美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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ハインツとのデート 2

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「王宮…大きい……!」

 王都の中心にある王宮は遠目からでも見えていたが近くに来るとその迫力に圧倒される。
 全体が大きくて門も大きい……警備の人がいっぱいいる……。
 今からここに入るのかと思うとだいぶ緊張してしまい、ハインツさんの腕にしがみつく。

「はは、ここは安全だから心配要らないよ」
「そういう心配では無いんですが……」

 なんとか背筋を伸ばし彼と共に王宮へ足を踏み込んだ。

「ようこそいらっしゃいました。ハインツ様、サキ様。こちらへどうぞ」

 執事であろう男性に案内され長い廊下を歩く。
 き、キラキラしてる……。何あの壺……。
 埃一つ無いその洗練された空間に土足で入って良いのだろうか。学校の授業参観でよくあるスリッパが必要なのでは無いか。
 それに……食事をしながらお話なんて……喉通るかな……。
 お腹は空いているけれど、口に入れた物が何だか違う所へ行きそうで怖い。
 重厚な扉が開かれるとそこはとても広い部屋で、真ん中に大きいテーブルと椅子が並んでいる。
 私たちは奥の席に椅子を引かれて座り、しばらく国王様を待つように言われた。
 真っ白なテーブルクロスの上にはナイフやフォークが左右に美しく並んでいる。

「は、ハインツさん……私テーブルマナーあまり知らなくて…」
「いつもと同じようで構わないよ。国王もそこまで気にしていないから」

 いや、そんなこと言われたって……使用人さんたち凄いこっち見てるし……。間違えたら恥ずかしい……。

「今日はあまり可愛くモグモグしたら駄目だよ」
「い、今はそんなことを気にしていられないです!」

 面白そうに笑ったハインツさんに私も表情を解すことが出来た。

「……ありがとうございます」
「食事は楽しまないとね」

 気持ちも落ち着いてきた時、扉が開きその人がやって来た。

「待たせてすまないね」

 こ、この人が国王様……!何だか凄い高貴な威厳を感じる……!
 国王様はこちらへ来て、私とハインツさんは席を立つ。
 ヴェルくんに教えてもらった通りに……。
  
「お初にお目にかかります、ハインツの妻のサキと申します」
「顔を上げてくれ。そんなに畏まらなくていい」
「ありがとうございます」
「オーレストだ。よろしく、サキ」
「よろしくお願い致します」

 私と握手をした彼は向かい側の席に座った。

「今日は国王としてでは無くハインツの友として君と話そう」
「……友?」
「言っていなかったのか?水臭い奴だな」
「いや……今日は王としての話かと思っていた」

 なんと……ハインツさんは国王様とお友達だった……。昔からの長い付き合いらしい。でも普通にタメ口で話して良いのかな、周りに人居るけど。

「そのネクタイはどうしたんだ。普段付けていないだろう」
「先程買ったんだ。サキが選んでくれてね」

 目元を緩めてそう話すハインツさんに私も口元が緩んでしまった。
 料理が運ばれてきて目の前に置かれる。

「ゆっくり食べながら話そうか」
「は、はい!」

 ハインツさんの真似をして、外側からカトラリーを取って食べ始めた。

「やはり聞いていた通り、黒い髪と黒い瞳だな。君の世界では多いのか?」
「私の住んでいた国ではほとんどの人が髪も瞳も黒かそれに近いものでした」
「そうか……」

 国王様は少し嬉しそうに頷いた。

「君にとってはそれが当たり前なんだな。それならばハインツたちの髪や瞳の色に恐怖や違和感は覚えなかったのか?」
「……いいえ。むしろ初めて彼らを見た時に美しいと思いました」

 私の居た世界でも染めている人はいたけれど、それよりも自然でその姿が彼らなのだと感じられたから。

「顔立ちや体型もそうですがこの姿であってこそ彼らというか、赤い髪も茶色の瞳もハインツさんの魅力だと思っています。そのままの彼らが何よりも素敵なので」
「……らしいぞ、ハインツ」

