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第三話、子どもを助けて連れ帰ったら八岐大蛇でした
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しおりを挟む「スサ!」
思いっきり首に抱きつかれてしまい勢いよく地面に尻餅をつく。
「スサ、会いたかった。また会えて嬉しい!」
「えーと。俺はスサって奴じゃないぞ? 朝陽だ、桜木朝陽」
「ううん、スサだ。この気配はスサに間違いない」
誰ソイツ、と思いはしたものの朝陽は話を進めることにした。
「君の名前は?」
朝陽が聞くと、男の子は大きな二重瞼から覗く赤眼を瞬かせる。
シルバーのショートカットの髪の毛がちょうど目にかかるくらいの長さだった。
「んーと、……オロ?」
——何で疑問系?
「スサには前みたいにオロって呼んで欲しい!」
スサじゃないけどと思いつつ、懐いてくる子どもを見て悪い気はしない。
「んじゃ、オロ。でも俺は朝陽だ。スサじゃないからな?」
「分かった。朝陽」
無邪気な笑みが心に沁みた。
人外では交番に届けるわけにも行かず、朝陽は悩んだ末にアパートへと連れていく事に決めた。
「ん、しょっ!」
掛け声と共に勝手に背中によじ登ってきたオロをそのままにして、朝陽は歩き出す。
「両手塞がってるから、落ちないようにしがみついてろよ?」
「はい!」
元気の良い声が返ってきた。
***
「ただいまー」
靴を脱いで部屋の中に入って行くと、キュウは居なくなっていて、将門一人だった。
「お前はまた厄介なモノを拾ってきたな。今度はトカゲか。ペットはウンザリだ。外に放り投げろ」
「トカゲ?」
「トカゲと一緒にするな!」
げんなりした様子の将門に向かって、オロが喰ってかかる。朝陽の背中から飛び降りるなり、トテトテと可愛らしい音を立てながら、将門に向かってオロが駆け寄った。
「そんなちんちくりんになりおってからに。トカゲだろうが」
「違うぞ! ボクは八岐大蛇《ヤマタノオロチ》だ!」
「はいはい」
そう言った将門が嫌そうな顔でヒラヒラと手を振って、オロをあしらう。
「八岐大蛇ぃい⁉︎」
面食らったのは朝陽だった。
もしかしてとんでもない拾い物をしたのでは無いのか?
将門が『厄介な拾い物』と言った意味が分かり息を呑む。オロが己の事を『スサ』と呼んだのは『スサノオ』を指していたのか? 逡巡する。
未だに言い合いをしている二人を交互に見ては、朝陽は口を開くタイミングを見ていたが、諍いは一向に終わらない。
十分は様子を見たものの、段々焦れてきてやがてそれは苛立ちに変わった。
「お前ら黙れ」
双方に霊力をぶつけて問答無用で黙らせる。
「オロって本当に八岐大蛇?」
「そうだよ。スサがボクの霊力を十分の一になるまで削ってこの姿にしてくれたから、ボクは今までずっと封印からも逃げられていた」
「逃した? 退治じゃなくてか?」
伝わっている文献では、スサノオノミコトは八岐大蛇を討伐して、生贄とされる筈だった娘と結婚したと書かれていた。
「うん、そう。ボクとスサは友達だ。だから周りの目を欺く為に退治したフリをしてスサが逃してくれたんだ。だけど、どんどん力が弱まってきてお腹が空いたから、ご飯探して旅をしていたらあの者たちにバレた。何かボクにやらせたい事があったみたいだけど、この通りボクにはもうそんな力なんてない」
所々良く理解の出来ない箇所はあったが、スルーした。
確かに三歳児にしか見えない見た目では悪さなど出来そうにない。何よりオロからは邪悪な気配が全くしなかった。潜在的な能力の高さは朝陽にも視えたが、今のオロでは『下の中』くらいだと思われる。そこら辺にいる浮遊霊と大差ない。さっきの男たちがオロに何をさせたかったのかは読めないものの、ふと疑問に感じた事もあった。
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