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第六章 ヤサイマシマシニンニクアブラカラメと紅蓮の地獄龍
EP 5
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トラウマのナンバー1
『豚神屋』の店外。
換気扇から噴き出す白煙と、強烈な豚骨臭の中に、数十人の男たちがたむろしていた。
犯罪者集団ナンバーズの精鋭部隊だ。
その中心に、リーダー格であるナンバー1(ヴォルフ)が立っていた。
彼は深々とニット帽を被り、腕組みをして店の入り口を睨んでいる。
だが、その膝は小刻みに震えていた。ガクガクと、生まれたての小鹿のように。
「(……なんだ? なんなんだ、この震えは……?)」
1(ヴォルフ)は脂汗を流しながら自問した。
0様からの命令は『皆殺し』。
相手はただの冒険者と、裏切り者の2(ルルシア)。
俺のユニークスキル【破壊】があれば、あんなボロい店ごと木っ端微塵にするのは造作もないことだ。
頭ではわかっている。
だが、一歩踏み出そうとすると、脳裏に強烈なフラッシュバックが走るのだ。
――灼熱の赤い光。
――ジリジリと焼ける音。
――そして、頭皮に感じる涼しい風。
「ひぃッ……!?」
1は反射的に自分の頭(ニット帽の上)を押さえた。
ある。髪はある。
今はまだ、フサフサだ。
だというのに、なぜか「自分はハゲている」という確信めいた恐怖が消えない。
「1様……? どうしました? 顔色が真っ青ですが」
部下の戦闘員が心配そうに声をかける。
「う、うるせぇ! 武者震いだ! ……くそっ、なんで俺が出て行かなきゃならねぇんだ……」
1は恐怖を怒りで塗りつぶそうとした。
そうだ、俺は最強だ。ハゲてなんかない。
彼は大きく息を吸い込み、店に向かって怒声を張り上げた。
「オラァァァッ! 中にいるのはわかってんだぞォォッ!」
……反応がない。
店内からは、ただ「ズズズッ」という麺をすする音と、食器がぶつかる音だけが聞こえてくる。
「む、無視かよ……! ふざけんな!」
1はさらに声を張り上げた。
前回の記憶(トラウマ)のせいで、これ以上店に近づくことができない。
だから、精一杯の虚勢を張って、相手を呼び出すしかなかった。
「ビビってないで出てきやがれ! ナンバーズ様のお通りだぞ! ……で、でてこいやぁぁぁっ!!」
渾身の叫び。
だが、恐怖で喉が締まっていたせいで、その声は情けなく裏返り、ヘナヘナとした高音になってしまった。
「…………」
部下たちが「えっ、今の何?」という顔で1を見る。
1は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「見ンな! 今は喉の調子が悪いんだよ!」
***
一方、店内。
1の必死の叫びなど、誰の耳にも届いていなかった。
なぜなら、ここは戦場だからだ。
「いいかルルシア! そろそろ『天地返し』だ!」
竜が箸を器用に使い、丼の底にある麺をグワッと持ち上げ、上のヤサイと入れ替えた。
「て、てんちがえし……!?」
隣の席で格闘していたルルシアが、涙目で聞き返す。
彼女の目の前の『大豚ダブル』は、まだ山頂が少し削れた程度だ。
「そうだ! 伸びやすい麺を上に、スープの熱でクタらせたいヤサイを下に! これで後半戦のペースが落ちない!」
「わ、わかりましたぁ! ……エイッ!」
ルルシアも見よう見まねで麺をひっくり返す。
湯気がボワッと顔にかかる。
スープを吸って褐色に染まった極太麺が、妖艶な姿を現した。
「はぐっ! んぐぐ……!」
ルルシアは麺を口いっぱいに頬張った。
苦しい。お腹がはち切れそうだ。
なのに入っていく。ニンニクの刺激が、満腹中枢を麻痺させているのだ。
「(これが……『食べる』ということ……! 生きるということ……!)」
彼女の脳内は、豚と脂とカエシ(醤油ダレ)の情報だけで埋め尽くされていた。
外で誰かが叫んでいる?
知ったことか。今は目の前のチャーシューをどう攻略するかが、世界で一番重要な問題なのだ。
***
再び店外。
「……出てこねぇ」
1は絶望していた。
無視されている。完全に、空気扱いだ。
最強の能力者であるこの俺が、ラーメン以下の存在だというのか。
「おのれ……おのれぇぇぇッ!!」
プライドを傷つけられた1の中で、恐怖が殺意へと変わった。
もういい。呼び出す必要などない。
この距離から魔法を撃ち込み、店ごと生き埋めにしてやる。
「野郎ども! 構えろ! 一斉射撃で、この汚ぇ店を更地にするぞ!」
1が右手を掲げ、破壊の魔力を練り上げる。
部下たちも剣や杖を構え、殺気を放ち始めた。
ビリビリビリ……。
数十人分の魔力の高まりが、大気を震わせ、豚神屋のガラス戸をガタガタと揺らした。
もはや食事どころではない振動。
だが、それが――店内で静かにチャーシューを味わっていた、ある「災害」のスイッチを押してしまった。
「……ん」
ルナが箸を止めた。
彼女は口元についた背脂をナプキンで拭うと、不機嫌そうに眉をひそめた。
「……うるちゃい」
彼女は箸を持ったまま、ガラス戸の向こうの影を睨みつけた。
「今、食事中なの。……静かにできないなら、静かにさせてあげる」
ルナの手の中で、割り箸が黄金色の光を帯び始めた。
それは世界樹の杖にも匹敵する、神話級の魔力発動の前触れだった。
『豚神屋』の店外。
換気扇から噴き出す白煙と、強烈な豚骨臭の中に、数十人の男たちがたむろしていた。
犯罪者集団ナンバーズの精鋭部隊だ。
その中心に、リーダー格であるナンバー1(ヴォルフ)が立っていた。
彼は深々とニット帽を被り、腕組みをして店の入り口を睨んでいる。
だが、その膝は小刻みに震えていた。ガクガクと、生まれたての小鹿のように。
「(……なんだ? なんなんだ、この震えは……?)」
1(ヴォルフ)は脂汗を流しながら自問した。
0様からの命令は『皆殺し』。
相手はただの冒険者と、裏切り者の2(ルルシア)。
俺のユニークスキル【破壊】があれば、あんなボロい店ごと木っ端微塵にするのは造作もないことだ。
頭ではわかっている。
だが、一歩踏み出そうとすると、脳裏に強烈なフラッシュバックが走るのだ。
――灼熱の赤い光。
――ジリジリと焼ける音。
――そして、頭皮に感じる涼しい風。
「ひぃッ……!?」
1は反射的に自分の頭(ニット帽の上)を押さえた。
ある。髪はある。
今はまだ、フサフサだ。
だというのに、なぜか「自分はハゲている」という確信めいた恐怖が消えない。
「1様……? どうしました? 顔色が真っ青ですが」
部下の戦闘員が心配そうに声をかける。
「う、うるせぇ! 武者震いだ! ……くそっ、なんで俺が出て行かなきゃならねぇんだ……」
1は恐怖を怒りで塗りつぶそうとした。
そうだ、俺は最強だ。ハゲてなんかない。
彼は大きく息を吸い込み、店に向かって怒声を張り上げた。
「オラァァァッ! 中にいるのはわかってんだぞォォッ!」
……反応がない。
店内からは、ただ「ズズズッ」という麺をすする音と、食器がぶつかる音だけが聞こえてくる。
「む、無視かよ……! ふざけんな!」
1はさらに声を張り上げた。
前回の記憶(トラウマ)のせいで、これ以上店に近づくことができない。
だから、精一杯の虚勢を張って、相手を呼び出すしかなかった。
「ビビってないで出てきやがれ! ナンバーズ様のお通りだぞ! ……で、でてこいやぁぁぁっ!!」
渾身の叫び。
だが、恐怖で喉が締まっていたせいで、その声は情けなく裏返り、ヘナヘナとした高音になってしまった。
「…………」
部下たちが「えっ、今の何?」という顔で1を見る。
1は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「見ンな! 今は喉の調子が悪いんだよ!」
***
一方、店内。
1の必死の叫びなど、誰の耳にも届いていなかった。
なぜなら、ここは戦場だからだ。
「いいかルルシア! そろそろ『天地返し』だ!」
竜が箸を器用に使い、丼の底にある麺をグワッと持ち上げ、上のヤサイと入れ替えた。
「て、てんちがえし……!?」
隣の席で格闘していたルルシアが、涙目で聞き返す。
彼女の目の前の『大豚ダブル』は、まだ山頂が少し削れた程度だ。
「そうだ! 伸びやすい麺を上に、スープの熱でクタらせたいヤサイを下に! これで後半戦のペースが落ちない!」
「わ、わかりましたぁ! ……エイッ!」
ルルシアも見よう見まねで麺をひっくり返す。
湯気がボワッと顔にかかる。
スープを吸って褐色に染まった極太麺が、妖艶な姿を現した。
「はぐっ! んぐぐ……!」
ルルシアは麺を口いっぱいに頬張った。
苦しい。お腹がはち切れそうだ。
なのに入っていく。ニンニクの刺激が、満腹中枢を麻痺させているのだ。
「(これが……『食べる』ということ……! 生きるということ……!)」
彼女の脳内は、豚と脂とカエシ(醤油ダレ)の情報だけで埋め尽くされていた。
外で誰かが叫んでいる?
知ったことか。今は目の前のチャーシューをどう攻略するかが、世界で一番重要な問題なのだ。
***
再び店外。
「……出てこねぇ」
1は絶望していた。
無視されている。完全に、空気扱いだ。
最強の能力者であるこの俺が、ラーメン以下の存在だというのか。
「おのれ……おのれぇぇぇッ!!」
プライドを傷つけられた1の中で、恐怖が殺意へと変わった。
もういい。呼び出す必要などない。
この距離から魔法を撃ち込み、店ごと生き埋めにしてやる。
「野郎ども! 構えろ! 一斉射撃で、この汚ぇ店を更地にするぞ!」
1が右手を掲げ、破壊の魔力を練り上げる。
部下たちも剣や杖を構え、殺気を放ち始めた。
ビリビリビリ……。
数十人分の魔力の高まりが、大気を震わせ、豚神屋のガラス戸をガタガタと揺らした。
もはや食事どころではない振動。
だが、それが――店内で静かにチャーシューを味わっていた、ある「災害」のスイッチを押してしまった。
「……ん」
ルナが箸を止めた。
彼女は口元についた背脂をナプキンで拭うと、不機嫌そうに眉をひそめた。
「……うるちゃい」
彼女は箸を持ったまま、ガラス戸の向こうの影を睨みつけた。
「今、食事中なの。……静かにできないなら、静かにさせてあげる」
ルナの手の中で、割り箸が黄金色の光を帯び始めた。
それは世界樹の杖にも匹敵する、神話級の魔力発動の前触れだった。
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