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EP 5
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取調室のグルメと貧乏アイドル
リベラの法廷戦術により、まんまと売人を取り逃がした鮫島たち。
怒りと空腹を抱えたT-SWAT一行は、王都警備隊の庁舎を出て、近くの定食屋の前を通りかかった。
「腹減ったなぁ……。なぁ隊長、俺様にもカツ丼ってのを食わせてくれよ」
「私も! 残業代が出ないなら、せめて夕飯くらい奢りなさいよ!」
イグニスとキャルルがブーブーと文句を垂れる。
鮫島は無視して、庁舎の裏口付近にあるベンチに視線を向けた。
そこに、明らかに不審な影があった。
ボロボロのパーカーを目深に被り、警備隊の窓をじーっと見つめながら、行ったり来たりしている小柄な人物。
時折、「あー、お腹すいたなぁー! カツ丼の匂いがするなぁー! 誰か捕まえてくれないかなぁー!」と、独り言(大音量)を叫んでいる。
「……いたぞ。ターゲットだ」
「え? あの浮浪者みたいなのが?」
キャルルが眉をひそめる中、鮫島は不審者に近づき、その肩をガシッと掴んだ。
「そこのお前。署の周りをうろつく不審人物として、任意同行を求める」
「ヒャッ!? ……あ、はい! 喜んで! 抵抗しません! お腹ペコペコです!」
不審者はフードを脱ぎ捨て、満面の笑みで振り返った。
透き通るような青い髪と、愛らしい瞳。
シーラン国の親善大使にして、現在は太郎国の最底辺で生きる地下アイドル、リーザだった。
***
再び、王都警備隊の取調室。
さっきまで売人が座っていた席には、今はリーザが座っている。
ただし、その目の前にあるのは調書ではなく、湯気を立てる「特製カツ丼(大盛り)」だ。
「いっただっきまーす!!」
リーザは箸を両手に持ち(マナー違反)、猛獣のような勢いでカツ丼にかぶりついた。
サクッ、ジュワッ。
揚げたての豚カツと、甘辛い出汁が染みた卵、そして白米のハーモニー。
「んん~っ!! おいひぃ~!!(美味しい)」
「……食い終わってから喋れ」
鮫島はパイプ椅子に座り、呆れた顔でコーヒーキャンディを舐めていた。
隣では、イグニスとキャルルが、ゴクリと唾を飲み込んでいる。
「な、なんだあの食いっぷりは……。俺様の豚汁より美味そうじゃねぇか……」
「くっ……! あの子、パンの耳だけじゃなかったのね。こんな裏技を知ってるなんて……!」
リーザは一瞬で丼を空にすると、満足げにふぅと息を吐き、最後にタクアンをポリポリとかじった。
「ごちそうさまでした! さすが鮫島刑事(デカ)、昭和のドラマ通りの取り調べですね!」
「……茶番は終わりだ。代金分の働きはしてもらうぞ」
鮫島は身を乗り出し、鋭い眼光を向けた。
「さっき釈放された売人……『ウェアラット』の背後にいる黒幕は誰だ?」
リーザはシーラン国の王女だが、今は貧乏長屋(シェアハウス)に住んでいる。
そして彼女のルームメイトには、エルフの次期女王候補・ルナがいる。
ルナの使う自然魔法は、街中の植物と会話できる。つまり、リーザは「街の草花すべて」を情報源にできるのだ。
「うーん……。ルナちゃんの植木鉢とお話ししたんですけどね」
リーザは爪楊枝でシーシーとやりながら(オッサンくさい)、とんでもない情報をサラリと言った。
「あのネズミさんたち、釈放された後、港の第4倉庫に向かったみたいですよ。『ギルバート商会』の裏帳簿を持って」
「ギルバート商会だと?」
鮫島が眉を動かす。
ギルバート商会は、表向きは香辛料を扱う中堅商社だが、裏では違法薬物の密輸に関与していると噂されていた。リベラが「トカゲの尻尾」と言ったのは、このことか。
「あと、今夜0時に、その倉庫で『大きな取引』があるって、倉庫裏の雑草さんが言ってました。なんでも、他国から仕入れた『魔導兵器』の受け渡しだとか」
「……魔導兵器?」
「はい。なんか、とっても危ないヤツみたいで……。雑草さんが『震えて眠れないよぉ』って泣いてました」
ビンゴだ。
薬物はただの資金源。奴らの本当の狙いは、魔導兵器の密輸によるクーデター、あるいはテロ行為。
リベラがあえて売人を逃がしたのは、奴らを泳がせて、この取引現場を一網打尽にさせるためだったのか。
(……食えない女だ。だが、感謝はしてやる)
鮫島は立ち上がり、ポケットから新しいコーヒーキャンディを取り出して、リーザの手のひらに乗せた。
「重要な情報だ。助かった」
「わぁ! デザート付き! やっぱり鮫島さんはいい人ですね!」
リーザは飴玉を包み紙ごとポケット(宝物入れ)にしまい込み、ピシッと敬礼した。
「じゃあ私、これにて失礼します! 公園の水道水で喉を潤してから、次の現場(スーパーの半額セール)に向かわなきゃいけないので!」
「……あぁ、行け。また何かあったら『自首』してこい」
リーザは嵐のように去っていった。
残された取調室には、カツ丼の甘い香りと、殺気立った部下二人が残された。
「おい隊長!! なんであいつだけカツ丼なんだよ!」
「俺様も情報ならあるぞ! 昔、ドラゴンのフンを踏んだことある!」
「それは情報じゃなくて黒歴史よ! ……でも隊長、場所は割れたわね」
キャルルが真剣な表情に戻る。
港の第4倉庫。今夜0時。
「ああ。相手は魔導兵器を持ち出す可能性が高い。……イグニス、キャルル。腹は決まったか?」
鮫島が問いかけると、イグニスはニヤリと笑い、キャルルは安全靴のつま先をトントンと床に打ち付けた。
「愚問だな。俺様の炎で、倉庫ごと灰にしてやるよ」
「残業代は弾んでもらうわよ。……公務員の力、見せてやりましょ」
鮫島はKorthのリボルバーを確認し、シリンダーを回転させた。
チャキッ、という金属音が心地よい。
「よし。……T-SWAT、出動(ムーブ・アウト)だ。今夜は派手にやるぞ」
法の及ばぬ悪には、鋼鉄の正義を。
いざ、決戦の地へ。
リベラの法廷戦術により、まんまと売人を取り逃がした鮫島たち。
怒りと空腹を抱えたT-SWAT一行は、王都警備隊の庁舎を出て、近くの定食屋の前を通りかかった。
「腹減ったなぁ……。なぁ隊長、俺様にもカツ丼ってのを食わせてくれよ」
「私も! 残業代が出ないなら、せめて夕飯くらい奢りなさいよ!」
イグニスとキャルルがブーブーと文句を垂れる。
鮫島は無視して、庁舎の裏口付近にあるベンチに視線を向けた。
そこに、明らかに不審な影があった。
ボロボロのパーカーを目深に被り、警備隊の窓をじーっと見つめながら、行ったり来たりしている小柄な人物。
時折、「あー、お腹すいたなぁー! カツ丼の匂いがするなぁー! 誰か捕まえてくれないかなぁー!」と、独り言(大音量)を叫んでいる。
「……いたぞ。ターゲットだ」
「え? あの浮浪者みたいなのが?」
キャルルが眉をひそめる中、鮫島は不審者に近づき、その肩をガシッと掴んだ。
「そこのお前。署の周りをうろつく不審人物として、任意同行を求める」
「ヒャッ!? ……あ、はい! 喜んで! 抵抗しません! お腹ペコペコです!」
不審者はフードを脱ぎ捨て、満面の笑みで振り返った。
透き通るような青い髪と、愛らしい瞳。
シーラン国の親善大使にして、現在は太郎国の最底辺で生きる地下アイドル、リーザだった。
***
再び、王都警備隊の取調室。
さっきまで売人が座っていた席には、今はリーザが座っている。
ただし、その目の前にあるのは調書ではなく、湯気を立てる「特製カツ丼(大盛り)」だ。
「いっただっきまーす!!」
リーザは箸を両手に持ち(マナー違反)、猛獣のような勢いでカツ丼にかぶりついた。
サクッ、ジュワッ。
揚げたての豚カツと、甘辛い出汁が染みた卵、そして白米のハーモニー。
「んん~っ!! おいひぃ~!!(美味しい)」
「……食い終わってから喋れ」
鮫島はパイプ椅子に座り、呆れた顔でコーヒーキャンディを舐めていた。
隣では、イグニスとキャルルが、ゴクリと唾を飲み込んでいる。
「な、なんだあの食いっぷりは……。俺様の豚汁より美味そうじゃねぇか……」
「くっ……! あの子、パンの耳だけじゃなかったのね。こんな裏技を知ってるなんて……!」
リーザは一瞬で丼を空にすると、満足げにふぅと息を吐き、最後にタクアンをポリポリとかじった。
「ごちそうさまでした! さすが鮫島刑事(デカ)、昭和のドラマ通りの取り調べですね!」
「……茶番は終わりだ。代金分の働きはしてもらうぞ」
鮫島は身を乗り出し、鋭い眼光を向けた。
「さっき釈放された売人……『ウェアラット』の背後にいる黒幕は誰だ?」
リーザはシーラン国の王女だが、今は貧乏長屋(シェアハウス)に住んでいる。
そして彼女のルームメイトには、エルフの次期女王候補・ルナがいる。
ルナの使う自然魔法は、街中の植物と会話できる。つまり、リーザは「街の草花すべて」を情報源にできるのだ。
「うーん……。ルナちゃんの植木鉢とお話ししたんですけどね」
リーザは爪楊枝でシーシーとやりながら(オッサンくさい)、とんでもない情報をサラリと言った。
「あのネズミさんたち、釈放された後、港の第4倉庫に向かったみたいですよ。『ギルバート商会』の裏帳簿を持って」
「ギルバート商会だと?」
鮫島が眉を動かす。
ギルバート商会は、表向きは香辛料を扱う中堅商社だが、裏では違法薬物の密輸に関与していると噂されていた。リベラが「トカゲの尻尾」と言ったのは、このことか。
「あと、今夜0時に、その倉庫で『大きな取引』があるって、倉庫裏の雑草さんが言ってました。なんでも、他国から仕入れた『魔導兵器』の受け渡しだとか」
「……魔導兵器?」
「はい。なんか、とっても危ないヤツみたいで……。雑草さんが『震えて眠れないよぉ』って泣いてました」
ビンゴだ。
薬物はただの資金源。奴らの本当の狙いは、魔導兵器の密輸によるクーデター、あるいはテロ行為。
リベラがあえて売人を逃がしたのは、奴らを泳がせて、この取引現場を一網打尽にさせるためだったのか。
(……食えない女だ。だが、感謝はしてやる)
鮫島は立ち上がり、ポケットから新しいコーヒーキャンディを取り出して、リーザの手のひらに乗せた。
「重要な情報だ。助かった」
「わぁ! デザート付き! やっぱり鮫島さんはいい人ですね!」
リーザは飴玉を包み紙ごとポケット(宝物入れ)にしまい込み、ピシッと敬礼した。
「じゃあ私、これにて失礼します! 公園の水道水で喉を潤してから、次の現場(スーパーの半額セール)に向かわなきゃいけないので!」
「……あぁ、行け。また何かあったら『自首』してこい」
リーザは嵐のように去っていった。
残された取調室には、カツ丼の甘い香りと、殺気立った部下二人が残された。
「おい隊長!! なんであいつだけカツ丼なんだよ!」
「俺様も情報ならあるぞ! 昔、ドラゴンのフンを踏んだことある!」
「それは情報じゃなくて黒歴史よ! ……でも隊長、場所は割れたわね」
キャルルが真剣な表情に戻る。
港の第4倉庫。今夜0時。
「ああ。相手は魔導兵器を持ち出す可能性が高い。……イグニス、キャルル。腹は決まったか?」
鮫島が問いかけると、イグニスはニヤリと笑い、キャルルは安全靴のつま先をトントンと床に打ち付けた。
「愚問だな。俺様の炎で、倉庫ごと灰にしてやるよ」
「残業代は弾んでもらうわよ。……公務員の力、見せてやりましょ」
鮫島はKorthのリボルバーを確認し、シリンダーを回転させた。
チャキッ、という金属音が心地よい。
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