 随分真面目に答えてしまって、隣で頭を抱える夫にようやく気づいた。

「サキ……本当に嬉しいんだがオーレストの前では……」
「ごめんなさい!」

 そんな私たちの様子を見て国王様は楽しそうに笑った。

「まさかハインツがこうも腑抜けになるとは。サキ、君は凄いな」
「あ、ありがとうございます?」
「本当に……そうだな。黒騎士団の奴らも心を許す訳だ。まあ、そこの夫は置いておいて……サキ、君の世界とこの世界で何か他に違うことはあるか?」
「違うこと……文化や物ですか?」
「ああ、何でもいい」

 何でもいいと言われると迷うけど……違うことはいっぱいあるからなぁ……。

「まず……この世界よりも工業化がとても進んでいます。自然が少なくて住宅や商業施設、工場などが建ち並んでいました。移動も馬や馬車では無くて自動車という機械が一般的でした」
「馬などの動物以外を用いる移動手段があるのか」
「油を燃料としてタイヤを動かすんです。ペダルを踏むだけで進んだり止まったり出来て」
「それは興味深い……!」

 国王様は色々な事に関心があるようで、聞かれる度私は浅い知識を絞り出して何となくだが説明をしていた。

「平民も皆学校に通うのか」
「貴族や平民という身分差は無いので、国民全員が必ず九年間は学校へ行くようになっています。こことは違って女性も子育てをし働く人も居ますから、両親が居ない時に子供を預ける意味でも必要かと」
「やはり女性が少ないというところで差が出るのか……」

 少し悩み考え始めた国王様を見て、ハインツさんが私に笑顔を向ける。

「きちんと受け答え出来ているね。心配は要らなかったようだ」
「ハインツさんを放っておいてしまってすみません……」
「はは、今は彼に頼まれた時間だからサキを譲らないとね。私はサキの話を聞いているだけでとても楽しいよ」

 ハインツさんのその言葉に甘えて、私は食事を終えるまで国王様と長いことお話を続けていた。

「ずっと喋らせてしまってすまなかったな」
「いえ!私も改めてこの世界を知ることが出来てとても充実した時間でした」
「こんなに知識が豊富で説明も上手く差別の無い考え方を持っている……本当に優秀だな。異世界から来たとてここまでの人となりはなかなか無いだろう。良かったら王宮で……」
「駄目だ」

 ハインツさんが低い声ですぐに断る。

「そうムキになるな。当たり前だろう、妻を夫から引き離すなんてことはしない」
「……」

 私のことでこんなに真剣になってくれるなんて……。

「ハインツさん……」
「サキ……君はもうどこにも行かせない」
「どこにも行きません……」

 見つめあったところで咳払いが聞こえてきた。

「仮にも国王の前でよくそんなイチャイチャ出来るな」
「す、すみません!」
「はは!怒ってはいない。君が居るとハインツのからかいがいがあるからな」

 良いように弄ばれている……?

「部屋は既に用意してある。この後は存分にイチャつくと良い。王宮はどこも防音だから安心しろ」

 私とハインツさんは顔を見合わせ赤くなった。思わずお互い反対を向く。

「……なんだその反応は。まさかまだ初夜を迎えていないのか」
「しょ……っ!?」
「そ、そういう訳では……無いんだが……」
「く…ふ、はは……本当に面白いな。また見ていたいが私はもう時間だから失礼する。サキ、ありがとう。是非また来て話を聞かせてくれ」
「はい!ありがとうございました!」

 颯爽と去っていった国王様を見送り、何とか重大任務を終えた。

「い、一気に緊張が解けました……」
「あまり緊張はしていないように見えたけど」
「話すのは意外と楽しかったので……。国王様はやっぱり凄い方ですね」

 私の拙い説明でも難なく理解していて、一を聞いて十を知るという言葉通りだった。

「王と聞いてもっと固い感じかと思っていましたけど……」
「あの人は昔からああだから。しかし格好だけつけて仕事が出来ないより、人当たり良く仕事が出来るほうが当たり前に評価が高い」

 それは勿論そうだろう。自分の住む国の王が彼で良かったと心から思える。
 部屋に案内してもらい、ようやく体を休めることが出来た。シャワーも終わらせてソファでハインツさんと寛ぐ。
 部屋広いなぁ……ベッドも大きい……これは多分四人用かな。
 ベッドの人数が分かるというどうでも良い能力を身につけてしまった。

「失礼します。お飲み物をお持ち致しました」
「ありがとう」

 使用人さんが入ってきた時に、ハインツさんは即座に隣に座っていた私にブランケットをかけ姿を隠した。なんだか悪い侵入者みたいな気分になってしまう。

「ハインツさん、それ何のお酒ですか?」
「白ワインだよ。サキも飲むかい?」
「じゃあせっかくなので……」

 お酒凄い久しぶりだなぁ……二十歳になってからちょっとは飲んだ気がするけど、どんな感じだったか覚えてない……。
 グラスに少しだけ注いでもらい、一口飲んでみる。

「美味しい……!」

 甘口でまろやかな割にすっきりしているのでとても飲みやすい。

「それなら良かった。サキはこういうものが好き?」
「そうですね、ビールとか無糖はちょっと苦手だった気がします」

 話も弾み、何だかんだで二杯飲んでしまった。

「……んー」

 目の前がぼんやりしてふわふわする……。

「サキ、大丈夫か?すまない、飲ませすぎてしまった」
「大丈夫……もうちょっと飲みたい……」
「駄目だ。水にしなさい」

 ぷいっと顔を背けると、大きな手で頬を包まれ無理やり彼の方に向けさせられる。
 コップに入った水を口に含んだハインツさんはそのまま顔を近づけキスをした。

「んっ……」

 口移しでゆっくりと喉に水が流し込まれ、コクコクと飲み込む。

「…は…ぁ……」
「酔いは覚めた?」
「……ううん……もっと……」

 離れた唇を惜しむように、私は目を閉じまた口付けた。



 私の首に手を回し、擦り寄るようにキスをしたサキはそっと目を開く。
 これは……だいぶ酔っているな……。
 美味しいと言って笑顔で飲んでくれるのが可愛くてつい勧めてしまったが、少し度数が強かったか。自分では飲んでいてもあまり分からないから考えていなかった。

「サキ、もう寝ようか。明日もまた歩くから……」

 彼女を抱えベッドに下ろすと、私の腕を小さい手が掴む。

「ハインツさん……」

 こんなに可愛い女性が頬を赤く染め蕩けた瞳で見つめてきて反応しない男はいない……が、妻を酔わせてするなんて許されない。
 サキは私を嫌うとこは無いと分かっていても、これは……。

「してくれないの?」

 体を起こしたサキが私の手を引っ張って自分の胸に触れされる。

「いっぱいきれいにしたから……さわって?」

 かっ…可愛い……!!
 理性が九割飛んで行ったが残り一割でなんとか耐えた。しかしここでしないという選択肢は消えたので考えるべきは手荒にしないこと、だった。
 服は邪魔なのでさっさと脱がせ、その柔らかい肌に触れ口付けた。

「あっ……」

 首から下へ唇を這わせ秘部へと辿り着く。

「サキ、ここもいっぱい綺麗にした?」

 素直にこくんと頷くのを見て、私はそこへ顔を近づけた。

「はぁっ……!あん……」

 普段なら絶対嫌がりそうだが、許してくれているのは酔っているからか、誰かにされたことがあるからか。
「綺麗にした」と本人が言うなら舐めても問題ないだろうという勝手な理由も付けているが。

