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EP 34
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キャルルの嫉妬と、オムライスの魔法
『ビストロ・アオタ』の朝は、けたたましい破壊音で幕を開けた。
ガシャンッ!! パリーンッ!!
「あぁぁっ! ご、ごめんなさいぃぃ!」
「もーっ! 何枚目だよーっ! これ高いお皿なんだよ!?」
厨房とホールの境界で、新入りの人魚姫リーザが床に這いつくばり、キャルルが腰に手を当ててプリプリと怒っている。
リーザの足元には、無残に砕け散った陶器の破片。
「ご、ごめんなさい……。洗おうとしたら、洗剤がヌルッとして……手から逃げていったんですぅ……」
「お皿は逃げないの! あんたが不器用なだけ!」
キャルルは箒とちりとりを持ってくると、乱暴に破片を集め始めた。
「大体さー、あんた昨日来たばっかりでしょ? なんでそんなに偉そうなの? 王女様だからって、優也様の店を壊していい理由にはならないんだからね!」
「うぅ……返す言葉もありません……」
リーザは涙目だ。
彼女はやる気だけはあった。優也に恩返しをするために、開店前の掃除や皿洗いを手伝おうとしたのだ。
だが、王宮育ちの彼女に「家事スキル」は皆無だった。
キャルルのイライラは、単なる皿洗いへの怒りだけではなかった。
優也が連れてきた、この「キラキラした美少女」に対する、本能的な危機感(嫉妬)だ。
(なによこの子。歌は上手いし、顔も可愛いし……。私の「看板娘」の座が奪われちゃうじゃない!)
店内の空気は険悪そのもの。
カウンターの奥で仕込みをしていた青田優也は、ため息をついて包丁を置いた。
「……そこまでだ。二人とも」
「優也様! でもこいつが!」
「私が悪いんです……。役立たずで……」
優也は時計を見た。ちょうど昼前だ。
「空腹は人をイラつかせる。……説教の前に、まずは飯だ」
優也がフライパンを火にかけた。
バターが溶ける甘い香りが漂い始めると、二人の言い争いがピタリと止まる。
「今日は特別なオムライスを作る。……仲直りの魔法がかかったやつだ」
優也の手際はおそろしく速い。
まずは鶏肉と玉ねぎを炒め、トマトケチャップとバターライスを合わせて、強火で一気に煽る。
パラパラすぎず、しっとりとした絶妙な「チキンライス」を作り、皿にラグビーボール型に盛り付ける。
ここからが本番だ。
ボウルに卵を三つ割り入れ、生クリームを少々。
熱したフライパンに一気に流し込み、菜箸で激しくかき混ぜる。
ジュワァァァ……!
手首をトントンと叩き、卵液をフライパンの縁を使って形にしていく。
外側は固まり、中は半熟の液状。
その神業的な火加減で、美しい「オムレツ」を作り上げた。
「ほらよ」
チキンライスの上に、プルプルのオムレツをドンと乗せる。
まだ完成ではない。
「**『タンポポ・オムライス ~デミグラスソースの海~』**だ」
優也は二人の前に皿を置くと、ナイフを渡した。
「自分たちで、オムレツの真ん中を裂いてみな」
キャルルとリーザは顔を見合わせ、恐る恐るナイフを入れた。
黄色いオムレツの背中に、スッと切れ込みを入れる。
――パカッ。
その瞬間。
オムレツが左右に開き、中から半熟の卵が雪崩のようにトロトロと溢れ出した。
チキンライスの赤を、黄金色の卵が覆い尽くしていく。
「わぁっ……! お花が咲いたみたい!」
「すごい! 中身がトロトロだよ!」
そこに優也が、熱々の特製デミグラスソースを回しかける。
茶褐色のソースと、黄金の卵のコントラスト。
「冷めないうちに食え」
二人はスプーンを持ち、同時に口へ運んだ。
卵とソース、そしてチキンライスを絡めて。
――パクッ。
「「……んん~っ!!!」」
二人の声が重なった。
キャルルの尻尾がピンと立ち、リーザの頬がとろけるように緩む。
「なになにこれ! 卵が飲み物みたい! ふわっふわで、バターの香りがすごい!」
「デミグラスソースが濃厚……! 酸味とコクが、卵の甘さを引き立ててますぅ……!」
美味しい。
その単純にして最強の事実は、さっきまでの喧嘩を忘れさせるのに十分だった。
「ねえリーザ! ここの卵、ちょっと半熟のとこと、ご飯が混ざるとこ、最高じゃない?」
「はいキャルルさん! この鶏肉もジューシーで……あぁ、幸せですぅ!」
二人は競うようにスプーンを動かし、最後は顔を見合わせて笑った。
「……ふふ。まあ、あんたも悪気があって割ったんじゃないもんね」
「はい。でも、これからは気をつけます。キャルル先輩、お皿の持ち方、教えてくれますか?」
キャルルは「先輩」と呼ばれて満更でもなさそうに鼻を鳴らした。
「ま、仕方ないわね! 私が手取り足取り教えてあげるわよ! その代わり、お客さんへの愛想振りまきは手伝ってよね!」
「はいっ! 頑張ります!」
見事に友情が成立した。
優也は満足げにコーヒーを啜った。
「よし。腹も満ちたな。……リーザ、次は仕事の話だ」
優也は空になった皿を下げながら、ニヤリと笑った。
「君を『アオタ商会』の専属アイドルとして売り出す。……まずは、あのふざけたセットリスト(曲目)の総入れ替えからだ」
友情の次は、才能の開花。
三つ星シェフによる、本格的な「アイドル改造計画」が始動する。
『ビストロ・アオタ』の朝は、けたたましい破壊音で幕を開けた。
ガシャンッ!! パリーンッ!!
「あぁぁっ! ご、ごめんなさいぃぃ!」
「もーっ! 何枚目だよーっ! これ高いお皿なんだよ!?」
厨房とホールの境界で、新入りの人魚姫リーザが床に這いつくばり、キャルルが腰に手を当ててプリプリと怒っている。
リーザの足元には、無残に砕け散った陶器の破片。
「ご、ごめんなさい……。洗おうとしたら、洗剤がヌルッとして……手から逃げていったんですぅ……」
「お皿は逃げないの! あんたが不器用なだけ!」
キャルルは箒とちりとりを持ってくると、乱暴に破片を集め始めた。
「大体さー、あんた昨日来たばっかりでしょ? なんでそんなに偉そうなの? 王女様だからって、優也様の店を壊していい理由にはならないんだからね!」
「うぅ……返す言葉もありません……」
リーザは涙目だ。
彼女はやる気だけはあった。優也に恩返しをするために、開店前の掃除や皿洗いを手伝おうとしたのだ。
だが、王宮育ちの彼女に「家事スキル」は皆無だった。
キャルルのイライラは、単なる皿洗いへの怒りだけではなかった。
優也が連れてきた、この「キラキラした美少女」に対する、本能的な危機感(嫉妬)だ。
(なによこの子。歌は上手いし、顔も可愛いし……。私の「看板娘」の座が奪われちゃうじゃない!)
店内の空気は険悪そのもの。
カウンターの奥で仕込みをしていた青田優也は、ため息をついて包丁を置いた。
「……そこまでだ。二人とも」
「優也様! でもこいつが!」
「私が悪いんです……。役立たずで……」
優也は時計を見た。ちょうど昼前だ。
「空腹は人をイラつかせる。……説教の前に、まずは飯だ」
優也がフライパンを火にかけた。
バターが溶ける甘い香りが漂い始めると、二人の言い争いがピタリと止まる。
「今日は特別なオムライスを作る。……仲直りの魔法がかかったやつだ」
優也の手際はおそろしく速い。
まずは鶏肉と玉ねぎを炒め、トマトケチャップとバターライスを合わせて、強火で一気に煽る。
パラパラすぎず、しっとりとした絶妙な「チキンライス」を作り、皿にラグビーボール型に盛り付ける。
ここからが本番だ。
ボウルに卵を三つ割り入れ、生クリームを少々。
熱したフライパンに一気に流し込み、菜箸で激しくかき混ぜる。
ジュワァァァ……!
手首をトントンと叩き、卵液をフライパンの縁を使って形にしていく。
外側は固まり、中は半熟の液状。
その神業的な火加減で、美しい「オムレツ」を作り上げた。
「ほらよ」
チキンライスの上に、プルプルのオムレツをドンと乗せる。
まだ完成ではない。
「**『タンポポ・オムライス ~デミグラスソースの海~』**だ」
優也は二人の前に皿を置くと、ナイフを渡した。
「自分たちで、オムレツの真ん中を裂いてみな」
キャルルとリーザは顔を見合わせ、恐る恐るナイフを入れた。
黄色いオムレツの背中に、スッと切れ込みを入れる。
――パカッ。
その瞬間。
オムレツが左右に開き、中から半熟の卵が雪崩のようにトロトロと溢れ出した。
チキンライスの赤を、黄金色の卵が覆い尽くしていく。
「わぁっ……! お花が咲いたみたい!」
「すごい! 中身がトロトロだよ!」
そこに優也が、熱々の特製デミグラスソースを回しかける。
茶褐色のソースと、黄金の卵のコントラスト。
「冷めないうちに食え」
二人はスプーンを持ち、同時に口へ運んだ。
卵とソース、そしてチキンライスを絡めて。
――パクッ。
「「……んん~っ!!!」」
二人の声が重なった。
キャルルの尻尾がピンと立ち、リーザの頬がとろけるように緩む。
「なになにこれ! 卵が飲み物みたい! ふわっふわで、バターの香りがすごい!」
「デミグラスソースが濃厚……! 酸味とコクが、卵の甘さを引き立ててますぅ……!」
美味しい。
その単純にして最強の事実は、さっきまでの喧嘩を忘れさせるのに十分だった。
「ねえリーザ! ここの卵、ちょっと半熟のとこと、ご飯が混ざるとこ、最高じゃない?」
「はいキャルルさん! この鶏肉もジューシーで……あぁ、幸せですぅ!」
二人は競うようにスプーンを動かし、最後は顔を見合わせて笑った。
「……ふふ。まあ、あんたも悪気があって割ったんじゃないもんね」
「はい。でも、これからは気をつけます。キャルル先輩、お皿の持ち方、教えてくれますか?」
キャルルは「先輩」と呼ばれて満更でもなさそうに鼻を鳴らした。
「ま、仕方ないわね! 私が手取り足取り教えてあげるわよ! その代わり、お客さんへの愛想振りまきは手伝ってよね!」
「はいっ! 頑張ります!」
見事に友情が成立した。
優也は満足げにコーヒーを啜った。
「よし。腹も満ちたな。……リーザ、次は仕事の話だ」
優也は空になった皿を下げながら、ニヤリと笑った。
「君を『アオタ商会』の専属アイドルとして売り出す。……まずは、あのふざけたセットリスト(曲目)の総入れ替えからだ」
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