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アリアンの苦悩
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深緑の髪の、天使のような美貌の小柄な少年が何やら気難しい顔で廊下を歩いていた。その表情ですら絵画の一枚絵のように様になっているから、遠目で見てる使用人は揃って黄色い声をあげていた。
「……今日は随分機嫌が悪いな」
「え……僕、そんなに酷い顔してました?」
「思いっきり顔に出てたぞ」
五英雄にして『疾風』のアリアンはフィドゥに指摘されて表情を整えようと自らの顔を揉みくちゃに捏ねた。
「今度はどんな変質者に遭遇したんだ?」
アリアンは生まれながらの美貌のせいか変質者に遭いやすい体質だった。しかも、彼は自分の美貌を鼻にかけない善良な心根の持ち主だ。変質者の方が勝手に恋に落ちて熱を上げてくるのだからどうしようもない。
「見知らぬ獣人に僕の糞尿分けてくれって……」
「予想の遥かをぶち抜いてきたな」
「その次に蒸れた足の裏の匂いが染みついた靴を良い値で買わせてくれって、金持ちの人に強請られ…」
「まだあるのか」
「なんだったらうんこを拭いた後の紙を欲しがる人もいるんですよ?」
「なんで出会う奴ら全員上級者ばかりなんだ?」
「それはこっちが聞きたいですよ!!」
ダンッ!とフィドゥの仕事机に思いっきり拳を叩き込んだ。
「アリアン。兄上の仕事の邪魔をしちゃいけないよ」
「シア様!?も、申し訳ありませんフィドゥ様……」
「先に声を掛けたのはオレの方だ。気にするな」
「私抜きで雑談なんて酷過ぎじゃないか?」
「あ、怒るのそっちなんだ」
「シア様は変質者とかに遭遇した事はありましたか?」
「私の血や髪の毛を欲しがる連中は沢山いたねぇ」
「血や髪の毛だけで満足してくれるなんて羨ましいです……」
「オレはどっちにツッコめばいい?」
シアの血や髪の毛は絶対触媒──だけとは言い難いが──として欲してるとしか思えないし、アリアンに関しては怖くて何も聞けなかった。
「でも兄上も昔、同じ人狼に精液くれって頼まれてなかったっけ?」
「フィドゥ様も充分凄い体験されてますね」
「あれはどっちかっていうと、配偶本能だろ」
「配偶本能?」
「人狼は優れた能力同士を掛け合わせてより強力な人狼を生もうっていう本能があるんだ。オレはその完成系に近かったから身内の誰かと配合させて優秀な人狼作りたかったんだろ」
アリアンとシアは、はぁ……と感嘆の息をもらす。
フィドゥにこんな秘密があったなんて初めて知った。確かに彼は獣人族の中でもかなり頭が良い。
シアが優秀すぎるせいで周りから良く比べられるが、書類仕事は完璧だし計算ミスもほぼない。記憶力もかなり良い。おまけに今の政策に不満を抱く貴族はあれど平民はほとんどいない。
フィドゥを傀儡にしようと彼を支持していたかつての貴族達は、計画が大きく狂ってしまった事にきっと歯噛みしたに違いない。
「でも総合的に考えるとやっぱりアリアンは異常だよねぇ…」
「レペティアにも相談した事ありましたけど、生まれつきの性質とか体質はどうにも出来ないと言われました……」
「難儀だな……」
「難儀といえば、オルディンも良く周りからセクハラ受けてるんですよね。本人は自覚無いみたいだけど……」
「しっかりしてくれよ五英雄」
フィドゥは深いため息を吐いて、机に突っ伏したのだった。
今の会話を他の三人が聞いていたらきっとこう言っていただろう。
真に遺憾だ──と。
「……今日は随分機嫌が悪いな」
「え……僕、そんなに酷い顔してました?」
「思いっきり顔に出てたぞ」
五英雄にして『疾風』のアリアンはフィドゥに指摘されて表情を整えようと自らの顔を揉みくちゃに捏ねた。
「今度はどんな変質者に遭遇したんだ?」
アリアンは生まれながらの美貌のせいか変質者に遭いやすい体質だった。しかも、彼は自分の美貌を鼻にかけない善良な心根の持ち主だ。変質者の方が勝手に恋に落ちて熱を上げてくるのだからどうしようもない。
「見知らぬ獣人に僕の糞尿分けてくれって……」
「予想の遥かをぶち抜いてきたな」
「その次に蒸れた足の裏の匂いが染みついた靴を良い値で買わせてくれって、金持ちの人に強請られ…」
「まだあるのか」
「なんだったらうんこを拭いた後の紙を欲しがる人もいるんですよ?」
「なんで出会う奴ら全員上級者ばかりなんだ?」
「それはこっちが聞きたいですよ!!」
ダンッ!とフィドゥの仕事机に思いっきり拳を叩き込んだ。
「アリアン。兄上の仕事の邪魔をしちゃいけないよ」
「シア様!?も、申し訳ありませんフィドゥ様……」
「先に声を掛けたのはオレの方だ。気にするな」
「私抜きで雑談なんて酷過ぎじゃないか?」
「あ、怒るのそっちなんだ」
「シア様は変質者とかに遭遇した事はありましたか?」
「私の血や髪の毛を欲しがる連中は沢山いたねぇ」
「血や髪の毛だけで満足してくれるなんて羨ましいです……」
「オレはどっちにツッコめばいい?」
シアの血や髪の毛は絶対触媒──だけとは言い難いが──として欲してるとしか思えないし、アリアンに関しては怖くて何も聞けなかった。
「でも兄上も昔、同じ人狼に精液くれって頼まれてなかったっけ?」
「フィドゥ様も充分凄い体験されてますね」
「あれはどっちかっていうと、配偶本能だろ」
「配偶本能?」
「人狼は優れた能力同士を掛け合わせてより強力な人狼を生もうっていう本能があるんだ。オレはその完成系に近かったから身内の誰かと配合させて優秀な人狼作りたかったんだろ」
アリアンとシアは、はぁ……と感嘆の息をもらす。
フィドゥにこんな秘密があったなんて初めて知った。確かに彼は獣人族の中でもかなり頭が良い。
シアが優秀すぎるせいで周りから良く比べられるが、書類仕事は完璧だし計算ミスもほぼない。記憶力もかなり良い。おまけに今の政策に不満を抱く貴族はあれど平民はほとんどいない。
フィドゥを傀儡にしようと彼を支持していたかつての貴族達は、計画が大きく狂ってしまった事にきっと歯噛みしたに違いない。
「でも総合的に考えるとやっぱりアリアンは異常だよねぇ…」
「レペティアにも相談した事ありましたけど、生まれつきの性質とか体質はどうにも出来ないと言われました……」
「難儀だな……」
「難儀といえば、オルディンも良く周りからセクハラ受けてるんですよね。本人は自覚無いみたいだけど……」
「しっかりしてくれよ五英雄」
フィドゥは深いため息を吐いて、机に突っ伏したのだった。
今の会話を他の三人が聞いていたらきっとこう言っていただろう。
真に遺憾だ──と。
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