『F-35B、ミッドウェーに降臨す ～超エリート空自パイロット、一回限りの『魔法』で歴史を覆す～』

第二章 マリアナ攻略

EP 15

1944年6月12日 10時00分 - 米第58機動部隊旗艦「レキシントンII」
「――報告（リポート）を、もう一度、読め」
第58機動部隊司令官、マーク・ミッチャー中将の、静かな、しかしマグマのような怒りを含んだ声が、CIC（戦闘情報センター）に響いた。
「……はっ。B-17、第一次攻撃隊200機。
……140機、喪失（ロスト）。
……50機、中破・大破。
……帰還（生還）し、再出撃可能な機体、わずか『10機』。
……作戦目標（アスリート飛行場）、損害、軽微」
CICが、死んだように、静まり返った。
「5分だぞ」
ミッチャーは、歯を食いしばった。
「たった『5分』で、我が軍の最強の戦略爆撃機（フォートレス）が、140機、蒸発（ヴェイポライズ）した。
……P-51（ムスタング）は、何を見ていた！？」
「……それが、」
報告に来たP-51の隊長が、青ざめた顔で答えた。
「……敵のゼロは、我々を『誘い出す』ためだけに……。我々が、B-17から『引き剥がされた』、その『瞬間』を、狙って……」
「――ミッチ」
冷静な声が、ミッチャーを制した。
第5艦隊司令長官、レイモンド・スプルーアンス提督が、生還したB-17のパイロットから聞き取った「証言録」を、読んでいた。
「……問題は、そこではない。
……生き残ったパイロット全員が、同じことを言っている。
『敵の弾は、当たらなかった』
『我々の、10ヤード、20ヤード手前で、弾が、炸裂した』と」
「……何だと？」
ミッチャーが、眉をひそめた。
「……時限信管か？ だが、高度8000で、どうやって正確に……」
「……彼らは、それを、『魔法（マジック・フラック）』と、呼んでいた」
スプルーアンスは、証言録を、置いた。
彼の、怜悧（れいり）な、戦略家の「脳」が、警鐘を、乱打していた。
（……タラワの『赤い海（キルゾーン）』。
（……マーシャルの『異常な出血（コスト）』。
（……そして、今日の、『魔法の弾（マジック・フラック）』）
（……偶然ではない。
（全てが、繋がっている。
（日本軍の『中枢』に、我々の『思考』と『技術』を、……いや、我々の『未来』を、知る、『何者』かが、いる）
「……ミッチ」
スプルーアンスは、決断した。
「敵は、我々がB-17で『露払い』をすることを、知っていた。
……そして、我々が『次』に、何をしようとしているかも、知っているはずだ」
「……まさか」
「――総員、第一級戦闘配置」
スプルーアンスが、艦隊全軍に、命令を下した。
「日本の『機動部隊』が、……来る。
……全偵察機、発艦！
……CAP（戦闘空中哨戒）、全機、高度を上げろ！
……敵を、見つけ次第、叩く！」
米軍の、空母15隻が、
一斉に、
最新鋭の「F6Fヘルキャット」を、
空に、
放った。
だが、
その「網（ネット）」は、
すでに、
「穴」だらけだった。
1944年6月12日 11時00分 - 連合艦隊旗艦「加賀」
（※史実でミッドウェーで沈んだ加賀は、このタイムラインでは中破で生還。呉で、坂上の「魔改造」を受け、最新鋭のカタパルトと、強化された飛行甲板を持つ「新生・加賀」として、南雲艦隊の旗艦となっていた）
「――敵CAP（ヘルキャット）、
全機、
発艦完了。
高度1万（メートル）に向け、
上昇中」
サイパンの、源田実の『ゴジラ・ネット』から送られてくる「敵の全情報」が、
南雲忠一の手元に、
リアルタイムで、
表示されていた。
「……愚かな」
南雲は、
ミッドウェーで「情報戦」に敗れた、
かつての自分を、
嘲笑うかのように、
呟いた。
「……敵は、『上』を、見ている。
……索敵機は、『西（トラック諸島方面）』を、探している」
南雲は、
この1年半、
坂上と、
山本五十六に、
叩き込まれた、
「未来戦術（システム）」の、
『教科書』の、
最終ページを、
開いた。
「――全攻撃隊、発艦、始め」
南雲の、
静かな、
命令が、
下った。
温存され、
再教育された、
「5隻」の空母
――赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴
から、
「第二次攻撃隊（ハンマー）」が、
発艦していく。
だが、
その「高度」は、
異常だった。
「――全機、
高度『50』！
『海面』を、
這え！」
坂上の「ステルス戦術」だった。
レーダー（※この時代の米軍の旧式レーダー）を、
「海面の乱反射（シークラッター）」で、
欺瞞（ぎまん）するための、
「超低空侵攻」だった。
ミッドウェーで死ななかった、
「伝説のエース」たちが、
操る、
新型の「流星（艦攻）」と、
「彗星（艦爆）」、
そして護衛の「ゼロ（五二型）」、
総計、
「350機」の、
大編隊が、
米軍の、
「レーダー網」の、
「真下」を、
すり抜けていった。
1944年6月12日 12時30分 - 米第58機動部隊上空
「……なんだ、あれは？」
米軍の、
「上空」で、
哨戒していた、
ヘルキャットの、
パイロットが、
「下」を、
見た。
海面、
ギリギリ。
まるで、
「巨大な『波』」が、
押し寄せてくるかのように、
日章旗を、
つけた、
大編隊が、
殺到してくる。
「―――！？！？
敵襲！ 敵襲（ジャップ）！！
真下だ！
高度、ゼロ！
全機、
急降下（ダイブ）！
迎撃せよ！！」
ヘルキャット隊が、
慌てて、
高度1万から、
「急降下」を、
開始した。
だが、
「30秒」、
遅かった。
「――『蝿叩き（フライ・スワッター）』、
第二段階、
開始！」
「――全機、
『未来（システム）』を、
見せてやれ！！」
護衛の「ゼロ戦隊」が、
一斉に、
「上昇」し、
急降下してくる、
ヘルキャット隊に、
「壁」として、
立ちはだかった。
そして、
その「一瞬」で、
「流星（艦攻）」と、
「彗星（艦爆）」の、
「本隊（ハンマー）」は、
米軍の「空母15隻」の、
「懐（ふところ）」に、
飛び込んでいた。
「――う、
撃てぇぇぇ！！」
米軍の、
戦艦、
巡洋艦が、
対空砲火（フラック）の、
「弾幕」を、
張った。
だが、
「当たる」はずが、
なかった。
坂上が、
この日のために、
堀越と手島に、
「F-35B（オーパーツ）」の、
「概念」を、
見せて、
作らせた、
「秘密兵器」
――『対艦誘導弾（※無線誘導式のロケット弾）』が、
「流星」の、
翼から、
「発射」された。
それは、
パイロットの「勘」では、
ない。
後部座席の「誘導手」が、
「ジョイスティック」で、
「照準」を、
合わせ続ける、
「必中」の、
「槍」だった。
「……なっ！？
魚雷じゃない！
ロケットが……、
『曲がった』！？」
米軍の、
対空砲手が、
絶叫した。
「槍」は、
回避運動を、
「無視」し、
米空母の、
「飛行甲板」と、
「エレベーター」に、
吸い込まれていった。
ドゴォォォン！！
ドガァァァン！！
「――『エセックス』、
飛行甲板に、
被弾！」
「――『ヨークタウンII』、
エレベーター、
大破！」
「――『ホーネットII』、
艦橋、
直撃！」
それは、
ミッドウェーの、
「再現」だった。
だが、
「立場」が、
「逆転」した、
「再現」だった。
完璧な「情報（ゴジラ・ネット）」と、
完璧な「戦術（超低空侵攻）」、
そして、
完璧な「兵器（誘導弾）」が、
組み合わさった、
「システム」による、
「一方的な『攻撃（ハント）』」だった。
スプルーアンスは、
燃え盛る、
3隻の「最新鋭空母」を見ながら、
戦慄した。
「……我々は、
『罠（トラップ）』に、
かかった……。
……これは、
『ミッドウェー』の、
『復讐』だ」
南雲忠一の、
「第一次攻撃隊（ハンマー）」は、
米軍の「空母15隻」のうち、
「4隻」を、
「行動不能（炎上）」に、
陥れ、
悠々と、
帰還していった。
だが、
坂上の「本当の『一手』」は、
まだ、
残されていた。
「……南雲さん」
呉の坂上は、
冷たく、
「次」の、
指示を、
出していた。
「……敵は、
負傷した『4隻』を、
守るため、
『輪形陣（サークル）』を、
組む。
……そこが、
『地獄』の、
入り口だ」
「――『槍（しゅうすい）』、
準備」