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第1章:引っ越しの告白(テーマ:前向きに“別れ”を受け入れる)
「突然の『お引っ越し』」
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やまもとベーカリーを出たあと、ぼくらは川べりまで歩いた。
ちょうどいい木かげのベンチがあって、ひんやりした風がときどき通りぬける場所。
「ふぅ~、かき氷おいしかったし、ここ、涼しくて最高~!」
アカネがぺたんと腰をおろすと、ショウもそのとなりに座った。
「かき氷はおいしかったけど、僕のは最後、ちょっと溶けててべちょってなった」
「そりゃ、食べるのおそいからでしょーが!」
「味わってたんだよ……」
ぼくはそのやりとりを聞きながら空を見た。
雲がふわふわしてて、まるでかき氷の上にのった綿あめみたいに見えた。
そのときだった。
「……あのね」
ヒナちゃんが、ぽつんとつぶやいた。
「わたしね……夏休みが終わったら、引っ越すの」
風がすっととまったような気がした。
「……えっ?」
アカネが、目をまんまるくした。
「……ほんとに? 引っ越すって、なんで?」
ショウが言葉を選びながら聞く。
「うん。新しい家になるんだって……この町じゃなくなるの」
ヒナちゃんは、いつもの笑顔じゃなかった。
すこし唇をかんで、目をそらすように川の方を見ていた。
「そっか……」
アカネが、しばらく黙ってから小さな声で言った。
「なんで……」
ぼくは、気づいたら口に出していた。
でも、そのあとの言葉が出てこない。
(なんで……今まで、言ってくれなかったんだよ)
胸の奥がざわざわして、うまく息ができなかった。
ヒナちゃんがなにか言いかけたけど、そのとき遠くから釣り人のおじさんの声がして、なんとなく話がそれてしまった。
家に帰ると、母さんがエプロン姿で台所に立っていた。
「おかえり、ハル。今日は早かったね」
「うん……」
ぼくは冷たい麦茶をグラスに入れて、一気に飲みほした。
「ヒナちゃん、引っ越すんだって……夏休み終わったら」
母さんの手が止まった。
「そう……それは寂しくなるねぇ。ヒナちゃん、優しくていい子だったもの」
「うん……」
言いながら、ぼくは廊下にごろんと仰向けになって、足のかかとで床を蹴ってずりずり進んだ。
(なんで、なんでだよ)
どこにぶつけたらいいかわからないもやもやが、頭の中に広がる。
そのまま進んで、頭をドンっと柱にぶつけてしまった。
「いった……!」
「もう、なにやってるの……ハル、気をつけてよ」
母さんがあきれた顔でのぞきこんできたけど、すぐにやさしい声で言ってくれた。
「でもね、引っ越す前に、きっといっぱい思い出つくれるよ。お別れはさみしいけど、いい時間をすごしたら、ちゃんと“またね”って言えるよ」
「……そう、かなぁ」
「そうよ。ヒナちゃんも、きっとハルに言いたかったけど、言えなかったんじゃないかしら」
ぼくは黙って、天井を見つめた。
夏の夕方の光が、柱のすきまから斜めに差しこんでいる。
そのとき、玄関の方でガサッという音がした。
見に行くと、町内の回覧板が郵便受けに入っていた。
母さんがそれを手に取りながら、ポツリとつぶやく。
「あら……町おこしやるのねぇ。川下りレースだって。舟、手づくりで、だって」
「……川下り?」
「そう。舟こいで、みんなで競争するの。にぎやかになるねぇ……」
(川……)
ぼくの頭の中で、ヒナちゃんの笑顔と、川の流れと、さっきの言葉が重なっていく。
気がつくと、ヒナちゃんのことばかり考えていた。
なんで言わなかったのか。
どうして、そんな顔してたのか。
でも、責めるようなことじゃない。
きっと、ヒナちゃんはヒナちゃんで、言い出せなかっただけなんだ。
だからぼくはちゃんと、考えないといけない。
ちょうどいい木かげのベンチがあって、ひんやりした風がときどき通りぬける場所。
「ふぅ~、かき氷おいしかったし、ここ、涼しくて最高~!」
アカネがぺたんと腰をおろすと、ショウもそのとなりに座った。
「かき氷はおいしかったけど、僕のは最後、ちょっと溶けててべちょってなった」
「そりゃ、食べるのおそいからでしょーが!」
「味わってたんだよ……」
ぼくはそのやりとりを聞きながら空を見た。
雲がふわふわしてて、まるでかき氷の上にのった綿あめみたいに見えた。
そのときだった。
「……あのね」
ヒナちゃんが、ぽつんとつぶやいた。
「わたしね……夏休みが終わったら、引っ越すの」
風がすっととまったような気がした。
「……えっ?」
アカネが、目をまんまるくした。
「……ほんとに? 引っ越すって、なんで?」
ショウが言葉を選びながら聞く。
「うん。新しい家になるんだって……この町じゃなくなるの」
ヒナちゃんは、いつもの笑顔じゃなかった。
すこし唇をかんで、目をそらすように川の方を見ていた。
「そっか……」
アカネが、しばらく黙ってから小さな声で言った。
「なんで……」
ぼくは、気づいたら口に出していた。
でも、そのあとの言葉が出てこない。
(なんで……今まで、言ってくれなかったんだよ)
胸の奥がざわざわして、うまく息ができなかった。
ヒナちゃんがなにか言いかけたけど、そのとき遠くから釣り人のおじさんの声がして、なんとなく話がそれてしまった。
家に帰ると、母さんがエプロン姿で台所に立っていた。
「おかえり、ハル。今日は早かったね」
「うん……」
ぼくは冷たい麦茶をグラスに入れて、一気に飲みほした。
「ヒナちゃん、引っ越すんだって……夏休み終わったら」
母さんの手が止まった。
「そう……それは寂しくなるねぇ。ヒナちゃん、優しくていい子だったもの」
「うん……」
言いながら、ぼくは廊下にごろんと仰向けになって、足のかかとで床を蹴ってずりずり進んだ。
(なんで、なんでだよ)
どこにぶつけたらいいかわからないもやもやが、頭の中に広がる。
そのまま進んで、頭をドンっと柱にぶつけてしまった。
「いった……!」
「もう、なにやってるの……ハル、気をつけてよ」
母さんがあきれた顔でのぞきこんできたけど、すぐにやさしい声で言ってくれた。
「でもね、引っ越す前に、きっといっぱい思い出つくれるよ。お別れはさみしいけど、いい時間をすごしたら、ちゃんと“またね”って言えるよ」
「……そう、かなぁ」
「そうよ。ヒナちゃんも、きっとハルに言いたかったけど、言えなかったんじゃないかしら」
ぼくは黙って、天井を見つめた。
夏の夕方の光が、柱のすきまから斜めに差しこんでいる。
そのとき、玄関の方でガサッという音がした。
見に行くと、町内の回覧板が郵便受けに入っていた。
母さんがそれを手に取りながら、ポツリとつぶやく。
「あら……町おこしやるのねぇ。川下りレースだって。舟、手づくりで、だって」
「……川下り?」
「そう。舟こいで、みんなで競争するの。にぎやかになるねぇ……」
(川……)
ぼくの頭の中で、ヒナちゃんの笑顔と、川の流れと、さっきの言葉が重なっていく。
気がつくと、ヒナちゃんのことばかり考えていた。
なんで言わなかったのか。
どうして、そんな顔してたのか。
でも、責めるようなことじゃない。
きっと、ヒナちゃんはヒナちゃんで、言い出せなかっただけなんだ。
だからぼくはちゃんと、考えないといけない。
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