​魔法少女ドジっ子ルナちゃん!愛の貢ぎ物が72時間で石に戻り、F級冒険者の僕が指名手配されました

月神世一

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EP 4

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そして、国境(やま)が消えた
 逃亡生活、二日目の朝。
 俺たちはルミナス帝国とガルーダ獣人国を隔てる険しい山脈、「天険(てんけん)の峠」の中腹にいた。
「ふぅ……。とりあえず朝飯にするか」
 俺は岩陰で焚き火を起こし、即席の朝食を作っていた。
 メニューは『毒消し草と木の実の雑炊』。
 見た目は魔女の鍋みたいにドス黒いが、俺の調理スキル(あく抜き・臭み消し・火加減調整)により、味だけは高級料亭のそれに仕上がっている。
「はふっ、はふっ! ん~っ! リカル様の雑炊、ほっぺたが落ちそうですわ!」
「落ちたら困るから拾っとけ。……ほら、ネギオも光合成ばかりしてないで、水くらい飲め」
「……感謝します。ですが雑草(リカル)、水の硬度が少し高いですね。次は軟水で淹れなさい」
「注文の多い植木だな!」
 文句を言いつつも、俺たちの体力は回復していた。
 問題は、この先だ。
「ここから先は一本道だ。獣人国へ抜けるには、山頂にある『鉄壁の関所』を通らなきゃならない」
 俺は木の枝で地面に地図を描いた。
「だが、俺たちは指名手配犯だ。関所には間違いなく手配書が回ってる。……どうやって抜けるか」
「あら、簡単ですわ!」
 ルナが口元の米粒を飛ばしながら提案する。
「空を飛んでいけばいいんです! 私の風魔法でビューンとひとっ飛びですわ!」
「却下だ。ワイバーン部隊に撃墜されて終わりだ」
「じゃあ、透明になって通ります?」
「お前の魔力は規格外すぎて、隠蔽しても『ここにものすごい魔力の塊がありますよー!』って光って見えるんだよ。ネギオがそう言ってたぞ」
「むぅ……」
 ルナは頬を膨らませる。
 その横で、ネギオが冷淡に事実を告げた。
「偵察完了。……関所の兵力、約300。さらにゴルド商会の私兵団も合流しています。正面突破は死亡率100%、降伏しても拷問率100%ですね」
「詰んだ……」
 俺は頭を抱えた。
 引き返せば地獄、進んでも地獄。
 Fランク冒険者の俺に、これ以上どうしろと言うんだ。
「……リカル様」
 絶望する俺の肩に、ルナがそっと手を置いた。
 その瞳は、キラキラと純粋な善意で輝いている。
 ああ、この顔はダメだ。一番ヤバい時の顔だ。
「リカル様は、獣人国へ行きたいんですよね?」
「あ、ああ。それしか助かる道はないからな」
「でも、関所と山が邪魔で通れないんですよね?」
「まあ、物理的に邪魔だな」
「わかりました! お任せください!」
 ルナは立ち上がると、世界樹の杖を高々と掲げた。
「ちょ、おい! 何をする気だ!」
「リカル様の邪魔をするものは、私がどかして差し上げます! 山も、関所も、借金取りも、ぜーんぶまとめて!」
 彼女の杖に、とてつもない量のマナが収束していく。
 大気が震え、鳥たちが一斉に飛び立つ。
「やめろルナ! 魔法制御(コントロール)はどうなってる!」
「大丈夫です! イメージは完璧! 『道よ、開け』ですわ!!」
 ――超土木魔法『グランド・スライド(地形移動)』!!
 ズズズズズズズズズッ……!!
 地鳴りがした。いや、違う。
 山が鳴いた。
 俺たちの目の前にあった巨大な岩壁が、関所ごと、まるでスプーンで掬ったプリンのように横へスライドしたのだ。
 関所の建物が、兵士たちの悲鳴と共に、谷底へ(安全な速度で)滑り落ちていく。
 そして。
 砂煙が晴れた後には、綺麗に舗装された「一直線の道」が出来上がっていた。
「……は?」
 俺はポカンと口を開けた。
 山が、割れている。
 いや、ルナが魔法で山脈の一部を切り取って移動させたのだ。
「できましたわ! これで通り放題です!」
 ルナがVサインをする。
 その時だった。
 崩落に巻き込まれず、運良く(運悪く)生き残ったゴルド商会の部隊長が、震える指で俺を指差した。
「あ……あいつだ……!」
 部隊長の視線の先には、俺。
 そして俺の手には、たまたま杖代わり持っていた「元・聖剣の木の棒」。
「み、見たぞ……! あの男が、ただの木の枝を一振りしただけで……山が斬れた……!!」
「は?」
「ば、化け物だぁぁぁ! 『山斬り』のリカルだぁぁぁ!!」
 兵士たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
 誤解だ。俺はただ、焚き火の薪を持っていただけだ。
「……計算終了」
 ネギオが手帳をパタンと閉じた。
「関所の破壊。国境警備隊への公務執行妨害。および、地形変動による生態系の破壊。……ゴルド商会への未払い分と合わせて、損害賠償請求額を再計算しました」
「……い、いくらだ?」
 俺は恐る恐る尋ねる。
「約3億ゴールドです」
「桁が増えたぁぁぁぁぁ!!」
 5,000万が可愛く見える額だ。
 俺は膝から崩れ落ちた。
「さあ行きましょう、リカル様! 道は開けましたわ!」
「(俺の人生の道は閉ざされたけどな……!!)」
 ルナに手を引かれ、俺は呆然と国境を越えた。
 こうして、俺はルミナス帝国で「山を斬る大剣豪」という、身に覚えのない伝説を残し、獣人国へと足を踏み入れたのだった。
 新たな地獄(借金生活)が待っているとも知らずに。
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