美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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始まり

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「サキ、起きているか?」

 トントンと軽くドアをノックする音でぼんやり目が覚める。
 わっ!!今何時!?
 遅刻だと焦り飛び上がるように起きたが、いつもと違う部屋の景色を見て昨晩のことを思い出す。
 ……夢じゃなかったんだ……。
 外で待たせているので一言断り、急いで準備する。準備と言っても髪を少し整えたくらいだが。
 メイクの道具も一切持っていないので、恥ずかしいがすっぴんで行くしか無かった。
 扉を開けるとミスカさんがいた。昨日は暗くてあまり分からなかったが髪は黒ではなく灰色で、澄んだ水色の瞳が綺麗だった。
 彼はとても背が高いので見上げる形になる。

「おはようございます。遅くなってすみません」
「構わな……君、下……」

 下……あ、ズボン履いてないこと?

「服をお借りしたんですけどズボンは大きかったので……。履いた方がいいですか?」
「あ、ああ。出来れば……」

 だいぶ不格好だが仕方がないのでなんとか持参のベルトで締め、裾は何回か折った。

「お待たせしました」

 なんでかちょっと赤くなっているミスカさんに連れられて廊下の奥にある部屋に入ると、ハインツさんとリュークさんがいた。
 そこは執務室のようで作業台が奥にあり、手前にはローテーブルを挟むようにソファーが二台置かれている。他にも家具はいくつか置かれているが装飾品はなく味気ないというか……シンプルな部屋だった。
 私が来たのに気づいて二人がこちらを向く。
 明るいところで見るとやっぱり皆すごい美形だ。この有り得ない美しさを前にして、ここは異世界なのだと不本意ながら確信した。

「おはよう、サキ。早くに呼び出してしまってすまない。昨日はよく眠れた?」
「おはようございます。はい、お陰様で」

 ハインツさんの昨日と変わらない優しげな茶色の瞳にホッとする。

「リュークさんもおはようございます」

 そう言いリュークさんを見ると、しっかり目が合った。髪と同じ金色の瞳はぱっちり開いていて少し可愛らしい雰囲気もある。

「お、おはよう!元気そうで良かった!」

 ちょっと驚いたように返してくれる。何かミスカさんとコソコソ話しているのが気になるけど。
 向かいあわせのソファーに促され、ハインツさんの正面に座る。二人はハインツさんの後ろに立っていた。

「さて、早速だが話を聞いてもいいかな」
「……はい」

 私は分かることは全部話した。気づいたら森にいて、狼がいて……ひたすらに走って逃げてきた。

「最近狼が町でも目撃されてて、昨日はちょうど森を見回りしていたとこだったんだ」

 リュークさんがそう話すのを聞いて少し身震いする。運良く三人に見つけてもらえたけど、もしかしたらまだ森を彷徨っていたかもしれない。

「ここは私のいた場所と全然違うところなんです。異世界っていうか」
「確かに名前も変わっているし、容姿も……そうだな。本当に違う世界から来たというのか……にわかには信じ難いが」

 私、帰れないのかな……これからどうすれば……。
 不安そうな私を見て、ハインツさんも同情するように声をかけてくれる。

「……君は二十歳くらいだろう?君の世界にいる夫たちもきっと探している。何か連絡手段でもあればいいんだが」
「そうで……ん?」

 待って、今なんて?

「あの、私まだ結婚していませんが」
「「「え!?」」」

 三人同時に声をあげて驚かれたが、もっと驚いているのは私のほうだ。

「夫たちって……どういうこと!?」

 詳しく話を聞いていくと、この世界のことが何となく理解できた。
 まず、この世界では女性の数が少なくて比率でいうと男女七対三くらい。そのため多くの国で一妻多夫制となっており、大概の女性は十八歳になる頃には一人二人と結婚しているらしい。
 こっちだとそれが当たり前だから私にも「夫たち」と言ったのか……。
 ちなみに夫の数は上限などはなく、多いと八人いる場合もあるらしい。ここにきてのトンデモ設定に混乱したが、私には結婚なんて縁遠いのであまり深く考えるのはやめた。

