【闘気ゼロの犬耳族】規格外の知識で飛竜を育成したら、いつの間にか敵国から狙われる国家戦略級のブリーダーになっていました

月神世一

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EP 7

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王都の喧騒から遠く離れた、ドワーフ族が営む辺境の武具工房。熱と煤にまみれたその一室で、九尾族のプラチナ商人キサラは、ドワーフの親方に極秘裏に接触していた。
「やあ、ブルノー親方。ガルーダ獣人国から仕入れている『飛竜装甲』の質が、最近急激に向上していると聞きましたが、いかがです?」
キサラは微笑んだが、その瞳は笑っていなかった。ブルノーは、鍛冶場の熱気に負けない威勢のいい笑い声を上げた。
「ホッホッホ! キサラ嬢、さすが商売の勘が鋭い! 確かにそうだ。特にこの半年で、若いワイバーンの成長速度が異常だ。成長が早い分、鱗の質も魔力耐性も均一で、装甲の加工がしやすい。まるで機械的に完璧な素材になったようだ」
「機械的、ですか。その秘密を握る『レオン』という名の犬耳族について、何かご存知で?」
キサラは銅貨を詰めた革袋を、ブルノーの前に置いた。ブルノーはすぐにその袋を掴み、中身を確認してから囁いた。
「噂だぞ。あいつは、生き物を『データ』で見るらしい。あいつが管理するワイバーンは、生まれた時から雷撃の力を固定化されているとか。…まるで、魔法じゃなくて、科学で生き物を作っているようだと、うちの若い職人が怖がっている」
キサラの目が、鋭い光を放った。「科学」。その言葉は、エルフの「叡智」や魔族の「魔術」とは全く違う、未知の価値を持つことを示唆していた。
「ありがとうございます、親方。この情報、金貨一枚の価値がありました」
キサラは、レオンの情報をルミナス帝国側に売ることを決めた。ガルーダ獣人国の戦力増強は、大陸のバランスを崩す。そして、バランスが崩れた時こそ、商人の最大の好機が訪れる。
その情報がルミナス帝国に届くのに、時間はかからなかった。
帝国の情報機関が動いた結果、レオンは一転して「帝国が奪取すべき最重要技術者」としてマークされることになる。
そして、その日の夕刻。
レオンは、バルクスと共に、新しく導入した魔力集中装置の調整を行っていた。近衛兵のアルバスと、もう一人の虎耳族の近衛兵が、倉庫の入り口で監視している。
「レオン補佐官、この配線で、魔力注入の効率は本当に10%向上するのですか? 見た目は以前の配線と変わりませんが……」
バルクスは、もはやレオンの「知識」に逆らおうとはしなかったが、理解できないものは怖かった。
「バルクス様。魔力回路は水の流れと同じです。曲線を直角から緩やかなカーブに変えるだけで、抵抗が減ります。これは『流体力学』の基本です」
レオンが説明しているその時、ブリーディング・ステーションの通用門から、一人の男が商業ギルドのシルバーランクの身分証を掲げ、堂々と入ってきた。
その男は、一見するとただの人間の行商人に見えた。黒髪で背が高く、人当たりの良い笑みを浮かべている。だが、彼の瞳の奥には、レオンの『生体構造理解』スキルが瞬時に解析する、極めて冷徹な感情パラメータが隠されていた。
対象:人間(ルミナス帝国)
職業:【偽装:行商人】→【真:帝国情報機関・特級スパイ】
闘気レベル:B+(隠蔽)
ユニークスキル:【情報解析(インテリジェンス・アナリシス)】
動機:【レオンの技術の奪取、またはレオン自身の拉致】

レオンの心臓が、警告音を鳴らした。この男は、これまでのブリーダーたちとは次元が違う、本物の敵だ。しかも、闘気のレベルもレオンより遥かに高い。
「おや、こちらはワイバーンの飼育場ですかな? 素晴らしい闘気の高まりを感じますね」
男は人懐っこい笑みを浮かべながら、レオンたちに近づいてきた。彼の目線は、レオンが調整していた魔力集中装置に釘付けになっている。
近衛兵のアルバスが、すぐに警戒態勢に入った。
「ここは軍事施設だ。行商人の立ち入りは禁じられている。すぐに立ち去れ」
「これは失礼。私はこの度の月光草の大量仕入れに関する商業ギルドの監査役でしてね。責任者の方に、契約書へのサインをお願いしたいのですよ」
男は優雅に書類を取り出した。その手つきは優雅だが、レオンのスキルは、その書類に微細な魔力の痕跡があることを捉えていた。
(罠だ。契約書ではなく、おそらく魔力探知の術式が仕込まれている。ワイバーンの魔力特性を解析しようとしている!)
レオンは、冷や汗が背筋を伝うのを感じた。ここで立ち止まれば、彼らの機密が漏れる。しかし、近衛兵を無視して、商業ギルドの監査役を追い返すこともできない。
レオンは、知識を武器に、この絶体絶命の状況を切り抜けることを決意した。
「バルクス様、アルバス様。サインは私がします。しかし、この装置に触れることは許しません。これは極めて不安定な状態にありますので」
レオンは、スパイの男から書類を受け取ると、あえてその場から数メートル離れた、瓦礫の山の上に書類を置き、ペンを取った。
「どうぞ、サインを」男は微笑んだ。
レオンはサインをするフリをしながら、片手で地面の瓦礫をいくつか掴み取った。そして、一気にペンで書類にサインを書き終えると、書類を男に返すのではなく、掴んだ瓦礫を書類に向かって投げつけた。
瓦礫が書類に当たった瞬間、書類に仕込まれていた魔力探知の術式が反応し、辺り一帯に微弱な青白い光が拡散した。同時に、瓦礫の山に隠されていた『魔力撹乱用の魔石』が起動し、その光を一瞬で吸収し、打ち消した。
スパイの男の表情が、初めて凍り付いた。彼はすぐに状況を理解し、一瞬で行商人の仮面を脱ぎ捨て、殺気を放った。
「……気づいたか、犬め!」
男は、懐に隠し持っていた魔法銃(魔砲技術を応用した小型の武器)を抜き、レオンに銃口を向けた。
ミッドポイント:レオン、最大の危機に直面
男は、レオンの「知識」が、自分の「特級スパイの技術」をも上回ったことに、驚きと怒りを覚えた。
「その知識、ここで終わりだ。ガルーダ獣人国には渡させん!」
ワイバーンが産み出す「情報」を巡る、ガルーダ獣人国とルミナス帝国の技術者とスパイによる、最初の死闘が始まろうとしていた。
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