美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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終戦後王宮にて(ヴェルストリア,ハインツ)

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 戦争はヒューマリンとアルデンの勝利によって幕を閉じた。
 敗戦国のデリアノアはヒューマリンと条約を結び、賠償金や貿易についてなどがまた話し合われるそうだ。
 またルーシャについてはアルデンの配下に置かれることとなった。アルデンの法が適用され女王による独裁政治も無くなり、女尊男卑が強かった国内の現状は少しずつ改善されていくだろう。

 終戦から二週間が経ち、僕と団長はアルデンの国王に呼ばれ王宮に来ていた。
 初めてお会いする王は威厳がありながらも、どこか人としての安心感を覚えた。

「黒騎士団の活躍が目覚ましかったな。死傷者も最小限に抑えたと言っても良いだろう」

 戦った四つの国を合わせた死者数は百人未満。その中に黒騎士団の者は一人もいない。
 味方を守りながら、相手に必要以上の攻撃をせず命を守る。
 黒騎士団の大きな功績ともなった戦い方のその先陣を切ったのはミスカさんだった。致命傷は与えず、または峰打ちで終わらせた。
 戦場に立つあの後ろ姿は本当にカッコよかった。黒騎士団の団員たちが皆、彼を目標にしているその訳を目で見て実感したのだった。

「ヴェルストリアの情報もあってここまで速く終わらせることが出来た。密偵のような立場にさせてすまなかった」
「いえ、ルーシャの政治は荒れていました。陛下に地を治めて頂けるのが何よりも最善の道だと判断しこちらからお願いしたことです。本当にありがとうございます」
「ああ、より良くしていくことを約束しよう」

 ルーシャの王族は形としては残るが実際の政権はアルデンが担う。
 また、これまでの国民への対応は国際的にも非難を浴びるものであったので、王権を失った彼らには経済的な罰を与えることとなった。これからは贅沢な暮らしは出来なくなるということだ。

「僕も王族の子孫ではありますので、罰を受けるべきでは無いでしょうか」

 母や父だけでなく、妹などその血縁も共に不自由を強いられることになる。
 城で暮らしてはいないけれど、経済的罰と言うのなら僕も黒騎士団で得た財産の献上が有り得る。

「そうか、確かにそうだな。お前が今も王族であったなら」
「え……?」
「お前の名前にルーシャはついていない。ただのヴェルストリアだ」
「!団長……」

 振り返ると団長は少し困った顔で笑っていた。

「その男がお前の戸籍をそう作ったのだ。私からとやかく言うことは無い」

 本当に……僕は恵まれている。人生の中で祝福されるべき出会いをこんなにも貰って、僕は何を返せばいい?
 誰よりも尊敬する彼の前に跪く。

「心より感謝します。黒騎士団の一員として精進し、全力を尽くすことを誓います」
「ああ、私たちの仲間になってくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」

 団長の手を取り立ち上がった僕に国王が笑いかける。

「あと、お前の父親のことは安心しろ」
「!」
「アルデンの法に則りルーシャとは離縁した。彼にだけ罰を与えないことは出来ないが、こちらで適した仕事を与えるから問題無いだろう。何かあればお前を頼るよう言ってある」
「ありがとうございます……!」

 それにしても団長の権限が凄い気がする。なんだか贔屓してもらっているみたいで申し訳ないけれど。

「贔屓は若干しているな」

 考えを読まれ思わず体がビクッと強ばる。

「してはいるが、これで国がより良くなるからやっている。無意味では無い」
「はい……」

 どうにも掴めない人だが、王として素晴らしい人なのだということは分かった。

「ヴェルストリアは先に帰っていなさい。私は夕方には戻るとアレクに伝えてくれ」
「了解です」

 挨拶をして部屋を出ると一気に緊張が解ける。
 怒らせたら怖そうだな、国王様……。
 母が今どうしているか知らないが、あの人が相手だとだいぶ悲惨なことになっていそうだ。

「……早くサキさんのところへ帰ろう」

 今日の夕食は何にしようかと頭を切り替えて、浮き足立って僕は帰路についた。


「ヴェルストリアが来てからもうすぐで二年だったか」
「そうですね」

 そのことまで覚えているのかと感心しながら私は頷く。

「ルーシャにはずっと悩まされてきたからな。今回ようやく手に入れることが出来た」

 手に入れたと言っても、彼は鉱物目当てでは無い。むしろ管理する場所が増えたのだから金も時間もかかる。
 戦争に参加してまで手元に起きたかったのは、ルーシャの国民を案じてだ。あの女王には相当キレていたらしい。

「この国は男女罪は平等だ。女性だからといって許されると思うなよ…」

 流石に私もここまで怒る彼は初めてなので、正直触れたくない。

「……国王陛下、お話の続きを」
「ああ」

 今回の報酬や今後の事の説明を受ける。

「畏まりました」
「なんだ、嬉しそうだな」
「いえ、そんなことはありません」

 褒賞金が思った以上に多かったので、許可を貰った屋内訓練場の他にも設備を整えることが出来そうだ、と考えているところである。

「そういえば、少し調べたことがあってな。ヴェルストリアの髪は白いだろう?」
「はい」

 急に何を言い出すのかと思えば、髪色?

「白い髪と言うのは二百年以上前に無くなった国の先住民族の名残だ。迫害され人口は激減し、その生き残りの子孫が今は疎まれるものとなってしまっている」

 髪の色というよりも、過去の人種差別ということか…。

「逆に黒い髪が美しいというのは単に「居ない」からだ」
「居ないから……」
「人は幻の存在を偶像化してあるいは神格化する。しかし実際には存在していた、別の世界で」

 サキがここに来て、幻では無くなった。

「それらの根本的な理由を知らずに皆「白は醜い」「黒は美しい」と固定概念で人を判断しているわけだ。髪色ごときで人の価値は変わらない」

 この人は本当に……王に相応しい。
 彼にも子供の頃に与えられた固定概念があっただろうに、それを自らで壊して疑問を持ち正解を探し続ける。

「いずれこの差別は無くなるだろう。そうなるよう私も努力するが、お前の妻にもよろしく頼んでおいてくれ」
「サキに?」
「お前たちの子供が産まれれば黒い髪の子も増えていくだろう?」

 子供……!サキに似た黒い髪の……!

「おい、せっかくいい話をしたのだから意識を飛ばすな」
「あ、すまない」

 オーレストはふと考え込んで、顔を上げる。

「いや…ハインツ、やはり彼女を連れてきてくれ」
「は?」
「話がしたい。急ぎでは無いから今度で良いぞ」

 何故急にそうなったのか、 聞く間もなく追い出された。
 まぁ一度会わせることになるだろうとは思っていたが。諸々落ち着いてからで良いか。
 オーレストと話すと毎度雑談やら愚痴を聞かされる。今日はまともないい話だったが、よく忙しい中で調べたものだ。彼は気になったら調べずにはいられないタチだから。
 ヴェルストリアにはわざわざ伝えなくても良いだろう。私の話よりサキの一言のほうがよっぽど効果がある。

「……早くサキのところへ帰りたい」

 この後の王都での仕事を考え、重い足取りで私は王宮を後にした。
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