『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 21

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嘘だらけの図演習(ウォーゲーム)
昭和17年(1942年)5月1日。
戦艦「大和」の作戦室では、ミッドウェー作戦に向けた「図上演習(ウォーゲーム)」が行われていた。
巨大なテーブルの上に広げられた海図。
赤軍(アメリカ)と青軍(日本)の参謀たちが、サイコロと計算尺を手に、模型の駒を動かしている。
「……赤軍、空母部隊より攻撃隊発進。
青軍空母『赤城』『加賀』に対し、急降下爆撃を行う」
赤軍担当の少佐が、サイコロを振る。
「……命中! 9発!
判定官、これでは『赤城』『加賀』は沈没です!」
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
日本海軍の至宝、空母二隻がいきなりの轟沈判定。
これでは演習が続かない。
「……待て」
判定官を務める宇垣纏(うがき まとめ)参謀長が、咳払いをした。
「今の判定は無効だ。
米軍パイロットの練度を考慮すれば、命中率は3分の1程度だろう。
よって……『赤城』は小破、『加賀』は被害なしとする」
「……出たな」
部屋の隅で見ていた坂上真一が、冷ややかに呟いた。
「必殺、『沈まないルール』だ」
史実でも行われた、悪名高い「ご都合主義」の判定。
不都合なデータは無視し、勝てるシナリオだけを採用する。
これが、ミッドウェーでの敗北を決定づけた「慢心」の正体だった。
「……演習続行!」
宇垣が宣言しようとした、その時だった。
「――認めん」
坂上が、テーブルの前に歩み出た。
彼は、青軍の空母「赤城」と「加賀」の模型を掴み取ると、
それをテーブルの外、床の上へと乱暴に投げ捨てた。
カシャン、と乾いた音が響く。
「……な、何を!」
参謀たちが騒然となる。
「顧問! 貴様、乱心したか!」
「乱心しているのは貴官らだ」
坂上は、凍りつく参謀たちを見回した。
「なぜ、沈んだ艦を生き返らせる?
これはゲームか?
……本番の海で、アメリカ軍が『サイコロを振り直して』くれるとでも思っているのか?」
「しかし、これでは演習が……」
「続かないなら、そこで『負け』だ!」
坂上が怒鳴った。
「なぜ負けたのか。なぜ奇襲を受けたのか。
それを検証するのが演習だろう!
……自分たちの都合のいい妄想(ストーリー)に酔うために、艦隊を動かすな!」
坂上は、山本五十六の方を向いた。
山本は、腕を組み、苦渋の表情で床に転がる模型を見つめていた。
「……長官。
私の『魔改造』は、機械(ハード)だけではありません。
この腐りきった『思考回路(ソフト)』も、叩き直させてもらいます」
坂上は、ポケットから一枚のメモを取り出した。
「……ここに、一つの『予言』を記しておきます」
「予言?」
黒島亀人が怪訝な顔をする。
「米軍は、我々の暗号を解読している。
彼らは、我々が『AF』という目標を狙っていることを知っているが、それが『ミッドウェー』であるという確証を欲している」
坂上は、予言の内容を語り始めた。
「……数日以内に、ミッドウェー島の米軍基地から、平文(暗号化されていない通信)で、奇妙な嘘の報告が発信されるでしょう。
『海水濾過装置が故障し、水不足である』と」
「……はあ?」
参謀たちが顔を見合わせる。
「水不足? 何の関係がある?」
「もし、我々の情報部がその通信を傍受し、
『AFハ、水不足ナリ』と打電したら……
米軍は『AF=ミッドウェー』だと確信する。
……これは、奴らが仕掛けてくる『罠(トラップ)』だ」
坂上は、メモを山本のデスクに置いた。
「もし、この『予言』通りのことが起きたら……
その時は、私の作戦案(プランB)を全面的に採用していただきます」
5月20日。
大和の通信室が、一通の傍受電文をキャッチした。
『……ミッドウェー基地、蒸留装置故障。早急ナ給水ヲ求ム……』
そして、その二日後。
日本軍のウェーク島基地が、それを傍受し、大本営に向けて暗号電文を打った。
『……AFハ、水不足ナリ……』
「……!!」
大和作戦室に、激震が走った。
山本五十六は、坂上の「予言メモ」と、傍受電文を並べ、戦慄していた。
黒島亀人は、幽霊を見たかのような顔で、口をパクパクさせている。
「……当たった」
「顧問の言う通りだ……。
奴らは、罠を仕掛け……そして我々は、まんまと尻尾を出した」
完全に、筒抜けだった。
「奇襲」をするつもりが、相手はこちらの手の内を全て知り尽くし、「待ち伏せ」をしている。
このまま史実通りの作戦を行えば、確実に全滅する。
「……勝負あったな」
坂上は、静かに作戦室に入ってきた。
「これで、状況(フェイズ)は変わった。
これは『攻略戦』ではない。
待ち伏せしている敵を、さらに裏から殴る『迎撃戦(カウンター)』だ」
山本は、顔を上げた。
その目には、もはや慢心も迷いもなかった。
「……坂上顧問。
全権を委ねる。作戦計画を書き換えろ」
「承知」
坂上は、海図の上の駒を一気に動かした。
「アリューシャンへの陽動部隊は中止。全艦艇をミッドウェー方面へ集中させる。
……そして、空母機動部隊(南雲艦隊)と、戦艦部隊(山本本隊)の距離を詰める」
史実では、大和以下の主力部隊は、空母の遥か後方500キロにいて、何の役にも立たなかった。
坂上は、それを修正する。
「大和を、前へ出す。
空母部隊の直後、50キロ圏内に配置する。
……大和の強力なレーダーと対空通信能力で、空母を守る『防空傘(アンブレラ)』を作る」
そして、坂上は最後の切り札を切った。
「偵察計画の変更だ。
『利根』4号機のカタパルト故障……そんな不確定要素(バグ)は、最初から排除する」
「最新鋭の高速偵察機『彩雲(さいうん)』の試作機を、二機投入します。
……敵より先に、敵を見つける。
それが、この戦いの全てだ」
昭和17年5月末。
歴史を変えるための、新生・連合艦隊が出撃しようとしていた。
運命の「6月5日」まで、あとわずか。
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