6 / 7
EP 6
しおりを挟む
レオンの生活は、物理的な労働から解放された代わりに、目に見えない鎖で雁字搦めになった。彼の周りには常に二人の近衛兵が張り付き、彼が行く先々、触れるもの全てを監視する。彼らは最高位の獅子耳族と虎耳族の戦士で、レオンの微細な行動すらも見逃さないという決意が、その鋭い眼光に宿っていた。
特に、その近衛兵の一人、アルバスという名の獅子耳族の青年は、レオンに対して露骨な軽蔑と警戒心を抱いていた。
「レオン補佐官殿。なぜ、そんなに長い間、あの死んだ卵を見つめている?」
アルバスが、レオンの背後から低い声で尋ねた。レオンは、廃棄される劣悪個体の卵を手に、その成長曲線がゼロになったポイントを解析していた。
「分析しています。この個体は、孵化直前に魔力を吸収できなくなった。その原因を特定することで、今後の失敗率をさらに下げることができます」
「我々から見れば、それはただのゴミだ。死んだものに時間を費やすとは、非効率極まりない。貴様のいう知識も、結局は回りくどいのだな」
アルバスは、レオンの「知識」を未だに信用していない。彼は闘気の絶対的な力を信奉しており、レオンの成功を「まぐれ」か「王族を騙す邪術」だと疑っていた。
レオンはため息をつきたかったが、表情には出さなかった。
(データ:【アルバスの信頼度:5%。監視レベル:極めて高い。感情:敵意と好奇心の混在】。対処:【感情論ではなく、数字で実績を積み、彼の好奇心を刺激すること】)
「アルバス様。私にとっては、失敗のデータも成功と同じ価値があります。この個体の体内魔力回路は、特定の周波数の魔力を異物として認識し、排除しようとしています。これは、親世代の交配時に組み込まれた遺伝的なノイズです」
「ノイズ……?」
アルバスは、レオンの専門用語には全くついていけなかったが、「遺伝的」という言葉には反応した。彼ら獣人族は、血統と種族特性を重んじるからだ。
「ええ。バルクス様たちが行っていた従来の交配法では、外見の強さしか見ていなかった。しかし、私の知識では、目に見えない魔力回路の相性が、孵化率を左右する。私の新しい交配プランは、そのノイズを除去(デリート)するためのものです」
レオンはそう言って、新たな交配リストをアルバスに突きつけた。そのリストは、伝統的な上位種族の組み合わせではなく、豹耳族と兎耳族といった異色の組み合わせを推奨していた。
「豹耳族の俊敏な魔力伝達速度と、兎耳族の驚異的な回復力を組み合わせることで、『高速回復型』のワイバーン、つまり、連続戦闘能力が格段に向上する個体が生まれます」
アルバスは眉をひそめた。彼のプライドが、下位種族である兎耳族との交配を命じることに反発していた。
「下位種族との交配など……ザイード騎士団長は、これを承認したのか?」
「はい。結果を見せる、という条件で」レオンは静かに答えた。
この頃、レオンはブリーディング・ステーションの壁を越え、王都の商業ギルドとも頻繁に接触するようになっていた。彼の依頼は、「特殊な魔草の大量仕入れ」。
特に彼が大量に求めている『月光草』は、獣人国では主にポーションの材料として使われていたが、レオンはその「カルシウムとミネラルの含有量」をワイバーンの栄養剤として利用していた。
王都の商業ギルド、九尾族のプラチナランク商人であるキサラは、レオンの異常な仕入れ量に気づき始めていた。
「月光草の需要が急増している、と? しかもガルーダ獣人国の騎士団から、個人の名義で、しかも大量に」
キサラは、自分の持つ「商いの慧眼」ユニークスキルを使い、この取引の背景を分析していた。
「このレオンという犬耳族、一体何者だ? ワイバーンの孵化率が劇的に上がったという噂が、ドワーフの武具商人の間でも広まり始めている。これは、単なるブリーダーの仕事ではない。情報として、売れる」
キサラの鼻腔の奥に、巨大なビジネスチャンスの匂いが届いていた。彼女はすぐに、自分の情報網を駆使し、レオンに関する極秘情報を集め始める。
レオンの存在は、すでにガルーダ獣人国の軍事機密の枠を超え、情報という名の銀貨に変換され、マンルシア大陸全土の闇の情報市場へと流れ出そうとしていた。
レオンの運命は、彼が創り上げた「規格外の成果」によって、否応なしにミッドポイント(物語の折り返し地点)へと加速していくのだった。
特に、その近衛兵の一人、アルバスという名の獅子耳族の青年は、レオンに対して露骨な軽蔑と警戒心を抱いていた。
「レオン補佐官殿。なぜ、そんなに長い間、あの死んだ卵を見つめている?」
アルバスが、レオンの背後から低い声で尋ねた。レオンは、廃棄される劣悪個体の卵を手に、その成長曲線がゼロになったポイントを解析していた。
「分析しています。この個体は、孵化直前に魔力を吸収できなくなった。その原因を特定することで、今後の失敗率をさらに下げることができます」
「我々から見れば、それはただのゴミだ。死んだものに時間を費やすとは、非効率極まりない。貴様のいう知識も、結局は回りくどいのだな」
アルバスは、レオンの「知識」を未だに信用していない。彼は闘気の絶対的な力を信奉しており、レオンの成功を「まぐれ」か「王族を騙す邪術」だと疑っていた。
レオンはため息をつきたかったが、表情には出さなかった。
(データ:【アルバスの信頼度:5%。監視レベル:極めて高い。感情:敵意と好奇心の混在】。対処:【感情論ではなく、数字で実績を積み、彼の好奇心を刺激すること】)
「アルバス様。私にとっては、失敗のデータも成功と同じ価値があります。この個体の体内魔力回路は、特定の周波数の魔力を異物として認識し、排除しようとしています。これは、親世代の交配時に組み込まれた遺伝的なノイズです」
「ノイズ……?」
アルバスは、レオンの専門用語には全くついていけなかったが、「遺伝的」という言葉には反応した。彼ら獣人族は、血統と種族特性を重んじるからだ。
「ええ。バルクス様たちが行っていた従来の交配法では、外見の強さしか見ていなかった。しかし、私の知識では、目に見えない魔力回路の相性が、孵化率を左右する。私の新しい交配プランは、そのノイズを除去(デリート)するためのものです」
レオンはそう言って、新たな交配リストをアルバスに突きつけた。そのリストは、伝統的な上位種族の組み合わせではなく、豹耳族と兎耳族といった異色の組み合わせを推奨していた。
「豹耳族の俊敏な魔力伝達速度と、兎耳族の驚異的な回復力を組み合わせることで、『高速回復型』のワイバーン、つまり、連続戦闘能力が格段に向上する個体が生まれます」
アルバスは眉をひそめた。彼のプライドが、下位種族である兎耳族との交配を命じることに反発していた。
「下位種族との交配など……ザイード騎士団長は、これを承認したのか?」
「はい。結果を見せる、という条件で」レオンは静かに答えた。
この頃、レオンはブリーディング・ステーションの壁を越え、王都の商業ギルドとも頻繁に接触するようになっていた。彼の依頼は、「特殊な魔草の大量仕入れ」。
特に彼が大量に求めている『月光草』は、獣人国では主にポーションの材料として使われていたが、レオンはその「カルシウムとミネラルの含有量」をワイバーンの栄養剤として利用していた。
王都の商業ギルド、九尾族のプラチナランク商人であるキサラは、レオンの異常な仕入れ量に気づき始めていた。
「月光草の需要が急増している、と? しかもガルーダ獣人国の騎士団から、個人の名義で、しかも大量に」
キサラは、自分の持つ「商いの慧眼」ユニークスキルを使い、この取引の背景を分析していた。
「このレオンという犬耳族、一体何者だ? ワイバーンの孵化率が劇的に上がったという噂が、ドワーフの武具商人の間でも広まり始めている。これは、単なるブリーダーの仕事ではない。情報として、売れる」
キサラの鼻腔の奥に、巨大なビジネスチャンスの匂いが届いていた。彼女はすぐに、自分の情報網を駆使し、レオンに関する極秘情報を集め始める。
レオンの存在は、すでにガルーダ獣人国の軍事機密の枠を超え、情報という名の銀貨に変換され、マンルシア大陸全土の闇の情報市場へと流れ出そうとしていた。
レオンの運命は、彼が創り上げた「規格外の成果」によって、否応なしにミッドポイント(物語の折り返し地点)へと加速していくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
無属性魔法しか使えない少年冒険者!!
藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。
不定期投稿作品です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる