52 / 60
鬼神と月兎
EP 37
しおりを挟む
太陽の子と、森の賢者
ダイチの右手から放たれた、温かく、そして清浄な黄金の光。
それは、いかなる闇をも浄化する、太陽そのもののような輝きだった。
その聖なる光を前にして、エルフたちの間に、動揺が走った。彼らが向けていた弓の切っ先が、わずかに、しかし確実に揺らぐ。リーダーである銀髪の女性エルフは、その翡翠色の瞳を、信じられないものを見るかのように大きく見開いていた。
彼女が感じていたのは、龍魔呂から発せられる、血と闘気の「穢れ」。しかし、今、目の前の少年から放たれているのは、その穢れとは正反対の、森が、そして世界が本来持っているべき、生命力そのもののような、神々しいまでの「清浄」なエネルギーだった。
「…その光は…」
彼女の、氷のように冷たかった声が、かすかに震える。
「まさか…古の伝承にある、『太陽の子』…?」
その言葉に、ダイヤとユイは顔を見合わせた。
女性エルフは、ゆっくりと、自らの弓を下ろした。それに倣い、周囲の木々の上にいたエルフたちも、次々と武器を収めていく。敵意は、まだ完全には消えていない。だが、それは、畏敬と、そして、戸惑いの色へと変わっていた。
「…あなたたちのことは、まだ信用できません」
女性エルフは、一度咳払いをして、冷静さを取り戻そうとしながら言った。その視線は、まだ、龍魔呂を鋭く射抜いている。
「特に、そこの男からは、森が深く嫌う血の匂いがする」
「……」
龍魔呂は、その言葉にも、表情一つ変えない。
「ですが、その光が何であるか、我らが長老会に判断を委ねる必要があります。…ついてきなさい」
彼女は、そう言うと、一行に背を向け、森の奥へと歩き出した。
「ただし、少しでも妙な動きをすれば、森の全ての矢が、あなたたちの心臓を貫くことになるでしょう」
それは、条件付きの、しかし、確かな「許可」だった。
一行は、女性エルフに導かれ、大森林の奥深くへと足を踏み入れた。
そこは、もはやただの森ではなかった。一本一本の木が、それ自体で一つの生命体として、意思を持っているかのように壮麗で、地面には光る苔が絨毯のように広がり、空気中には「マナ」と呼ばれる魔力の粒子が、キラキラと輝いて見えた。
やがて、一行の目の前に、その都は姿を現した。
巨大な樹々の幹や枝を、そのまま住居や回廊として利用した、壮大な森の都「シルヴァンウッド」。家々の間には、生きた蔓で編まれた吊り橋が架かり、街の中心には、天を覆い尽くすほどに巨大な、一際神々しい樹が聳え立っている。あれが、世界樹に違いない。
彼らは、その都の中心、世界樹の根元に設けられた、最も神聖な場所へと案内された。
そこにいたのは、木の皮のように皺の刻まれた顔を持つ、三人のエルフの長老たちだった。彼らの瞳は、森の歴史そのものを見つめてきたかのような、深い叡智に満ちていた。
「…よくぞ参られた、太陽の子よ」
中央の長老が、静かに口を開いた。彼の声は、まるで森の風そのものが語りかけてくるかのようだった。
ダイチは、その荘厳な雰囲気に気圧されながらも、勇気を振り絞り、自分たちの旅の目的を、そして、魔王軍が世界樹を狙っている可能性を、懸命に伝えた。
話を聞き終えた長老は、ゆっくりと頷いた。
「…うむ。お主たちの警告は、真であったか」
長老は、悲しそうに目を伏せる。
「森は、確かに病んでおる。南の根の方から、微かではあるが、邪悪な瘴気が流れ込み始めておるのじゃ。我らも、その浄化を試みてはおるが、その根源までは突き止められずにいた…」
長老は、再びダイチへと向き直った。
「太陽の子よ。お主のその光が、本物であるかどうか、示してはもらえぬか」
長老が指さした先には、鉢植えの中で、今にも枯れ果てそうな、一輪の花があった。
ダイチは、頷くと、その花に近づき、右手の「陽光の小手」を、そっとかざした。
彼の優しい心が、聖痕に、そして小手に宿る力に、確かな形を与える。
黄金色の光が、柔らかな雨のように、枯れた花へと降り注いだ。
すると、奇跡が起こった。
萎れていた茎は、みるみるうちに生命力を取り戻し、茶色く変色していた葉は、鮮やかな緑へと変わっていく。そして、固く閉じていた蕾が、ゆっくりと、しかし、力強く開き、美しい純白の花を咲かせたのだ。
その光景に、その場にいた全てのエルフたちが、息を呑んだ。
生命を与え、育む、純粋な癒やしの力。それは、彼らが信奉する、自然の理そのものだった。
「…間違いない。古の伝承は、真であった…」
長老は、厳かに宣言した。
「異郷の者たちよ、我らの非礼を許されよ。そして、どうか、この森を、世界樹を救うため、力を貸してはくれまいか」
こうして、鬼神と勇者の一行は、森の民エルフとの、固い同盟を結ぶことに成功した。
しかし、長老の顔は、晴れない。
「邪悪の源は、世界樹の最深部…大地の下、最も暗き場所にある『影の根(かげのね)』と呼ばれる領域にあります。しかし、そこへ至る道は、既に、魔王の配下によって固められておるでしょう。そこは、我らエルフでさえ、容易には近づけぬ、穢れの巣窟…」
新たな、そして、これまでで最も根深い闇が、彼らの前に、その口を、開けようとしていた。
