ってんだ俺…あー。」
俯き、頭をわしゃわしゃと崩し呻くヴォルフ。
「ヴォルフ?」
それは、褒めてくれてるの?覗き込もうとしたら、片手で制止される。
「あー。今、俺の顔見ないでくれる?」
「えっなんでよ。」
「今、見たら。さっきの続きする。お嬢さんが嫌がっても、止めないから。」
下を向いたまま、恐ろしい事を告げてくる。
さっきの続きって…あの…キスの…続き?
いやいやいや!
あれ、反省したんじゃなかったの!?
貴方、さらっとセクハラ宣言してんじゃないわよ!この変態!!!
◇◇◇
「なー。お嬢さん。機嫌をなおしてよ。」
後方で、変態が声をかけてくる。
無視だ無視!あれは、害虫!歩くセクハラ魔人!
「ひとりで歩くと危ないよ。お嬢さん。」
今は、貴方と居る事が危ないんです。
ほっといてください。って、うわっ!
「ごめんなさい!」
前方から歩いて来た人と、ぶつかりそうになり慌てる。
「ほら、危ないからさ。」
困ったように笑うヴォルフに、腕を掴まれ思わず叫ぶんでしまう。
「エッチ!チカン!ヘンタイ!触らないで!女の敵!」
「ちょっ。お嬢さん。」
うわっ。いけない。街中で叫ぶものだから、周りの視線が…。
更に人の目を引いてしまい、私はその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになってしまった。なんでこんな事に…
「ちょっと…何騒いでんのさ…みっともない。」
おろおろとしていたら、いきなり腕を掴まれた。ざわざわとどよめく人混みの中、ぐいっとひっぱられ、よろけそうになる。ーぽふん。
頭に、厚く弾力のよい感触。がっしりとした腕が私を包み込み、支える。
「危ない。セシル、神子殿の腕を引っ張るな。」
「…だって。」
「大丈夫か?神子殿。」
見上げるとルドルフさんが、苦笑しながら私を支えてくれていた。横には、私の腕を掴み、頬を膨らませたセシル君の姿が。
「あんた達が遅いからさ。迎えにきたわけ。」
つーんと剥れた顔で、セシル君が喋る。
「買い出しは?」
「目当ての物は無事買えたぞ。神子殿達は?」
「あー。ソレが色々あって…」
ルドルフさんの言葉に、ヴォルフが頭をかきながら言い淀む。
「そうね。ほんと…色々あったわよね。」
ギロリと睨み付け口にする。言葉に刺があるって?ふん。知った事じゃないわよ。
「何があったわけ?詳しく知りたいんだけど。」
私とヴォルフの様子を、じと目で見ていたセシル君が、ムスっとしたまま尋ねてきた。
セシル君…目が据わってるよ。機嫌まだ治ってなかったんだ。そんなに買い出し嫌だったんだね。無理に行かせてごめんね。
「それに…ミコト。なんで着替えてるの?お洒落までして…まるで…」
「む。デートでもしていたのか?」
「やっ。違う!違います!これは、川に落ちちゃってそれで!!」
「なんで、川に落ちたのさ。」
おおうっ。セシル君ったら。顔に似合わず低いお声。
「あー俺がちょっとばかし、ヘマをしちゃったからだよ。」
「ヘマ?ミコトにナニかしたわけ?エッチとか叫ばれてたけど、ヴォルフ…ミコトに変な事…してないよね?」
「セシルに言う必要ないだろ?」
目を細め笑うヴォルフを、セシル君が睨み付けてる。
「それとも何?お嬢さんにナニかする時は、セシルの許可がいるわけ?」
「ーっ!!」
「許可が合っても、何もするな。」
呆れたように言いながら、ルドルフさんが仲裁に入る。
「神子殿に危害を加える事は、私が許さん。」
ルドルフさんの言葉に渋々頷く、ヴォルフとセシル君。
いや、なんか私を巡って喧嘩はやめて!っという逆ハーテンプレヒロインの台詞が頭を過りかけた…。
いやいやいやいや、どんだけ自意識過剰なんですか!私!