「ん……もっと…っ」

 気持ち良さで腰を浮かせてねだっているのが可愛すぎる。小さな突起を舌で弄ると甘い声も大きくなる。

「あ、イッちゃう……っ!」

 サキは大きく体を震わせ絶頂を迎える。
 脚をぐったりと投げ出し美しい体を魅せる彼女は何よりも官能的だった。
 ……もう入れたい……。
 痛いくらいに勃ったものを取り出すと、サキはふと体を起こした。
 少しふらつきながら四つん這いで私の……股の間に来ると、こちらを見て微笑む。

「おかえし」

 私のアレを握り、パクッと咥えた。

「!?」

 意味も分からないまま性器に直接与えられる快感に私は顔を顰める。

「サキ、そんなこと……」
「ん……」

 周囲や先端を舌で舐め手で扱く。
 やけに手馴れているが、まさか誰かにしたことがあるのか……!?私とが初めてだったのだから夫の中の誰か……いや、この際誰でもいいが……。
 サキがいつの間にかセックスに関して大きな成長を遂げていて、驚きと困惑と……その姿に興奮を覚えてしまう。

「はぁ……サキ」

 乱れた黒い髪を掬い耳にかけると、彼女は嬉しそうに目尻を下げた。
 私がサキに触れたいと思うのと同じように、サキも私に触れたいと思ってくれている。
 想いも行為も、サキは同じ……それ以上を私たちに与えてくれる。彼女に愛されていると心から感じられる。

「っ…出そうだから……離れて……」

 そう言った瞬間、ちょうど舌が先端を刺激して堪えきれずに出してしまった。

「!…っん、んん……」
「すまない!」

 口に溜め込んだ精液を手に吐き出させる。
 唇から垂れる唾液かどちらか分からない糸引くものを、サキは舌で掬い舐めた。

「ちょっと……のみこんじゃった」

 少し楽しげなその表情に胸からグッと熱いものが湧き上がり今すぐ押し倒したくなったが、両手にあるものを見て一旦落ち着いた。
 自慰した後の罪悪感に似た何かと同じような感覚を味わいながら自分の手と口を洗い、サキも抱えて洗面に連れて行った。

「喉や腹は痛くない?」
「いたくない……にがい……」
「もう一回口ゆすいで」

 冷たい水に触れてサキは酔いも少し覚めたようで、裸の自身と私を見て不思議そうな顔をする。

「ハインツさんとえっちしてた?」
「してた……のかな」

 前戯もセックスの範囲内だろう。していたな。

「口が……ミスカさんの時と似てる……えっ」
「……ミスカ……だったか」

 同じサキの夫に嫉妬することはあまり無いが、サキにこんなことをしてもらっていたと思うと……正直悔しい気持ちにはなる。

「あの……」
「サキ、とても気持ちよかったよ。ありがとう」

 戸惑っていたサキにそう伝えると、分かりやすく明るい笑顔になる。

「きもちよかった?」
「ああ」
「よろこんでくれた?」
「勿論」

 彼女は後ろに立っていた私の方を向き、両手を背に回すようにギュッと抱きしめた。

「ふふ、ハインツさんだいすきー」

 やはりまだ若干酔っているな……。
 しかし酔ったサキがこんなにデレデレでエロいなんて……正直一割の理性も無くなりかけている。
 私はまたサキを抱えベッドに向かう。

「もう抱いてもいいか、我慢出来ない」
「うん、いいよ」

 笑顔の彼女にあっさり許可を貰い、すでに硬くなっていたものを濡れたアソコへ差し込む。
 いつも以上に昂っている私は、今夜も激しく愛する妻を求め続けた。



 見慣れないキラキラした天井……。確か昨日王宮に来て……。

「サキ、おはよう」
「……ハインツさん……おはようございます」

 隣で布団に入る彼は優しく微笑んで私の頭を撫でる。その温もりに昨夜の情事が思い出された。

「す、すみません!私酔って変なことを…!」

 どんなだったかは覚えていないが、アレをしてしまったということは分かる。

「いや、凄く嬉しかったよ」
「……引いてないですか?」
「全然」

 良かったぁ……。初めてした時のミスカさんのことを思って彼以外には控えようとしていたのだけど、本当に喜んでもらえているようで安心した。

「ミスカにはよくしているのか?」
「えっ」

 それもバレてる……?私いったいどこまで話したの……?