「サキの世界はこちらとは随分違うんだな……」
「え、ええ。とりあえず私は夫とか彼氏とかはいないので、それに関しては大丈夫です」

 色々話して事情は分かってもらえたみたいだけど……ここからどうしよう……。
 この三人は「黒騎士団」に所属していると言っていたけど、日本で言う警察のようなものだろうか。
 しかし昨日ちょうど居合わせて保護してくれたからといって、いつまでも私の面倒を見てもらえるわけではないだろう。
 バッグも落として来てしまったし、この世界のお金なんてそもそも持っていない。
 保護施設のような場所に送られるのか……また路頭に迷って狼に襲われたら……そうグルグル考えて、思い切って口に出してみる。

「あの……私をここに置いて頂けないでしょうか!」
「え!?」「は!?」「へ!?」
「助けていただいたうえにおこがましいとは思いますが、家事でもお手伝いでも何でもしますので!お願いします!」

 私は三人に勢いよく頭を下げる。
 こんなこと頼むなんて失礼に決まってる。嫌な顔されるのも分かってる。
 でも、何も分からない世界で一人になるのは怖かった。出会ったばかりだけど、この人たちは悪い人じゃないって何故だかそう感じた。

「……」

 なかなか返事がない。
 恐る恐る顔を上げて見ると彼らはポカンと呆気に取られていて、私の顔を見て、お互いの顔を見て、ようやくハインツさんが戸惑いながら口を開いた。

「ゴホン、えっと、私としては駄目だとかではなくて、女性に家事にさせるのは良くないが」
「こ、ここにいてくれるの!?いいの!?」
「……リュークはちょっと黙ってろ。君がそう望むのであれば仕事などしなくてもここにいていいし頼ってくれて構わない。しかし……サキは嫌じゃないのかい?」
「何がですか?」
「私たちは……怖いだろう?こんな見目だし、ここの騎士団は他の皆もそうだ。君が気を使って私たちに何も言わないでいてくれているのは分かっている」

 え、こんな見目?どういうことだろう。

「皆さんとてもカッコいいと思いますが」

 出会った時から思っていたことを素直に言う。

「え……」
「優しすぎる……」
「そんな無理しなくていい」

 なんか反応おかしくない?自分たちのこと卑下しすぎっていうか。

「……皆さんの思うカッコいい人とかってどういう感じでしょうか?」

 ちょっと試しに聞いてみる。

「そりゃ背が低くて太ってて」

 ん?

「まるっとした感じの人だよね、鼻も低くて目も細い……」

 リュークさんの説明に、私は頭に疑問符が浮かび戸惑う。
 冗談……では無さそう……。つまり彼らとは正反対の容姿が好まれるってこと……?
 
「あ、ちょうどこんな感じかな」

 リュークさんが作業台にあった新聞のようなものを見せてくれる。そこには一人の男性のリアルなイラストが載っていた。
 嘘でしょ!?
 全体的に脂肪のついたまん丸フェイス、頬肉に潰された細い目、大きな豚鼻、分厚い唇。
 これが……イケメン……少なくとも私の好みでは無い。
 なんとも言えず間抜けな顔をしている私の横でミスカさんとリュークさんが話している。

「最近表彰か何かされた赤騎士団の奴か」
「実際はろくに仕事出来てなくても……いや、こう絵に描くとやっぱ様になるよね。もしかしなくても一目惚れしちゃったんじゃない……?」

 そんなことは全くしていないのですけど……。
 しかしハインツさんも考え込むように二人に頷く。

「赤騎士団か……事情を話せば受け入れてくれるかもしれない」
「えっ」

 そのイケメンの居る所に!?
 
「せめて見目が良い人が居れば彼女も少しは安心して過ごせるだろう。彼らも女性を無下にはしないしだろうし」
「そうですね……俺たちのとこよりは……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

 どんなイケメンが居たとしても、それだけの理由で行きたいとは思わない。

「大丈夫。これからどうしたいか君が決めていい、私たちが出来る限りサポートする。無理にここにいる必要はないんだよ」

 少し悲しそうな表情でハインツさんは言う。
 その表情の意味は分からなかったが、言葉の一つ一つが私を不安にさせないよう想ってかけてくれたものだと分かる。
 見た目とか関係なく三人の優しさに触れて、異世界という知らない場所で一緒に居るのは彼らがいいと、純粋にそう思った。

「ここに、居たいです」
「!……そうか、分かった。ではこれからよろしく、サキ」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 こうして、私の黒騎士団での生活が始まった。
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