【完結】婚約破棄?喜んで!~溺愛王子のお妃なんてお断り。悪役令嬢の私は猫と旅に出ます~

碧空宇未(あおぞら うみ)

文字の大きさ
11 / 17

第11話

しおりを挟む
「やっと、外に出られた」
 もっと警備が厳重かと思ったが、長い回廊には誰もいなかった。
 差し込む陽の光を身体で受け止める。
 丸二日だったが、囚われの身がどれだけ苦痛で辛いのか、理解できた。

 俺はジュリアを「王城という牢獄」に十年間も縛り付けていたんだな。

「愛しい人が、自由を望むのなら叶えてあげるべきなのだろうな。白猫嬢もそう思うだろ?」
 白猫は牢獄から持ってきたマタタビを咥えたまま小首を傾げた。

「だが、この国には彼女が必要だ。王妃はジュリアしかいない」

 ちゃんと話し合おう。
 彼女がもし、もう一度婚約者になってくれたのなら、そのときは誰に何を言われようが、ジュリアの気持ちを優先させる。

 王妃になってくれるのなら、彼女のために猫を好きなだけ囲おう。その愛情が、自分には一滴たりとも向けられなくても。

 回廊の花瓶に生けられているガーベラの前で足を止める。オレンジの花を手に取り、花びらにキスをした。

 白猫がとんと肩に飛び乗ってきた。長い白いリボンを咥えていて、花を持つ手元に落とした。
「このリボンをどこで手に入れた? 白猫嬢は良く拾い物をするな」
 猫はにゃーんと答えた。
「これ、借りるよ」
 ガーベラを束ね、猫から受け取ったリボンで飾った。

 ジュリアを追うために吹き抜けの正面玄関ホールに向かった。すると、階下からユリアの怒鳴り声が聞こえた。二階の回廊からそっと下を覗く。
 
「セタンタさん! 本当に失敗したの? 理由は?」
「監視の者の報告によりますと、送りつけた子ども追跡者たちはジュリアさまに懐き、彼女から金銭を受け取ると笑顔で帰ってしまったそうです。しかも、誰の差し金かもあっさり打ち明けていたもようです……」

 子どもを使ってジュリアを脅そうとしていたのか。暴力を行使するよりはましだが、卑怯な連れ戻し作戦をよく思いついたもんだな。
 聖女の言動に驚いていると、そばにいた白猫がうーっと低く唸り、どこかへ行ってしまった。

 白猫嬢、どこへ?

「もう良いわ。私が直接出向きます。きっとあそこにいるはずだわ」
 猫を追いかけようとした刹那、聞こえてきた声に振り返る。
 聖女がセタンタや侍従たちの制止を無視して外へ出て行こうとしていた。

「ユリア嬢、待て!」
 柵から身を乗り出し叫ぶと、振り向いたユリアは目を見開いた。
「え、王子さま? 逃げてきたの?」
「ジュリアやみんなを巻き込むな。これ以上の勝手は許さない!」
 ユリアはきっと睨み上げた。
「私は、推しの猫を手に入れるまで諦めない。みんな捕まえて!」

 護衛兵が一斉に上ってくる。兵が二階に到達したタイミングで柵を乗り越え、階下へ降り立った。

 一階には老臣たちがそのままいた。拘束はしてこないがユリアとの間に割って入ってきた。足止めされている間に、彼女は行ってしまった。
 ちっと舌打ちをする。

「殿下。聖女さまの指示です。牢獄は戻りましょう」
 追いついた護衛兵に俺は「わかった」と大人しく答え、手を伸した。

 腕に触れられる直前、護衛兵の懐にすばやく潜り込み、彼の腰に差している剣を抜いて奪い取った。

「おまえたち、下がれ!」
 剣を一度大きく振り回し、これ以上近づくなと脅す。

「で、殿下! なりませぬ。抵抗はおやめください! 聖女さまの邪魔立てをしては……、」
「黙れ!」
 腹の底から叫んだ。セタンタと侍従、捕らえようと駆け寄ってきていた護衛兵数人が驚いて固まった。

「今、こうしている間にも蝗害で民が苦しみ死んでいく。それなのに、おまえたちは民より聖女が大事だというのか?」
 目の前にいるセタンタに剣先を向ける。

「高官たちは……いや、俺たちは、嵐が去るのを待つように、蝗害が落ち着くのをただ黙って見ていた。いよいよ深刻になってきても、まだ現実から目を背け自分たちだけ裕福に暮らし、聖女の出現を頼って、待っているだけだった」
 剣を下げると、老臣の肩を強く押した。

「高官の最高責任者セタンタ。しっかりしろ。小娘に良いように使われるな。いい加減に目を覚ませ!」
 剣の柄をぎゅっと握ると再び声を張った。

「私はウーエルス国の皇太子レオン・ノヴォトニーだ。私の権限で王城の食料備蓄を民に解放する! 国王にはそう申し上げよ。わかったら今すぐ作業に取りかかれ!」
「承知しました、殿下」
 セタンタが下がると、次に侍従長に目を向けた。

「蝗害の様子を視察する。俺は先に単騎で駆ける。おまえたちは準備が整い次第、追いつけ」
「殿下、それはいささか性急でございます」
「どこが? 二日も地下牢に閉じ込められ出遅れたくらいだ。……なんとしてもジュリアに追いつきたい。聖女も婚約者も連れ戻す! 直ちに準備せよ」

「殿下の仰せのままに」
 侍従長は「殿下の愛馬を正面へお連れします」と言い置いて、立ち去った。

 聖女がこの場を去り、魅惑が解けたようだな。
 彼女を追えば、ジュリアにたどり着けるかもしれない。

 正気を取り戻した護衛兵に剣を戻す。自分の声が届いたことに密かに安堵した。
「にゃーん」と猫の大きな声がして顔を上げた。
 白猫だ。戻ってきたらしい。
 自分がさっきまでいた回廊の柵の上で器用に座っている。口にはガーベラの花束がある。

 ぱっと離され、あわてて駆け出し、花束を腕に抱き留めた。間を置いて、コツンと固い物が落ちてきた。

「婚約指輪?」
 ジュリアに拒まれ、聖女には床に投げ捨てられた指輪だった。婚約指輪を拾っていると、そこへ猫も降ってきた。

「白猫嬢、色々と助けてくれてありがとう」
 ズボンのポケットにマタタビを忍ばせていたことを思い出し、取り出す。
 床に片膝をつき胸に手をあてると、マタタビを彼女に贈った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる! 前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。 「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。 一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……? これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。

緋村ルナ
ファンタジー
「お前のような女は王妃にふさわしくない!」――才色兼備でありながら“冷酷な野心家”のレッテルを貼られ、無能な王太子から婚約破棄されたアメリア。国外追放の末にたどり着いたのは、痩せた土地が広がる辺境の村だった。しかし、そこで彼女が見つけた一つの奇妙な種が、運命を、そして世界を根底から覆す。 前世である農業研究員の知識を武器に、新種の果物「ヴェリーナ」を誕生させたアメリア。それは甘美な味だけでなく、世界経済を揺るがすほどの価値を秘めていた。 これは、一人の追放された令嬢が、たった一つの果実で自らの運命を切り開き、かつて自分を捨てた者たちに痛快なリベンジを果たし、やがて世界の覇権を握るまでの物語。「食」と「経済」で世界を変える、壮大な逆転ファンタジー、開幕!

処理中です...