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第二章 未来を見る犯罪集団ナンバーズ
EP 5
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情報のカツ丼、再び
ナンバーズのアジトからNo.2(ツー)が消え、リーダーのゼロが精神的ダメージで引きこもってから数日。
T-SWAT本部(汚い倉庫)の空気は淀んでいた。
「……クソッ。手掛かりなしか」
鮫島はホワイトボードに貼られた地図を睨みつけ、苛立ち紛れに赤マルを灰皿に押し付けた。
時計塔の爆破以降、ナンバーズの動きはプッツリと途絶えている。
イグニスとキャルルが街を巡回しているが、成果はゼロ。
相手は『未来予知』と『テレポート』を持つ集団だ。こちらの捜査網など、あざ笑うかのようにすり抜けていく。
「……まともに追いかけても無駄か。なら、いつもの『裏ルート』を使うしかないな」
鮫島はジャケットを羽織り、ポケットに大量の小銭(経費)を詰め込んで立ち上がった。
***
一時間後。王都警備隊、第1取調室。
そこには、もはや恒例行事となった光景が広がっていた。
パイプ椅子に座る鮫島の前には、ドンブリに顔を突っ込んで猛食する少女――リーザの姿がある。
「んぐっ、はふっ! ん~~っ! やっぱりタダで食べるカツ丼は格別ですねぇ!」
リーザは幸せそうに頬を緩ませ、タクアンをポリポリとかじる。
だが、今日の鮫島の視線は、彼女の隣に向けられていた。
そこには、もう一人。
ボロボロのフリフリドレスを着た、金髪縦ロールの少女が座っていた。
かつてナンバーズのNo.2と呼ばれた女、ツーだ。
彼女もまた、人生初の『カツ丼』を前に、手が震えていた。
「……こ、これが……噂の『カツドン』……」
ツーは箸を震わせながら、黄金色に輝く卵とじのカツを口に運んだ。
サクッ。ジュワッ。
「…………ッ!!!」
ツーのカトラリー(箸)が止まった。
瞳孔が開く。脳内で快楽物質が爆発する。
『貧乏神の加護』による【味覚感度3000倍】が、豚肉の脂身の甘さを、醤油と出汁のコクを、白米の抱擁力を、極上の麻薬のように増幅して脳髄に叩き込んだのだ。
「あ、あ……あま……うま……うみゃぁぁぁぁぁ!!」
ツーは理性を失った。
ガツガツガツッ!
元伯爵令嬢とは思えない速度で、獣のように丼を掻き込む。
口の周りを卵だらけにし、米粒を鼻につけながら、涙を流して貪り食う。
「おいひぃ! パイセン! これヤバイです! 雑草より美味しいですぅぅ!」
「でしょ? これが『権力の味』よ。よく味わいなさい後輩」
鮫島は、二つの丼があっという間に空になるのを見届け、冷めたコーヒーをすすった。
「……食い終わったか。なら、仕事だ」
鮫島は新しいコーヒーキャンディを二つ、テーブルに転がした。
「リーザ。ナンバーズの動きについて、何か情報は拾ったか」
「んー、それがですねぇ。最近、私の『草花ネットワーク』にも引っかからないんですよ。奴ら、結界か何かでアジトを隠してるみたいで」
リーザが残念そうに首を振る。
だが、彼女はニヤリと笑い、隣で丼の底を舐めているツーの肩を叩いた。
「でも今日は、とっておきの『ゲスト』を連れてきましたから。……ねえ、ツーちゃん?」
「ふぇ? ……あ、はい!」
ツーは慌てて顔を上げ、鮫島に向き直った。
「そいつは……誰だ? お前の新しい友達か?」
「ええ。公園で拾った私の弟子です。……でも、少し前までは『ナンバーズのNo.2』だった子ですよ」
「……は?」
鮫島の目が点になった。
この、カツ丼の汁で顔をベタベタにした、浮浪者寸前の少女が?
凶悪テロ組織の幹部?
「あ、あの……元・No.2のツーです。……あ、今はただのルルシアです。カツ丼ごちそうさまでした!」
ツーはペコペコと頭を下げる。
鮫島は頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
どういう経緯でこうなったのかは聞きたくない。だが、これは千載一遇のチャンスだ。
「……いいだろう。取引だ、元No.2」
鮫島は身を乗り出し、鋭い眼光を向けた。
「お代わり(二杯目)が欲しければ……ゼロの居場所と、次の目的を吐け」
「吐きます!! 全部言います!!」
ツーは即答した。
彼女の中の忠誠心など、カツ丼一口目で消滅していた。今の彼女の主(マスター)は、ゼロではなく豚ロース肉だ。
「ゼロ様……いえ、あの白髪野郎のアジトは移動型なので特定できません。でも、次の狙いは分かります」
ツーは真剣な表情で(口元の米粒はそのままに)告げた。
「『王都第1魔導エネルギープラント』。……そこを爆破し、流出した膨大な魔力を回収するのが目的です」
「エネルギープラントだと? ……何のためにそんな魔力を」
「『ファイブ』のためです」
ファイブ。
鮫島が初めて聞くコードネームだ。
「ファイブは、私たちの切り札……『リセット(時間逆行)』のスキルを持った子供です」
「時間……逆行……?」
「はい。作戦が失敗しても、ファイブの能力を使えば、時間を巻き戻してやり直せる。……でも、それには膨大な魔力が必要です。だからプラントを狙うんです」
鮫島の背筋に冷たいものが走った。
未来予知だけでも厄介なのに、失敗しても「セーブ&ロード」でやり直せる?
そんなふざけた能力相手に、どうやって勝てというのか。完全無敵のクソゲーじゃないか。
「……なるほどな。奴らが捕まらない理由が分かった」
鮫島はタバコを取り出し、深く吸い込んだ。
だが、絶望はしていない。
相手の手札が割れれば、対策(タクティクス)は立てられる。
「エネルギープラントの魔力を奪うには、大規模な魔導装置の設置が必要だ。つまり、奴らは一定時間、その場に留まらなきゃならない」
「はい。ゼロ様も現場に出てくるはずです」
そこが狙い目だ。
未来が見えようが、時間が戻せようが、物理的に「詰め」てしまえばいい。
「……上出来だ。いい情報だった」
鮫島は立ち上がり、取調室の外にいる警備員に声をかけた。
「おい、カツ丼追加だ。……特盛りで二つな」
「やったぁぁぁ!! 鮫島さん大好きぃぃ!!」
「一生ついていきますぅぅ!!」
歓喜の悲鳴を上げる貧乏コンビを背に、鮫島は部屋を出た。
向かう先はT-SWAT本部。
イグニスとキャルルを叩き起こし、作戦会議だ。
「待ってろよ、ゼロ。……お前のそのふざけた未来図、俺たちが上書きしてやる」
反撃の狼煙が上がる。
カツ丼二杯分の経費と引き換えに得た情報は、世界を救う鍵となるか。
ナンバーズのアジトからNo.2(ツー)が消え、リーダーのゼロが精神的ダメージで引きこもってから数日。
T-SWAT本部(汚い倉庫)の空気は淀んでいた。
「……クソッ。手掛かりなしか」
鮫島はホワイトボードに貼られた地図を睨みつけ、苛立ち紛れに赤マルを灰皿に押し付けた。
時計塔の爆破以降、ナンバーズの動きはプッツリと途絶えている。
イグニスとキャルルが街を巡回しているが、成果はゼロ。
相手は『未来予知』と『テレポート』を持つ集団だ。こちらの捜査網など、あざ笑うかのようにすり抜けていく。
「……まともに追いかけても無駄か。なら、いつもの『裏ルート』を使うしかないな」
鮫島はジャケットを羽織り、ポケットに大量の小銭(経費)を詰め込んで立ち上がった。
***
一時間後。王都警備隊、第1取調室。
そこには、もはや恒例行事となった光景が広がっていた。
パイプ椅子に座る鮫島の前には、ドンブリに顔を突っ込んで猛食する少女――リーザの姿がある。
「んぐっ、はふっ! ん~~っ! やっぱりタダで食べるカツ丼は格別ですねぇ!」
リーザは幸せそうに頬を緩ませ、タクアンをポリポリとかじる。
だが、今日の鮫島の視線は、彼女の隣に向けられていた。
そこには、もう一人。
ボロボロのフリフリドレスを着た、金髪縦ロールの少女が座っていた。
かつてナンバーズのNo.2と呼ばれた女、ツーだ。
彼女もまた、人生初の『カツ丼』を前に、手が震えていた。
「……こ、これが……噂の『カツドン』……」
ツーは箸を震わせながら、黄金色に輝く卵とじのカツを口に運んだ。
サクッ。ジュワッ。
「…………ッ!!!」
ツーのカトラリー(箸)が止まった。
瞳孔が開く。脳内で快楽物質が爆発する。
『貧乏神の加護』による【味覚感度3000倍】が、豚肉の脂身の甘さを、醤油と出汁のコクを、白米の抱擁力を、極上の麻薬のように増幅して脳髄に叩き込んだのだ。
「あ、あ……あま……うま……うみゃぁぁぁぁぁ!!」
ツーは理性を失った。
ガツガツガツッ!
元伯爵令嬢とは思えない速度で、獣のように丼を掻き込む。
口の周りを卵だらけにし、米粒を鼻につけながら、涙を流して貪り食う。
「おいひぃ! パイセン! これヤバイです! 雑草より美味しいですぅぅ!」
「でしょ? これが『権力の味』よ。よく味わいなさい後輩」
鮫島は、二つの丼があっという間に空になるのを見届け、冷めたコーヒーをすすった。
「……食い終わったか。なら、仕事だ」
鮫島は新しいコーヒーキャンディを二つ、テーブルに転がした。
「リーザ。ナンバーズの動きについて、何か情報は拾ったか」
「んー、それがですねぇ。最近、私の『草花ネットワーク』にも引っかからないんですよ。奴ら、結界か何かでアジトを隠してるみたいで」
リーザが残念そうに首を振る。
だが、彼女はニヤリと笑い、隣で丼の底を舐めているツーの肩を叩いた。
「でも今日は、とっておきの『ゲスト』を連れてきましたから。……ねえ、ツーちゃん?」
「ふぇ? ……あ、はい!」
ツーは慌てて顔を上げ、鮫島に向き直った。
「そいつは……誰だ? お前の新しい友達か?」
「ええ。公園で拾った私の弟子です。……でも、少し前までは『ナンバーズのNo.2』だった子ですよ」
「……は?」
鮫島の目が点になった。
この、カツ丼の汁で顔をベタベタにした、浮浪者寸前の少女が?
凶悪テロ組織の幹部?
「あ、あの……元・No.2のツーです。……あ、今はただのルルシアです。カツ丼ごちそうさまでした!」
ツーはペコペコと頭を下げる。
鮫島は頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
どういう経緯でこうなったのかは聞きたくない。だが、これは千載一遇のチャンスだ。
「……いいだろう。取引だ、元No.2」
鮫島は身を乗り出し、鋭い眼光を向けた。
「お代わり(二杯目)が欲しければ……ゼロの居場所と、次の目的を吐け」
「吐きます!! 全部言います!!」
ツーは即答した。
彼女の中の忠誠心など、カツ丼一口目で消滅していた。今の彼女の主(マスター)は、ゼロではなく豚ロース肉だ。
「ゼロ様……いえ、あの白髪野郎のアジトは移動型なので特定できません。でも、次の狙いは分かります」
ツーは真剣な表情で(口元の米粒はそのままに)告げた。
「『王都第1魔導エネルギープラント』。……そこを爆破し、流出した膨大な魔力を回収するのが目的です」
「エネルギープラントだと? ……何のためにそんな魔力を」
「『ファイブ』のためです」
ファイブ。
鮫島が初めて聞くコードネームだ。
「ファイブは、私たちの切り札……『リセット(時間逆行)』のスキルを持った子供です」
「時間……逆行……?」
「はい。作戦が失敗しても、ファイブの能力を使えば、時間を巻き戻してやり直せる。……でも、それには膨大な魔力が必要です。だからプラントを狙うんです」
鮫島の背筋に冷たいものが走った。
未来予知だけでも厄介なのに、失敗しても「セーブ&ロード」でやり直せる?
そんなふざけた能力相手に、どうやって勝てというのか。完全無敵のクソゲーじゃないか。
「……なるほどな。奴らが捕まらない理由が分かった」
鮫島はタバコを取り出し、深く吸い込んだ。
だが、絶望はしていない。
相手の手札が割れれば、対策(タクティクス)は立てられる。
「エネルギープラントの魔力を奪うには、大規模な魔導装置の設置が必要だ。つまり、奴らは一定時間、その場に留まらなきゃならない」
「はい。ゼロ様も現場に出てくるはずです」
そこが狙い目だ。
未来が見えようが、時間が戻せようが、物理的に「詰め」てしまえばいい。
「……上出来だ。いい情報だった」
鮫島は立ち上がり、取調室の外にいる警備員に声をかけた。
「おい、カツ丼追加だ。……特盛りで二つな」
「やったぁぁぁ!! 鮫島さん大好きぃぃ!!」
「一生ついていきますぅぅ!!」
歓喜の悲鳴を上げる貧乏コンビを背に、鮫島は部屋を出た。
向かう先はT-SWAT本部。
イグニスとキャルルを叩き起こし、作戦会議だ。
「待ってろよ、ゼロ。……お前のそのふざけた未来図、俺たちが上書きしてやる」
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