「……たまに……です」
「では私にもまたしてくれ」
「は、はい……」

 そんな話をしてなるべくお酒は飲まないようにという結論に至った私は、少し痛む腰を抱えながら身支度を整えた。


「王宮……とても快適でしたけど、もし毎日だったら気疲れしそうです」
「そうだね。基本的に人の目があるから、気の休まる所では無いかな」
「でも朝食は凄く美味しかったです!」
「はは、おかわりしても良かったのに」
「この後スイーツが待ってますから」

 振り返り、大きなその建物を見上げる。
 私がまさかこんな経験が出来るなんて。日本で言ったら天皇様に会うってことだもんね。
 これを機にマナーなどもきちんと身につけようかなと思った。

「それにしても困ったな……」
「どうかされたんですか?」
「いや、オーレストが……定期的にサキに来て欲しいと伝えてきたから……」
「えぇ!?」

 ……やっぱりマナー勉強しよう。

 ハインツさんに腰を支えてもらいながら色んな店を見て歩く。

「辛かったら抱えるから、いつでも言ってくれ」
「街中で抱えてもらうのは恥ずかしいです……」

 目的のカフェへ向かっていると……。

「は、ハインツ殿。お久しぶりですな」

 貴族っぽい男性がこちらに近づきおずおずと声をかけてきた。ハインツさんが私に何も言わないでと合図したのを見て頷く。

「これはマルク男爵。何か御用ですか」
「いえ、その……いつもはお一人で来られていますから、そちらの美しい女性は……?」
「ああ、私の妻です。初めて共に王都へ来たもので」

 とりあえず会釈だけしておいた。

「つま……妻ですか、ご結婚されていたとは知りませんでしたな……」

 しばらく意味がわからないという顔をしていたが、彼は私の方を向き話しだす。

「貴女ほど美しい方は初めてお会いしました。実は私の息子がまだ未婚でして、是非親交を深め……」
「申し訳ない、妻との大切な時間なので失礼します。さあ、行こうか」

 ハインツさんに一方的な会話をスパッと切られ彼が呆然としている間に、私たちはさっさと歩き出す。

「お知り合いですよね、良かったんですか?」
「ただの顔見知りというか、普段話もしない相手だから構わないよ」

 初対面であんな風に誘われても怖いだけだと思うけどな……。それに子供の結婚も親が決めるの?貴族だからなのかな。
 子供には自由に選択させたいって思うけど……って、子供いないのに早すぎるよね!

「サキ、顔が赤いが大丈夫か?」
「はい!全然大丈夫です!」

 ハインツさんたちは……まだ考えてないのかな。
 出会ってから結婚は早かったけど、子供を作るってなるのはどういうタイミングなんだろう。

「サキ、ここの店も気になるのだけれど……」
「パフェですね、美味しそう!こっちにしましょうか?」
「……」
「……半分こですよ」
「ああ……!」

 可愛い彼に負けて、当分甘い物は要らないと思うほど糖分を摂取した。

「もうすぐ馬車が来る頃だ。入口へ向かおうか」
「そうですね」

 時間通りにお迎えが来て、私たちは馬車に乗る。

「帰ったら書類が溜まっているな……。ここまで仕事が嫌だと思ったのは初めてだ」
「私も何か手伝えることありますか……?」

 心配してそう言ったのに、ハインツさんはキリッとした顔で言う。

「では人参のクッキーを作って欲しい」
「もう……!当分お菓子は禁止です!」
「そ、それは困る……」

 多忙な夫との貴重なデートで、私は彼の新しい一面をまた知ることが出来たのだった。
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