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EP 6
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レオンの生活は、物理的な労働から解放された代わりに、目に見えない鎖で雁字搦めになった。彼の周りには常に二人の近衛兵が張り付き、彼が行く先々、触れるもの全てを監視する。彼らは最高位の獅子耳族と虎耳族の戦士で、レオンの微細な行動すらも見逃さないという決意が、その鋭い眼光に宿っていた。
特に、その近衛兵の一人、アルバスという名の獅子耳族の青年は、レオンに対して露骨な軽蔑と警戒心を抱いていた。
「レオン補佐官殿。なぜ、そんなに長い間、あの死んだ卵を見つめている?」
アルバスが、レオンの背後から低い声で尋ねた。レオンは、廃棄される劣悪個体の卵を手に、その成長曲線がゼロになったポイントを解析していた。
「分析しています。この個体は、孵化直前に魔力を吸収できなくなった。その原因を特定することで、今後の失敗率をさらに下げることができます」
「我々から見れば、それはただのゴミだ。死んだものに時間を費やすとは、非効率極まりない。貴様のいう知識も、結局は回りくどいのだな」
アルバスは、レオンの「知識」を未だに信用していない。彼は闘気の絶対的な力を信奉しており、レオンの成功を「まぐれ」か「王族を騙す邪術」だと疑っていた。
レオンはため息をつきたかったが、表情には出さなかった。
(データ:【アルバスの信頼度:5%。監視レベル:極めて高い。感情:敵意と好奇心の混在】。対処:【感情論ではなく、数字で実績を積み、彼の好奇心を刺激すること】)
「アルバス様。私にとっては、失敗のデータも成功と同じ価値があります。この個体の体内魔力回路は、特定の周波数の魔力を異物として認識し、排除しようとしています。これは、親世代の交配時に組み込まれた遺伝的なノイズです」
「ノイズ……?」
アルバスは、レオンの専門用語には全くついていけなかったが、「遺伝的」という言葉には反応した。彼ら獣人族は、血統と種族特性を重んじるからだ。
「ええ。バルクス様たちが行っていた従来の交配法では、外見の強さしか見ていなかった。しかし、私の知識では、目に見えない魔力回路の相性が、孵化率を左右する。私の新しい交配プランは、そのノイズを除去(デリート)するためのものです」
レオンはそう言って、新たな交配リストをアルバスに突きつけた。そのリストは、伝統的な上位種族の組み合わせではなく、豹耳族と兎耳族といった異色の組み合わせを推奨していた。
「豹耳族の俊敏な魔力伝達速度と、兎耳族の驚異的な回復力を組み合わせることで、『高速回復型』のワイバーン、つまり、連続戦闘能力が格段に向上する個体が生まれます」
アルバスは眉をひそめた。彼のプライドが、下位種族である兎耳族との交配を命じることに反発していた。
「下位種族との交配など……ザイード騎士団長は、これを承認したのか?」
「はい。結果を見せる、という条件で」レオンは静かに答えた。
この頃、レオンはブリーディング・ステーションの壁を越え、王都の商業ギルドとも頻繁に接触するようになっていた。彼の依頼は、「特殊な魔草の大量仕入れ」。
特に彼が大量に求めている『月光草』は、獣人国では主にポーションの材料として使われていたが、レオンはその「カルシウムとミネラルの含有量」をワイバーンの栄養剤として利用していた。
王都の商業ギルド、九尾族のプラチナランク商人であるキサラは、レオンの異常な仕入れ量に気づき始めていた。
「月光草の需要が急増している、と? しかもガルーダ獣人国の騎士団から、個人の名義で、しかも大量に」
キサラは、自分の持つ「商いの慧眼」ユニークスキルを使い、この取引の背景を分析していた。
「このレオンという犬耳族、一体何者だ? ワイバーンの孵化率が劇的に上がったという噂が、ドワーフの武具商人の間でも広まり始めている。これは、単なるブリーダーの仕事ではない。情報として、売れる」
キサラの鼻腔の奥に、巨大なビジネスチャンスの匂いが届いていた。彼女はすぐに、自分の情報網を駆使し、レオンに関する極秘情報を集め始める。
レオンの存在は、すでにガルーダ獣人国の軍事機密の枠を超え、情報という名の銀貨に変換され、マンルシア大陸全土の闇の情報市場へと流れ出そうとしていた。
レオンの運命は、彼が創り上げた「規格外の成果」によって、否応なしにミッドポイント(物語の折り返し地点)へと加速していくのだった。
特に、その近衛兵の一人、アルバスという名の獅子耳族の青年は、レオンに対して露骨な軽蔑と警戒心を抱いていた。
「レオン補佐官殿。なぜ、そんなに長い間、あの死んだ卵を見つめている?」
アルバスが、レオンの背後から低い声で尋ねた。レオンは、廃棄される劣悪個体の卵を手に、その成長曲線がゼロになったポイントを解析していた。
「分析しています。この個体は、孵化直前に魔力を吸収できなくなった。その原因を特定することで、今後の失敗率をさらに下げることができます」
「我々から見れば、それはただのゴミだ。死んだものに時間を費やすとは、非効率極まりない。貴様のいう知識も、結局は回りくどいのだな」
アルバスは、レオンの「知識」を未だに信用していない。彼は闘気の絶対的な力を信奉しており、レオンの成功を「まぐれ」か「王族を騙す邪術」だと疑っていた。
レオンはため息をつきたかったが、表情には出さなかった。
(データ:【アルバスの信頼度:5%。監視レベル:極めて高い。感情:敵意と好奇心の混在】。対処:【感情論ではなく、数字で実績を積み、彼の好奇心を刺激すること】)
「アルバス様。私にとっては、失敗のデータも成功と同じ価値があります。この個体の体内魔力回路は、特定の周波数の魔力を異物として認識し、排除しようとしています。これは、親世代の交配時に組み込まれた遺伝的なノイズです」
「ノイズ……?」
アルバスは、レオンの専門用語には全くついていけなかったが、「遺伝的」という言葉には反応した。彼ら獣人族は、血統と種族特性を重んじるからだ。
「ええ。バルクス様たちが行っていた従来の交配法では、外見の強さしか見ていなかった。しかし、私の知識では、目に見えない魔力回路の相性が、孵化率を左右する。私の新しい交配プランは、そのノイズを除去(デリート)するためのものです」
レオンはそう言って、新たな交配リストをアルバスに突きつけた。そのリストは、伝統的な上位種族の組み合わせではなく、豹耳族と兎耳族といった異色の組み合わせを推奨していた。
「豹耳族の俊敏な魔力伝達速度と、兎耳族の驚異的な回復力を組み合わせることで、『高速回復型』のワイバーン、つまり、連続戦闘能力が格段に向上する個体が生まれます」
アルバスは眉をひそめた。彼のプライドが、下位種族である兎耳族との交配を命じることに反発していた。
「下位種族との交配など……ザイード騎士団長は、これを承認したのか?」
「はい。結果を見せる、という条件で」レオンは静かに答えた。
この頃、レオンはブリーディング・ステーションの壁を越え、王都の商業ギルドとも頻繁に接触するようになっていた。彼の依頼は、「特殊な魔草の大量仕入れ」。
特に彼が大量に求めている『月光草』は、獣人国では主にポーションの材料として使われていたが、レオンはその「カルシウムとミネラルの含有量」をワイバーンの栄養剤として利用していた。
王都の商業ギルド、九尾族のプラチナランク商人であるキサラは、レオンの異常な仕入れ量に気づき始めていた。
「月光草の需要が急増している、と? しかもガルーダ獣人国の騎士団から、個人の名義で、しかも大量に」
キサラは、自分の持つ「商いの慧眼」ユニークスキルを使い、この取引の背景を分析していた。
「このレオンという犬耳族、一体何者だ? ワイバーンの孵化率が劇的に上がったという噂が、ドワーフの武具商人の間でも広まり始めている。これは、単なるブリーダーの仕事ではない。情報として、売れる」
キサラの鼻腔の奥に、巨大なビジネスチャンスの匂いが届いていた。彼女はすぐに、自分の情報網を駆使し、レオンに関する極秘情報を集め始める。
レオンの存在は、すでにガルーダ獣人国の軍事機密の枠を超え、情報という名の銀貨に変換され、マンルシア大陸全土の闇の情報市場へと流れ出そうとしていた。
レオンの運命は、彼が創り上げた「規格外の成果」によって、否応なしにミッドポイント(物語の折り返し地点)へと加速していくのだった。
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