『テント村の野生児、超有名学校に入学する〜クラスメイトはワケあり英雄ばかりですが、俺は今日も魔獣喰って最強です。』

月神世一

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EP 7

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エリート騎士の受難(VSクラウス)
​ ルナミス学園が誇る、巨大なドーム型演習場。
 魔法障壁で覆われたこの場所で、特進クラスの『対人戦闘訓練』が始まろうとしていた。
​「次。ダダ、前へ出ろ」
​ 担任のクルーガが、気だるげにリストを読み上げる。
 ダダはあくびを噛み殺しながら、砂の撒かれたリングの中央へと歩み出た。
 制服のネクタイは既にどこかへ放り投げ、シャツのボタンも全開だ。
​「対戦相手は……クラウスだ」
​ その名が呼ばれた瞬間、クラスの空気が変わった。
 生徒たちの間から「おおっ……」というどよめきが漏れる。
​「承知しました」
​ 凛とした声と共に、一人の少年がリングに上がった。
 クラウス・アルヴィン。
 金髪碧眼、成績トップの優等生にして、アルヴィン侯爵家の嫡男。
 彼はダダとは対照的に、訓練用の白銀の鎧を完璧に着こなし、木剣を正眼に構えていた。
​「ダダ君。君の野蛮な振る舞いは、目に余る」
​ クラウスは冷徹な眼差しでダダを見据えた。
 初日の咆哮事件、そしてリアンやリリスを巻き込んだ騒動(と噂されている)。
 規律と正義(ノブリス・オブリージュ)を重んじる彼にとって、ダダは排除すべき『カオス』そのものだった。
​「この模擬戦で、君に『騎士の戦い方』というものを教育してやる。覚悟したまえ」
「……? お前、俺を食うのか?」
​ ダダは首を傾げた。
 彼にとって戦いとは『捕食』か『防衛』しかない。
​「野蛮な……! 試合だと言っているんだ!」
​ クルーガが手を挙げた。
​「ルールは簡単だ。一方が降参するか、戦闘不能になるまで。……始めッ!」
​ 開始の合図と同時、クラウスが動いた。
​「シッ!!」
​ 速い。
 教科書通りの、しかし極限まで研ぎ澄まされた踏み込み。
 木剣が風を切り、ダダの肩口を狙って振り下ろされる。
 クラスメイトたちが息を呑むほどの鋭い一撃。
​ だが――。
​ フッ。
​ ダダは最小限の動きで、半歩だけ横にずれた。
 木剣がダダの残像を切り裂き、空を切る。
​「なっ……!?」
​ クラウスは目を見開いた。
 偶然ではない。ダダはあくびをしたまま、まるで散歩でもするかのように避けたのだ。
​「遅い」
「ぐっ……! まだだ!」
​ クラウスは追撃する。
 突き、払い、袈裟斬り。流れるような連撃は、まさに剣術の芸術品。
 しかし、当たらない。
 ダダはゆらりゆらりと体を揺らし、その全ての刃を紙一重でかわし続けている。
​(なぜだ!? 僕の剣筋は完璧なはずだ! なぜ当たらない!?)
​ クラウスの額に焦りの汗が滲む。
 ダダにとっては、理由は単純だった。
​(こいつの動き……『綺麗』すぎる)
​ 野生の魔獣は、生き残るために不規則に動く。
 泥をかけ、噛みつき、死んだふりをする。
 だが、クラウスの動きには『型』がある。呼吸のリズム、足の運び、視線の動き。全てが規則的で、次に何をするかが手に取るようにわかってしまうのだ。
​「お前、ダンスでもしてるのか?」
​ ダダの無邪気な一言が、クラウスのプライドを逆撫でした。
​「ダンスだと……!? 僕の剣技を愚弄するかァッ!!」
​ クラウスの全身から、バチバチと青白い火花が散った。
 雷属性魔法と闘気の融合。彼が天才と呼ばれる所以たる奥義だ。
​「見せてやる! これがアルヴィン家に伝わる必殺剣……!」
​ 木剣が眩い光を帯びる。
 そのエネルギー量に、観客席のリアンが「うわ、マジかよ」と顔をしかめた。
​「雷光断(ライトニング・ブレイク)ッ!!!」
​ クラウスが地面を蹴った。
 雷速の如き突進。反応速度を超えた一撃が、ダダの胴体を薙ぎ払う――はずだった。
​ だが、ダダは見ていなかった。
 剣ではなく、クラウスの『足元』を。
​(来るなら、真っ直ぐ来るよな。お前はそういう奴だ)
​ ダダは避けない。
 その代わりに、四つん這いの姿勢で地面スレスレに潜り込んだ。
 食べた『イノシシ型魔獣』の突進スキルを発動。
​「がおぉぉぉッ!!」
​ ダダの頭突きが、必殺技を放つために踏み込んだクラウスの腹部に、カウンターで突き刺さった。
​ ドゴォォォォォンッ!!
​「がはっ……!?」
​ 魔法の発動が中断される。
 クラウスの体はくの字に折れ曲がり、砲弾のように吹き飛んだ。
 そのまま砂煙を上げながら地面を転がり、演習場の壁に激突して止まる。
​ シーン……。
​ 演習場が静まり返った。
 あの天才クラウスが、魔法も剣も使わない『頭突き』一発で沈められたのだ。
​「う……うぅ……」
​ クラウスは瓦礫の中で呻いた。
 自慢の白銀の鎧は泥と砂にまみれ、整った髪もボサボサだ。
 屈辱。敗北感。
 彼が這いつくばろうとしていると、目の前に裸足の足が現れた。
​「……おい」
​ 見上げると、ダダが立っていた。
 見下ろされている。止めを刺されるのか。
 クラウスが身構えた時、ダダは懐から何かを取り出した。
​「食うか?」
​ 差し出されたのは、ポケットに入っていた『木の実(渋いやつ)』だった。
​「……は?」
「腹減ってると、力が出ねぇぞ。お前の動き、最後はスタミナ切れだったな」
​ ダダは悪気なく言った。
 戦術の読み合いでも、技の優劣でもない。
 ただ単純に、「生物として弱い」と言われたのだ。
​「ふ……ふざけるな……!」
​ クラウスはダダの手を払い除けた。
 だが、その目には涙が溜まっていた。
​「僕は……負けてない! 剣術試合なら僕が勝っていた!」
「そうか? 殺し合いなら、お前は最初の3秒で死んでたぞ」
「ぐぬぬぅ……ッ!」
​ 反論できない。
 綺麗な剣技だけでは、本物の野生には勝てない。
 泥にまみれたクラウスは、初めて『実戦』の重みと、自分の未熟さを噛み締めた。
​「勝者、ダダ!」
​ クルーガの声が響く。
 ダダは「ちぇっ、肉じゃねぇのか」と呟きながら、砂を払って戻っていった。
​ その背中を睨みつけながら、クラウスは誓った。
 (覚えていろ、ダダ……! 次は必ず、その野生を僕の『王道』でねじ伏せてやる……!)
​ エリート騎士の受難の日々は、まだ始まったばかりである。
 そしてダダには、猛烈な睡魔(順応時間の予兆)が迫っていた。
​ 次回、ダダが授業中に爆睡!
 しかしそれは、新たな能力への進化の準備だった。
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