5 / 7
EP 5
しおりを挟む
レオンがブリーディング・ステーションの実権を握ってから、わずか三ヶ月。その成果は、数字として、そして具体的な「戦力」として現れ始めた。
かつて10%以下だったワイバーンの孵化率は、レオンの精密な栄養管理と温度制御により85%にまで跳ね上がった。幼体の死亡率はほぼゼロに。そして何より驚異的だったのは、レオンが管理する幼体の成長速度だった。通常5~7年かかっていた戦力化までの期間が、約2年に短縮されるという、異次元の効率を実現したのだ。
ステーション内の空気は一変した。以前はレオンを侮蔑していたブリーダーたちも、今や彼を「先生」と呼び、彼の指示を盲目的に実行するようになった。闘気を信じる彼らにとって、レオンの知識は理解できないが、「絶対的な結果」を生み出す魔術のように映った。
虎耳族のバルクスは、今やレオンの最も忠実な部下の一人になっていた。彼の顔には、以前の傲慢さではなく、純粋な技術への畏敬が刻まれていた。
「先生、報告です。ライトニング・シルバーが、今日の訓練で、銀色の雷撃ブレスを五連射しました。しかも、体温上昇はわずか0.5度。以前の個体では、二連射で限界でした」
バルクスは興奮気味に報告した。レオンは鼻梁を指で押さえる癖を出しながら、冷静にデータを確認する。
「ありがとうございます、バルクス様。予想通りです。蒼き結晶による冷却システムは、連続放熱にも対応できました。次は、長距離飛行時のスタミナに関する魔草の配合を調整します」
レオンは、ワイバーンを単なる生き物としてではなく、「高性能な軍事ドローン」として捉えていた。彼の視界には、常にワイバーンの「エネルギー効率」や「耐久性パラメータ」が表示され、それを改善する「パッチ」を適用する感覚でブリーディングを行っていた。
その日の午後、レオンは騎士団長ザイードの執務室に呼び出された。
ザイードの表情は、いつになく厳しかった。室内にはザイードのほかに、ガルーダ獣人国の国王、そして王の側近である人狼族の宰相が控えていた。人狼族の宰相は、獣人族一の嗅覚を持つためか、レオンの微かな緊張の匂いを嗅ぎ取り、警戒心を露わにしていた。
「レオンよ」国王が口を開いた。彼の声には、威厳と、隠しきれない興奮が滲んでいた。
「貴様が作り出した『新型』のワイバーン、その成果は朕の耳にも届いている。貴様の知識は、我がガルーダ獣人国が数十年抱えてきた空の戦力不足を一気に解決する、天からの賜物だ」
レオンは一礼した。
「恐悦至極にございます」
「だが、その知識はあまりに異質すぎる」ザイードが口を挟んだ。彼の琥珀色の瞳は、レオンの全身を射抜くように見つめる。
「国王陛下。レオンの技術は、もはやブリーディングという範疇を超えています。彼は、ワイバーンの進化を、意図的に加速させている。この事実が他国に漏れれば、我が国は『禁忌の力』を使ったとして、人間と魔族から標的にされるでしょう」
人狼族の宰相が、鋭い嗅覚で部屋の空気を分析しながら、低い声で言った。
「ルミナス帝国(人間)の諜報網は侮れません。最近、国境付近でのジオ・リザードの不自然な移動が確認されています。彼らは、我々の空の動きを探っている。陛下、レオンの存在は、これより最高位の軍事機密とし、王都の地下にある『封印されたブリーディング施設』に移すべきです」
レオンの心の中で、警告灯が点灯した。
(データ分析:【行動予測:主人公の隔離と技術の独占】。対処法:【技術の非公開性を示唆し、自身の重要性を維持すること】)
「お待ちください、陛下」レオンは毅然として進み出た。
「私の知識は、施設ではなく、私自身の思考に依存しています。地下に隔離されても、私の知識は変わりません。しかし、私の管理から外れ、ブリーダーたちに形式的なレシピだけが渡された場合、彼らはワイバーンの微妙な変化に対応できず、数ヶ月で成長が停止するか、再び死亡率が急増するでしょう」
レオンは、自分の知識の再現性の低さを逆手に取った。彼の調整は、ワイバーンの個体差に応じて、刻一刻と変わるデータに基づいていた。レシピ化は不可能だ。
「私の知識を活かすには、私自身が現場で、常に彼らと触れ合う必要があります」
国王はザイードと宰相を交互に見た。宰相は不満げに鼻を鳴らしたが、ザイードはわずかに頷いた。
「レオンの言う通りです。彼の知識は、彼自身の闘気にも似た『スキル』に依存している。彼を隔離すれば、技術はそこで途絶えます」
国王は熟慮の末、結論を下した。
「よかろう。レオン、貴様は引き続きブリーディング・ステーションで業務を続けよ。だが、これより、貴様には近衛兵による24時間の監視がつく。そして、貴様が作成した全ての文書、処方箋は、全て最高機密として処理される。貴様は我がガルーダ獣人国にとって、『秘匿された、空の魔導兵器』だ」
こうして、レオンは死体処理係から、一国の命運を握る技術者へと昇りつめた。しかし、彼の成功は、同時に彼自身の自由を奪い、国際的な陰謀の渦へと引きずり込むこととなるのだった。
そして、その頃。ルミナス帝国の首都、上空を静かに漂う魔法文明の飛行船の中で、一人の男が「ガルーダ獣人国のワイバーンが異常増殖している」という極秘文書を、静かに読み終えるところだった。
