【闘気ゼロの犬耳族】規格外の知識で飛竜を育成したら、いつの間にか敵国から狙われる国家戦略級のブリーダーになっていました

月神世一

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EP 4

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ザイードから正式な権限を与えられた翌日、レオンの立場は一変した。ボロ布の作業着から、多少なりとも騎士団の紋章が入った簡素な「管理官補佐」の制服に変わったが、周囲の視線はより冷たく、刺々しいものとなった。
特に反発が強かったのは、古株のブリーダーたちだった。彼らにとって、闘気も使えぬ下位種族の犬耳族が、長年培ってきた経験と勘を、「非効率」の一言で否定し、一夜にして最重要機密を扱う地位に就いたことは、受け入れがたい屈辱だった。
「チッ、あの犬が調子に乗りおって」
虎耳族のベテランブリーダー、バルクスが、レオンに向かって唾を吐き捨てるように言った。彼は太い腕を組み、レオンが指示した魔草の調合指示書を睨みつけている。
「レオン補佐官殿。これはどういう了見だ。孵化直前の卵に、なぜ氷属性の『蒼き結晶』を混ぜた栄養剤を投与する必要がある? 雷撃型の強化は、火属性と風属性の魔草で十分だろうが!」
バルクスの後ろには、グレンをはじめとする数名のブリーダーが並んでいた。彼らはレオンの異様な処方箋を、「無知な新参者のデタラメ」だと見下している。
レオンは表情を変えず、冷静に答えた。彼の心の中では、バルクスの感情パラメータが『怒り80%、嫉妬15%、理解不能5%』と表示されていた。
「バルクス様。確かに一般的な育成法では矛盾しているように見えます。しかし、私の『生体構造理解』スキルによると、雷撃型ワイバーンの高出力化には、『耐熱性の向上』が不可欠です」
「耐熱性だと? 何の話だ」
「雷撃を連続して放つ際、ワイバーンの体内魔力回路には、瞬間的に過剰な熱が発生します。この熱暴走(ヒート・オーバーロード)が、幼体の突然死や成長停止の主な原因です。蒼き結晶は、この熱を打ち消すためのクーリング・ユニットの役割を果たします」
レオンの言葉は、この世界の魔法使いが使う「魔力回路」の概念に、前世の「放熱システム」の論理を無理やり融合させたものだった。ブリーダーたちは、その言葉の半分も理解できなかった。
「…何をブツブツと」バルクスは完全にレオンを侮辱しようと決めた。
「貴様の言い分は理屈っぽいだけで、何の証明にもならん。我々の闘気と経験こそが、真のブリーダーの証だ!」
バルクスはそう言い放ち、一歩踏み出し、全身の闘気を高めた。それは、レオンへの威圧というより、闘気を使えない者への絶対的な軽蔑だった。
「闘気を持たぬ貴様の、その『知識』とやらが、我々の『経験』に勝てるというのか!」
その瞬間、レオンは決断した。この世界で知識を武器にするためには、実績だけでは不十分だ。彼らの信じる**「闘気」という基準の上で、「知識」の優位性**を証明しなければならない。
「証明します」
レオンは静かに言った。
「バルクス様の管理下にあるワイバーン幼体と、私の管理下にある『銀色の雷撃型(ライトニング・シルバー)』を比較させてください。一週間後の魔力負荷実験で、どちらの個体がより大きな出力を発揮し、かつヒート・オーバーロードを起こさないか、勝負しましょう」
バルクスは目を丸くした後、すぐに獰猛な笑みを浮かべた。
「面白い。いいだろう。もし貴様の銀色の雷撃型が負けたなら、貴様の『管理官補佐』の地位はく奪だ。そして、ブリーディング・ステーションから永久追放だ! 命を賭ける覚悟はあるか、犬耳族!」
「もちろんです」
レオンは心の中で、彼の銀色の幼体のデータウィンドウを開いていた。その成長曲線は、バルクスの管理する個体と比較して、すでに200%以上の優位性を示していた。
(これは、単なる命を賭けた賭けではない。これは、経験論と科学論、そして旧文明と新文明の優劣を決める、パラダイムシフトだ)
レオンは、その日から一週間、自分の知識と幼体の生命力を信じ、廃倉庫に籠りきりになった。彼はただ栄養を与えるだけでなく、幼体の鳴き声や動き、鱗の微細な光沢までをデータとして分析し、投与する魔草の配合を0.1%単位で微調整し続けた。
そして迎えた一週間後。
魔力負荷実験は、騎士団長ザイード、王室の魔術師、そして多数のブリーダーが見守る中で行われた。
まず、バルクスの手塩にかけた、最も優秀な炎属性の幼体が実験台に乗せられた。バルクスの闘気が込められた魔石から魔力が注入され、幼体は必死に魔力を圧縮し、口から強力な炎を放った。騎士団員から歓声が上がる。
しかし、魔力注入の限界点に達した瞬間、幼体は甲高い悲鳴を上げ、炎を出すどころか、全身の鱗から真っ赤な湯気を噴き出し、倒れ込んだ。
「ヒート・オーバーロードだ! バルクス、停止させろ!」ザイードが叫ぶ。
幼体はなんとか一命を取り留めたが、全身の魔力回路が焼損し、今後の成長に影響が出ることは明白だった。バルクスの顔は、悔恨と屈辱で真っ青になった。
次に、レオンの銀色の幼体、ライトニング・シルバーの番だった。
レオンは幼体をそっと実験台に乗せると、バルクスと同じ魔石を使い、静かに言った。
「開始してください」
魔力が注入され始める。ライトニング・シルバーは、バルクスの個体よりもはるかに早く魔力を吸収し始めた。その銀色の鱗は、注入された魔力に呼応して、徐々に青く、激しく発光し始めた。
そして、バルクスの個体が倒れた限界点を遥かに超えても、ライトニング・シルバーは全く熱暴走の兆候を見せなかった。
レオンの「蒼き結晶」によるクーリング・ユニットの理論が、完全に機能していた。
ドオンッッ!!
ライトニング・シルバーの小さな体から放たれた雷撃は、実験場の防御壁を、まるで紙のように突き破った。その威力は、バルクスの炎とは比較にならない、規格外の破壊力だった。
実験場は、静寂に包まれた。誰もが、目の前の光景を信じられないといった顔で立ち尽くす。
ザイードはゆっくりと立ち上がった。彼の琥珀色の瞳は、レオンの冷静な横顔と、その知識が創り出した銀色の幼体を交互に見つめた。
「……バルクス。勝負は明白だ」
ザイードの声は、静かだったが、この場にいる全員の心臓に響いた。
「レオン補佐官の知識が、貴様らの経験に勝った。今日以降、このステーションのブリーディング・システムは全て、レオン補佐官の指示に従う。異論は、認めん」
バルクスは歯を食いしばったが、反論できる言葉は見つからなかった。
こうして、レオンはブリーディング・ステーションの絶対的な支配者となった。しかし、この成果はすぐに軍事機密として国王に報告され、レオンの存在は、図らずも三国間のパワーバランスを崩し始めることになるのだった。
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