逆ハーなんて望んでませんからね!?
白で纏められた室内は、質素でいて上品で、落ち着くようで落ち着かない。こんな場所に慣れていない私は、借りてきた猫のようにギクシャクと前に進む。
白い皮のソファーに、深々と身を埋め優雅に寛ぐ人と目が合う。
「ヴォルフ。」
「…」
「ごめん。待たせたよね。」
「…」
あれ?返事がない。待たせ過ぎたのか、機嫌が悪い。
「ヴォルフ?」
近づいて、顔を覗き込む。目を見開いてこちらを凝視してる。えっ。もしかして、驚く程似合ってない?何時もなら【綺麗だお嬢さん。とても似合ってるよ。】とかなんとか、手放しで誉めてくるのに。
「…似合って…ない?」
うー。リタさん。お化粧までしてこの反応だと、私流石に凹みますよ。
「…お嬢…さん?」
「うん。」
「その、髪型と…姿は…」
「髪型は、洋服に合うようにって…リタさんが。」
姿は、貴方が選んだ服だけど?
「リタ?」
「店員の」
「ああ。そう。」
聞いてきといて、その生返事は無いんじゃない?
そんな風に、まじまじと見つめられるのも…居心地が悪いんだけど…。
「…参ったな…。」
口元を抑え、そう呟くと私から視線を外す。
「ヴォルフ?」
「ああ。いや、こっちの話。それじゃ行こうか。街を案内するよ。」
立ち上がると、歩き出してしまう。
ーそれだけ?
もっと何か言ってくれても…
いや、なんでそんな気持ちに。
別にヴォルフに、褒めて貰いたかったわけじゃないし。これは勝手にリタさんがやったわけで…。
でも…
思わず、服の裾をぎゅっと握りしめ俯く。
「お嬢さん?」
ヴォルフに声をかけられ、慌てて指の力を緩める。いけない。洋服に皺ができちゃう。
せっかく綺麗にしてもらったのに…。
リタさんやお店の方にお礼を告げ、外にでる。
どうしてだろう。
さっきまで、弾んでいた気持ちが、今はなんだか重くて…
「…お嬢さん。」
見上げると、ヴォルフが困った顔をしてこちらを見ていた。
「その。自分で選んでおいて…言うのもあれなんだけど。その格好…よく似合ってるよ。」
眉尻を下げ、口元に手をあてながら言葉を選ぶように喋るヴォルフ。
「…別に。お世辞なんていらない。」
「お世辞なんて。寧ろ、綺麗過ぎて言葉が見つからなかった。それに、髪やメイクまで…。」
「似合わないのは、わかってる。」
だから、何も言わなかったんでしょ?
「似合い過ぎてるから…困るんだ。」
私から視線を外し、髪をくしゃりとかきあげる。
「その格好、失敗したな…。セシル…いやルドルフの旦那にも見せたくない…。」
失敗したって…失礼な。思わずカチンとくる。
「そこまで変なら、メイクも落とすし、髪も戻す!一緒に歩くのが嫌なら、私ひとりで散策するから!ヴォルフは、宿にでも帰っててよ!」
ほんと失礼!確かに、私はちんちくりんかもしれないけど、綺麗にしてくれたリタさんにも失礼だ!
「いや、だからそういう意味じゃないって。参ったな。お嬢さんとだと調子狂う。」
「綺麗だから、他の奴に見せたくないって言ってるんだよ。って何言ってんだ俺…あー。」
俯き、頭をわしゃわしゃと崩し呻くヴォルフ。
「ヴォルフ?」
それは、褒めてくれてるの?覗き込もうとしたら、片手で制止される。
「あー。今、俺の顔見ないでくれる?」
「えっなんでよ。」
「今、見たら。さっきの続きする。お嬢さんが嫌がっても、止めないから。」
下を向いたまま、恐ろしい事を告げてくる。
さっきの続きって…あの…キスの…続き?
