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第三話、子どもを助けて連れ帰ったら八岐大蛇でした
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しおりを挟む「成る程な。てか、何で俺がスサノオ?」
——うちの家系にスサノオと関係している人いたか?
朝陽には思い当たる人物がいなかった。後で博嗣にでも聞いてみようかと考える。
「朝陽はスサと同じ気配がする。血が流れているのかもしれないね。それにしても……なんで? 朝陽からは美味そうな匂いがする。朝陽って食べていいの? 食用? ボクお腹空いた」
見た目は純粋無垢にしか見えない笑顔が眩しい。言っている事は物騒だが。
「人間は食べちゃダメっ!」
「あ゛あ゛?」
朝陽が聞き返すのと将門が不機嫌な声を出したのと同時だった。よくよく考えてみると、朝陽の匂いは番候補者にしか感じ取れない筈だった。将門と視線を合わせる。
——もしかしてオロが三人目なのか?
今のオロはどう贔屓目に見ても、人間でいう三歳児くらいの大きさだ。いくら何でもそんな事はないだろうと目配せした後でお互い首を振った。
寧ろ外れていて欲しい。
「あ、惣菜の匂いとかだよな? 魚もあるし肉もあるしな」
内心ドキドキしながらも買ってきた食材をオロの前に並べる。
「違う。朝陽の首筋から香ってくる。さっき背に乗ってる時も何度か匂いに負けそうになって食べかけた。勝手に食べるのはどうかと思って噛まなかったけど、食べとけば良かった。朝陽、美味しそう」
——ダメだ。好ましくない展開になってきたぞ。
既視感のありまくる言葉のオンパレードに、どう返していいのか朝陽は本気で分からなくなった。オロのセリフはどう解釈しても、番候補者である者のセリフだ。まさかの展開にさすがの朝陽も困った。
「これは俺のだ。お前になぞやらん」
将門は朝陽を抱き寄せて、オロから距離を取らす。
帰ってくる時に路上で噛まれなくて良かったと、朝陽は心底思っていた。道端で強制発情なんてさせられてたら、それこそ目も当てられない。変質者として警察に引き渡されそうだ。
——というか三歳児が番候補ってどうなんだっ⁉︎
将門は将門で、オロを警戒しまくって、何が何でも朝陽に近づけさせないようにしている。その姿は、牙を剥いた大型肉食獣のようだった。
「あれ? なんかピリピリしてない?」
「キュウ!」
突如キュウが現れ、皆の意識はそっちに集中する。
「え、九尾の狐⁉︎」
オロが目を瞠った。
「あは、ちゃんと八岐大蛇拾って来たんだね。ね? 面白いもの見れたでしょ? ……ちっ、せっかく思う存分朝陽犯せると思ったのに」
喜んでいるのか悔しがっているのか良く分からないキュウの反応を見て、朝陽はスッと視線を横に流す。
「おい、狐。てめえのせいだぞ?」
将門がうんざりした顔でキュウを見やる。
「八岐大蛇の事?」
「そうだ。要らんもん連れて来させやがって。コイツも番候補者だって知ってたか?」
将門とキュウがやり取りをしているその隙をついて、オロが朝陽の首に両腕を回して引っ付いた。意外とちゃっかりしている。
「……」
珍しくキュウが目を見開いたまま固まっていた。
——知らんかったんかよっ。
沈黙の後で、自らの胸の前で両手を合わせたキュウが言った。
「あ、トカゲさん、お帰りはこちらですよー。はい、すぐ出てってくださいねー。ほら、シャキシャキ動く! お子様はお呼びじゃないんで……さっさと朝陽から手ぇ離して出てけ」
——人変わってんぞ、おい。
最後ら辺は氷点下で言葉を発し、全く笑んでいない笑顔で、キュウがオロの頭を鷲掴みにしている。
「痛い痛い痛い! トカゲじゃないっ! 嫌だっ、ボク朝陽といるもん! 朝陽美味そうだから食べるー! 朝陽ー!」
「だから、お子様の出番はないって言ってるのが分からないかなー?」
ギリギリと音が聞こえて来るけど大丈夫なのかなこれ、と朝陽はオロの頭が握り潰されないか少し心配になった。
「えー、と」
どっちに味方していいのか真剣に悩む。
人外とは言え、さすがに見た目三歳児とは番えない。
朝陽の首にしがみついたまま離れようとしないオロを、キュウは無理矢理引き剥がそうとしている。その朝陽を後ろから抱きしめて、将門もオロを引き離そうとしていた。
「嫌だー‼︎」
離されるものかと朝陽にしがみつく腕に再度力を込めたオロだったが、香ってきた美味しそうな匂いに釣られて、思わず朝陽の首筋に噛みついた。
「ひっ⁉︎」
途端に朝陽の体が硬直し、体が震えてくる。オロが番候補者として確定した瞬間だった。
——マジかよ……。
朝陽の体は準備を始めるように、火照り出す。血の巡りが良くなり、全身に甘い痺れをもたらしてきた。
「やめ、オロ……、ちょっと、離れろっ」
朝陽は焦っていた。この上ない程焦っていた。
「朝陽、やっぱり美味しい。もっとちょうだい」
「マジ……っ、待って……くれ、ッあ」
「こらぁあ、トカゲーー‼︎」
キュウと将門のセリフが重なった。
カプカプと朝陽の首元に吸い付いていたオロの目が蕩けていく。強制発情させられた朝陽は浅い呼吸を繰り返し、力が入らないながらもオロを己の身から離そうと腕を突っ張っていた。
「や、ぅ、あっ、あ……、待って……くれ」
どんどん体が弛緩し、熟れた表情になって行く朝陽を視界に入れ、キュウと将門の動きがピタリと止まった。
「ふ、……っ、あ、ん……ぅ、ッ」
オロは今だと言わんばかりに朝陽の首元を噛み続ける。部屋の中に花のような香りが満ち溢れ、充満して行く。その香りに充てられたのは、オロだけではなかった。キュウと将門も、体の奥底からくる甘い疼きと、気の昂りに呑み込まれそうになっている。
「おい、狐。休戦だ」
「奇遇だね。私もそう思ってた所だよ」
朝陽にオロをまとわり付かせたまま、二人は阿吽の呼吸で朝陽の体をベッドに運ぶ。鼻歌でも歌い出しそうな勢いで、生き生きした表情をしている人外たちが初めて心を一つにした。そして朝陽の胸に殺意が芽生えた瞬間でもあった。
「お前ら……、んな時だけ、っ仲良く、しやがって!」
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