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ハインツとのデート 1
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「わ、私が国王様と!?」
執務室に呼ばれハインツさんから切り出された話に、私は驚きの声を上げる。
「ああ、サキに会ってみたいと頼まれてな。すまないが私と一緒に王都へ行ってくれないか」
「分かりました……」
「国王にはサキが異世界から来たという事を伝えてある。私たちと結婚したということ諸々全部知っているから、気にせず聞かれたことに答えてくれれば良いよ」
「は、はい」
そう頼まれ一週間後、私は今回も馬車に乗って初めての王都へ向かった。
「サキ、その服とても良く似合っているよ」
「ありがとうございます!国王様にお会いするなら正装が良いかなって」
正確には正装ではないけれどそれっぽい綺麗系のものを着てみた。
ハインツさんも黒騎士団の外向けの服を着て、先日のお爺様のようにきっちりしていてとてもカッコいい。
いつもカッコいいけどまた違った感じでという意味だよ。
馬車で二時間半、到着した王都は今まで行った町とは比べ物にならない程の活気と華やかな雰囲気に満ちていた。
向こうの通りでは多くの馬車が行き交い、私たちがいる店が並ぶ場所では多くの人が歩いている。通路を分けて安全に配慮されているのだろう。
「時間はまだあるし、店を見てみようか」
事前に王様に連絡した際に「せっかくなら王宮でゆっくり過ごすといい」と言われたそうで一泊することになっていた。
ちょうど夕食の時間にお呼ばれしているのでそれまではハインツさんとのデートというわけだ。
「どんなお店があるんですか?」
「ここは貴族が多いからね。富豪層向けの店ばかりだよ」
辺りを見回すと確かにドレス姿の女性とフリフリの襟の付いたブラウスを着た男性が沢山居る。
髪型凄いな…縦に長い…。
とある女性の盛り髪に驚きながら、私の格好を今一度見る。
「……髪型もう少し工夫した方が良かったでしょうか……」
シンプルなハーフアップにゴールドの髪飾り。真っ黒な髪だから少し重たい印象になってしまったかもしれない。
「サキの艶やかな髪は下ろしているほうが良さが引き立つよ。ここに居る誰よりもサキは魅力的だ」
「ありがとうございます……」
毎度ながら直球の褒め言葉に照れて、誤魔化すように握っているハインツさんの手と指を絡ませた。
「!」
「ここに居る誰よりも、ハインツさんがカッコいいです」
「サキ……ありがとう」
彼の左手にある指輪を触れて感じ、幸せな気持ちが胸に広がった。
そうして歩いている途中で、とあるお店が目に留まる。
「あのお店、もしかしてカフェですか?」
「そうだよ」
「良かったら……一緒に行きたいです」
「ああ……!行こうか。実はずっと気になっていてね」
スイーツが美味しいと評判の店だそう。
一人だとなかなか入りづらいよね。
「他にも行きたいお店があればお付き合いしますよ!」
「それはとても嬉しいが、スイーツばかりになってしまうからな」
「ハインツさん……」
「いや……これでも自重しているほうなんだ。そんな目で見ないでくれ……」
「ふふ……」
早速入ると中は白でまとめられた空間で、豪華ながらも落ち着いて過ごせそうだった。
「に……二名様ですか?」
「ああ」
「こちらへどうぞ……」
店内は多くのカップル……いや、夫婦で賑わっている。二人でも浮いていなさそうで良かった。
丸テーブルと座り心地の良いクッション付きの椅子が向き合って置かれている。
ハインツさんが椅子を引いてくれて、些細なことながらもその動作にキュンとする。
「メニューがお決まりになりましたらお声かけください」
渡されたメニュー表を見てみるが、写真は勿論イラストも無かったので私には全く分からなかった。
「飲み物はコーヒーと紅茶どちらが良いかな?」
「紅茶が良いです」
「じゃあレモンティーとミルクティーと……」
ハインツさんの分かりやすい説明で私も難なく決めることが出来た。
「桃のケーキと苺のタルトで迷ってるんですけど…」
「それなら二つとも頼んで、食べれる分だけ食べたら良いよ。残りは私が頂くから」
「じゃあ、そうしますね。ありがとうございます」
ハインツさんなら五個は食べれると思うから心配無くお言葉に甘えよう。
運ばれてきたスイーツはどれも綺麗でキラキラと……そしてハインツさんの目もキラキラしていた。
「ふふ……」
「サキ、どうかしたか?」
「ハインツさんが可愛い……」
「!?」
