『F-35B、ミッドウェーに降臨す ~超エリート空自パイロット、一回限りの『魔法』で歴史を覆す~』

月神世一

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EP 9

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盾の試練

1942年6月3日 05時15分 - 米機動部隊 上空

「全機、突撃(トツレ)!」

志賀淑雄大尉の号令が、108機の零戦隊に響き渡る。

米軍のF4Fワイルドキャット隊は、哨戒任務(CAP)から、突如として全滅を賭けた防空戦へと突き落とされた。

「敵が多すぎる!」

米軍パイロット、ジム・グレイ大尉は、自機の後方(シックス)に食らいつく2機の零戦を振り払おうと、必死で機体をスライさせた。

だが、彼らを護衛すべき味方(ウイングマン)は、さらに3機の零戦に絡め取られている。

「こいつ、硬いぞ!」

零戦のパイロットの一人が叫んだ。

坂上1尉が昨夜、口を酸っぱくして言っていた通りだった。7.7ミリ機銃弾は、F4Fの機体を弾(はじ)き、火を噴かせることができない。

「二〇ミリ(デカ)を使え! 坂上1尉の言った通りだ、7.7ミリは効かん!」

志賀が無線で怒鳴る。

日本のパイロットたちは、坂上のブリーフィングを忠実に実行した。

F4F得意のヘッドオン(正面攻撃)を避け、零戦が絶対の優位を持つ「上昇力」と「格闘戦」に持ち込む。

そして、確実に仕留められる距離まで肉薄し、両翼に搭載された20ミリ機銃の短連射を叩き込んだ。

ドッドッドッ!

20ミリの炸裂弾(さくれつだん)が命中したF4Fは、坂上の警告通り「頑丈」ではあったが、さすがに翼をもがれ、火だるまとなってキリモミ状態に陥った。

それは「戦闘」というより、一方的な「掃討」だった。

数に勝り、戦術の狙いを明確にされた零戦隊は、わずか10分足らずで、米機動部隊上空のCAP(戦闘哨戒)30数機を、ほぼ壊滅状態に追い込んだ。

『こちらハンター・リーダー! 敵CAP、概ネ掃討セリ!』

志賀からの、興奮を抑えきれない勝利の第一報が、「赤城」の艦橋に届いた。

同刻 05時30分 - 「赤城」艦橋

「……やった」

源田実が、震える声で呟いた。

「坂上1尉…貴様の言う通りになった…」

南雲長官の顔にも、安堵の色が浮かんだ。

「よし!」

南雲は、再び艦隊の指揮官としての覇気を取り戻した。

「第二次攻撃隊(ハンマー)、発艦始め!」

号令一下、4隻の空母の甲板から、次々と「鉄槌」が放たれる。

淵田美津男中佐、友永丈市大尉、江草隆繁少佐ら、日本が誇るエースたちが率いる、九九式艦爆と九七式艦攻の混成、合計約120機。

彼らは、自分たちのために「狩人」たちが切り開いてくれた、がら空きの空へと、意気揚々と突き進んでいった。

「全機、発艦完了!」

「第二次攻撃隊、目標、米機動部隊! 健闘を祈る!」

源田が、万感の思いを込めてマイクを置いた。

甲板は、ほんのつかの間、静けさを取り戻した。

(これで、勝てる…)

艦橋にいた誰もが、そう確信した。

坂上真一、ただ一人を除いて。

「長官!」

坂上の鋭い声が、安堵の空気を切り裂いた。

「まだです! 敵の攻撃隊(ストライク・パッケージ)は、必ず来る!」

彼は、電探のブラウン管を凝視し続けていた。

(史実では、米軍の攻撃隊は、我々の第一波と入れ違いで発進し、我々が『最も無防備な瞬間』を突いた。歴史は、そう簡単には変わらない…!)

その時だった。

「ッ!!」

電探の操作員が、椅子から転げ落ちそうになった。

「反応! 多数! 方位0-8-5(ゼロ・ハチ・ゴー)、距離、推定150!」

「何だと!?」

源田がブラウン管に顔を押し付けた。

そこには、先ほどのCAPとは比較にならない、大きく、濃い光点の集団が、確実に「赤城」に向かってくるのが映し出されていた。

「敵の、攻撃隊だ…」

草鹿参謀長が、蒼白な顔で呟いた。

「ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネット…」

坂上は、冷静に敵の戦力を推測した。

「SBDドーントレス(急降下爆撃機)、TBDデバステーター(雷撃機)…ほぼ全力が、こちらに向かっている!」

史実は、変わっていなかった。

いや、わずかに変わった。

米軍は、坂上のF-35Bが偵察したことにも、日本の第一波(ハンター)が自分たちのCAPを殲滅したことにも気づかず、史実とほぼ同じタイミングで、攻撃隊を発進させていたのだ。

だが、今度は、こちらに「盾」がある。

「坂上1尉!」

南雲が叫んだ。「どうする!」

「任せてください」

坂上は、艦橋に備え付けられた対空戦闘用のマイクを掴んだ。彼は、もはや「未来からの客人」ではない。この艦隊の「防空指揮官(ファイター・コントローラー)」だった。

「こちら『ヴァルキリー』(坂上)! 直掩(シールド)隊、全機応答せよ!」

4隻の空母上空で待機していた、36機の零戦隊に緊張が走る。

『こちらシールド・リーダー! 感度良好!』

「敵大編隊、方位0-8-5! 高度15,000(フィート)! 速度180(ノット)!」

坂上は、電探の原始的な情報を、2025年の知識で瞬時に解析し、迎撃コースを叩き出す。

「シールド全機、ただちに増槽投下! 方位0-8-5へ、全力上昇! 敵攻撃隊を、艦隊手前で叩き潰すぞ!」

『りょ、了解!』

直掩隊の隊長は、これほどまでに正確かつ具体的な誘導指示を、電探から受けたことがなかった。

36機の零戦は、一斉に機首を東へ向け、米軍攻撃隊の予想進路へと突き進んだ。

「源田参謀!」

坂上は、マイクを保持したまま叫んだ。

「全艦、対空戦闘用意! 面舵(おもかじ)一杯! 敵の雷撃コースを潰せ!」

「と、取り舵だ! 面舵では…」

「面舵です! 敵の雷撃機は、必ず太陽を背にするはずの南東から来る! その懐(ふところ)に飛び込む!」

「……!」

源田は一瞬ためらったが、この男の予言が全て当たってきたことを思い出し、腹を括った。

「面舵一杯! 対空戦闘用意!」

「赤城」の艦橋で、坂上真一1等空尉は、1942年の対空砲火と、2025年の防空システム理論を融合させ、彼の人生で最も困難な「迎撃戦」の指揮を執り始めた。

空の遥か彼方で、米軍のドーントレス隊の隊長が、眼下に豆粒のような日本艦隊を発見した。

「Tally-ho! (敵艦隊発見!) 全機、突撃準備!」

だが、彼が降下(プッシュオーバー)を開始しようとした瞬間、彼の視界の真横から、太陽を突き破って、36機の「盾」が襲いかかった。

「Zeros! (零戦だ!) どこから来やがった!?」

歴史は、今この瞬間、決定的に分岐した。

坂上の「盾」が、史実では無防備だった「赤城」の甲板を守るため、米軍の「槍」に喰らいついた。

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