いやいやいや!
あれ、反省したんじゃなかったの!?
貴方、さらっとセクハラ宣言してんじゃないわよ!この変態!!!
◇◇◇
「なー。お嬢さん。機嫌をなおしてよ。」
後方で、変態が声をかけてくる。
無視だ無視!あれは、害虫!歩くセクハラ魔人!
「ひとりで歩くと危ないよ。お嬢さん。」
今は、貴方と居る事が危ないんです。
ほっといてください。って、うわっ!
「ごめんなさい!」
前方から歩いて来た人と、ぶつかりそうになり慌てる。
「ほら、危ないからさ。」
困ったように笑うヴォルフに、腕を掴まれ思わず叫ぶんでしまう。
「エッチ!チカン!ヘンタイ!触らないで!女の敵!」
「ちょっ。お嬢さん。」
うわっ。いけない。街中で叫ぶものだから、周りの視線が…。
更に人の目を引いてしまい、私はその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになってしまった。なんでこんな事に…
「ちょっと…何騒いでんのさ…みっともない。」
おろおろとしていたら、いきなり腕を掴まれた。ざわざわとどよめく人混みの中、ぐいっとひっぱられ、よろけそうになる。ーぽふん。
頭に、厚く弾力のよい感触。がっしりとした腕が私を包み込み、支える。
「危ない。セシル、神子殿の腕を引っ張るな。」
「…だって。」
「大丈夫か?神子殿。」
見上げるとルドルフさんが、苦笑しながら私を支えてくれていた。横には、私の腕を掴み、頬を膨らませたセシル君の姿が。
「あんた達が遅いからさ。迎えにきたわけ。」
つーんと剥れた顔で、セシル君が喋る。
「買い出しは?」
「目当ての物は無事買えたぞ。神子殿達は?」
「あー。ソレが色々あって…」
ルドルフさんの言葉に、ヴォルフが頭をかきながら言い淀む。
「そうね。ほんと…色々あったわよね。」
ギロリと睨み付け口にする。言葉に刺があるって?ふん。知った事じゃないわよ。
「何があったわけ?詳しく知りたいんだけど。」
私とヴォルフの様子を、じと目で見ていたセシル君が、ムスっとしたまま尋ねてきた。
セシル君…目が据わってるよ。機嫌まだ治ってなかったんだ。そんなに買い出し嫌だったんだね。無理に行かせてごめんね。
「それに…ミコト。なんで着替えてるの?お洒落までして…まるで…」
「む。デートでもしていたのか?」
「やっ。違う!違います!これは、川に落ちちゃってそれで!!」
「なんで、川に落ちたのさ。」
おおうっ。セシル君ったら。顔に似合わず低いお声。
「あー俺がちょっとばかし、ヘマをしちゃったからだよ。」
「ヘマ?ミコトにナニかしたわけ?エッチとか叫ばれてたけど、ヴォルフ…ミコトに変な事…してないよね?」
「セシルに言う必要ないだろ?」
目を細め笑うヴォルフを、セシル君が睨み付けてる。
「それとも何?お嬢さんにナニかする時は、セシルの許可がいるわけ?」
「ーっ!!」
「許可が合っても、何もするな。」
呆れたように言いながら、ルドルフさんが仲裁に入る。
「神子殿に危害を加える事は、私が許さん。」
ルドルフさんの言葉に渋々頷く、ヴォルフとセシル君。
いや、なんか私を巡って喧嘩はやめて!っという逆ハーテンプレヒロインの台詞が頭を過りかけた…。
いやいやいやいや、どんだけ自意識過剰なんですか!私!
逆ハーなんて望んでませんからね!?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる