23 / 24
第8章:またね、って言えた日(テーマ:別れのさみしさと、それでも進む一歩)
「またね、って言えた日」
しおりを挟む
引っ越しの日の朝は、夏とは思えないくらい、しんと静かだった。
ぼく達は少し早起きして、ヒナちゃんの家の前に行った。
玄関の前では、段ボール箱が山になってて、荷物を運び出す音がカラカラって響いてる。
だけど、それよりもずっと強く感じたのは、ぼくたちの心臓の音だった。
アカネが、自分のシール帳をそっと開いて、「ここね、このページが、いちばん好きなんだ」って言いながら、そこに貼ってたキラキラの星のシールのページを外して、ヒナちゃんに渡してた。
ヒナちゃんも、「……これ、わたしが一番好きなやつだよ」って言いながら、うさぎのシールのページを外してアカネに手渡した。
「手紙、ぜったい書くから!」ってアカネが言ったら、「わたしも書くから、返事ちょうだいね!」ってすぐに重ねる声がした。
「ぼくも……手紙ちゃんと書くよ。絵も描く。いっぱい思い出描くから」
ショウのそのまっすぐな目が、ちょっとだけ赤くなってた。
「オレはさ……あの時素直に謝って仲間に入れてって頼んで良かったよ。がんばれって応援してくれてありがとな!」って、トシオが言った。
そのときだけ、ヒナちゃんが声を出して笑った。「……うん!」
「そうだ!舟ができた時の写真できたよ!!」
この夏にあったいろんな事が納められた写真達が五人全員分に焼き増しされてミニアルバムでもらった。
写真の中には、笑顔と、夕焼けと、みんなで体験したいろいろなぼくらの“すごい夏”がちゃんと写ってた。
笑ったはずなのに、頬にはつーっと涙が一筋。
それをぬぐいながら、ヒナちゃんは言った。
「……みんな、ほんとにありがとう」
「この町が大好きなのはみんながいるおかげなの」
その言葉を聞いたら、ぼくもなんか、胸の奥がぎゅーってなった。
ちょうどそこへ、引っ越し業者のおじさんが重い荷物をかかえてやってきて言った。
「この町、ええとこやなぁ。わしも子どもの頃、こんなんやったわ」
なんて、にこにこしながら言ってた。
……空は、晴れてるのに、なんだかずっと胸の中はくもり空だった。
「絶対、会いにいくよ」
ぼくは、ヒナちゃんの目を見て、そう言った。
荷物はもう、ほとんどトラックに積まれていて、残っていたのはヒナちゃんとお母さん、そしてぼくらだけだった。
アカネは「絶対また遊ぼうねー!」「まってるからーー!!」って、口をいっぱいに開いて叫んでいた。
ショウは静かに手を振っていたけど、その指はちょっとだけ震えてた。
トシオは「オレ、ちゃんと覚えてっからな!レースのこと!」って言った。
ヒナちゃんが、最後にぼくのほうを見て、小さな封筒を差し出した。
「これ……あとで、ひとりで読んでね」
「……うん」
ぼくは、それを両手で受け取った。
ヒナちゃんの指先が、ぼくの手にふれた気がして、ちょっとだけ心臓が跳ねた。
最後にヒナちゃんが言った。
「アカネちゃん、いつも元気で引っ張ってくれてありがとう」
「ショウくん、いつも違う意見が出たらすごいアイディアで解決してくれてありがとう」
「トシオくん、あぶない時に助けくれてありがとう」
「ハルくんいつも仲良くしてくれてありがとう」
「みんな大好き」
涙を流して1人ずつに言葉をかけるヒナちゃんがとてもキレイに見えた。
「みんな、バイバイ」
そう言って手を振るヒナちゃんにぼくは言った。
「ちがうよ!ヒナちゃん!」
「……えっ?」
「バイバイじゃない。またね!!」
「っ……!」
そしてみんなでやり直した。
「「またね!」」
それから、ヒナちゃんとお母さんはお父さんが運転する車に乗った。
エンジンがかかって、ゆっくりと動き出す。
近所のおばちゃんが静かに手を振って、引っ越し屋さんが「発進しまーす」って声をかけた。
タイヤがアスファルトをきしませながら進み出すと、ヒナちゃんはずっと、笑顔で手を振っていた。
ぼくたちも、バカみたいに手をふりつづけた。
見えなくなるまで、声が届かなくなるまで、ずっと。
「ヒナちゃーん!!!」
思いきり叫んだ。
喉がからっぽになるぐらい。
でも、あの笑顔が、ぜんぶに返してくれた気がした。
今にも泣き出しそうな空の下で、ぼくは笑っていた。
ヒナちゃんのために。
そして、ぼく自身のために。
夕方になって、家の中がしんとしてきたころ。
ぼくは、リビングで、ヒナちゃんからもらった封筒をじっと見つめていた。
封筒は、薄い水色で、小さな花のシールがひとつ貼ってあった。
花のシールを見てるとあの日の舟に描いた“花と龍”。
そして、あの時のヒナちゃんの笑顔が、ぼくの中によみがえる。
そっと封を切って、中の手紙を取り出した。
便せんには、ちょっとだけ丸文字気味の、ヒナちゃんの字。
『ハルくんへ』
この夏が、わたしの一生の宝物になりました。
毎日がすっごく楽しくて、うれしくて、ちょっとくるしくて。
ぜんぶぜんぶ、わすれたくない思い出です。
ハルくんのことが好きって言えた自分を、ちょっとだけ好きになれた。
それも、ハルくんのおかげです。
また会おうね。そのときは、“好き好き同士のままで”いられたらうれしいな。
それまで、元気でね。
ヒナより。
(あと、ちっちゃい絵を描いたよ。見てね)
手紙の下には、鉛筆で描かれたひとつの絵。
五人が乗っていた「五つ星フラワードラゴン号」。
そして、みんなの胸にキラッと光っていた金色のピンバッジ──それが、ぼくとヒナちゃんの分だけ、星が2つ重なって描かれていた。
……ああ、ダメだ。
顔がにやける。
ぼくはクッションに顔をうずめて、むにゃむにゃと笑いながら転がった。
「好き好き同士」とか、そんなワード、ある!?
……いや、あるんだ。ぼくらには。
「ぼくも……大好きだよ。……またね、ヒナちゃん」
その時、台所の方から呆れたような声が聞こえた。
「なに気持ち悪い笑い方してんの」
お母さんだった。
「な、なんで!? 見ないでよ!!」
「見られたくなかったら、自分の部屋でしなさいよ」
そう、ここはリビング。
お母さんの言う通りだった。
でもまあ、いいか。
この夏、たぶん、ぼくはちょっとだけ強くなれた。
ちょっとだけ、かっこよくなれた……気がする。
ぼく達は少し早起きして、ヒナちゃんの家の前に行った。
玄関の前では、段ボール箱が山になってて、荷物を運び出す音がカラカラって響いてる。
だけど、それよりもずっと強く感じたのは、ぼくたちの心臓の音だった。
アカネが、自分のシール帳をそっと開いて、「ここね、このページが、いちばん好きなんだ」って言いながら、そこに貼ってたキラキラの星のシールのページを外して、ヒナちゃんに渡してた。
ヒナちゃんも、「……これ、わたしが一番好きなやつだよ」って言いながら、うさぎのシールのページを外してアカネに手渡した。
「手紙、ぜったい書くから!」ってアカネが言ったら、「わたしも書くから、返事ちょうだいね!」ってすぐに重ねる声がした。
「ぼくも……手紙ちゃんと書くよ。絵も描く。いっぱい思い出描くから」
ショウのそのまっすぐな目が、ちょっとだけ赤くなってた。
「オレはさ……あの時素直に謝って仲間に入れてって頼んで良かったよ。がんばれって応援してくれてありがとな!」って、トシオが言った。
そのときだけ、ヒナちゃんが声を出して笑った。「……うん!」
「そうだ!舟ができた時の写真できたよ!!」
この夏にあったいろんな事が納められた写真達が五人全員分に焼き増しされてミニアルバムでもらった。
写真の中には、笑顔と、夕焼けと、みんなで体験したいろいろなぼくらの“すごい夏”がちゃんと写ってた。
笑ったはずなのに、頬にはつーっと涙が一筋。
それをぬぐいながら、ヒナちゃんは言った。
「……みんな、ほんとにありがとう」
「この町が大好きなのはみんながいるおかげなの」
その言葉を聞いたら、ぼくもなんか、胸の奥がぎゅーってなった。
ちょうどそこへ、引っ越し業者のおじさんが重い荷物をかかえてやってきて言った。
「この町、ええとこやなぁ。わしも子どもの頃、こんなんやったわ」
なんて、にこにこしながら言ってた。
……空は、晴れてるのに、なんだかずっと胸の中はくもり空だった。
「絶対、会いにいくよ」
ぼくは、ヒナちゃんの目を見て、そう言った。
荷物はもう、ほとんどトラックに積まれていて、残っていたのはヒナちゃんとお母さん、そしてぼくらだけだった。
アカネは「絶対また遊ぼうねー!」「まってるからーー!!」って、口をいっぱいに開いて叫んでいた。
ショウは静かに手を振っていたけど、その指はちょっとだけ震えてた。
トシオは「オレ、ちゃんと覚えてっからな!レースのこと!」って言った。
ヒナちゃんが、最後にぼくのほうを見て、小さな封筒を差し出した。
「これ……あとで、ひとりで読んでね」
「……うん」
ぼくは、それを両手で受け取った。
ヒナちゃんの指先が、ぼくの手にふれた気がして、ちょっとだけ心臓が跳ねた。
最後にヒナちゃんが言った。
「アカネちゃん、いつも元気で引っ張ってくれてありがとう」
「ショウくん、いつも違う意見が出たらすごいアイディアで解決してくれてありがとう」
「トシオくん、あぶない時に助けくれてありがとう」
「ハルくんいつも仲良くしてくれてありがとう」
「みんな大好き」
涙を流して1人ずつに言葉をかけるヒナちゃんがとてもキレイに見えた。
「みんな、バイバイ」
そう言って手を振るヒナちゃんにぼくは言った。
「ちがうよ!ヒナちゃん!」
「……えっ?」
「バイバイじゃない。またね!!」
「っ……!」
そしてみんなでやり直した。
「「またね!」」
それから、ヒナちゃんとお母さんはお父さんが運転する車に乗った。
エンジンがかかって、ゆっくりと動き出す。
近所のおばちゃんが静かに手を振って、引っ越し屋さんが「発進しまーす」って声をかけた。
タイヤがアスファルトをきしませながら進み出すと、ヒナちゃんはずっと、笑顔で手を振っていた。
ぼくたちも、バカみたいに手をふりつづけた。
見えなくなるまで、声が届かなくなるまで、ずっと。
「ヒナちゃーん!!!」
思いきり叫んだ。
喉がからっぽになるぐらい。
でも、あの笑顔が、ぜんぶに返してくれた気がした。
今にも泣き出しそうな空の下で、ぼくは笑っていた。
ヒナちゃんのために。
そして、ぼく自身のために。
夕方になって、家の中がしんとしてきたころ。
ぼくは、リビングで、ヒナちゃんからもらった封筒をじっと見つめていた。
封筒は、薄い水色で、小さな花のシールがひとつ貼ってあった。
花のシールを見てるとあの日の舟に描いた“花と龍”。
そして、あの時のヒナちゃんの笑顔が、ぼくの中によみがえる。
そっと封を切って、中の手紙を取り出した。
便せんには、ちょっとだけ丸文字気味の、ヒナちゃんの字。
『ハルくんへ』
この夏が、わたしの一生の宝物になりました。
毎日がすっごく楽しくて、うれしくて、ちょっとくるしくて。
ぜんぶぜんぶ、わすれたくない思い出です。
ハルくんのことが好きって言えた自分を、ちょっとだけ好きになれた。
それも、ハルくんのおかげです。
また会おうね。そのときは、“好き好き同士のままで”いられたらうれしいな。
それまで、元気でね。
ヒナより。
(あと、ちっちゃい絵を描いたよ。見てね)
手紙の下には、鉛筆で描かれたひとつの絵。
五人が乗っていた「五つ星フラワードラゴン号」。
そして、みんなの胸にキラッと光っていた金色のピンバッジ──それが、ぼくとヒナちゃんの分だけ、星が2つ重なって描かれていた。
……ああ、ダメだ。
顔がにやける。
ぼくはクッションに顔をうずめて、むにゃむにゃと笑いながら転がった。
「好き好き同士」とか、そんなワード、ある!?
……いや、あるんだ。ぼくらには。
「ぼくも……大好きだよ。……またね、ヒナちゃん」
その時、台所の方から呆れたような声が聞こえた。
「なに気持ち悪い笑い方してんの」
お母さんだった。
「な、なんで!? 見ないでよ!!」
「見られたくなかったら、自分の部屋でしなさいよ」
そう、ここはリビング。
お母さんの言う通りだった。
でもまあ、いいか。
この夏、たぶん、ぼくはちょっとだけ強くなれた。
ちょっとだけ、かっこよくなれた……気がする。
0
あなたにおすすめの小説
まぼろしのミッドナイトスクール
木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
パンティージャムジャムおじさん
KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。
口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。
子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。
そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ぼくのだいじなヒーラー
もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。
遊んでほしくて駄々をこねただけなのに
怖い顔で怒っていたお母さん。
そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。
癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。
お子様向けの作品です
ひらがな表記です。
ぜひ読んでみてください。
イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる