『F-35B、ミッドウェーに降臨す ~超エリート空自パイロット、一回限りの『魔法』で歴史を覆す~』

月神世一

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第二章 マリアナ攻略

EP 7

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『怪物』の『産声』
1942年12月24日 - 呉工銭・裏山 地上試験場
クリスマス・イブの寒空の下、呉の山中に、耳をつんざくような「咆哮」が響き渡った。
「――燃焼、安定!」
「回転数、毎分1万2千! 異常なし!」
「ブレード温度、許容範囲内!」
堀越二郎と手島秀明は、防爆ガラスに額を押し付け、その「怪物」が火を噴くのを、固唾を飲んで見守っていた。
三菱(財閥)から『横流し』された、最高品質のニッケルとタングステン。
坂上が提示した『中空冷却(フィルム・クーリング)』技術。
そして、海軍(堀越)の「軽量化」と陸軍(手島)の「素材工学」の「融合」。
全てが、今、この「筒」の中に、凝縮されていた。
『ネ20改』――日本初の、実用ジェットエンジン。
その試作機が、轟音と共に、700kg近い「推力」を叩き出していた。
「……やった」
堀越の目から、涙がこぼれた。
「……飛ぶぞ、堀越さん。
プロペラが無くとも、
こいつは、空を、飛ぶぞ……!」
手島が、震える声で、相棒の肩を叩いた。
坂上が「ユモ004」の図面を見せてから、わずか5ヶ月。
史実では、終戦間際にようやく形になった「技術」が、
坂上の「チート」と「政治力(リソース強奪)」によって、
1942年末という「異次元の速度」で、
「産声」を上げた瞬間だった。
「……上出来だ」
試験場を見下ろす丘の上で、坂上真一が、冷ややかに呟いた。
その隣には、ラバウルから呼び戻された「ニュータイプ」――笹井醇一と西沢広義がいた。
「……あれが」
笹井が、地響きのような「音」に、武者震いを抑えられないでいた。
「俺たちが、乗る『心臓』か」
「ああ」
坂上は、二人に、全く新しい「操縦桿」の設計図を見せた。
(F-35Bの『HOTAS(ホータス)思想』――手を操縦桿から離さずに、兵装を操作できる――の、この時代で実現可能な「簡易版」だった)
「君たちには、この『音』に、慣れてもらう。
零戦の『振動』は、全て忘れろ。
これからは、この『G(重力)』と『速度』こそが、君たちの『翼』だ。
――『秋水(仮称)』の、ジェット訓練シミュレーションを、今日から『フェーズ2』に移行する」
エースたちは、もはや「戦闘機乗り」ではなく、
未来の「ロケットパイロット」のような、
未知の「領域」へと、その感覚を、作り替えられていった。
1943年1月10日 - 房総半島・勝浦 沖
「――反応アリ!」
『ゴジラ・ネット』試作第三号機(量産型)が、鋭い警報を上げた。
指揮を執る源田実が、ヘッドセットを掴む。
「方位0-9-0! 遥か沖合!
……高度、1万!?
馬鹿な、また一式陸攻のテストか!?」
「待て! 識別信号(IFF)、応答ナシ!」
「……敵だ!」
司令部が、凍りついた。
日本のレーダーが、初めて、
日本本土に接近する「未知の脅威」を、
その「実戦」で、捕捉した瞬間だった。
「高度1万……。
まさか、坂上顧問の言う、
『B-29』――では、ないな?」
「……いや、違う!」
観測員が、必死でダイヤルを回す。「機影、単機!
……速い! だが、B-29(やつ)ではない!
……偵察機だ!
米陸軍の、『B-17(フライングフォートレス)』の、高高度偵察型だ!」
史実では、米軍は、1943年初頭から、B-17やB-24の改造機(F-7、F-9)を使い、日本本土の「写真偵察」を、秘密裏に、開始していた。
日本のレーダー網(当時は存在しないも同然)は、それを全く、捕捉できなかった。
だが、今。
源田の『ゴジラ・ネット』は、
房総半島のはるか沖合で、
日本を「盗撮」しようとした「幽霊(ファントム)」を、
完璧に、捉えていた。
「……笑わせる」
源田は、マイクを握りしめた。
「坂上顧問の『網(ゴジラ・ネット)』の前では、
『幽霊』も、『丸裸』だ」
源田は、待機していた横須賀航空隊の「迎撃命令」ボタンを、押そうとした。
「……待て」
その手を、いつの間にか司令室に来ていた、坂上が、制した。
「源田さん。そいつは、逃がせ」
「……何!?」
「今、ここで、落とすな。
落とせば、米軍は、『日本に新型レーダーあり』と、気づいてしまう」
「……だが!」
「泳がせろ」
坂上は、ブラウン管に映る「光点」を、冷徹に見据えた。
「B-17(ぜんざ)ごときに、俺たちの『切り札(ゴジラ・ネット)』を、見せる必要はない。
そいつに、今の『平和な東京』の写真を、好きなだけ、撮させてやれ。
……そして、
『日本、防備ナシ。丸裸ナリ』と、
ニミッツ(太平洋艦隊司令部)に、報告させるんだ」
「……ぐっ」
源田は、屈辱に、拳を握りしめた。
「……分かった。
『本当の獲物(B-29)』が、
この『網』にかかる、
その『本番』まで、
――『狸寝入り』を、続ける」
坂上の「プロジェクト」は、
「槍(ジェット)」も「目(レーダー)」も、
東條の妨害を乗り越え、
ありえない速度で「完成」へと、突き進んでいた。
1943年1月15日 - 市ヶ谷・首相官邸
「――何だと!?」
東條英機は、湯呑みを、今度こそ、叩き割った。
彼に届けられた「報告書」は、信じがたい「現実」を、突きつけていた。
『呉工廠、新型発動機(ジェット)、地上燃焼ニ成功』
『房総半島、新型電探(レーダー)網、実戦配備ニ移行』
『三菱(ザイバツ)、海軍ノ要求(レアメタル)ヲ、全面的ニ受諾』
「……あの、財閥の『豚』どもが……!
この私(こっか)を、裏切ったか……!」
東條は、悟った。
彼が「蛇口」を締めれば、坂上は「井戸」そのものを掘り当てた。
彼が「兵站」を止めれば、坂上は「経済」そのものを、掌握した。
(……このままでは、負ける)
東條の「敵」は、もはや「米英」ではなかった。
海軍(ヤマモト)の「傀儡(かいらい)」となり、
日本の「技術」と「経済」を、
その一身に集めつつある、「神(ばけもの)」。
――坂上真一。
(……あの男に、
これ以上、
『時間』と『力』を、与えてはならん……!)
東條は、「最後の手段」を決意した。
それは、彼が「首相」として、
坂上の「プロジェクト」を、
合法的に「握り潰す」、
最悪の「一手」だった。
「……山本五十六は、今、どこにいる」
東條は、副官に、冷たく尋ねた。
「はっ。山本長官は、トラック諸島。
連合艦隊の、最前線基地に、おられます」
「……そうか。『最前線』か」
東條の目が、蛇のように、細められた。
「……連合艦隊司令部(トラック)に、
『至急電』を、打て。
議題は、
――『マリアナ諸島』の、
防衛計画の、
『全面的な、見直し』について、だ」
坂上の「プロジェクト」が、
東條の「政治力」によって、
その「根幹」から、
揺さぶられようとしていた。
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