かつて10%以下だったワイバーンの孵化率は、レオンの精密な栄養管理と温度制御により85%にまで跳ね上がった。幼体の死亡率はほぼゼロに。そして何より驚異的だったのは、レオンが管理する幼体の成長速度だった。通常5~7年かかっていた戦力化までの期間が、約2年に短縮されるという、異次元の効率を実現したのだ。
ステーション内の空気は一変した。以前はレオンを侮蔑していたブリーダーたちも、今や彼を「先生」と呼び、彼の指示を盲目的に実行するようになった。闘気を信じる彼らにとって、レオンの知識は理解できないが、「絶対的な結果」を生み出す魔術のように映った。
虎耳族のバルクスは、今やレオンの最も忠実な部下の一人になっていた。彼の顔には、以前の傲慢さではなく、純粋な技術への畏敬が刻まれていた。
「先生、報告です。ライトニング・シルバーが、今日の訓練で、銀色の雷撃ブレスを五連射しました。しかも、体温上昇はわずか0.5度。以前の個体では、二連射で限界でした」
バルクスは興奮気味に報告した。レオンは鼻梁を指で押さえる癖を出しながら、冷静にデータを確認する。
「ありがとうございます、バルクス様。予想通りです。蒼き結晶による冷却システムは、連続放熱にも対応できました。次は、長距離飛行時のスタミナに関する魔草の配合を調整します」
レオンは、ワイバーンを単なる生き物としてではなく、「高性能な軍事ドローン」として捉えていた。彼の視界には、常にワイバーンの「エネルギー効率」や「耐久性パラメータ」が表示され、それを改善する「パッチ」を適用する感覚でブリーディングを行っていた。
その日の午後、レオンは騎士団長ザイードの執務室に呼び出された。
ザイードの表情は、いつになく厳しかった。室内にはザイードのほかに、ガルーダ獣人国の国王、そして王の側近である人狼族の宰相が控えていた。人狼族の宰相は、獣人族一の嗅覚を持つためか、レオンの微かな緊張の匂いを嗅ぎ取り、警戒心を露わにしていた。
「レオンよ」国王が口を開いた。彼の声には、威厳と、隠しきれない興奮が滲んでいた。
「貴様が作り出した『新型』のワイバーン、その成果は朕の耳にも届いている。貴様の知識は、我がガルーダ獣人国が数十年抱えてきた空の戦力不足を一気に解決する、天からの賜物だ」
レオンは一礼した。
「恐悦至極にございます」
「だが、その知識はあまりに異質すぎる」ザイードが口を挟んだ。彼の琥珀色の瞳は、レオンの全身を射抜くように見つめる。
「国王陛下。レオンの技術は、もはやブリーディングという範疇を超えています。彼は、ワイバーンの進化を、意図的に加速させている。この事実が他国に漏れれば、我が国は『禁忌の力』を使ったとして、人間と魔族から標的にされるでしょう」
人狼族の宰相が、鋭い嗅覚で部屋の空気を分析しながら、低い声で言った。
「ルミナス帝国(人間)の諜報網は侮れません。最近、国境付近でのジオ・リザードの不自然な移動が確認されています。彼らは、我々の空の動きを探っている。陛下、レオンの存在は、これより最高位の軍事機密とし、王都の地下にある『封印されたブリーディング施設』に移すべきです」
レオンの心の中で、警告灯が点灯した。
(データ分析:【行動予測:主人公の隔離と技術の独占】。対処法:【技術の非公開性を示唆し、自身の重要性を維持すること】)
「お待ちください、陛下」レオンは毅然として進み出た。
「私の知識は、施設ではなく、私自身の思考に依存しています。地下に隔離されても、私の知識は変わりません。しかし、私の管理から外れ、ブリーダーたちに形式的なレシピだけが渡された場合、彼らはワイバーンの微妙な変化に対応できず、数ヶ月で成長が停止するか、再び死亡率が急増するでしょう」
レオンは、自分の知識の再現性の低さを逆手に取った。彼の調整は、ワイバーンの個体差に応じて、刻一刻と変わるデータに基づいていた。レシピ化は不可能だ。
「私の知識を活かすには、私自身が現場で、常に彼らと触れ合う必要があります」
国王はザイードと宰相を交互に見た。宰相は不満げに鼻を鳴らしたが、ザイードはわずかに頷いた。
「レオンの言う通りです。彼の知識は、彼自身の闘気にも似た『スキル』に依存している。彼を隔離すれば、技術はそこで途絶えます」
国王は熟慮の末、結論を下した。
「よかろう。レオン、貴様は引き続きブリーディング・ステーションで業務を続けよ。だが、これより、貴様には近衛兵による24時間の監視がつく。そして、貴様が作成した全ての文書、処方箋は、全て最高機密として処理される。貴様は我がガルーダ獣人国にとって、『秘匿された、空の魔導兵器』だ」
こうして、レオンは死体処理係から、一国の命運を握る技術者へと昇りつめた。しかし、彼の成功は、同時に彼自身の自由を奪い、国際的な陰謀の渦へと引きずり込むこととなるのだった。
そして、その頃。ルミナス帝国の首都、上空を静かに漂う魔法文明の飛行船の中で、一人の男が「ガルーダ獣人国のワイバーンが異常増殖している」という極秘文書を、静かに読み終えるところだった。
0
あなたにおすすめの小説
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる