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第六章 ヤサイマシマシニンニクアブラカラメと紅蓮の地獄龍
EP 4
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呪文詠唱(コール)
「ニンニク入れますか?」
店主の野太い声が、狭い店内に響いた。
それは単なる質問ではない。この『豚神屋』における、客と店主の真剣勝負の合図――通称『コール』だ。
まずは俺の番だ。
俺は姿勢を正し、一息でその呪文を詠唱した。
「ヤサイマシマシアブラカラメニンニクスコシ」
淀みなく、リズムよく。
店主の手が止まることなく、トングとお玉が舞う。
「うい」という短い返事と共に、俺のオーダーが確定した。
「す、すごい……! 今の言葉、一体何語なんですの……?」
隣でリベラが目を丸くしている。
「次の方、どうします?」
続いて指名されたのは、イグニスだ。
彼はニヤリと笑い、牙を剥き出しにして叫んだ。
「おうよ! 俺様は『全マシ』だ! ニンニクはガンガン入れろ!」
「へい、全マシ一丁」
次はリーザ。
彼女はプロの貧乏人としての矜持を見せた。
「ヤサイアブラマシマシで! あ、脂身の多い端っこ(端豚)があればそこでお願いしますぅ!」
「あいよ」
そして、最後。
もっとも危険な『大豚ダブル』の食券を買ってしまった少女、ルルシアの番だ。
「えっ……あ、えっと……」
ルルシアは動揺した。
前の三人が唱えた呪文の意味がわからない。
マシ? カラメ? アブラ?
貴族の社交界では一度も聞いたことのない単語だ。
「お客さん、ニンニクは?」
店主の眼光が鋭くなる。
厨房の熱気と、豚骨の圧力。
ルルシアの理性が飛びそうになる。
(わ、わからないわ! でも……本能が言ってる……! 『もっとよこせ』って!)
彼女の中に眠る『野生の飢餓感』が、彼女の喉を突き動かした。
彼女はカウンターに身を乗り出し、半ば叫ぶようにその言葉を吐き出した。
「ぜ……全マシマシでぇぇぇッ!!」
店内が一瞬静まり返った。
店主がニヤリと笑った。
「……いい度胸だ、お嬢ちゃん」
ドンッ!!
数分後、カウンターの上に重厚な音が響いた。
着丼。
それは、食事というよりは『地形』の出現だった。
「ひッ……!?」
ルルシアの目の前に置かれたのは、もはやラーメンと呼んでいいのか迷う物体。
丼の縁から天に向かってそびえ立つ、茹でモヤシとキャベツのエベレスト。
その山肌を覆う、雪崩のような背脂の塊。
麓(ふもと)に鎮座する、レンガブロックのような分厚いチャーシューの城壁。
そして、頂上に無造作に盛られた、刻みニンニクの冠。
「こ、これが……ラーメン……? 山じゃなくて……?」
ルルシアが戦慄する。
総重量、推定二キログラム。
カロリー、測定不能(計測したら負け)。
「ひるむな、新人」
俺は割り箸をパキンと割った。
「この山を制圧するには、スピードと勢いが全てだ。麺がスープを吸って膨張(デブ)る前に、胃袋へ叩き込め。……残したら厳禁(ギルティ)だぞ」
俺の言葉に、ルルシアはゴクリと喉を鳴らした。
逃げ場はない。
目の前には、圧倒的な暴力と、そして抗いがたい誘惑の香りが漂っている。
「い、いただきます……ッ!」
ルルシアは箸を突き立てた。
まずはスープを一口。
ドロリとした茶色い液体が、舌の上を転がる。
ガツンッ!!
(な……何これぇぇぇッ!?)
脳天をハンマーで殴られたような衝撃。
豚の旨味が凝縮されたスープに、醤油の塩気(キレ)、化学調味料の旨味、そしてニンニクの刺激が、渾然一体となって襲いかかってくる。
上品さなど欠片もない。だが、とてつもなく美味い。
「う……うまい……! 何これ、止まらない……!」
ルルシアは山盛りのヤサイをかき分け、奥から極太の麺を引きずり出した。
ワシワシとした食感の剛麺。
それを啜り、肉を食らい、脂を飲む。
「はぐっ! むぐっ! んん~ッ!」
彼女の令嬢としての品位は、背脂と共に溶け去った。
あるのは、ただ一心不乱にカロリーを摂取する『獣』の姿だけ。
「いいぞルルシア! その調子だ!」
「負けてらんねぇ! 俺様も食うぜぇ!」
俺とイグニスも麺を啜る。
店内には、ズズズッ、ハフハフッという、男たちの(一部美少女の)咀嚼音だけが響き渡る。
それはまさに、聖なる食事(バトル)だった。
だが、その店の外には、再びあの『悪夢』が迫っていた。
「……い、いるぞ。あの中だ」
店の前の通りに、数十人の黒服の男たちが集結していた。
先頭に立つのは、ツルツルの頭をニット帽で隠した男、ナンバー1(ヴォルフ)。
彼は店のガラス戸越しに見える俺たちの背中を睨みつけたが、その足は小刻みに震えていた。
前回のループで刻まれた『ハゲのトラウマ』が、彼の最強の闘志を蝕んでいたのだ。
「1様……やらないんですか?」
「う、うるせぇ! いきなり突入したら……ほら、他のお客さんに迷惑だろ!?」
1は震える声で言い訳をした。
本当は、あの店の中に入るのが怖くて仕方がないのだ。
だが、0からの命令は絶対。
「くそっ……! 出てこい! 出てきやがれ!」
1は意を決して、店に向かって叫んだ。
「オラァァァッ! ナンバーズだぞコラァ! で、でてこいやぁ!!」
しかし、その声は裏返り、あまりにも情けない響きとなって、換気扇の轟音にかき消されていった。
「ニンニク入れますか?」
店主の野太い声が、狭い店内に響いた。
それは単なる質問ではない。この『豚神屋』における、客と店主の真剣勝負の合図――通称『コール』だ。
まずは俺の番だ。
俺は姿勢を正し、一息でその呪文を詠唱した。
「ヤサイマシマシアブラカラメニンニクスコシ」
淀みなく、リズムよく。
店主の手が止まることなく、トングとお玉が舞う。
「うい」という短い返事と共に、俺のオーダーが確定した。
「す、すごい……! 今の言葉、一体何語なんですの……?」
隣でリベラが目を丸くしている。
「次の方、どうします?」
続いて指名されたのは、イグニスだ。
彼はニヤリと笑い、牙を剥き出しにして叫んだ。
「おうよ! 俺様は『全マシ』だ! ニンニクはガンガン入れろ!」
「へい、全マシ一丁」
次はリーザ。
彼女はプロの貧乏人としての矜持を見せた。
「ヤサイアブラマシマシで! あ、脂身の多い端っこ(端豚)があればそこでお願いしますぅ!」
「あいよ」
そして、最後。
もっとも危険な『大豚ダブル』の食券を買ってしまった少女、ルルシアの番だ。
「えっ……あ、えっと……」
ルルシアは動揺した。
前の三人が唱えた呪文の意味がわからない。
マシ? カラメ? アブラ?
貴族の社交界では一度も聞いたことのない単語だ。
「お客さん、ニンニクは?」
店主の眼光が鋭くなる。
厨房の熱気と、豚骨の圧力。
ルルシアの理性が飛びそうになる。
(わ、わからないわ! でも……本能が言ってる……! 『もっとよこせ』って!)
彼女の中に眠る『野生の飢餓感』が、彼女の喉を突き動かした。
彼女はカウンターに身を乗り出し、半ば叫ぶようにその言葉を吐き出した。
「ぜ……全マシマシでぇぇぇッ!!」
店内が一瞬静まり返った。
店主がニヤリと笑った。
「……いい度胸だ、お嬢ちゃん」
ドンッ!!
数分後、カウンターの上に重厚な音が響いた。
着丼。
それは、食事というよりは『地形』の出現だった。
「ひッ……!?」
ルルシアの目の前に置かれたのは、もはやラーメンと呼んでいいのか迷う物体。
丼の縁から天に向かってそびえ立つ、茹でモヤシとキャベツのエベレスト。
その山肌を覆う、雪崩のような背脂の塊。
麓(ふもと)に鎮座する、レンガブロックのような分厚いチャーシューの城壁。
そして、頂上に無造作に盛られた、刻みニンニクの冠。
「こ、これが……ラーメン……? 山じゃなくて……?」
ルルシアが戦慄する。
総重量、推定二キログラム。
カロリー、測定不能(計測したら負け)。
「ひるむな、新人」
俺は割り箸をパキンと割った。
「この山を制圧するには、スピードと勢いが全てだ。麺がスープを吸って膨張(デブ)る前に、胃袋へ叩き込め。……残したら厳禁(ギルティ)だぞ」
俺の言葉に、ルルシアはゴクリと喉を鳴らした。
逃げ場はない。
目の前には、圧倒的な暴力と、そして抗いがたい誘惑の香りが漂っている。
「い、いただきます……ッ!」
ルルシアは箸を突き立てた。
まずはスープを一口。
ドロリとした茶色い液体が、舌の上を転がる。
ガツンッ!!
(な……何これぇぇぇッ!?)
脳天をハンマーで殴られたような衝撃。
豚の旨味が凝縮されたスープに、醤油の塩気(キレ)、化学調味料の旨味、そしてニンニクの刺激が、渾然一体となって襲いかかってくる。
上品さなど欠片もない。だが、とてつもなく美味い。
「う……うまい……! 何これ、止まらない……!」
ルルシアは山盛りのヤサイをかき分け、奥から極太の麺を引きずり出した。
ワシワシとした食感の剛麺。
それを啜り、肉を食らい、脂を飲む。
「はぐっ! むぐっ! んん~ッ!」
彼女の令嬢としての品位は、背脂と共に溶け去った。
あるのは、ただ一心不乱にカロリーを摂取する『獣』の姿だけ。
「いいぞルルシア! その調子だ!」
「負けてらんねぇ! 俺様も食うぜぇ!」
俺とイグニスも麺を啜る。
店内には、ズズズッ、ハフハフッという、男たちの(一部美少女の)咀嚼音だけが響き渡る。
それはまさに、聖なる食事(バトル)だった。
だが、その店の外には、再びあの『悪夢』が迫っていた。
「……い、いるぞ。あの中だ」
店の前の通りに、数十人の黒服の男たちが集結していた。
先頭に立つのは、ツルツルの頭をニット帽で隠した男、ナンバー1(ヴォルフ)。
彼は店のガラス戸越しに見える俺たちの背中を睨みつけたが、その足は小刻みに震えていた。
前回のループで刻まれた『ハゲのトラウマ』が、彼の最強の闘志を蝕んでいたのだ。
「1様……やらないんですか?」
「う、うるせぇ! いきなり突入したら……ほら、他のお客さんに迷惑だろ!?」
1は震える声で言い訳をした。
本当は、あの店の中に入るのが怖くて仕方がないのだ。
だが、0からの命令は絶対。
「くそっ……! 出てこい! 出てきやがれ!」
1は意を決して、店に向かって叫んだ。
「オラァァァッ! ナンバーズだぞコラァ! で、でてこいやぁ!!」
しかし、その声は裏返り、あまりにも情けない響きとなって、換気扇の轟音にかき消されていった。
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