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第二章 オーナー就任んん!!??

4.試合を観戦してみる(試合開始前)

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 戦術とフォーメーションを変更し、これで出来る事は無くなったはずだ。

 細かい事を言えば試合中の選手変更や攻撃・守備のバランス、セットプレー時のキッカーなども指示できるがこのあたりは今回は特に触らない事にした。チュートリアルでそこまで変更する方がいいと思えなかったからだ。

 少なからず不安点はあるものの、まぁこのあたりが妥当なのかもしれない。

「よし、これで行くか」

 一番最初の画面に戻り、右下にある【試合観戦】のボタンを押す。するとピロン♪と音が鳴ってポップアップが出てきた。
 なになに、【試合を観戦】【ダイジェストで見る】【結果を見る】の3つか。

 恐らく【試合を観戦】はフルで全て見られるんだろう。【ダイジェストで見る】はチャンスやゴールシーンの時だけだな。【結果を見る】は文字そのままだな。

 ここは【試合を観戦】一択だろう。ゲームーオーバーするかどうかの試合で他の2つはリスクが高すぎる。まぁ、俺が何か出来るとも思えないけどさ。

「では、【試合を観戦】をポチッとな」

 そして俺はこれまた慣れたようにスッと意識を失った。


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 まるでテレビの前で試合を見ているかのようだった。

 てっきりスタンド、もしくは専用席などに座って見るものだとばかり思っていたのでこれはちょっと予想外だ。

『実況は田島、解説は毎度お馴染みの谷塚さんでお送りします。本日JFL最終節ですが、さて谷塚さん、今日のパラディス一ノ瀬は…』

 今俺はどこにいるんだろうか。どこかのテレビ局の中継を見ているかのように感じるが意識があるわけではない。直接頭に中継と実況が入り込んできているかのようだ。なんだろう、物凄く気味が悪い。自分がどこにいるのかも掴めないのに中継カメラの映像が目の前に映し出され、スピーカーなどがあるわけでもないのに実況が聞こえてくる。

 身体の自由も全くきかない。そもそも見えていないのだから動いているかどうかの判断さえつかない。必死に両手を動かして自分の身体や頭を触ろうとしても、触れる感覚もなければ両手が動いている感覚も無い。
 物凄く気持ち悪かったが、どうしようもないのだろうと諦める事にした。俺は諦めがいい方なのだ。そうでもなければあのコンクリートジャングルを生き抜く事は出来なかったはずだ。たぶん。

『パラディス一ノ瀬、注目選手はやはり9番!稲垣選手でしょうか?』
『そうですね。パラディスのゴールマシーンですし今節は初めてのキャプテンマークを付けての出場という事で、気合も入っていることでしょう。』

 おお、稲垣がゴールマシーンと呼ばれている!やはりスキルを持っていると違うものなんだな。これは期待出来そうだ。

『しかしパラディスはかなり勝負に出ましたね』
『と、いいますと…?』

 うん、勝負に出た?いやそんなつもりはなかったんですけど。ってか実況と解説ってこんなに流動的に話してくれるものだったっけ?
 もっとシステマチックな実況解説しかしてくれなかったイメージなんだけど。

『システム、戦術、キャプテンを変えてきましたからね。最終節でこれだけガラッと変えてくるのは中々見れない事ですよ』
『確かに今節のパラディスは大幅に作戦を変更してきています。谷塚さん、これはどういった心境なのでしょうか?』

『システムと戦術については何とも言えませんね。ハマれば強い、というところでしょうか。ただ、一番気になるのはキャプテンの変更だと私は見ています。』
『キャプテンの変更…ですか?稲垣選手は確かに公式戦では初めてのキャプテンマークを巻いて出場ですが』

『はい、はっきりと申し上げるとこれは賭けに近いかと見ています。私は実は稲垣選手が非公式試合でキャプテンマークを巻いた時に観戦しているんですよ。その際は正直に言って中々にひどかったな、と』

 え、ちょちょっと、え?そうなの?稲垣そんなにひどいの?

