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第2章
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しおりを挟む「お姉ちゃんは、ヴォルフの事好きなんでしょ? なら、何も問題ないよね」
にこにこと無邪気に笑いながら、魔王が私に語りかけてくる。
「いや、問題あるよ。おおありだよ。そんな……いきなり……なんで……」
(今夜からしろだなんて……そんな……)
呼び出された、広く豪奢な部屋。高い天井からは、赤いビロードの布が垂れ下がり、細やかな模様の描かれた絨毯の先には、金の装飾が施された椅子に腰掛ける少年がいる。
告げられたのは、ヴォルフとの行為。世界の為にえっちしろだなんてこんな直球で言われるなんて思わなかった……。こんな幼い容姿の少年から。
「なんでなんて可笑しな事聞くんだね。知ってるんでしょ? ヴォルフから聞いて」
神子の役目も呼び出された意味も、ちゃんと知ってるよね?そう少年は話す。
「この世界の為だよ。この世界の存続の為。お姉ちゃんは神子様だから。この世界を救ってもらわなきゃいけないの。その為に僕がこの世界に呼んだんだから」
ニコニコと無邪気に笑う彼は、世界の為だと私に迫る。
「元の世界に未練なんてないでしょう? だってそういう人間を選んだんだもの。それに、こっちの世界で見つけたんでしょ? 欲しかったモノ」
「愛されたかったんだよね。父親に捨てられ、母に恨まれた君は、男の愛が信じられなかった」
確信を持って告げる、彼の言葉に、私は何も返せない。忘れよう。考えないようにしていた私の過去。私の【男嫌い】の要因。元凶。
母の望まぬ妊娠によって産まれた私。父だと思っていた人に中学の時、暴力と暴言を受け捨てられた。父に捨てられた母は、私がすべての原因だと毎日責めた。父がそうなったのは、私のせいだと。罵り疎まれた。そんな母から逃げるように、大学へと進学し家を……母を捨てた。蓋をした記憶の欠片は、私に男性と向き合う事を恐怖に変えた。
男が怖い。母をそんな目に逢わせたのも男だ。歳を重ねる毎にだんだんとその男に似てくる私の容姿。それと共に壊れていった父と母との関係。二人から受けた拒絶。捨てられた自分。信じて捨てられるなら、最初から拒絶してしまえばいい。
きっと心の何処かで抱いていた。その怯えが暴言となって男性を拒絶していた……拒絶しながら飢えていた。
「だから、あんな願いをした。【男を知りたい】と【男に愛されてみたい】と」
ー愛されたい
「ね。この世界なら、お姉ちゃんは愛されるよ? 神子として、魔王の母として、たくさん愛してもらえる」
だから、抱かれちゃいなよ。たくさん抱かれて、愛してもらえばいいじゃない。
そんな風に告げられ、部屋へと戻された。
ーギシ。
白い天板を見つめる。ただ無言で。私は、私の望みで此処にいる。愛されたいと願ったから、私は世界に呼ばれ……此処に……いる。なんだ、私の望んだ事なんだ。此処にいれば愛されるんだ。愛しあえるんだ。嬉しい。嬉しいよね。嬉しいんだよ。
嬉しい筈なのに、胸の辺りが重く苦しくて、ずきずきと痛む。
ヴォルフは好き。惹かれていると正直に感じる。私の男嫌いを和らげてくれたのは、ヴォルフだ。飄々としていて、何を考えてるのかわからないけど……私の事を考えてくれているのは……最近わかってきた。大切にされてるんだと、そう思う。だから、相手がヴォルフなのは……喜ぶべきなんだと……。
そう思うのに、私の頭に過るのは白い髪の男の子。天の邪鬼で、口も悪くて、すぐに人を小馬鹿にする……生意気でつんとした赤い瞳の少年。
赤い瞳を潤ませて、まっすぐに私を見て……好きだと告げた彼。もうこどもじゃない。大人だから、振り向かせるから。重ねられた言葉と唇。
「……今の今でも、こんな風に二人に揺れるなんて……私って……」
誰でもいいと思ってた。誰かに愛されるなら、誰かを愛せるなら。でも、違う……違ってた。たくさん欲しいわけじゃない。皆に愛されたいわけじゃない。私は、ヴォルフとセシル君が好きで、どちらも好きで、どちらも選べない。
「……ほんと最低。最低だよ……」
どっちも好き。どちらも愛したい。それが本音なんだ。こんな私は、二人に愛されるべきじゃない。ヴォルフと身体を重ねても……心の何処かでセシル君の事も想ってて……セシル君に愛されても、きっとヴォルフを求めてしまう……。
「こんなのが神子? ただのビッチじゃん」
逃げ出したい。何もかも捨てて。忘れて。いっそ消えてしまいたい。神子なんて……ならなければよかった。あんな願い。抱くんじゃなかった。私が必要とされているのは、神子だからだ。二人と出会えたのも、二人に大切に思われているのも、神子だからで……私になんて
ーコンコン
ふいに叩かれたドア。重い身体を起こし、ノロノロと扉に向かう。ゆっくりと開けた先。そこに立つ人物を見て驚く。
「……どうして此処に……」
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