わたしの王子さまには秘密がある〜政略結婚と呪いの花〜

碧空宇未(あおぞら うみ)

文字の大きさ
18 / 20

第19話 花を使ったまじない

しおりを挟む
「シャルロットさま。マデリンとはどういう関係ですか?」
 呪いのことを聞く前に、敵ではないとまず確認する必要があった。

「マデリンは、ここへ来る前まで、私の侍女だったんです」
「姫の?」
 彼女はこくりと頷いた。

「オースティン王国はマデリンの祖国なんですよ。国へ戻ると報告を受けて、職に困らないように、侍女として雇って欲しいと殿下宛てに紹介状を持たせたり、用立てたのです。マデリンは、私の大事な人だったんです。その彼女が、あなたに仕えることができて本当によかったと言っていましたよ」
 ほほえむ彼女からは、敵意を感じない。直接、話すのは初めてだが、最初から好意的だった。

 解呪するために、自分の力でルーカスに呪いをかけた術者を見つけるつもりだった。けれど、もうそんなことを言っている場合じゃない。
 リラは、マデリンにした質問をシャルロットにもした。

「シャルロットさま。殿下の呪いを解くことができますか?」

 同じように術を仕えるなら、解くことができるかも知れない。しかし、
「リラさま。残念ながら、殿下の苦しみを取りはらえるのは、私ではありません」
 シャルロットは顔を曇らせながら首を振った。視線を外のクレマチスに向ける。

「知っていますか? 花には人の想いが宿ると言われているんですよ。相手を想う気持ちを添えて贈ると、とても喜ばれます」
 
「殿下の呪いと、花を贈ることがどう関係している?」
 リラが質問すると、シャルロットは目を細めた。

「強い想いは、時に願いを叶えると言うことです」
「……もしかして、それが術を使うことと関係がある?」
「花を使った呪いに関して言えば、術者は関係ありません。気持ちが強いほうが、願いを叶えるというだけ」
「つまり、殿下の命を狙うものと、殿下を守ろうとするわたし、どちらの思いが強いかということか」

 証拠はないがおそらく犯人は王太后。
 相手は強いが気持ちで負けたりしない。ルーカスを殺させない。
 リラは強く握りこぶしを作った。

「シャルロットさま。わたしは、ルーカスさまをお慕いしています。そこで、あなたを信じて、お願いがあります」
 リラが真剣な目を向けると彼女も真顔で頷いた。

「リラさまの言いたいことはわかっていますわ。わたくしに、身を引け、ですね?」
「え?……いえ。違います、逆です。ルーカスさまを正妃として、支えて差しあげて下さい」
「はい?」
 シャルロットは、大きな目をぱちぱちと繰りかえした。
「ルーカスさまの正妃は、リラさまですよね?」
「わたしは騎士です。命に代えても殿下を守り抜く。この想いは、決して呪いなんかに負けません。姫が王妃となり、殿下を支えて下さるのならわたしは、呪いを解くため、騎士道に専念します」

「待って、リラさま。私、ルーカスさまの妃になるつもりありませんわ」

 今度はリラが驚いて、目を瞬いた。
 シャルロットがルーカスの正妃候補として訪問しているのは、王太后の指示だからだ。
「シャルロットさまは、王太后の意に背くおつもりですか?」
「はい。全力で背きます」
 彼女は、はっきりと言った。

「わたくしは自国に戻って、女王になります。……絶対に」
 シャルロットの目は力強く、本気なんだと伝わってきた。
「王太后は、私の叔母です。今のままでは、彼女に逆らえないので正妃候補の形で訪問しましたが、私の本当の目的は政略結婚ではありません。次期オースティン王国の国王、ルーカスさまと国同士の友好を築くため」
「シャルロットさまは結婚が目的ではなく、外交をしに来たということですか?」
 姫はにこりとほほえんだ。
「王太子妃リラさまとの交流が実現して、嬉しく思っています。ルーカスさまは、大変な目に遭っていますが……」
 彼女は視線を部屋の中へと向けた。

「リラさまならもう、ご存じだと思いますが、ローズ王太后は私をこの国に嫁がせ、傀儡にして、属国にするつもりです。ですが、私はその考えに反対。水面下でルーカス王太子と手を組ませていただきました」

