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EP 21
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血肉躍る「逆輸入(カウンター)」
1942年6月28日 06時30分 - ガダルカナル島上空・迎撃空域
米海軍F4Fワイルドキャット隊の隊長、ポール・ジャクソン少佐は、余裕を持って編隊(50機)を率いていた。
眼下では、海兵隊の上陸用舟艇が、波打ち際へと殺到している。
彼らの任務は、ラバウルから飛んでくるであろう日本軍の攻撃隊(ジャップ)を、この「鉄壁の盾(CAP)」で叩き潰すことだった。
「レーダー(CXAM)より入電! 敵編隊、北西より接近! 数、約40!」
(来たか!)
ジャクソンは、ニヤリと笑った。
(ミッドウェーの教訓は活かさせてもらうぞ。単機で格闘戦(ドッグファイト)を挑んでくる旧式なゼロどもを、訓練通りの『サッチ・ウィーブ』で狩ってやる)
彼は、編隊に高高度を取り、有利な位置から奇襲をかけるよう命じた。
『敵機、視認! 10時高方!』
ジャクソンが視線を向けた瞬間、彼は、自分が「狩られる側」であることを悟った。
「なっ…!」
敵機(零戦)は、太陽を背にしていない。
あろうことか、自分たち(F4F)の編隊の「側面」、水平方向から、凄まじい速度で突っ込んできたのだ。
しかも、彼らの動きは、ジャクソンの知る零戦ではなかった。
単機で巴戦を挑んでくるのではない。
2機、また2機と、完璧な連携(チームワーク)を保ったまま、群れ(F4F)の端から、順序よく機体を「削り取ろう」としていた。
「散開しろ! サッチ・ウィーブだ!」
ジャクソンが叫ぶが、遅かった。
「こちらハンター・リーダー(志賀)! 訓練(ゲーム)開始だ!」
志賀淑雄大尉は、坂上の命令通り、あえて格闘戦には入らなかった。
「一番外側のワイルドキャットは、俺が(リーダー)が引き受ける! 笹井(ウイングマン)、お前は俺を追ってくる『二番機』を狩れ!」
『了解(ラジャー)!』
志賀の零戦が、1機のF4Fの背後に迫る。
そのF4Fを助けようと、僚機が志賀機を追う。
まさに、米軍がやろうとしていた「サッチ・ウィーブ」そのものだった。
だが、その瞬間。
今まで志賀の「盾」として飛んでいた笹井醇一中尉の零戦が、牙を剥いた。
笹井は、敵機の「動き」を読んでいた。
(坂上顧問の言う通りだ…! 敵は、俺の隊長機(志賀)に集中している!)
笹井の20ミリ機銃が火を噴き、F4Fの分厚い防弾鋼板を貫いた。
米軍機は、火を噴きながら、ジャングルの奥へと墜ちていく。
「な、何だ、この動きは!」
ポール・ジャクソン少佐は、混乱していた。
自分たちが編み出した「零戦キラー」の戦術が、そっくりそのまま「逆輸入」され、自分たちに襲いかかってきているのだ。
西沢広義、太田俊夫ら、台南空のエースたちもまた、単機で深追いする誘惑を断ち切り、「2機1組」のシステムとして、米軍機を効率的に狩っていく。
高高度で始まった空中戦は、わずか10分で決着がついた。
米軍F4F隊は、20機以上を失い、戦線を維持できずに散り散りとなった。
日本側(ハンター)の被害、未帰還3機。
坂上が叩き込んだ「未来の戦術」の、圧倒的な勝利だった。
同刻 06時40分 - ガダルカナル島・ルンガ泊地
「ハンター」隊が、空の「盾」をこじ開けた、その10分の隙。
淵田美津男中佐率いる「ハンマー(陸攻部隊)」27機が、海面スレスレの低空から、泊地になだれ込んだ。
『全機、突入! 狙うは輸送船のみ! 空母は無視せよ!』
淵田の号令が飛ぶ。
上空では、志賀たちの空中戦の余波が続いていたが、泊地上空はガラ空きだった。
敵は、米海軍の駆逐艦と巡洋艦から放たれる、対空砲火の弾幕のみ。
「撃て、撃て、撃て!」
米軍の対空砲手たちは、必死に機銃を撃ち上げる。
陸攻数機が火を噴き、海面に激突する。
だが、淵田たちは止まらなかった。
彼らはミッドウェーで、坂上に「敵の対空砲火のみに集中すればよい状況」を与えられた「恩」があった。
今度は、自分たちが、その「対価(犠牲)」を払う番だと覚悟していた。
「魚雷、投下!」
「爆弾、投下!」
次々と放たれた魚雷と爆弾が、身動きの取れない上陸用輸送船団の中央で炸裂した。
ズドォォン! ズガガガッ!
大型輸送船「ジョージ・F・エリオット」が、搭載していた弾薬とガソリンに引火し、凄まじい大爆発を起こした。
別の輸送船「バーネット」も、魚雷を受け、喫水線から黒煙を上げる。
『戦果確認! 輸送船3隻、大破炎上! 2隻、中破!』
『淵田隊、任務完了! 全機、離脱する!』
対空砲火による犠牲(未帰還5機)を出しながらも、淵田隊は、米軍の上陸作戦に、最も痛烈な「一撃」――兵站(ヘンダーソン飛行場建設用の機材と弾薬)の破壊――を与えて、ラバウルへと機首を向けた。
同日 09時30分 - ラバウル基地・司令部
帰投したパイロットたちが、興奮冷めやらぬ様子で、司令部に雪崩れ込んできた。
「坂上顧問!」
顔を煤(すす)で汚した志賀大尉が、坂上の胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄った。
「……貴様の言う通りだった」
「何がだ?」
「あの『サッチ・ウィーブ』とかいう戦術。
もし、俺たちが昔のまま、単機で突っ込んでいたら、今頃、半分は帰ってこなかった。
…あれは、戦(いくさ)じゃない。
『狩り』だ。
敵の動きを読み切り、僚機(システム)で確実に仕留める…冷酷な『作業』だ」
彼は、初めて、この「未来の顧問」に対し、畏怖(いふ)の念を込めた敬礼をした。
司令部は、輸送船団撃破の報に、ミッドウェー以来の勝利に沸き立っていた。
だが、坂上真一は、その歓喜の輪の中で、一人だけ冷徹な顔を崩さなかった。
彼の前には、ガダルカナル島にいる「陸軍」一木支隊からの、狂気じみた電文が届いていたからだ。
『我ガ支隊、敵ノ抵抗ナシト判断。
飛行場奪還ノタメ、今夜、夜襲ヲ決行ス。
海軍ノ航空支援ナド、不要ナリ』
坂上は、その電文を握り潰した。
「……源田さん」
彼は、護衛役の海軍中佐に、静かに言った。
「始まった。
空の『消耗戦』と、陸の『自滅戦』が。
東條首相(あのひと)の『テスト』は、まだ始まったばかりだ」
1942年6月28日 06時30分 - ガダルカナル島上空・迎撃空域
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眼下では、海兵隊の上陸用舟艇が、波打ち際へと殺到している。
彼らの任務は、ラバウルから飛んでくるであろう日本軍の攻撃隊(ジャップ)を、この「鉄壁の盾(CAP)」で叩き潰すことだった。
「レーダー(CXAM)より入電! 敵編隊、北西より接近! 数、約40!」
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ジャクソンは、ニヤリと笑った。
(ミッドウェーの教訓は活かさせてもらうぞ。単機で格闘戦(ドッグファイト)を挑んでくる旧式なゼロどもを、訓練通りの『サッチ・ウィーブ』で狩ってやる)
彼は、編隊に高高度を取り、有利な位置から奇襲をかけるよう命じた。
『敵機、視認! 10時高方!』
ジャクソンが視線を向けた瞬間、彼は、自分が「狩られる側」であることを悟った。
「なっ…!」
敵機(零戦)は、太陽を背にしていない。
あろうことか、自分たち(F4F)の編隊の「側面」、水平方向から、凄まじい速度で突っ込んできたのだ。
しかも、彼らの動きは、ジャクソンの知る零戦ではなかった。
単機で巴戦を挑んでくるのではない。
2機、また2機と、完璧な連携(チームワーク)を保ったまま、群れ(F4F)の端から、順序よく機体を「削り取ろう」としていた。
「散開しろ! サッチ・ウィーブだ!」
ジャクソンが叫ぶが、遅かった。
「こちらハンター・リーダー(志賀)! 訓練(ゲーム)開始だ!」
志賀淑雄大尉は、坂上の命令通り、あえて格闘戦には入らなかった。
「一番外側のワイルドキャットは、俺が(リーダー)が引き受ける! 笹井(ウイングマン)、お前は俺を追ってくる『二番機』を狩れ!」
『了解(ラジャー)!』
志賀の零戦が、1機のF4Fの背後に迫る。
そのF4Fを助けようと、僚機が志賀機を追う。
まさに、米軍がやろうとしていた「サッチ・ウィーブ」そのものだった。
だが、その瞬間。
今まで志賀の「盾」として飛んでいた笹井醇一中尉の零戦が、牙を剥いた。
笹井は、敵機の「動き」を読んでいた。
(坂上顧問の言う通りだ…! 敵は、俺の隊長機(志賀)に集中している!)
笹井の20ミリ機銃が火を噴き、F4Fの分厚い防弾鋼板を貫いた。
米軍機は、火を噴きながら、ジャングルの奥へと墜ちていく。
「な、何だ、この動きは!」
ポール・ジャクソン少佐は、混乱していた。
自分たちが編み出した「零戦キラー」の戦術が、そっくりそのまま「逆輸入」され、自分たちに襲いかかってきているのだ。
西沢広義、太田俊夫ら、台南空のエースたちもまた、単機で深追いする誘惑を断ち切り、「2機1組」のシステムとして、米軍機を効率的に狩っていく。
高高度で始まった空中戦は、わずか10分で決着がついた。
米軍F4F隊は、20機以上を失い、戦線を維持できずに散り散りとなった。
日本側(ハンター)の被害、未帰還3機。
坂上が叩き込んだ「未来の戦術」の、圧倒的な勝利だった。
同刻 06時40分 - ガダルカナル島・ルンガ泊地
「ハンター」隊が、空の「盾」をこじ開けた、その10分の隙。
淵田美津男中佐率いる「ハンマー(陸攻部隊)」27機が、海面スレスレの低空から、泊地になだれ込んだ。
『全機、突入! 狙うは輸送船のみ! 空母は無視せよ!』
淵田の号令が飛ぶ。
上空では、志賀たちの空中戦の余波が続いていたが、泊地上空はガラ空きだった。
敵は、米海軍の駆逐艦と巡洋艦から放たれる、対空砲火の弾幕のみ。
「撃て、撃て、撃て!」
米軍の対空砲手たちは、必死に機銃を撃ち上げる。
陸攻数機が火を噴き、海面に激突する。
だが、淵田たちは止まらなかった。
彼らはミッドウェーで、坂上に「敵の対空砲火のみに集中すればよい状況」を与えられた「恩」があった。
今度は、自分たちが、その「対価(犠牲)」を払う番だと覚悟していた。
「魚雷、投下!」
「爆弾、投下!」
次々と放たれた魚雷と爆弾が、身動きの取れない上陸用輸送船団の中央で炸裂した。
ズドォォン! ズガガガッ!
大型輸送船「ジョージ・F・エリオット」が、搭載していた弾薬とガソリンに引火し、凄まじい大爆発を起こした。
別の輸送船「バーネット」も、魚雷を受け、喫水線から黒煙を上げる。
『戦果確認! 輸送船3隻、大破炎上! 2隻、中破!』
『淵田隊、任務完了! 全機、離脱する!』
対空砲火による犠牲(未帰還5機)を出しながらも、淵田隊は、米軍の上陸作戦に、最も痛烈な「一撃」――兵站(ヘンダーソン飛行場建設用の機材と弾薬)の破壊――を与えて、ラバウルへと機首を向けた。
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帰投したパイロットたちが、興奮冷めやらぬ様子で、司令部に雪崩れ込んできた。
「坂上顧問!」
顔を煤(すす)で汚した志賀大尉が、坂上の胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄った。
「……貴様の言う通りだった」
「何がだ?」
「あの『サッチ・ウィーブ』とかいう戦術。
もし、俺たちが昔のまま、単機で突っ込んでいたら、今頃、半分は帰ってこなかった。
…あれは、戦(いくさ)じゃない。
『狩り』だ。
敵の動きを読み切り、僚機(システム)で確実に仕留める…冷酷な『作業』だ」
彼は、初めて、この「未来の顧問」に対し、畏怖(いふ)の念を込めた敬礼をした。
司令部は、輸送船団撃破の報に、ミッドウェー以来の勝利に沸き立っていた。
だが、坂上真一は、その歓喜の輪の中で、一人だけ冷徹な顔を崩さなかった。
彼の前には、ガダルカナル島にいる「陸軍」一木支隊からの、狂気じみた電文が届いていたからだ。
『我ガ支隊、敵ノ抵抗ナシト判断。
飛行場奪還ノタメ、今夜、夜襲ヲ決行ス。
海軍ノ航空支援ナド、不要ナリ』
坂上は、その電文を握り潰した。
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