『F-35B、ミッドウェーに降臨す ~超エリート空自パイロット、一回限りの『魔法』で歴史を覆す~』

月神世一

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EP 35

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悪魔(ツジ)の「聖戦(ジハード)」
1942年7月9日 13時00分 - ラバウル基地・司令部
辻政信(つじ まさのぶ)陸軍中佐の出現は、第二次ソロモン海戦の「勝利」に沸いていた空気を、一瞬で「恐怖」に変えた。
彼は、市ヶ谷(東條)の「意思」そのものだった。
「――ご苦労、坂上1尉」
辻は、蛇のような目で、坂上の胸の「1等空尉」の階級章を侮蔑(ぶべつ)するように見た。
「海軍(きさまら)の『花火大会(海戦)』は、見事であった。
だが、敵は『勝利』したくらいでは、あの島(ガダルカナル)から出ていかん。
『神(わたし)』の鉄槌(てっつい)が必要だ。
首相閣下(トウジョウ)の、ご命令である」
辻は、第17軍司令官(百武)が震えながら差し出した「ガダルカナル奪還作戦」の命令書に、朱(あか)で大きく書き加えた。
「『陸海軍、全戦力ヲ挙ゲ、ガダルカナル島飛行場ニ、総攻撃ヲ敢行ス』」
「……待ってください」
坂上が、その狂気を制止した。
「辻参謀。米軍の航空戦力は一時的に麻痺させましたが、陸上戦力(海兵隊)は無傷です。
今、突撃すれば、川口支隊の『二の舞』になる」
「ほう?」
辻は、愉快そうに坂上を見た。
「川口の『失敗』は、貴様(さかがみ)が『大砲』などという、アメリカかぶれの『火力主義』に頼り、『突撃精神』を奪ったからだ。
一木(いちき)は、立派に死んだ。
川口は、生き恥を晒した。
――必要なのは『弾』ではない。『魂』だ」
「……」
坂上は、理解した。
この男には、データも、予言も、合理も、一切通じない。
この男は、東條英機が放った、「精神論」という名の「病原菌」そのものだ。
「源田!」
辻は、傍らに立つ源田実(海軍中佐)を顎(あご)で指した。
「海軍は、陸軍(われわれ)の『聖戦』のために、全航空戦力(笹井、月光)を投入せよ。
陸軍(わが軍)が、明朝、ヘンダーソン飛行場に『万歳突撃』をかける。
その『露払い』として、空から、米軍の機関銃陣地を『掃除』しろ。
これは『大本営命令』だ」
「……!」
源田は、坂上を見た。
それは、志賀大尉が死んだ、あの「地獄」の再現を命じるものだった。
坂上は、目を閉じた。
(……負けた)
(東條(トウジョウ)との『政争』に、俺は負けたんだ)
東條は、坂上の「合理(システム)」の勝利を、認めなかった。
それどころか、その「勝利」を、自分(陸軍)の「精神論(総攻撃)」の「燃料」として利用し、全てを奪いに来た。
(このままでは、笹井も、西沢も、源田も、全て、この狂人(ツジ)の『万歳突撃』の『肉壁』にされて、死ぬ)
(そして、日本は、このガダルカナルという『沼』で、史実通り、全ての『血(エース)』を抜き取られる)
(……もう、この『戦場(ステージ)』は、終わりだ)
坂上は、目を開けた。
その目には、もはや「合理」も「計算」もなかった。
あるのは、この「旧い神(ツジ)」を、社会的に抹殺(まっさつ)するための、冷たい「殺意」だけだった。
「……承知しました、辻参謀」
坂上は、深々と、頭を下げた。
「!」
源田も、笹井も、信じられないという顔で坂上を見た。
あの坂上が、この「狂人」に、屈服したのだ。
「ほう。海軍の『神』も、首相閣下(トウジョウ)の『威光』の前には、頭(こうべ)を垂れるか」
辻は、満足げに頷いた。
「つきましては、辻参謀」
坂上は、頭を下げたまま、続けた。
「明朝の『聖戦』を、この司令部(ラバウル)からではなく、
ぜひとも、ガダルカナルの『最前線』にて、
我ら陸海軍の将兵と共に、ご高覧(こうらん)いただきたい」
「……何?」
「貴官(あなた)ほどの『魂』の持ち主が、安全な後方(ここ)にいては、兵士の士気に関わります」
坂上は、顔を上げた。その目は、笑っていなかった。
「私が、この『月光(魔改造レーダー機)』で、貴官を、今夜、ガダルカナルの川口支隊の陣地まで、"安全(・・)"に、お送りいたします。
――そこで、貴官の『精神力』が、米軍(ヤンキー)の『機関銃』を、どうやって打ち破るのか。
この目で見届けさせていただきたい」
「……」
辻の顔が、引きつった。
(こいつ…俺を、あの「地獄」の最前線に、引きずり出す気か!)
だが、彼は、自分が吐いた「精神論」の手前、ここで「怖い」とは、口が裂けても言えない。
「……よかろう」
辻は、喉から絞り出すように言った。
「海軍(きさま)の『神様』が、どれほどの『覚悟』か、この辻政信が、直々(じきじき)に見てやる」
1942年7月10日 04時00分 - ガダルカナル島・陸軍陣地(上空)
「……ここだ。降りるぞ」
源田が操縦する「月光」が、闇の中、ガダルカナルの陸軍陣地(川口支隊の残党)が焚(た)いた、誘導灯(かがりび)目掛けて、強行着陸した。
「辻参謀、こちらへ」
坂上は、SFP9(拳銃)とM9(サブマシンガン)を、防弾チョッキの下に隠し持ち、暗黒のジャングルへと降り立った。
「……寒いな」
辻政信は、亜熱帯のジャングルで、ガタガタと震えていた。
後方のラバウルで「突撃」を叫ぶのと、米軍の機関銃が待ち構える「最前線」に立つのでは、ワケが違った。
「参謀殿! お待ちしておりました!」
川口支隊の残党の指揮官が、駆け寄ってきた。
「総攻撃の、ご命令を!」
「う、うむ」
辻が、空咳(からせき)をした、その瞬間。
ヒュルルルル……ドゴォォォン!
米軍の、正確無比な「迫撃砲」の第一弾が、誘導灯(かがりび)のすぐ脇に着弾した。
「敵襲! 敵ノ砲撃デス!」
「!!」
辻政信は、生まれて初めて聞く、本当の「戦場の音」に、腰を抜かした。
「伏せろ!」
坂上は、辻の首根っこを掴み、塹壕(ざんごう)に叩き込んだ。
その直後、第二弾、第三弾が、彼らがいた場所で炸裂した。
「ひっ…ひぃ!」
帝国陸軍の「神」は、泥水の中で、小便を漏らしながら、赤ん坊のように震えていた。
「――これが『現実』だ、辻政信!」
坂上は、震える辻の胸ぐらを掴み上げ、米軍の「キルゾーン」を指差した。
「見ろ! あれが、貴様の言う『魂』で突っ込む先だ!
あそこでは、今も、貴様の『精神論』を信じた兵士が、挽き肉(・・・)にされている!」
「い、いやだ! 死にたくない! ラバウルへ! 帰せ! 帰してくれ!」
「帰さん!」
坂上は、辻の顔面に、SFP9(未来の拳銃)を突きつけた。
「ここで、選べ。
『旧い神(おまえ)』が、ここで『死ぬ』か。
それとも、
『新しい神(おれ)』の言うことを、全面的に聞き、
――ガダルカナルからの『全軍撤退』を、今すぐ、東京(トウジョウ)に具申するか。
――選べ!」
辻政信は、泥水と涙と失禁(しっきん)にまみれながら、
自分を殺そうとする「未来の悪魔(さかがみ)」と、
自分を殺そうとする「現実の悪魔(べいぐん)」の、
十字砲火(クロスファイア)の中で、
――絶叫した。
「わ、わかった! わかったカラ! 撤退(てったい)ダ! 全軍、撤退サセテクレ!」
坂上は、銃口を突きつけたまま、源田に命じた。
「源田さん。
――『テスト』は、終わった。
東京(ヤマモト)へ、電文を打て。
『ガダルカナル(このしま)ハ、"捨テル"』、と」
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