「それ、チョコレートのムースですよね」
「あ、ああ。サキも食べるかい?」
彼が差し出してくれたものをパクッと口に入れる。
「美味しいです!口の中でとろける……」
「本当だな……とても滑らかだ」
「こっちもどうぞ」
桃のケーキのお皿を渡そうとするとハインツさんはニコッと笑った。
「今日は食べさせてはもらえないのかな」
「えっ、でも……またクリーム付けちゃうかもって……」
お店で失敗したらハインツさんに恥ずかしい思いをさせてしまうかと心配だったのだけど、彼が大丈夫だと言うのでケーキを掬い食べさせる。
一瞬周りがザワついていたけど気のせいだろう。
「これも美味しいね」
「ですよね!クリームが紅茶味で桃に凄く合ってます」
嬉しくなった私は次々と彼に差し出す。
「このタルト生地、凄く好みだ……」
「アーモンド多め好きですか?」
「ああ、とても風味が良い」
「今度作ってみようかな。味見に付き合ってもらえますか?」
「勿論だ。味見で全部無くなるかもしれないがそれは先に謝っておくよ」
「食べる気満々じゃないですか!」
食べさせてばかりだと言われようやく気づき、私は二つのスイーツをお腹いっぱいまで食べた。残りはハインツさんへ。
「どれも美味しかったです!」
「苺のタルトが特に美味しかったかな」
「今が旬ですもんね」
彼は優雅な仕草でコーヒーを飲む。
「私、ブラックコーヒー飲めないんです」
「そうなのか。まあ私も砂糖の入ったカフェオレのほうが好きだが」
「どうして今日はブラックにしたんですか?」
「……ただのカッコつけだよ。サキといるのに甘いものばかりでは締まらないだろう」
少し顔を赤くしながら白状するハインツに思わず笑ってしまう。
「ふ、ふふ……我慢したんですね……」
「そんなに笑うことかな……」
「だって可愛い……」
「私を可愛いだなんて言うのはサキだけだよ」
腑に落ちない様子で余計顔を赤くし彼は頬をかいた。
しばらくゆっくりしてお腹を休めてから店を出る。
「ご馳走様です」
「ああ、一緒に行ってくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございます!他のお店のケーキも食べ比べてみたいですね」
「そうだね」
「「……」」
チラッとハインツさんと目を合わせる。
「……明日なら良いですよ」
「!ありがとう…!」
どうしよう……今日ハインツさんが可愛すぎてしんじゃうかもしれない……!
胸の動悸が治まらず私は一人で悶えていた。
まだ時間もあるので、ゆったりと街の中を歩く。
「ここの通りは来たことが無いな」
「王都にはそんなに来ないんですか?」
「半年に一、二回かな。しかしいつも王宮に向かうだけだから、店を見て回ったことは無くてね」
寮と王宮との往復のみらしい。
まあ仕事中だもんね……。
ふと黒い外壁の目立つ店の前を通る。
「ここは何のお店ですか?」
「男性用の……小物などが置いてあるのかな」
この前ハインツさんのプレゼント買ったところと同じような感じかな。
「見てみるかい?」
「はい!」
日本でだったら気後れして絶対入らないような場所も夫と一緒なら怖くないのだ。
「いらっしゃ…いませ」
いつも店員さんの言葉が途切れ途切れに聞こえるのは気のせいだろうか。
ハインツさんにそれを聞いたら「気にしなくていいよ」と言われた。
「わぁ!いっぱいあるなぁ……」
どれを見てもラグトさんに似合いそう!とかヴェルくんに着せて写真撮りたい!とか夫たちの事ばかり考えてしまう。
皆に出会う前……私は何を考えて過ごしていたんだろう…。
それすらを思い出せないほど、彼らが私の全てになってしまっていたのだった。
二人で並んで見て周り、とある棚の前で立ち止まる。
「ネクタイか……」
以前リュークとミスカさんにさりげなく却下されてしまった事を思い出す。
「黒騎士団ではネクタイは着ける機会は無いんですよね……ワイシャツなのに……」
「そうだね、寮内で鍛錬中に着飾る必要も無いから」
一応王室直属の騎士団なので正装として昔はネクタイなどもあったが途中で廃止され、支給されているシャツとズボンはそのままということらしい。
「それならTシャツのほうが良くないですか?」
「Tシャツ?」
「この前頼んで作ってもらったんですけど、首元が大きく空いていて上から被って着るんです」
ワイシャツより構造も簡単そう……じゃないかな?量産出来るようになると思うんだよね。
「洗濯もしやすいですし、シンプルで動きやすいんです」
「そうか……帰ったら一度見せて貰っても良いかな」
「はい!」
もし採用されれば……皆のTシャツ姿が見れる……!
欲に塗れた私情を挟みながらオススメし、バレないようにニヤニヤしていた。
「でもネクタイ付けてるところ見たいなぁ……」
「サキはネクタイが好きなのか?」
「好きという訳では無いんですけど、絶対似合うしカッコいいので」
彼らの色んな姿を見たいだけで、実際何でも良いと言ってしまえば何でも良い。
「……私は外出の機会も多いし、あっても良いかもしれないな」
「本当ですか!」
「サキが選んでくれるかい?」
「はい!」
パァっと笑顔になった私はルンルンでネクタイを選び始める。
「可愛いな……」
「ハインツさん!こっち来てください!」
「ああ」
三十分かけてようやく決まり、お会計後早速着けて貰う。
「ハインツさん素敵……!カッコいいです!」
「なかなか付け慣れないものだが、そう言って貰えると嬉しいよ」
ゴールドに近い茶色のネクタイ。薄らと細かいストライプ模様が入っている。
何度も試してみて思ったのは、青系だと日本のサラリーマン風に見えるということ!
なんかもう……イケてる上司って感じで、つい彼がオフィスで働いているところを想像してしまった。
「残業お疲れ様。無理はしないで」と言って差し出される缶コーヒー……。定番のシチュ……コーヒー飲めないけど。
「サキ、どうかしたかい?」
「い、いいえ!何でもありません!」
……やっぱりカッコいいなぁ……。
「ハインツさん大好き……」
「っ……私も…サキが大好きだよ」
店の前で告白し合う二人を周りの人たちはガン見しながら避けていく。
その後も私はカッコ可愛いハインツさんを堪能し、あっという間に時間は過ぎていった。
執務室に呼ばれハインツさんから切り出された話に、私は驚きの声を上げる。
「ああ、サキに会ってみたいと頼まれてな。すまないが私と一緒に王都へ行ってくれないか」
「分かりました……」
「国王にはサキが異世界から来たという事を伝えてある。私たちと結婚したということ諸々全部知っているから、気にせず聞かれたことに答えてくれれば良いよ」
「は、はい」
そう頼まれ一週間後、私は今回も馬車に乗って初めての王都へ向かった。
「サキ、その服とても良く似合っているよ」
「ありがとうございます!国王様にお会いするなら正装が良いかなって」
正確には正装ではないけれどそれっぽい綺麗系のものを着てみた。
ハインツさんも黒騎士団の外向けの服を着て、先日のお爺様のようにきっちりしていてとてもカッコいい。
いつもカッコいいけどまた違った感じでという意味だよ。
馬車で二時間半、到着した王都は今まで行った町とは比べ物にならない程の活気と華やかな雰囲気に満ちていた。
向こうの通りでは多くの馬車が行き交い、私たちがいる店が並ぶ場所では多くの人が歩いている。通路を分けて安全に配慮されているのだろう。
「時間はまだあるし、店を見てみようか」
事前に王様に連絡した際に「せっかくなら王宮でゆっくり過ごすといい」と言われたそうで一泊することになっていた。
ちょうど夕食の時間にお呼ばれしているのでそれまではハインツさんとのデートというわけだ。
「どんなお店があるんですか?」
「ここは貴族が多いからね。富豪層向けの店ばかりだよ」
辺りを見回すと確かにドレス姿の女性とフリフリの襟の付いたブラウスを着た男性が沢山居る。
髪型凄いな…縦に長い…。
とある女性の盛り髪に驚きながら、私の格好を今一度見る。
「……髪型もう少し工夫した方が良かったでしょうか……」
シンプルなハーフアップにゴールドの髪飾り。真っ黒な髪だから少し重たい印象になってしまったかもしれない。
「サキの艶やかな髪は下ろしているほうが良さが引き立つよ。ここに居る誰よりもサキは魅力的だ」
「ありがとうございます……」
毎度ながら直球の褒め言葉に照れて、誤魔化すように握っているハインツさんの手と指を絡ませた。
「!」
「ここに居る誰よりも、ハインツさんがカッコいいです」
「サキ……ありがとう」
彼の左手にある指輪を触れて感じ、幸せな気持ちが胸に広がった。
そうして歩いている途中で、とあるお店が目に留まる。
「あのお店、もしかしてカフェですか?」
「そうだよ」
「良かったら……一緒に行きたいです」
「ああ……!行こうか。実はずっと気になっていてね」
スイーツが美味しいと評判の店だそう。
一人だとなかなか入りづらいよね。
「他にも行きたいお店があればお付き合いしますよ!」
「それはとても嬉しいが、スイーツばかりになってしまうからな」
「ハインツさん……」
「いや……これでも自重しているほうなんだ。そんな目で見ないでくれ……」
「ふふ……」
早速入ると中は白でまとめられた空間で、豪華ながらも落ち着いて過ごせそうだった。
「に……二名様ですか?」
「ああ」
「こちらへどうぞ……」
店内は多くのカップル……いや、夫婦で賑わっている。二人でも浮いていなさそうで良かった。
丸テーブルと座り心地の良いクッション付きの椅子が向き合って置かれている。
ハインツさんが椅子を引いてくれて、些細なことながらもその動作にキュンとする。
「メニューがお決まりになりましたらお声かけください」
渡されたメニュー表を見てみるが、写真は勿論イラストも無かったので私には全く分からなかった。
「飲み物はコーヒーと紅茶どちらが良いかな?」
「紅茶が良いです」
「じゃあレモンティーとミルクティーと……」
ハインツさんの分かりやすい説明で私も難なく決めることが出来た。
「桃のケーキと苺のタルトで迷ってるんですけど…」
「それなら二つとも頼んで、食べれる分だけ食べたら良いよ。残りは私が頂くから」
「じゃあ、そうしますね。ありがとうございます」
ハインツさんなら五個は食べれると思うから心配無くお言葉に甘えよう。
運ばれてきたスイーツはどれも綺麗でキラキラと……そしてハインツさんの目もキラキラしていた。
「ふふ……」
「サキ、どうかしたか?」
「ハインツさんが可愛い……」
「!?」
「それ、チョコレートのムースですよね」
「あ、ああ。サキも食べるかい?」
彼が差し出してくれたものをパクッと口に入れる。
「美味しいです!口の中でとろける……」
「本当だな……とても滑らかだ」
「こっちもどうぞ」
桃のケーキのお皿を渡そうとするとハインツさんはニコッと笑った。
「今日は食べさせてはもらえないのかな」
「えっ、でも……またクリーム付けちゃうかもって……」
お店で失敗したらハインツさんに恥ずかしい思いをさせてしまうかと心配だったのだけど、彼が大丈夫だと言うのでケーキを掬い食べさせる。
一瞬周りがザワついていたけど気のせいだろう。
「これも美味しいね」
「ですよね!クリームが紅茶味で桃に凄く合ってます」
嬉しくなった私は次々と彼に差し出す。
「このタルト生地、凄く好みだ……」
「アーモンド多め好きですか?」
「ああ、とても風味が良い」
「今度作ってみようかな。味見に付き合ってもらえますか?」
「勿論だ。味見で全部無くなるかもしれないがそれは先に謝っておくよ」
「食べる気満々じゃないですか!」
食べさせてばかりだと言われようやく気づき、私は二つのスイーツをお腹いっぱいまで食べた。残りはハインツさんへ。
「どれも美味しかったです!」
「苺のタルトが特に美味しかったかな」
「今が旬ですもんね」
彼は優雅な仕草でコーヒーを飲む。
「私、ブラックコーヒー飲めないんです」
「そうなのか。まあ私も砂糖の入ったカフェオレのほうが好きだが」
「どうして今日はブラックにしたんですか?」
「……ただのカッコつけだよ。サキといるのに甘いものばかりでは締まらないだろう」
少し顔を赤くしながら白状するハインツに思わず笑ってしまう。
「ふ、ふふ……我慢したんですね……」
「そんなに笑うことかな……」
「だって可愛い……」
「私を可愛いだなんて言うのはサキだけだよ」
腑に落ちない様子で余計顔を赤くし彼は頬をかいた。
しばらくゆっくりしてお腹を休めてから店を出る。
「ご馳走様です」
「ああ、一緒に行ってくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございます!他のお店のケーキも食べ比べてみたいですね」
「そうだね」
「「……」」
チラッとハインツさんと目を合わせる。
「……明日なら良いですよ」
「!ありがとう…!」
どうしよう……今日ハインツさんが可愛すぎてしんじゃうかもしれない……!
胸の動悸が治まらず私は一人で悶えていた。
まだ時間もあるので、ゆったりと街の中を歩く。
「ここの通りは来たことが無いな」
「王都にはそんなに来ないんですか?」
「半年に一、二回かな。しかしいつも王宮に向かうだけだから、店を見て回ったことは無くてね」
寮と王宮との往復のみらしい。
まあ仕事中だもんね……。
ふと黒い外壁の目立つ店の前を通る。
「ここは何のお店ですか?」
「男性用の……小物などが置いてあるのかな」
この前ハインツさんのプレゼント買ったところと同じような感じかな。
「見てみるかい?」
「はい!」
日本でだったら気後れして絶対入らないような場所も夫と一緒なら怖くないのだ。
「いらっしゃ…いませ」
いつも店員さんの言葉が途切れ途切れに聞こえるのは気のせいだろうか。
ハインツさんにそれを聞いたら「気にしなくていいよ」と言われた。
「わぁ!いっぱいあるなぁ……」
どれを見てもラグトさんに似合いそう!とかヴェルくんに着せて写真撮りたい!とか夫たちの事ばかり考えてしまう。
皆に出会う前……私は何を考えて過ごしていたんだろう…。
それすらを思い出せないほど、彼らが私の全てになってしまっていたのだった。
二人で並んで見て周り、とある棚の前で立ち止まる。
「ネクタイか……」
以前リュークとミスカさんにさりげなく却下されてしまった事を思い出す。
「黒騎士団ではネクタイは着ける機会は無いんですよね……ワイシャツなのに……」
「そうだね、寮内で鍛錬中に着飾る必要も無いから」
一応王室直属の騎士団なので正装として昔はネクタイなどもあったが途中で廃止され、支給されているシャツとズボンはそのままということらしい。
「それならTシャツのほうが良くないですか?」
「Tシャツ?」
「この前頼んで作ってもらったんですけど、首元が大きく空いていて上から被って着るんです」
ワイシャツより構造も簡単そう……じゃないかな?量産出来るようになると思うんだよね。
「洗濯もしやすいですし、シンプルで動きやすいんです」
「そうか……帰ったら一度見せて貰っても良いかな」
「はい!」
もし採用されれば……皆のTシャツ姿が見れる……!
欲に塗れた私情を挟みながらオススメし、バレないようにニヤニヤしていた。
「でもネクタイ付けてるところ見たいなぁ……」
「サキはネクタイが好きなのか?」
「好きという訳では無いんですけど、絶対似合うしカッコいいので」
彼らの色んな姿を見たいだけで、実際何でも良いと言ってしまえば何でも良い。
「……私は外出の機会も多いし、あっても良いかもしれないな」
「本当ですか!」
「サキが選んでくれるかい?」
「はい!」
パァっと笑顔になった私はルンルンでネクタイを選び始める。
「可愛いな……」
「ハインツさん!こっち来てください!」
「ああ」
三十分かけてようやく決まり、お会計後早速着けて貰う。
「ハインツさん素敵……!カッコいいです!」
「なかなか付け慣れないものだが、そう言って貰えると嬉しいよ」
ゴールドに近い茶色のネクタイ。薄らと細かいストライプ模様が入っている。
何度も試してみて思ったのは、青系だと日本のサラリーマン風に見えるということ!
なんかもう……イケてる上司って感じで、つい彼がオフィスで働いているところを想像してしまった。
「残業お疲れ様。無理はしないで」と言って差し出される缶コーヒー……。定番のシチュ……コーヒー飲めないけど。
「サキ、どうかしたかい?」
「い、いいえ!何でもありません!」
……やっぱりカッコいいなぁ……。
「ハインツさん大好き……」
「っ……私も…サキが大好きだよ」
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