ダイチの右手から放たれた、温かく、そして清浄な黄金の光。
それは、いかなる闇をも浄化する、太陽そのもののような輝きだった。
その聖なる光を前にして、エルフたちの間に、動揺が走った。彼らが向けていた弓の切っ先が、わずかに、しかし確実に揺らぐ。リーダーである銀髪の女性エルフは、その翡翠色の瞳を、信じられないものを見るかのように大きく見開いていた。
彼女が感じていたのは、龍魔呂から発せられる、血と闘気の「穢れ」。しかし、今、目の前の少年から放たれているのは、その穢れとは正反対の、森が、そして世界が本来持っているべき、生命力そのもののような、神々しいまでの「清浄」なエネルギーだった。
「…その光は…」
彼女の、氷のように冷たかった声が、かすかに震える。
「まさか…古の伝承にある、『太陽の子』…?」
その言葉に、ダイヤとユイは顔を見合わせた。
女性エルフは、ゆっくりと、自らの弓を下ろした。それに倣い、周囲の木々の上にいたエルフたちも、次々と武器を収めていく。敵意は、まだ完全には消えていない。だが、それは、畏敬と、そして、戸惑いの色へと変わっていた。
「…あなたたちのことは、まだ信用できません」
女性エルフは、一度咳払いをして、冷静さを取り戻そうとしながら言った。その視線は、まだ、龍魔呂を鋭く射抜いている。
「特に、そこの男からは、森が深く嫌う血の匂いがする」
「……」
龍魔呂は、その言葉にも、表情一つ変えない。
「ですが、その光が何であるか、我らが長老会に判断を委ねる必要があります。…ついてきなさい」
彼女は、そう言うと、一行に背を向け、森の奥へと歩き出した。
「ただし、少しでも妙な動きをすれば、森の全ての矢が、あなたたちの心臓を貫くことになるでしょう」
それは、条件付きの、しかし、確かな「許可」だった。
一行は、女性エルフに導かれ、大森林の奥深くへと足を踏み入れた。
そこは、もはやただの森ではなかった。一本一本の木が、それ自体で一つの生命体として、意思を持っているかのように壮麗で、地面には光る苔が絨毯のように広がり、空気中には「マナ」と呼ばれる魔力の粒子が、キラキラと輝いて見えた。
やがて、一行の目の前に、その都は姿を現した。
巨大な樹々の幹や枝を、そのまま住居や回廊として利用した、壮大な森の都「シルヴァンウッド」。家々の間には、生きた蔓で編まれた吊り橋が架かり、街の中心には、天を覆い尽くすほどに巨大な、一際神々しい樹が聳え立っている。あれが、世界樹に違いない。
彼らは、その都の中心、世界樹の根元に設けられた、最も神聖な場所へと案内された。
そこにいたのは、木の皮のように皺の刻まれた顔を持つ、三人のエルフの長老たちだった。彼らの瞳は、森の歴史そのものを見つめてきたかのような、深い叡智に満ちていた。
「…よくぞ参られた、太陽の子よ」
中央の長老が、静かに口を開いた。彼の声は、まるで森の風そのものが語りかけてくるかのようだった。
ダイチは、その荘厳な雰囲気に気圧されながらも、勇気を振り絞り、自分たちの旅の目的を、そして、魔王軍が世界樹を狙っている可能性を、懸命に伝えた。
話を聞き終えた長老は、ゆっくりと頷いた。
「…うむ。お主たちの警告は、真であったか」
長老は、悲しそうに目を伏せる。
「森は、確かに病んでおる。南の根の方から、微かではあるが、邪悪な瘴気が流れ込み始めておるのじゃ。我らも、その浄化を試みてはおるが、その根源までは突き止められずにいた…」
長老は、再びダイチへと向き直った。
「太陽の子よ。お主のその光が、本物であるかどうか、示してはもらえぬか」
長老が指さした先には、鉢植えの中で、今にも枯れ果てそうな、一輪の花があった。
ダイチは、頷くと、その花に近づき、右手の「陽光の小手」を、そっとかざした。
彼の優しい心が、聖痕に、そして小手に宿る力に、確かな形を与える。
黄金色の光が、柔らかな雨のように、枯れた花へと降り注いだ。
すると、奇跡が起こった。
萎れていた茎は、みるみるうちに生命力を取り戻し、茶色く変色していた葉は、鮮やかな緑へと変わっていく。そして、固く閉じていた蕾が、ゆっくりと、しかし、力強く開き、美しい純白の花を咲かせたのだ。
その光景に、その場にいた全てのエルフたちが、息を呑んだ。
生命を与え、育む、純粋な癒やしの力。それは、彼らが信奉する、自然の理そのものだった。
「…間違いない。古の伝承は、真であった…」
長老は、厳かに宣言した。
「異郷の者たちよ、我らの非礼を許されよ。そして、どうか、この森を、世界樹を救うため、力を貸してはくれまいか」
こうして、鬼神と勇者の一行は、森の民エルフとの、固い同盟を結ぶことに成功した。
しかし、長老の顔は、晴れない。
「邪悪の源は、世界樹の最深部…大地の下、最も暗き場所にある『影の根(かげのね)』と呼ばれる領域にあります。しかし、そこへ至る道は、既に、魔王の配下によって固められておるでしょう。そこは、我らエルフでさえ、容易には近づけぬ、穢れの巣窟…」
新たな、そして、これまでで最も根深い闇が、彼らの前に、その口を、開けようとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる