【闘気ゼロの犬耳族】規格外の知識で飛竜を育成したら、いつの間にか敵国から狙われる国家戦略級のブリーダーになっていました

月神世一

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EP 3

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ザイードの威圧的な闘気が、廃倉庫内の空気を圧し潰す。彼が放つその重圧は、闘気を持たないレオンにとって、壁に押し付けられたような物理的な苦痛だった。全身の毛が逆立ち、呼吸すらままならない。
「雷光だと……戯言を!」
ザイードは怒りに目を細めた。彼にとって、レオンの行動は軍事資源の横領であり、国への反逆にも等しい。彼はレオンに詰め寄ると、その巨躯から発せられる闘気の波動で、レオンを覆っていた古布や作業道具が吹き飛んだ。
レオンは抱きしめた幼体を落とさないよう必死に耐えながら、胸の奥で沸騰する恐怖を、論理的な思考で強制的に冷却した。
「戯言ではありません、騎士団長殿!」
レオンは叫んだ。彼の声は震えていたが、その瞳の奥のデータウィンドウは、冷静にザイードの反応を分析していた。
「この個体は、従来の育成法で十中八九、死んでいました。しかし、私が前世の……いえ、私の独自の知識に基づき、孵化に必要な栄養素の最適化と温度管理を行った結果、予定よりも早く、規格外の能力を持って生まれたのです!」
ザイードは鼻を鳴らした。
「独自の知識? 馬鹿を言うな。貴様のような闘気もまともに使えぬ犬耳族が、我が騎士団の長年の課題を解決できるものか! その卵は、ただの偶然の優良個体だ。すぐに我が管理下に置け!」
ザイードが手を伸ばす。レオンは避けることもできず、その場で目を閉じた。
(ダメだ。このままでは、また知識が、理不尽に潰される!)
その時、レオンの腕の中で幼体が身じろぎした。銀色の鱗に刻まれた青い線が発光し、静電気のようなバチバチという音が倉庫に響き渡る。ワイバーンの幼体は、ザイードの威圧的な闘気を、自分たちを脅かす「敵意」だと認識したのだ。
「分析(アナライズ)!」
レオンは、無意識のうちにユニークスキルをザイードに向けた。
対象:ザイード(獅子耳族・騎士団長)
闘気レベル:S級(瞬間最大出力:SS級)
感情パラメータ:怒り(90%)、疑念(7%)、期待(3%)
行動予測:【次の1秒で、レオンから幼体を力ずくで奪取する】
最適対応策:【幼体のスキル発動を促し、即座に戦闘能力を示すこと】

レオンは、ザイードの行動予測を読み取り、瞬時に動いた。
「騎士団長殿、ご覧ください! この個体は、通常のワイバーンの成長曲線(G-Curve)をすでに三倍以上上回っています! この生命力こそ、私の栄養最適化の証です!」
レオンは幼体の頭をそっと撫で、その小さな体に、自身の心臓の鼓動を伝えるように集中した。
「さあ、見せてやれ。お前の力を!」
レオンの激励に応えるように、幼体は再び「キュン!」と吠えた。その小さな咆哮は、凄まじい雷鳴へと変化した。
ズドドンッ!
幼体の口から放たれた青い雷撃は、ザイードのすぐ横の壁に直撃した。古びた石壁は一瞬で焦げ付き、熱と石の破片が飛び散る。
ザイードは、その雷撃を紙一重でかわし、動きを止めた。彼の顔には、怒りよりも遥かに強い「驚愕」の色が浮かんでいた。
「な……生まれたばかりの幼体が、これほどの雷撃をだと?」
ザイードは、ワイバーンの孵化直後の戦闘能力を知っている。通常は、せいぜい火花を散らす程度だ。しかし、目の前の幼体は、熟練の竜騎士が扱うワイバーンの初期段階の攻撃力に匹敵していた。
レオンは震える足を叱咤し、続けた。
「これが、私の知識が持つ結果です。騎士団長殿、貴国の騎士団が長年抱える『孵化率の低さ』『幼体の高死亡率』『成長の遅さ』は、闘気の不足ではなく、根本的な管理システムの欠陥にあります。私はそれを、科学とデータで解決できます!」
ザイードは、レオンではなく、レオンが抱く銀色の幼体に視線を釘付けにしたまま、動かなかった。
彼の感情パラメータは、「怒り」が5%に低下し、代わりに「疑念」が40%、そして「期待」が55%に跳ね上がっていた。
ザイードはゆっくりと闘気を収めた。倉庫内の重圧が消え、レオンは一気に力が抜けるのを感じたが、勝利を確信した。
「…その卵は、一体いつから管理していた」
「廃棄を命じられた時から、五日間です。純粋な孵化率を計算すれば、ほぼ100%の成功率です」
ザイードは深く息を吐き出した。その表情は、敗北を知った戦士のそれだった。彼は、自分の武力(闘気)が、目の前の青年の知識の前では無力であることを理解した。
「……今日、この場で見たことは、口外するな。この個体は、私の管理下で生まれた最高傑作ということになる」
ザイードはそう言い放つと、レオンの肩を掴んだ。その力は尋常ではなかったが、もはや敵意はなかった。
「レオン。貴様は今日から、正式な『飛竜繁殖管理官補佐』だ。そして、貴様が得た『叡智』は、このガルーダ獣人国の最重要軍事機密となる。これを他国のスパイに漏らした場合、貴様は裏切り者として裁かれる。理解したな?」
レオンは、自分が国の軍事の中枢に組み込まれたことを悟った。もう、逃げも隠れもできない。だが、彼の瞳は喜びと決意に満ちていた。
「はい。私の知識は、貴国の勝利のために使われます。ただし、条件があります」
ザイードは眉をひそめた。
「条件だと?」
「この幼体の育成に関わる全ての決定権は、私にあります。そして、今後、不当に廃棄されるワイバーンの卵を全て、私の管理下に置かせていただきます」
それは、死体処理係だった男からの、国家への最初で最後の挑戦状だった。ザイードは一瞬の沈黙の後、獰猛な獅子のような笑みを浮かべた。
「面白い。やれるものなら、やってみろ。犬耳族」
こうして、レオンの知識を武器にした、異世界での飛竜ブリーダーとしての新たな日常が始まった。そして、その異様な成果は、極秘の軍事機密として、静かに獣人国の最高機関へと報告されることとなる。
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