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キングダム・レボリューション 開幕(シックザール学園 第四章)
君と初めましてをもう一度
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無事に目を覚ましたスピカ様は、俺達のことを忘れてしまっていた。
自分の名前、身分、旦那様と奥様などの基本的なことは覚えており、日常生活を送る上では特に支障はなかった。
しかし、俺、アダムやシャーロットのこと、ご友人方のことをスピカ様は記憶を失っていた。
オリオン殿下とセドリック様は我を忘れて医務室の医師に詰め寄り、今にも殴りそうなのをニコラス様が叫びながら必死に止めに入る。
スピカ様に嘘よねと訴え続けるクラリーナ様をエレノア様が震えながら割って入り、リリー様はその場に座り込んで大声で泣き出し、それをバルト様が声を出さずに泣きながら支える。
ベルンハルト様は壁に何度も激しく拳を叩きつけて、それをリオン様がベルンハルト様の頬を殴ることで止めていた。
ベロニカ様は立ち尽くし、ゴードンがスピカ様に闇魔法をかけようとするのを倒れそうなシャーロットが抑えていた。
「あなた達、全員何者なのです……?」
スピカ様から初めて向けられる不信感溢れるその瞳は、その場の全員の心に傷を残すには十分だった。
すぐにオリオン殿下が王子としての権力を駆使して、外国から名高い医師や記憶に関する権威の学者の方々を呼び寄せてくださったが、全員が沈痛な面持ちで首を横に振るだけだった。
「旦那様、奥様……今回のこと、本当に申し開きもたちません!!」
すぐに俺は、シャーロットにスピカ様を任せて、アルドレードの屋敷に馬を全速力で走らせた。
旦那様と奥様に事情を説明し、深く深く頭を下げた。
責められることを覚悟して、どうしてこんなことになってしまったのか……
しかし、旦那様と奥様からの返答は寛大すぎるものだった。
「アダム、すまなかったな……」
「……え?」
「王国を出て行くという話、お前達には急すぎるものだった」
「相談出来ず、ごめんなさいね……」
「お、お待ちください!! その、ご家族の問題に俺達は……」
「何を言ってるんだ?」
「アダムも、この屋敷の者達は全員アルドレード家の家族ですわよ?」
この方達に、スピカ様に出会うまで俺は神を信じたことはなかった。
神がいるのなら、もう少しまともに生きられたはずだと何度も思った。
親が死に、盗っ人のおたずね者としてスラム街でその日暮らしをしていた。
金さえ積まれたら、大抵の悪いことは何でもやっていた。
騙されて少しヘマをして、奴隷として売られそうなとこを救ってくれたのがスピカ様だった。
あの幼くも力強い手を取った時から俺は自分の命にかえてもこの方を守り抜くと誓ったのだ。
だから、スピカ様と出会わせてくれた神には感謝しかないんだ、生まれてきて良かったと何度思っただろう。
態度が悪くて、血の気が多くて、敵意むき出しだった俺に、優しさを教えてくれたスピカ様。
俺に家族を教えてくれた旦那様、奥様を初めとしたアルドレード家。
何を血迷っていたのか、信じるなんてその事実だけで十分だった。
「勿体なき、お言葉です……!!」
「けど……私達にもスピカがこの王国を出て行きたい具体的な理由はどうもよく分からないんだ」
「え、そうなんですか?」
「スピカは、もう何年も前からそのことを考えていたようなの……あの子が曰くあなた達のためらしいのだけど……」
「俺達のため……ですか?」
スピカ様に秘密があるということは何年も前から気付いていた。
俺とシャーロットに隠密のあれこれを学ばせて、スピカ様が八歳になる頃からその活動は本格的になっていった。
初めは内政でも動かすつもりかと予想を立て、シャーロットと何があってもスピカ様を守り抜こうと誓いを立てたこともあったが、予想は外れた。
スピカ様は今のご友人方を救うことにしか俺達を使わなかった。
けど、まるで大まかな事情は最初から知っていてその答え合わせを俺とシャーロットにさせてるような気がして違和感を覚え、俺達はスピカ様に切り出した。
その時のスピカ様の答えは、全部終わったら話すねということだった。
全部とは何だ、終わるのはいつ? 俺達に不安を残しながら時は過ぎ、今回の騒動に発展した。
支えたい、守りたい、側にいたい。
俺とシャーロットの願いはいつだってそれだけなんだから。
「まあ、時間は十分にある」
「これを機会にスピカと向き合ってみてくれる?」
「……はい! かしこまりました!」
そう言って、旦那様と奥様にスピカ様を託されたのはもう五日前だ。
自分の名前、身分、旦那様と奥様などの基本的なことは覚えており、日常生活を送る上では特に支障はなかった。
しかし、俺、アダムやシャーロットのこと、ご友人方のことをスピカ様は記憶を失っていた。
オリオン殿下とセドリック様は我を忘れて医務室の医師に詰め寄り、今にも殴りそうなのをニコラス様が叫びながら必死に止めに入る。
スピカ様に嘘よねと訴え続けるクラリーナ様をエレノア様が震えながら割って入り、リリー様はその場に座り込んで大声で泣き出し、それをバルト様が声を出さずに泣きながら支える。
ベルンハルト様は壁に何度も激しく拳を叩きつけて、それをリオン様がベルンハルト様の頬を殴ることで止めていた。
ベロニカ様は立ち尽くし、ゴードンがスピカ様に闇魔法をかけようとするのを倒れそうなシャーロットが抑えていた。
「あなた達、全員何者なのです……?」
スピカ様から初めて向けられる不信感溢れるその瞳は、その場の全員の心に傷を残すには十分だった。
すぐにオリオン殿下が王子としての権力を駆使して、外国から名高い医師や記憶に関する権威の学者の方々を呼び寄せてくださったが、全員が沈痛な面持ちで首を横に振るだけだった。
「旦那様、奥様……今回のこと、本当に申し開きもたちません!!」
すぐに俺は、シャーロットにスピカ様を任せて、アルドレードの屋敷に馬を全速力で走らせた。
旦那様と奥様に事情を説明し、深く深く頭を下げた。
責められることを覚悟して、どうしてこんなことになってしまったのか……
しかし、旦那様と奥様からの返答は寛大すぎるものだった。
「アダム、すまなかったな……」
「……え?」
「王国を出て行くという話、お前達には急すぎるものだった」
「相談出来ず、ごめんなさいね……」
「お、お待ちください!! その、ご家族の問題に俺達は……」
「何を言ってるんだ?」
「アダムも、この屋敷の者達は全員アルドレード家の家族ですわよ?」
この方達に、スピカ様に出会うまで俺は神を信じたことはなかった。
神がいるのなら、もう少しまともに生きられたはずだと何度も思った。
親が死に、盗っ人のおたずね者としてスラム街でその日暮らしをしていた。
金さえ積まれたら、大抵の悪いことは何でもやっていた。
騙されて少しヘマをして、奴隷として売られそうなとこを救ってくれたのがスピカ様だった。
あの幼くも力強い手を取った時から俺は自分の命にかえてもこの方を守り抜くと誓ったのだ。
だから、スピカ様と出会わせてくれた神には感謝しかないんだ、生まれてきて良かったと何度思っただろう。
態度が悪くて、血の気が多くて、敵意むき出しだった俺に、優しさを教えてくれたスピカ様。
俺に家族を教えてくれた旦那様、奥様を初めとしたアルドレード家。
何を血迷っていたのか、信じるなんてその事実だけで十分だった。
「勿体なき、お言葉です……!!」
「けど……私達にもスピカがこの王国を出て行きたい具体的な理由はどうもよく分からないんだ」
「え、そうなんですか?」
「スピカは、もう何年も前からそのことを考えていたようなの……あの子が曰くあなた達のためらしいのだけど……」
「俺達のため……ですか?」
スピカ様に秘密があるということは何年も前から気付いていた。
俺とシャーロットに隠密のあれこれを学ばせて、スピカ様が八歳になる頃からその活動は本格的になっていった。
初めは内政でも動かすつもりかと予想を立て、シャーロットと何があってもスピカ様を守り抜こうと誓いを立てたこともあったが、予想は外れた。
スピカ様は今のご友人方を救うことにしか俺達を使わなかった。
けど、まるで大まかな事情は最初から知っていてその答え合わせを俺とシャーロットにさせてるような気がして違和感を覚え、俺達はスピカ様に切り出した。
その時のスピカ様の答えは、全部終わったら話すねということだった。
全部とは何だ、終わるのはいつ? 俺達に不安を残しながら時は過ぎ、今回の騒動に発展した。
支えたい、守りたい、側にいたい。
俺とシャーロットの願いはいつだってそれだけなんだから。
「まあ、時間は十分にある」
「これを機会にスピカと向き合ってみてくれる?」
「……はい! かしこまりました!」
そう言って、旦那様と奥様にスピカ様を託されたのはもう五日前だ。
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