『ほう、なるほどそれは面白い情報ですね。谷塚さんその時の状況をもう少し教えて頂けますか?』
『はい、あれは稲垣選手がパラディスに入団して半年ほど、今から1年半ほど前でしょうか。現在のキャプテンを務める前原選手が入団する前の話ですね。』

 前原…、あ、あの弱っちいDFの事か。確かにあの選手の在籍は1年半くらいだったな。

『当時のパラディスには特筆したキャプテンシーを持った選手はいませんでした。持ち回り、とまでは言いませんが複数の選手が試合ごとにキャプテンマークを巻いて出場していたのです。そしてたまたまなのかもしくは一度お試しの感覚だったのかは不明ですが今まで巻いたことの無かった稲垣選手がキャプテンマークを巻いて出場したのです』

 やだ、なんか嫌な予感がするじゃないですか。あ、画面?の向こうでは審判と選手の入場が始まっていた。

『それまでも毎節出場していた稲垣選手ですがキャプテンマークだけは巻いた事が無かったんですね。非公式だというのもあったんでしょうか。カメラ越しでも稲垣選手の気合が入った顔が良く見えましたよ』

 はい、今もカメラ越しでもめちゃくちゃ気合が入っているであろう稲垣選手が見えます。初めて実物を見たけど左腕に巻いた赤いキャプテンマークをしきりに触ってニヤニヤしてます、はい。入場の時に選手は地元のちびっこ達と手を繋ぎながら入場するのが普通なのだが、稲垣だけは左腕のキャプテンマークを触るのに右手を動かすので隣のちびっこが困っているのがよく見えます。

 …やべ、めちゃくちゃ冷や汗出てきたわ。

『キックオフ前の円陣が非常に長くてですね、相手チームはもう円陣を解いて待っているんですけどそれでもパラディスは円陣が終わらないんですね。そして3分ほど経ったでしょうか、いよいよ業を煮やした審判から注意されてやっと異例の円陣が終わったんです』
『3分ですか!それは確かに異例ですね!しかし稲垣選手は円陣の際に何をそこまで各選手たちに伝えていたんでしょうか?』
『さぁ、さすがにそこまでは分かりませんでした。ただ、今から試合が始まるにも関わらず選手たちの顔が疲れて見えたのが印象に残っていますね』
『なるほど…それは非常に面白い情報ですね…。ちなみにその試合の結果はいかがだったんでしょうか?』
『0-4でパラディスの敗北でした。対戦相手は同じリーグのチームでしたから惨敗と言えるかもしれません。それ以降、稲垣選手がキャプテンマークを巻いた試合は公式非公式ともにゼロです。』

 画面の向こうでは試合前の細々としたセレモニーが終わり、各チームの円陣が終わったらいよいよ試合開始だ。
 ただ気になるのは先程の解説が言っていた内容と同じ事が今、起きているという事だ。
 
 同リーグのチームとの試合で非公式とはいえ0-4は中々の惨敗だ。野球などと違ってサッカーには一発などは早々出ない。点差が広がった試合というのは結果の数字以上に差が付いている事がよくある。

 とっくに円陣が解かれている対戦相手を放って、未だに続くパラディス一ノ瀬の円陣。
 何を話しているのかめちゃくちゃ気になる。確かにこれは長いわ。
 あ、審判が注意した。一人の選手が審判と近くにいた相手チームの選手に頭を下げている。相手チームの選手は頭を下げた選手の肩を軽くぽんぽん、と叩き何かを耳元で呟いて自陣へと戻っていった。何かを言われた途端に憤怒の表情に変わる自チームの選手。
 一体何を言われたんだろうか…。



 やっと全選手が所定の位置に付き、試合開始の合図であるホイッスルが吹かれる。中央のフィールドで蹴りだされるボール。

 一体どんな試合になるのか、俺は漠然とした不安を感じつつ、試合観戦に没入するのだった。


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サッカー知識は適当なのであんまり突っ込まないでくらはい。
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