美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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サキとの出会い(リューク)

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 昔から女性と話すのが苦手だった。
 直接手を出してくる男と違って、無視されたりどこか棘を含むような言い方をされたり。
 優しい母は容姿が醜くても気にせず俺を愛してくれてそれは唯一の救いだったのだが、幼い頃は虐められる度に泣くほど辛くて悲しかった。
 数が少ない女性のほうが優位な世の中で言い返す事もできず、お付き合いだとか結婚なんて望むだけ無駄だと当たり前のように諦めきっていた。

 サキに出会うまでは。

 初めて会ったあの夜、彼女は口には一切出さなかったが凄く不安だったのだと思う。ミスカにおぶられながら流した自分の涙に気づいた時のサキの苦しそうな顔を見たら思わず手が伸びていた。
 初めて触れた女の子の背中は小さくて、力を入れたら壊れてしまいそうだった。

 次の朝、ミスカがサキを連れてくるまで昨日の出来事が信じられなかった。一晩中寝ずにぐるぐる考えていたものだから、現実か妄想か区別がついていなかった。
 サキの姿を確認して、自分の頭がまだヤバくなっていないことに安堵する。
 可愛い子は何着ても可愛いもんだなー、なんて思いながら顔のほうをチラッと見ると、昨日別れた時の目元の赤みは消えていた。
 そのことにまた安堵していると、急にサキがこちらを振り返った。

「リュークさんもおはようございます」

 ………えっっ!!かわいっ!!
 微笑みが可愛すぎる、一瞬心臓止まった。
 てか、名前…覚えてくれてたんだ……。

 ちょっとどもってしまったが何とか返事をし、隣にいたミスカをつつく。

「い、今の聞いた?俺の名前、覚えてくれてるとか……わざわざ挨拶までしてくれるなんて」
「礼儀正しいというか、しっかりしてるんだな……最近は皆あんな感じなのか?」
「んなわけないじゃん。そもそも自分から挨拶してくれる女の子なんて、ましてや俺たちに……ミスカなんか顔赤くない?」
「いや……ちょっとな」
「何?!気になる!」

 コソコソ話していたら団長の鋭い視線を感じ、急いで立ち位置に戻る。
 促されてサキが話し始めた。

 サキが異世界から来たと言った時はもちろん驚いたがなんとなく納得した。
 真っ黒な髪と目を除いてもこんなに可愛い子見た事ないし、今まで会ったことのある高圧的な女の子とは全然違う。
 むしろ異世界から来たと言ったほうが信じるかも……。
 しかし、世間的にはちょっと意味不明だし素性も面倒になるので、上に報告して引き渡す時には伏せられるだろう。
 そんなことより……。

「結婚してないのか……?」
「こんな可愛いのに!一夫一妻制だとしても十六歳になったら縁談の山が来るレベルでしょ」
「きっと男女比が同じで、結婚が強制じゃないんだ」
「そうかぁ、一人としか結婚出来ないから悩む時間も長いのかもね」

 なんやかんやあり、なんとサキはここに住むことになった。上に引き渡すでもなく、赤騎士団に送るでもなく、サキがここに居たいと。
 サキを部屋まで送り戻ってくると、二人は黙って立っていた。
 サキがここにいるのを躊躇っている様子だった団長もあまり喋らないミスカも、やっぱり嬉しいみたいでどこかソワソワしている。
 一度咳払いして顔を引き締めた団長の説明と指示を受け、ミスカと一緒に団長室を出る。

「リューク」
「ん?」
「団長にサキの必要なものを買うから頼んでおけと言われたんだが……何がいるかわかるか?」
「俺もさっぱりわかんないけど……服とか。あ、えっとー……下着も……?」
「あ、あぁ……そうだな……確かに」
「「……」」
「後でログさんに聞いてくる」
「うん、そうしよう」

 ミスカが去って一人で歩きながら、頭はやっぱりサキのことを考えていた。
 サキがこれからここに……。
 もちろん男しかいないが無理やり襲うような奴は一人もいない。それは断言出来る。
 同意の上……も、俺らの容姿ではありえないだろう。そんなことわかっている。考えるだけ無駄だ。
 しかし、随分昔に失ったはずのなんだか眩い気持ちがふと胸に生まれたのを感じた。
 

 その日、サキは浮かない顔をして考え込んでいた。何度か声をかけるとようやく気がついて、慌てたように持っていた箒を床に落としてしまった。
 何か思い悩むことがあったのか。そう聞きたかったが、大丈夫だと笑うサキに直接聞くのを躊躇ってしまった。
 サキと話していると聞き慣れない言葉が出てきてつい聞き返す。

「ギャップ?」

 サキの世界特有の言葉なのかな。

「意外性というか、カッコいい人が可愛い物を持っていたらドキッとする感じかな」

 そう言われて赤騎士団の人がピンクのペンを持っているところを想像する。ペンのピンク色が服の赤色にかき消されて何も感じられなかった。
 しかしサキがドキッとするというのは、そういう経験があるからだろう。
 カッコいい人……か……。
 ふとサキに俺の好きなタイプを聞かれ、言葉に詰まる。そもそも男たちはどの女性に好かれて選ばれても幸福なことなのだが、俺はその選択肢にすら入っていない。

「俺は……好みなんてないよ、高望みしてもどうせ無理なんだから」

 とうの昔に思い知ったことだ、そんなこと弁えてる。それなのに……彼女はこう言った。

「無理じゃないよ。私はまだ会ったばかりだけど、リュークはカッコよくて優しい人だって知ってるもの」
「人を容姿だけで判断するような奴は人こっちから願い下げじゃない。どうせって思ってたら素敵な人も逃しちゃうかもしれないよ」

 急に目の前が開けた気がした。
 そう言われると確かにそうだ。傲慢で、人の悪口を楽しむような女に好かれて何になる。その人たちに傷つけられ勝手に無理だと諦めて今までずっと逃げていた。
 その時、ふと母との昔の記憶を思い出す。

「リューク、貴方はとっても優しい子よ。だから涙が出るの。今は辛いかもしれないけど、いつかきっと素敵な人に出逢えるわ」
「ぐすっ……嘘だ……僕なんかに……」
「嘘じゃないわ、お母さんは優しいお父さんに恋をして一緒になれたのよ」

 母は誰よりも幸せそうに笑った。
 俺も恋をしたい、誰かを愛してみたい、そんな胸が高鳴る眩い感情。
 サキと出逢ってから取り戻したそれは、過ごしているうちに少しづつ大きくなって、そして今叶った。

 俺はサキに恋をしたんだ。

 俺をカッコいいと、外見ではなく内面を見てくれる、いつか母が言った素敵な人にようやく出逢えたんだ。
 悪意の感じられない丁寧な言葉遣いと透き通った声、真っ直ぐと俺を見つめる瞳、優しい笑顔。いつでもサキは俺に誠実に向き合ってくれた。

「俺の好みはね……サキみたいな人、かな」

 照れくさくて恥ずかしい。でも好きな人に気持ちを伝えることは俺にとっての第一歩だった。やっぱり耐えきれなくて逃げ出してしまったけど。
 外まで勢いよく走って息を切らしながら立ち止まるとバッと顔を上げる。
 俺にも好きな人が出来た……!
 胸が苦しくて、でもこんなにも嬉しくて楽しい。
 この初恋はきっと報われることのないもの。それでも俺は、もう逃げないと心に誓ったんだ。
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