 リラは、シャルロットの考えと行動力に驚いた。
 女王になる覚悟、王太后に抗う意思に、強く惹かれた。
 ――シャルロット姫、すてきなかただ。

「わたしも、シャルロットさまとお話できて良かったです。殿下が目覚めたら、あらためて正式な交流をさせて下さい」
「ええ、ぜひ。実現させましょう。リラさま」

 リラは、騎士の礼ではなく、淑女の礼カーテシ-を丁寧にした。

「シャルロットさま、強い気持ちが呪いを解くことはわかりました。では、もっと具体的に、どうすればいいとかありますか?」

「騎士道を貫くのも良いとは思いますが、リラさまには、試してみて欲しい別の方法があります」
「教えて下さい。どんなことでもします」

 シャルロットは真剣な眼差しで、クレマチスの呪いを解くヒントを教えてくれた。


 室内に戻ったリラは、姫に耳打ちして聞いた。
「シャルロットさま。さっきの、本気で言っています?」
「ええ、もちろんです。古今東西、昔から呪いを解く方法はこれですわ!」

 リラが眉尻を下げていると、シャルロットはなだめるように優しくほほえんだ。

「勇気がいる行為なのはわかります。でも、やってみる価値はあると思うの。二人は夫婦なわけだし、問題はないわ。実行するしないは別にして、よく考えてみてね」

 シャルロット姫はフードを深く被ると、「がんばれっ」とにこりと笑った。マデリンと一緒に部屋を出て行苦彼女を見送る。

「がんばれって言われても、ハードルが高すぎる……」
 リラは一人になると、ルーカスが眠る寝台に近づいた。

 寝息もたてずに眠るルーカスの顔をのぞき込む。
 そっと、ルーカスの頬にまで伸びた蔓の紋様に触れた。

「ルーカス。起きて。まだ寝るのなら、子どもの頃みたいに顔に落書きするよ」
  
 話しかけても彼はぴくりとも動かない。
 リラは自分の手のひらを見つめた。長年、剣を握り続けたことでマメが潰れてかたくなっている。

 バルコニーから室内へ戻る時、シャルロット姫はリラに言った。

『リラさま。これは私の意見ですが、どうしても叶えたい願いがあるのなら、今の状況をうまく利用したら良いですよ。物事って、思い描いたとおりに進まないでしょう? 王族なんて特にそう。自由に見えてすごく不自由です。だからって腐っていてもしかたない。大事なのは、自分の望む結果をいかにたぐり寄せるか。どうしたいかです』

 リラは手をぎゅっと握った。

「わたしも、王太子妃という立場を利用すればいい」

 ずっと、騎士にこだわってきた。ルーカスの傍にいるには、他に方法がないと思っていた。
 だけどそうじゃないと、リラは、シャルロットと話して、ようやく気づいた。

「ルーカスを護るには、騎士になるしかないと囚われて、固執していた。本来の目的を、願いを見失っていた」

 リラは、ルーカスの右手をつかむと、両手で包み込んだ。

「ルーカス。好きだよ。あなたのためなら騎士にも、王妃にもなる。ずっと、傍にいたいから」

 彼に目覚めてもらいたかった。
 呪いを解いてあげたかった。国のためにも、彼のためにも、自分のためにも、彼と幸せになりたいとリラは、今まで以上に強く思った。

「姫が、呪いを解く定番は、唇にキスって言ってた。でも、唇は、ルーカスが目覚めた時に取っておくね」

 リラは、彼の右手に刻まれているクレマチスの呪いにキスをした。

 想いが溢れて、頬を伝った涙の雫が金色の紋様にふれる。ふわりと、輝きが増した。
 ルーカスの身体に刻まれていた蔓の紋様が明るく光ったかと思うと、ふっと元に戻った。

 リラが目を見張っていると、ルーカスの手がぴくりと動いた。
「ルーカス?」
 声をかけると、瞼が小さく震え、ゆっくりと開いた。くうを彷徨っている翡翠の瞳がリラに焦点を合わせると止まった。

「リラ。今、なん……」
「ルーカス!」

 思わず、彼に抱きついた。

「よかった。本当によかった……!」

 彼が愛しくて、目覚めたことが嬉しくて、涙が止まらない。リラは、戸惑うルーカスを無視して、ずっと彼を抱きしめ続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい

らんか
恋愛
前世の記憶を思い出した今なら分かる。  ヒロインだからって、簡単に王子様を手に入れていいの?  婚約者である悪役令嬢は、幼い頃から王子妃になる為に、厳しい淑女教育を受けて、頑張ってきたのに。  そりゃ、高圧的な態度を取る悪役令嬢も悪いけど、断罪するほどの事はしていないでしょ。  しかも、孤独な悪役令嬢である彼女を誰も助けようとしない。    だから私は悪役令嬢の味方なると決めた。  ゲームのあらすじ無視ちゃいますが、問題ないよね?

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。

処理中です...