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第二章 商隊(キャラバン)
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ドーランの姪にして、フウラの一人娘であるメロが再び店にやってきた頃には全てが終わっていた。
「――エラが連れていかれた? ……ねえ、どういうことかちゃんと説明してよ。ママ、伯父さん!!」
メロは悲痛な声で叫ぶ。
三ヶ月前、行方不明だった仲間を見つけて別の区に移動する準備を整えている最中の出来事。吉報は一瞬にして凶報へと変化した。
「お、落ち着きなさい、メロ。フウラもお義兄さんも顔が真っ青じゃないか……」
そう、心配そうな四十代の男性、ユーリオがメロを宥めては衰弱しきった二人に気を遣うように発する。
しかし、彼女は納得していない様子で。
「パパ……でも、でも! アタシ、エラに約束したんだもん。戻ったら説教するって。なのに、どうしてママと伯父さんと一緒に来てないの⁉ それにここの領主に連れて行かれたって、何……⁉」
「メロちゃん……。気持ちは分かるけど、頭領たちを責めても仕方ないよ」
「分かってる。分かってるよ、ベン……そんなこと、アタシが一番……でも、さ!」
メロの瞳に涙が浮かぶ。
無力な自身が悔しくて、何も出来なかった母親と伯父に八つ当たりするのがどんなに情けないことか頭では理解しているつもりだった。
少数派の商隊『山楂子の杭』とは、所謂ほぼ血縁者だけの小さな商隊である。
相談役のフウラとユーリオの娘にして、勝ち気な女性のメロ。
数年前に入った、血縁の関係は無いが働き者の青年ベンジャミン。
彼らのリーダーにして二代目の頭領、ドーラン。
そして『山楂子の杭』の初代頭領にしてドーランとフウラの父――カルロ。
「して、今回の件で神隠しの正体に目処が立った、というところじゃの」
瞳を細めて、カルロは堂々と宣言をする。
「っ、神隠しの正体……! お祖父ちゃん、それってスティング領の領主アッシュってこと?」
「ああ。ドーランたちの話を耳に傾けただけの推測じゃが、おおよそ妥当だろう」
「じゃ、じゃあ! そいつの場所を探し当てて問い詰めれば」
「メロ、口では簡単に言うのは可能だが相手は地区を統べる領主様だ。住民を含めて、場所なんて簡単に吐いてくれるわけ……」
「――わかりますよ、ユーリオさん。彼が根城としている場所」
絶望的な状況。そんな中、希望の光を射したのは普段から真面目な好青年ベンジャミンだった。
その救済に先まで灰になっていたドーランが彼の両肩に肩を置きながら食いつく。
「本当か、ベンジャミン! 領主殿の……アッシュの居場所をお前が知っているというのは!」
「は、はい……。あ、あの頭領……痛い、です」
「あ、すまない」
感激と先程までの無念が交差し、力任せになっていた握力をドーランは緩める。
「早速だがアッシュの居場所を教えてくれ」
「お、お義兄さん⁉ 確かに、エラ君を一刻も早く助けたい気持ちは痛いほど分かりますが……」
「ユーリオの言う通りです。もう少し、慎重に行動をなされては如何ですか。もしも、頭領の身に何かあったら誰がこの商隊を担って」
「大丈夫だよ! だって、戦闘になってもドーラン伯父さんが負けるはずないもん。パパもママも心配しすぎだよ。ね、ベンもそう思うでしょ?」
「えっ……ど、どうだろう……?」
おどおど、と青年は目を泳がせる。
「もう、そこは自分もそう思うって言ってくれればいいのにー」
「ハッハッハッ! 姪からの信頼がこんなにも厚いと嬉しいものだな。大丈夫だ、フウラにユーリオ。ただ少し、領主殿と話を付けてくるだけさ」
「ですが……」
楽観的な娘や兄とは対照的な現実主義者のフウラとユーリオ夫婦。彼女らやりとりに見兼ねたカルロは呟くように宣言した。
「行かせてやりなさい。フウラ、お前さんの兄貴が頑固者だというのは昔から知っておるじゃろう? 儂も行く。心配ならお前さんたちも付いてこい」
「……わかりました。初代がそう仰るなら。ユーリオも、それでいいわよね?」
「ああ、君がそう決めたのなら従うよ」
「よーし、じゃあ皆で『行く』ことに決まったことだし。ベン、さっさとアッシュの居場所を教えて――」
「待て。お主ら、若人は残るのじゃ」
カルロはメロとベンジャミンに命を与える。
視線を睨むようにして、有無を言わせないように。
「な、何で……? ママとパパはいいのに、どうしてアタシとベンはダメなの? エラだってこの商隊にとって必要な存在なのに。どうして、お祖父ちゃんは……」
「もしも、の為じゃ。……ジジイの勘が言っておる。キナ臭くて嫌な予感がする、と」
「……メロ、悪いが親父のこういう勘はちゃんと的中することが多い。息子を大事に思ってくれる気持ちは嬉しいが、言うことを聞いてくれないか」
暫しの果て、不貞腐れる彼女だったが両親の説得も介入して渋々承諾する。
「――分かった。けど、時間が掛かったら、アタシもベンを連れて行くから」
十六の少女の誓いを胸に、彼らはベンジャミンの案内により森へと向かっていく。
しかし全員、数日経っても二度と戻ってくることはなかった。――生存という当たり前の形では。
そして、その出来事はメロ=ラプスを絶望の淵へと落とす結果になる。
彼らは確かに帰宅した。血液を全て抜かれた、屍となって……怒りに身を震えた少女は嘘の情報を吐いたベンジャミンを殺害後、深い森へと自身で死を招いた。
白い花束を真っ赤に染めて。
「――エラが連れていかれた? ……ねえ、どういうことかちゃんと説明してよ。ママ、伯父さん!!」
メロは悲痛な声で叫ぶ。
三ヶ月前、行方不明だった仲間を見つけて別の区に移動する準備を整えている最中の出来事。吉報は一瞬にして凶報へと変化した。
「お、落ち着きなさい、メロ。フウラもお義兄さんも顔が真っ青じゃないか……」
そう、心配そうな四十代の男性、ユーリオがメロを宥めては衰弱しきった二人に気を遣うように発する。
しかし、彼女は納得していない様子で。
「パパ……でも、でも! アタシ、エラに約束したんだもん。戻ったら説教するって。なのに、どうしてママと伯父さんと一緒に来てないの⁉ それにここの領主に連れて行かれたって、何……⁉」
「メロちゃん……。気持ちは分かるけど、頭領たちを責めても仕方ないよ」
「分かってる。分かってるよ、ベン……そんなこと、アタシが一番……でも、さ!」
メロの瞳に涙が浮かぶ。
無力な自身が悔しくて、何も出来なかった母親と伯父に八つ当たりするのがどんなに情けないことか頭では理解しているつもりだった。
少数派の商隊『山楂子の杭』とは、所謂ほぼ血縁者だけの小さな商隊である。
相談役のフウラとユーリオの娘にして、勝ち気な女性のメロ。
数年前に入った、血縁の関係は無いが働き者の青年ベンジャミン。
彼らのリーダーにして二代目の頭領、ドーラン。
そして『山楂子の杭』の初代頭領にしてドーランとフウラの父――カルロ。
「して、今回の件で神隠しの正体に目処が立った、というところじゃの」
瞳を細めて、カルロは堂々と宣言をする。
「っ、神隠しの正体……! お祖父ちゃん、それってスティング領の領主アッシュってこと?」
「ああ。ドーランたちの話を耳に傾けただけの推測じゃが、おおよそ妥当だろう」
「じゃ、じゃあ! そいつの場所を探し当てて問い詰めれば」
「メロ、口では簡単に言うのは可能だが相手は地区を統べる領主様だ。住民を含めて、場所なんて簡単に吐いてくれるわけ……」
「――わかりますよ、ユーリオさん。彼が根城としている場所」
絶望的な状況。そんな中、希望の光を射したのは普段から真面目な好青年ベンジャミンだった。
その救済に先まで灰になっていたドーランが彼の両肩に肩を置きながら食いつく。
「本当か、ベンジャミン! 領主殿の……アッシュの居場所をお前が知っているというのは!」
「は、はい……。あ、あの頭領……痛い、です」
「あ、すまない」
感激と先程までの無念が交差し、力任せになっていた握力をドーランは緩める。
「早速だがアッシュの居場所を教えてくれ」
「お、お義兄さん⁉ 確かに、エラ君を一刻も早く助けたい気持ちは痛いほど分かりますが……」
「ユーリオの言う通りです。もう少し、慎重に行動をなされては如何ですか。もしも、頭領の身に何かあったら誰がこの商隊を担って」
「大丈夫だよ! だって、戦闘になってもドーラン伯父さんが負けるはずないもん。パパもママも心配しすぎだよ。ね、ベンもそう思うでしょ?」
「えっ……ど、どうだろう……?」
おどおど、と青年は目を泳がせる。
「もう、そこは自分もそう思うって言ってくれればいいのにー」
「ハッハッハッ! 姪からの信頼がこんなにも厚いと嬉しいものだな。大丈夫だ、フウラにユーリオ。ただ少し、領主殿と話を付けてくるだけさ」
「ですが……」
楽観的な娘や兄とは対照的な現実主義者のフウラとユーリオ夫婦。彼女らやりとりに見兼ねたカルロは呟くように宣言した。
「行かせてやりなさい。フウラ、お前さんの兄貴が頑固者だというのは昔から知っておるじゃろう? 儂も行く。心配ならお前さんたちも付いてこい」
「……わかりました。初代がそう仰るなら。ユーリオも、それでいいわよね?」
「ああ、君がそう決めたのなら従うよ」
「よーし、じゃあ皆で『行く』ことに決まったことだし。ベン、さっさとアッシュの居場所を教えて――」
「待て。お主ら、若人は残るのじゃ」
カルロはメロとベンジャミンに命を与える。
視線を睨むようにして、有無を言わせないように。
「な、何で……? ママとパパはいいのに、どうしてアタシとベンはダメなの? エラだってこの商隊にとって必要な存在なのに。どうして、お祖父ちゃんは……」
「もしも、の為じゃ。……ジジイの勘が言っておる。キナ臭くて嫌な予感がする、と」
「……メロ、悪いが親父のこういう勘はちゃんと的中することが多い。息子を大事に思ってくれる気持ちは嬉しいが、言うことを聞いてくれないか」
暫しの果て、不貞腐れる彼女だったが両親の説得も介入して渋々承諾する。
「――分かった。けど、時間が掛かったら、アタシもベンを連れて行くから」
十六の少女の誓いを胸に、彼らはベンジャミンの案内により森へと向かっていく。
しかし全員、数日経っても二度と戻ってくることはなかった。――生存という当たり前の形では。
そして、その出来事はメロ=ラプスを絶望の淵へと落とす結果になる。
彼らは確かに帰宅した。血液を全て抜かれた、屍となって……怒りに身を震えた少女は嘘の情報を吐いたベンジャミンを殺害後、深い森へと自身で死を招いた。
白い花束を真っ赤に染めて。
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