『F-35B、ミッドウェーに降臨す ~超エリート空自パイロット、一回限りの『魔法』で歴史を覆す~』

月神世一

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EP 22

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地獄への突撃命令
1942年6月28日 10時00分 - ラバウル基地・第11航空艦隊司令部
航空戦の勝利の興奮は、司令部に届いた一枚の電文によって、急速に冷え切っていった。
『一木支隊先遣隊(旭川第7師団)、グアムより輸送船団(「波勝」「明陽丸」)にてガダルカナルへ向け出撃セリ。海軍ハ、上陸地点(タイボ岬)ノ安全ヲ確保セヨ』
そして、坂上の手元には、その先遣隊を率いる指揮官・一木清直(いちき きよなお)大佐本人から、航空隊司令部宛に叩きつけられた、傲慢(ごうまん)極まりない電文があった。
『飛行場奪還ハ、我ガ支隊ノ夜襲一閃(やしゅういっせん)ニテ十分ナリ。海軍ノ航空支援ハ、我ガ突撃ノ後ノ、掃討戦ニテ足レリ』
「……馬鹿が」
司令部の隅で、坂上は吐き捨てた。
彼の隣で、源田実もその電文を読み、顔をしかめていた。
「坂上顧問、これは…」
「史実通りです」
坂上は、この「テスト」の厳しさを噛み締めていた。
「彼は、米軍を『上陸したての烏合(うごう)の衆』と侮り、今夜、飛行場(ヘンダーソン)の防御拠点に対し、正面から『万歳突撃』をかける気です」
「だが、今日の航空戦で、敵の輸送船団は叩いた! 兵站は混乱しているはずだ!」
と、航空隊司令官が反論した。
「兵士は、上陸しています」
坂上は、冷徹に事実を告げた。
「そして、米海兵隊は、貴官らが思う『新兵』ではない。
彼らは、我々がミッドウェーで空母を沈めている間、日本軍の『夜襲』と『精神論』を徹底的に研究し尽くした、冷徹な『プロ』の集団だ。
彼らは今頃、飛行場の前面、イル川(アリゲーター・クリーク)の河口に、何重もの『鉄条網』を張り巡らせ、
『機関銃』を十字砲火できるように配置し、
『迫撃砲』の照準を合わせ、
――完璧な『キルゾーン(殺戮空間)』を構築して、一木支隊が来るのを待っています」
司令部は、水を打ったように静まり返った。
坂上の口から語られる「未来(予言)」は、あまりにも具体的で、陰惨だった。
「…顧問。止められんのか」
源田が、絞り出すように尋ねた。
「彼は『陸軍』だ。我々『海軍』の、しかも所属不明の私の『助言』など、聞く耳を持ちません」
「では、見殺しか!」
「……源田中佐」
坂上は、護衛役の彼に、初めて「命令」を下した。
「貴官は、海軍中佐として、連合艦隊司令部(ラバウル)の正式な『連絡将校』として、一木支隊が乗る輸送船団に、駆逐艦で追いついてください」
「追いついて、何をしろと?」
「彼を、止める。
これは、東條首相(陸軍)から私(海軍)への『テスト』だ。
その『テスト』の場で、陸軍が海軍の助言を無視して『自滅』したという『証拠』を、我々は作らねばならない」
坂上は、源田の目を見た。
「貴官の任務は、一木大佐に、今私が言った『予言(キルゾーン)』を、一言一句違(たが)わず伝えること。
そして、その勧告を彼が『拒否』したという事実を、克明に『記録』すること。
――それが、東京(市ヶ谷)の『虎』の喉元に突きつける、最初の『ナイフ』になる」
同日 17時00分 - ソロモン海上・駆逐艦「陽炎」艦上
源田実は、高速で駆逐艦を飛ばし、日没までに一木支隊の輸送船団に追いついた。
彼は、一木大佐が座乗する「波勝」に、内火艇(ランチ)で乗り移った。
「……何の用かね、海軍中佐殿」
一木清直は、歴戦の猛者特有の、猜疑心に満ちた目で源田を迎えた。
「一木大佐! ラバウル司令部(坂上顧問)からの緊急勧告である!」
源田は、坂上に言われた通りの「予言」を、必死に伝えた。
「敵は、イル川で鉄条網と機関銃の『キルゾーン』を敷いて待ち構えている! 今夜の夜襲は、自殺行為である! 中止されたし!」
「……」
一木は、数秒間黙り込んだ後、腹の底から笑い出した。
「はっ、はっはっは! 『さかがみこもん』? あの海軍の『神様』か!」
彼は、源田の肩を、侮蔑(ぶべつ)するように叩いた。
「中佐殿。ミッドウェーで空母を沈めたからといって、陸(おか)の戦(いくさ)にまで口出しとは、傲慢(ごうまん)が過ぎるぞ。
鉄条網? 機関銃?
そんなものは、皇軍兵士の『銃剣』と『精神力』の前には、紙切れ同然よ!
海軍は、我々が飛行場を奪還した後、悠々と空から支援してくれればよい。
――下がれ。陸の戦に、海軍の臆病風は不要だ」
「大佐!」
源田が食い下がる。
「これは、臆病風ではない! 未来の『事実』だ!」
「黙れ!」
一木が、拳銃に手をかけた。
「それ以上、我が支隊の士気を乱す言動を続けるならば、貴様を『敵前逃亡扇動罪』で、ここで撃ち殺すぞ!」
「……っ」
源田は、唇を噛み締めた。
この男には、何を言っても無駄だ。
この男の頭の中は、「大和魂」と「夜襲神話」で、完全に凝り固まっている。
源田は、帝国海軍中佐として、最大限の「屈辱」に耐えながら、敬礼した。
「……承知した。
一木支隊の、ご武運を祈る」
彼は、駆逐艦「陽炎」に戻ると、ラバウルの坂上に向けて、暗号電を打った。
『一木大佐、勧告ヲ「拒否」。
"精神力ニテ十分" トノ回答。
――予定通リ、夜襲ヲ決行ス』
1942年6月29日 03時00分 - ラバウル基地・無線室
坂上は、司令部の無線室で、その「死」の報告を待っていた。
静寂の中、ガダルカナルのイル川河口から発信される、一木支隊の断末魔が、ノイズ混じりで飛び込んできた。
『テ、テキ、キカンジュウ、タスウ!』
『テツジョウモウ、トッパフノウ!』
『コチラ、ダイニチュウタイ、ゼンメツ!』
『ウテ、ウテ! カイグンハ、ナニヲシテイルカ!』
そして、ついに、支隊本部からの最後の電文。
『――アサヒ(旭川)シチシダン、バンザイ! テンノウヘイカ、バンザイ!』
……ツー……
通信は、そこで途絶えた。
支隊先遣隊917名は、坂上の予言通り、米海兵隊の「キルゾーン」に真正面から突撃し、生存者わずか数十名という、一方的な「全滅」を遂げた。
無線室は、死んだように静まり返った。
立ち会っていた航空隊司令官たちは、その「予言」の的中率と、陸軍の「愚かさ」に、青ざめている。
坂上は、静かに立ち上がった。
「源田中佐」
ラバウルに帰投した源田が、その場にいた。
「この『戦闘詳報』と、貴官が受けた『拒否』の記録を、ただちに東京(市ヶ谷)の東條首相宛に打電してください」
「……これが」
源田の声は、震えていた。
「これが、貴様の言った『白骨街道』の、始まりか…」
「そうだ」
坂上は、窓の外の、明け始めた南太平洋の空を睨みつけた。
「そして、これは『東條のテスト』に対する、我々からの最初の『回答』だ。
――貴官(陸軍)が『精神論』を選ぶなら、日本兵は、こうやって『全滅』し続ける。
――私(未来)の『合理論』を選ぶなら、生き残る道もある。
さあ、首相閣下。
次は、どうする?」
坂上の、本当の「戦争」は、今、血塗られたガダルカナルの土の上で、始まった。
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