輝け五つ星ーぼくらの川下り大作戦ー

ひとりさんぽ(一人三歩)

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第8章:またね、って言えた日(テーマ:別れのさみしさと、それでも進む一歩)

「またね、って言えた日」

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 引っ越しの日の朝は、夏とは思えないくらい、しんと静かだった。

 ぼく達は少し早起きして、ヒナちゃんの家の前に行った。

 玄関の前では、段ボール箱が山になってて、荷物を運び出す音がカラカラって響いてる。

 だけど、それよりもずっと強く感じたのは、ぼくたちの心臓の音だった。

 アカネが、自分のシール帳をそっと開いて、「ここね、このページが、いちばん好きなんだ」って言いながら、そこに貼ってたキラキラの星のシールのページを外して、ヒナちゃんに渡してた。

 ヒナちゃんも、「……これ、わたしが一番好きなやつだよ」って言いながら、うさぎのシールのページを外してアカネに手渡した。

 「手紙、ぜったい書くから!」ってアカネが言ったら、「わたしも書くから、返事ちょうだいね!」ってすぐに重ねる声がした。

 「ぼくも……手紙ちゃんと書くよ。絵も描く。いっぱい思い出描くから」
 
 ショウのそのまっすぐな目が、ちょっとだけ赤くなってた。

 「オレはさ……あの時素直に謝って仲間に入れてって頼んで良かったよ。がんばれって応援してくれてありがとな!」って、トシオが言った。
 
 そのときだけ、ヒナちゃんが声を出して笑った。「……うん!」

「そうだ!舟ができた時の写真できたよ!!」

 この夏にあったいろんな事が納められた写真達が五人全員分に焼き増しされてミニアルバムでもらった。
 
 写真の中には、笑顔と、夕焼けと、みんなで体験したいろいろなぼくらの“すごい夏”がちゃんと写ってた。
 
 笑ったはずなのに、頬にはつーっと涙が一筋。
 
 それをぬぐいながら、ヒナちゃんは言った。

 「……みんな、ほんとにありがとう」
 
 「この町が大好きなのはみんながいるおかげなの」

 その言葉を聞いたら、ぼくもなんか、胸の奥がぎゅーってなった。

 ちょうどそこへ、引っ越し業者のおじさんが重い荷物をかかえてやってきて言った。

「この町、ええとこやなぁ。わしも子どもの頃、こんなんやったわ」
 
 なんて、にこにこしながら言ってた。

 ……空は、晴れてるのに、なんだかずっと胸の中はくもり空だった。

「絶対、会いにいくよ」

 ぼくは、ヒナちゃんの目を見て、そう言った。

 荷物はもう、ほとんどトラックに積まれていて、残っていたのはヒナちゃんとお母さん、そしてぼくらだけだった。

 アカネは「絶対また遊ぼうねー!」「まってるからーー!!」って、口をいっぱいに開いて叫んでいた。
 
 ショウは静かに手を振っていたけど、その指はちょっとだけ震えてた。
 
 トシオは「オレ、ちゃんと覚えてっからな!レースのこと!」って言った。

 ヒナちゃんが、最後にぼくのほうを見て、小さな封筒を差し出した。

 「これ……あとで、ひとりで読んでね」

 「……うん」
 
 ぼくは、それを両手で受け取った。
 
 ヒナちゃんの指先が、ぼくの手にふれた気がして、ちょっとだけ心臓が跳ねた。
 
 最後にヒナちゃんが言った。
 
「アカネちゃん、いつも元気で引っ張ってくれてありがとう」
 
「ショウくん、いつも違う意見が出たらすごいアイディアで解決してくれてありがとう」
 
「トシオくん、あぶない時に助けくれてありがとう」
 
「ハルくんいつも仲良くしてくれてありがとう」
 
「みんな大好き」
 
 涙を流して1人ずつに言葉をかけるヒナちゃんがとてもキレイに見えた。
 
「みんな、バイバイ」
 
 そう言って手を振るヒナちゃんにぼくは言った。
 
「ちがうよ!ヒナちゃん!」
 
「……えっ?」
 
「バイバイじゃない。またね!!」
 
「っ……!」
 
 そしてみんなでやり直した。
 
「「またね!」」

 それから、ヒナちゃんとお母さんはお父さんが運転する車に乗った。
 
 エンジンがかかって、ゆっくりと動き出す。

 近所のおばちゃんが静かに手を振って、引っ越し屋さんが「発進しまーす」って声をかけた。
 
 タイヤがアスファルトをきしませながら進み出すと、ヒナちゃんはずっと、笑顔で手を振っていた。

 ぼくたちも、バカみたいに手をふりつづけた。
 
 見えなくなるまで、声が届かなくなるまで、ずっと。

 「ヒナちゃーん!!!」
 
 思いきり叫んだ。

 喉がからっぽになるぐらい。
 
 でも、あの笑顔が、ぜんぶに返してくれた気がした。

 今にも泣き出しそうな空の下で、ぼくは笑っていた。
 
 ヒナちゃんのために。
 
 そして、ぼく自身のために。

 夕方になって、家の中がしんとしてきたころ。
 
 ぼくは、リビングで、ヒナちゃんからもらった封筒をじっと見つめていた。

 封筒は、薄い水色で、小さな花のシールがひとつ貼ってあった。
 
 花のシールを見てるとあの日の舟に描いた“花と龍”。

 そして、あの時のヒナちゃんの笑顔が、ぼくの中によみがえる。

 そっと封を切って、中の手紙を取り出した。
 
 便せんには、ちょっとだけ丸文字気味の、ヒナちゃんの字。

『ハルくんへ』

 この夏が、わたしの一生の宝物になりました。
 
 毎日がすっごく楽しくて、うれしくて、ちょっとくるしくて。
 
 ぜんぶぜんぶ、わすれたくない思い出です。

 ハルくんのことが好きって言えた自分を、ちょっとだけ好きになれた。
 
 それも、ハルくんのおかげです。

 また会おうね。そのときは、“好き好き同士のままで”いられたらうれしいな。

 それまで、元気でね。
 
 ヒナより。

(あと、ちっちゃい絵を描いたよ。見てね)

 手紙の下には、鉛筆で描かれたひとつの絵。
 
 五人が乗っていた「五つ星フラワードラゴン号」。
 
 そして、みんなの胸にキラッと光っていた金色のピンバッジ──それが、ぼくとヒナちゃんの分だけ、星が2つ重なって描かれていた。

 ……ああ、ダメだ。

 顔がにやける。

 ぼくはクッションに顔をうずめて、むにゃむにゃと笑いながら転がった。
 
 「好き好き同士」とか、そんなワード、ある!?
 
 ……いや、あるんだ。ぼくらには。

 「ぼくも……大好きだよ。……またね、ヒナちゃん」

 その時、台所の方から呆れたような声が聞こえた。

 「なに気持ち悪い笑い方してんの」
 
 お母さんだった。

 「な、なんで!? 見ないでよ!!」

 「見られたくなかったら、自分の部屋でしなさいよ」
 
 そう、ここはリビング。
 
 お母さんの言う通りだった。

 でもまあ、いいか。
 
 この夏、たぶん、ぼくはちょっとだけ強くなれた。
 
 ちょっとだけ、かっこよくなれた……気がする。
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