ちゆりさん、俺じゃダメですか?

おおいししおり

文字の大きさ
5 / 14
第二話 絡み合った想い

2-1

しおりを挟む
 ふと、問題が起きた。
 ちゆりさんと二人で逢う約束が出来たのはいい。しかし、連絡先を知らないのは誤算というか、大問題である。

「いや、自分の思考に穴抜けがあったのは認めるよ。だけど、どうしよ……」

 自身を間抜けだと認めたくない。けど知らないのは事実であって。



「……ヒロ兄に訊くのは、なぁ」

 思い付く限りの一番手っ取り早い解決策。
 と、同時に無神経にも程がある。遠慮はしないと決めたが、最低限の節度というか常識は守りたい。


 明くる日、部活を終えた放課後。俺は参考書を購入する名目で本屋へと訪れていた。微かに流るるバックミュージックが悩みに近しい思考をさらに掻き立てる。

「ネットを駆使して相互関係に……って、それは怪しまれるっていうか」

 回りくどい。知り合いなのに、ネットを介するほど関係は薄くないし……そもそもアカウントを捜索することから始めないと。

「詰んだ、かな」

 早々、結論に終止符。
 どの案も微妙かつ、現実的ではない上に下手したら犯罪的。それこそ、ただの中学生が可能な範囲だって限度がある。

 あーあ、たまたま何かの拍子に出逢ってしまうドラマみたいな展開があるわけ――。


「あれ、智也くん?」
「えっ」

 角から女性の声音と、ゆるふわの茶髪を持つ見覚えのある人物が現れる。それはまさに、たった今、難題を抱いていた中心者。

「……ちゆりさん?」

 天崎ちゆり、その人だった。

「ふふっ、昨日に引き続き偶然だねー。何だか嬉しいなぁ」

 柔らかく、綻ぶ笑み。心からそう思っているであろう、言葉の優しさにこちらも自然な笑顔が浮かぶ。
 それでも薄めのメイクでは落とせないのか、目元のクマがあったのを見逃せなかった。

「本当に、偶然って重なりますね」
「うんうん。公園に引き続き、まさか本屋さんでも。何か買いに来たの? あ、ここのコーナーって」

 キョロキョロと見渡す。
 本屋なので当然、大量の紙束が本棚に収納されているわけだが。手に持っていたものを隠さずに見せた、堂々と。

「参考書です。一応、来年は受験生になるので早めに買っておこうかな、と」
「へぇ、凄いね! わたしなんて、高校の受験は中三の夏くらいに勉強をし始めたのにー」
「あはは。少しでも志望校の合格ラインを上げたいためですから」

 褒めて貰えるのは素直に嬉しい。
 成績は中の上くらいだけど、今から頑張れば上位だって夢じゃない。そしたら彼女ももっと褒めて……なんて、さすがにそれは夢見がちだろうか。

「ところで、ちゆりさんはどうして本屋に?」

 とりあえず、会話は続けたいので無難なところを話題に出してみる。……ヒロ兄の話は、きっと避けた方がいいよね。

「え、ええっと。わたしも、まあ、ある意味では参考書、を買うためかな?」

 歯切れが悪い。それもそのはず。


「『男女関係を良好に導きたいならこれを読め! 女性向けの恋愛雑学辞典』」

「ううっ、そんなハキハキとタイトル読まないでよー」
「男性の隠れた本音とマル秘テクニック、教えちゃいます」

「ちょっと‼」

 怒った。母さんと比べるまでもなく、全然怖くない……じゃない!

 マズい、早々にフラグを回収してしまった。

「もぉ、酷いよー」
「すみません、つい」

 可愛かったもので、と頬を膨らませている彼女に耽ってる場合じゃない。というか、連絡先聞くチャンス!

「あの、ちゆりさん。もしお時間がありそうならお茶、しませんか」

 どこかで覚えた誘い文句。ちょっとクサい気がするけど背に腹は代えられない。
 問うて、すぐにパッと笑顔が舞う。

「いいね! じゃあ、先にお会計を済ませちゃおうか。何かお勧めのお店ある?」
「はい! 実は近くのお店で気になっているところがあって――」


 任務完了。
 第一段階として、カフェに誘うことは成功した。あとは連絡先を聞いて話を盛り上げて、と。

 恐らくまだ恋愛対象として見られてはいない。それは、捉え方を変えれば全身あるのみということ。

 さあ、俺の戦いはここから……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...