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EP 6
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夜の帳と、死を呼ぶ四番
深夜23時。
王都の港湾地区は、冷たい海風と静寂に包まれていた。
倉庫街の一角、第4倉庫。
その周囲には、明らかにカタギではない武装集団が配置されていた。
「……警備が厳重だな」
離れたコンテナの陰から、鮫島は暗視ゴーグルで敵戦力を分析していた。
ギルバート商会が雇った私兵団『黒犬傭兵団』。
数は約30名。全員が魔導ライフルや大剣で武装している。
「おい隊長、あんなの俺様のブレスで吹き飛ばせば一発だろ?」
「ダメよトカゲ。外で騒ぎを起こしたら、中の連中が証拠隠滅しちゃうわ」
イグニスとキャルルが小声で言い争う。
キャルルの言う通りだ。
T-SWATの目的は、内部で行われる『魔導兵器』の取引現場を押さえること。
外の見張りと派手に戦闘を始めれば、主犯格に逃げられる可能性がある。
「……静かに、確実に、この30人を排除する必要がある」
だが、この凸凹チームに「隠密行動(ステルス)」など不可能だ。
イグニスは歩くだけで足音がうるさいし、キャルルは光るし、俺は人数不足だ。
「……少し待て。掃除屋(ジャニター)に連絡を入れる」
鮫島は部下たちを待機させ、路地裏へと姿を消した。
***
港から少し離れた下町の一角。
赤提灯が揺れる小料理屋『龍魔亭』。
暖簾をくぐると、店内には静謐な空気が流れていた。
「……いらっしゃい」
カウンターの奥で、一人の男がグラスを磨いていた。
黒のシャツに、鮮烈な赤のジャケット。
その男――鬼神・龍魔呂(きしん・たつまろ)は、鮫島の顔を見ても表情一つ変えない。
「珍しいな。あんたが仕事前にここに来るとは」
「……コーヒーをくれ。ブラックで」
鮫島はカウンター席に座り、マールボロに火をつけた。
龍魔呂は無言でコーヒーを淹れる。
香ばしい香りが漂う中、鮫島は独り言のように呟いた。
「港の第4倉庫だ。……ギルバート商会の私兵が30人」
「……」
「連中のシノギは『魔界パウダー』。……あぁ、最近は孤児院の周りでも売人が目撃されているらしいな」
ピクリ。
龍魔呂の手が止まった。
その背中から、どす黒い殺気が立ち昇る。
「……子供にか?」
「裏は取れてる。ガキを薬漬けにして、手駒にするつもりらしい」
鮫島はコーヒーを一気に飲み干し、カウンターに金貨一枚を置いた。
そして、その横に――『角砂糖』を一つ、転がした。
「……法じゃ裁ききれない雑魚が多すぎる。掃除が必要だ」
「……あいよ」
龍魔呂は角砂糖を指で摘み上げ、口に放り込んだ。
カリリ、と硬質な音が響く。
その瞬間、彼の瞳から「光」が消えた。
「――死番(DEATH 4)、入ります」
鮫島が店を出る頃には、カウンターの中にはもう、誰もいなかった。
***
時刻は23時45分。
第4倉庫の警備にあたっていた黒犬傭兵団の男たちは、退屈そうに欠伸をしていた。
「あーあ、暇だな。こんな夜中に誰が来るってんだ?」
「へっ。終わったら『パウダー』でキメて、女でも買いに行こうぜ」
下卑た笑い声を上げる男たち。
その背後の闇から、赤いジャケットの男が音もなく現れた。
「……楽しそうだな」
「あぁン? 誰だテメェ!」
傭兵の一人が剣を抜こうとした。
だが、遅い。
パシュッ。
空気を弾くような、乾いた音。
次の瞬間、傭兵の眉間に風穴が開いていた。
龍魔呂が指先から放った『指弾(フィンガー・バレット)』だ。闘気を圧縮したその一撃は、20mm機関砲に匹敵する。
「な、なんだッ!?」
「敵襲ぅぅ!!」
残りの傭兵たちが一斉に襲いかかる。魔導ライフルが火を噴き、大剣が振り下ろされる。
だが、龍魔呂は避けない。
ただ、赤黒い闘気を纏った指輪が妖しく輝くだけだ。
「子供を食い物にするクズに……生きる資格はない」
龍魔呂が右拳を握りしめる。
世界から「色」が消えた。
「鬼神流――『絶花(ぜっか)』」
放たれたのは、ただの右ストレート。
だが、そこから噴出したのは赤黒い闘気の嵐だった。
暴風が空間ごとねじ曲げ、襲いかかってきた10人以上の傭兵たちを飲み込む。
「ぎゃあああああああ!?」
断末魔すら残らない。
闘気の嵐が過ぎ去った後には、地面が抉れた跡と、塵一つ残らない静寂だけがあった。
残った数人が、腰を抜かして後退る。
「ば、化け物……! 貴様、何者だ!」
「……死を呼ぶ四番。地獄でそう名乗れ」
カリリ。
龍魔呂が二つ目の角砂糖を噛み砕く音が、彼らの最期の記憶となった。
***
23時55分。
鮫島たちが第4倉庫の前に到着した時、そこには誰もいなかった。
ただ、不自然に抉れた地面と、微かに漂う甘い砂糖の匂いだけが残っている。
「お、おい隊長……。見張りの30人はどうしたんだよ? 逃げたのか?」
イグニスが不思議そうに周囲を見回す。
あの好戦的な竜人が、本能的な恐怖を感じて尻尾を丸めていた。
「さあな。……優秀な清掃業者が入ったんだろ」
鮫島は表情を変えず、倉庫の巨大な扉を見上げた。
障害は消えた。
中では、ギルバート商会の幹部たちが、何も知らずに取引を始めているはずだ。
「よし、時間だ」
鮫島はKorthのシリンダーを確認し、二人の部下に合図を送る。
「作戦名『ドラゴン・ダイブ』を開始する。……イグニス、出番だ」
「おうよ! 待ちくたびれたぜ!」
「キャルル、閃光弾の準備は?」
「いつでもOK! 目くらましなら任せて!」
日付が変わる。
法で裁けぬ悪を、暴力という名の正義で粉砕する時間が来た。
「T-SWAT、突入(エントリー)ッ!!」
イグニスが翼を広げ、夜空へと舞い上がる。
次の瞬間、倉庫の屋根が炎と共に砕け散った。
深夜23時。
王都の港湾地区は、冷たい海風と静寂に包まれていた。
倉庫街の一角、第4倉庫。
その周囲には、明らかにカタギではない武装集団が配置されていた。
「……警備が厳重だな」
離れたコンテナの陰から、鮫島は暗視ゴーグルで敵戦力を分析していた。
ギルバート商会が雇った私兵団『黒犬傭兵団』。
数は約30名。全員が魔導ライフルや大剣で武装している。
「おい隊長、あんなの俺様のブレスで吹き飛ばせば一発だろ?」
「ダメよトカゲ。外で騒ぎを起こしたら、中の連中が証拠隠滅しちゃうわ」
イグニスとキャルルが小声で言い争う。
キャルルの言う通りだ。
T-SWATの目的は、内部で行われる『魔導兵器』の取引現場を押さえること。
外の見張りと派手に戦闘を始めれば、主犯格に逃げられる可能性がある。
「……静かに、確実に、この30人を排除する必要がある」
だが、この凸凹チームに「隠密行動(ステルス)」など不可能だ。
イグニスは歩くだけで足音がうるさいし、キャルルは光るし、俺は人数不足だ。
「……少し待て。掃除屋(ジャニター)に連絡を入れる」
鮫島は部下たちを待機させ、路地裏へと姿を消した。
***
港から少し離れた下町の一角。
赤提灯が揺れる小料理屋『龍魔亭』。
暖簾をくぐると、店内には静謐な空気が流れていた。
「……いらっしゃい」
カウンターの奥で、一人の男がグラスを磨いていた。
黒のシャツに、鮮烈な赤のジャケット。
その男――鬼神・龍魔呂(きしん・たつまろ)は、鮫島の顔を見ても表情一つ変えない。
「珍しいな。あんたが仕事前にここに来るとは」
「……コーヒーをくれ。ブラックで」
鮫島はカウンター席に座り、マールボロに火をつけた。
龍魔呂は無言でコーヒーを淹れる。
香ばしい香りが漂う中、鮫島は独り言のように呟いた。
「港の第4倉庫だ。……ギルバート商会の私兵が30人」
「……」
「連中のシノギは『魔界パウダー』。……あぁ、最近は孤児院の周りでも売人が目撃されているらしいな」
ピクリ。
龍魔呂の手が止まった。
その背中から、どす黒い殺気が立ち昇る。
「……子供にか?」
「裏は取れてる。ガキを薬漬けにして、手駒にするつもりらしい」
鮫島はコーヒーを一気に飲み干し、カウンターに金貨一枚を置いた。
そして、その横に――『角砂糖』を一つ、転がした。
「……法じゃ裁ききれない雑魚が多すぎる。掃除が必要だ」
「……あいよ」
龍魔呂は角砂糖を指で摘み上げ、口に放り込んだ。
カリリ、と硬質な音が響く。
その瞬間、彼の瞳から「光」が消えた。
「――死番(DEATH 4)、入ります」
鮫島が店を出る頃には、カウンターの中にはもう、誰もいなかった。
***
時刻は23時45分。
第4倉庫の警備にあたっていた黒犬傭兵団の男たちは、退屈そうに欠伸をしていた。
「あーあ、暇だな。こんな夜中に誰が来るってんだ?」
「へっ。終わったら『パウダー』でキメて、女でも買いに行こうぜ」
下卑た笑い声を上げる男たち。
その背後の闇から、赤いジャケットの男が音もなく現れた。
「……楽しそうだな」
「あぁン? 誰だテメェ!」
傭兵の一人が剣を抜こうとした。
だが、遅い。
パシュッ。
空気を弾くような、乾いた音。
次の瞬間、傭兵の眉間に風穴が開いていた。
龍魔呂が指先から放った『指弾(フィンガー・バレット)』だ。闘気を圧縮したその一撃は、20mm機関砲に匹敵する。
「な、なんだッ!?」
「敵襲ぅぅ!!」
残りの傭兵たちが一斉に襲いかかる。魔導ライフルが火を噴き、大剣が振り下ろされる。
だが、龍魔呂は避けない。
ただ、赤黒い闘気を纏った指輪が妖しく輝くだけだ。
「子供を食い物にするクズに……生きる資格はない」
龍魔呂が右拳を握りしめる。
世界から「色」が消えた。
「鬼神流――『絶花(ぜっか)』」
放たれたのは、ただの右ストレート。
だが、そこから噴出したのは赤黒い闘気の嵐だった。
暴風が空間ごとねじ曲げ、襲いかかってきた10人以上の傭兵たちを飲み込む。
「ぎゃあああああああ!?」
断末魔すら残らない。
闘気の嵐が過ぎ去った後には、地面が抉れた跡と、塵一つ残らない静寂だけがあった。
残った数人が、腰を抜かして後退る。
「ば、化け物……! 貴様、何者だ!」
「……死を呼ぶ四番。地獄でそう名乗れ」
カリリ。
龍魔呂が二つ目の角砂糖を噛み砕く音が、彼らの最期の記憶となった。
***
23時55分。
鮫島たちが第4倉庫の前に到着した時、そこには誰もいなかった。
ただ、不自然に抉れた地面と、微かに漂う甘い砂糖の匂いだけが残っている。
「お、おい隊長……。見張りの30人はどうしたんだよ? 逃げたのか?」
イグニスが不思議そうに周囲を見回す。
あの好戦的な竜人が、本能的な恐怖を感じて尻尾を丸めていた。
「さあな。……優秀な清掃業者が入ったんだろ」
鮫島は表情を変えず、倉庫の巨大な扉を見上げた。
障害は消えた。
中では、ギルバート商会の幹部たちが、何も知らずに取引を始めているはずだ。
「よし、時間だ」
鮫島はKorthのシリンダーを確認し、二人の部下に合図を送る。
「作戦名『ドラゴン・ダイブ』を開始する。……イグニス、出番だ」
「おうよ! 待ちくたびれたぜ!」
「キャルル、閃光弾の準備は?」
「いつでもOK! 目くらましなら任せて!」
日付が変わる。
法で裁けぬ悪を、暴力という名の正義で粉砕する時間が来た。
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次の瞬間、倉庫の屋根が炎と共に砕け散った。
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