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EP 30
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森の狂騒と四つの力
リーシャの警告とほぼ同時に、牙を剥いた巨大な森イノシシが、地響きを立てて突進してきた! その背後からは、涎を垂らした二匹の森オオカミが、低い唸り声を上げながら続く。そのどれもが、目を不気味な赤色に光らせ、尋常ではない凶暴性を剥き出しにしていた。
「来るぞ! イグニス、イノシシを頼む!」
勇太が叫ぶと同時に、イグニスが雄叫びを上げて前に出た。
「おう、任せろ! こいつの突進、止めてやるぜ!」
彼は大盾を地面に食い込ませるように構え、全身でイノシシの突撃を受け止める。
ゴッガァァン!!
凄まじい衝撃音と共に、イグニスの巨体が数歩後退するが、彼は歯を食いしばって耐え抜いた。
「ぐっ……こ、の、バカ力……!」
イノシシが怯んだ一瞬の隙を、勇太は見逃さない。
「キャルルさん、左のオオカミを! 僕が右をやる!」
勇太は薙刀を構え、右側のオオカミに斬りかかる。オオカミは素早い動きで薙刀をかわそうとするが、勇太は冷静にその動きを読み、柄で側面を強打して体勢を崩した。
「はあっ!」
キャルルは左のオオカミに対し、持ち前のスピードで翻弄する。トンファーで鋭い爪を受け止め、的確な蹴りを叩き込んでいく。
「アイスランス!」
後方からリーシャの援護魔法が飛ぶ。氷の槍がイノシシの側面に突き刺さり、その動きをわずかに鈍らせた。
「助かるぜ、リーシャ!」
イグニスは体勢を立て直し、戦斧をイノシシの頭部めがけて振り下ろす!
戦闘は熾烈を極めた。凶暴化した動物たちは、通常の個体よりも明らかに動きが素早く、力も強い。勇太もキャルルも、何度か危ない場面があったが、互いの連携と、リーシャの的確な魔法援護で切り抜けていく。
(こいつら、ただ興奮しているだけじゃない……何か、異常な力で突き動かされている感じだ)
勇太はオオカミと斬り結びながら、その異様な執拗さに違和感を覚えていた。彼はふと、出発前にポイントで購入した「動物鎮静装置の試作品」を思い出した。円盤状のその装置は、特殊な低周波音を発して動物の興奮を抑えるという触れ込みだったが、効果は未知数だ。
(ダメ元でも、試す価値はあるか!)
勇太はオオカミを一時的に突き放すと、リュックから装置を取り出し、スイッチを入れた。
キィィィン……という、人間にはほとんど聞こえない高周波音が周囲に広がる。
すると、あれほど凶暴に襲いかかってきていたオオカミたちの動きが、ピタリと止まった。赤い目の光が少し和らぎ、混乱したように首を振っている。イノシシも、イグニスの斧を受けて倒れ伏しながらも、どこか焦点の定まらない目でこちらを見ていた。
「効いた……のか?」
「ユウタさん、あれは?」キャルルが驚いて尋ねる。
「僕の世界の……動物を落ち着かせる道具だよ。まだ試作品だけど」
動きの止まった動物たちに、リーシャが静かに近づき、何かの呪文を唱えると、彼らの体からふっと黒い靄のようなものが抜け、そのままおとなしくなった。
「……浄化の魔法よ。これで、少なくとも彼らの凶暴性は取り除けたはず。でも、根本的な原因は別にあるわね」
勇太は、鎮静化したオオカミ(まだ警戒はしているが、襲いかかってはこない)の口元や、先ほど採取した光る苔のサンプルを、簡易検査キットで比較してみた。
「……やはり、あの光る苔に何か関係がありそうだ。動物たちの唾液から、苔に含まれるのと同じ未知のアルカロイド成分が検出された。これが神経を興奮させているのかもしれない」
「アルカロイド……。あなたの言う『かがく』の言葉は難しいけれど、つまりあの苔が原因で、森の動物たちが操られているかのように凶暴になっている、ということね」
リーシャが勇太の分析に頷く。
「ああ。そして、その苔は森の奥に行くほど濃密になっている気がする。この異変の核心は、もっと先にあるはずだ」
イグニスも、戦斧を肩に担ぎ直し、頷いた。
「行くしかねえだろ、こんな気味の悪い森、さっさと元に戻さねえとな!」
キャルルも力強く頷く。「はい! リーシャさんとユウタさんのためにも、頑張ります!」
四人は互いの顔を見合わせ、頷き合った。危険は増すだろう。しかし、謎を解き明かし、この森を、そしてルナキャロット村を守るため、彼らはさらに「囁きの森」の奥深くへと足を踏み入れる決意を固めたのだった。
リーシャの警告とほぼ同時に、牙を剥いた巨大な森イノシシが、地響きを立てて突進してきた! その背後からは、涎を垂らした二匹の森オオカミが、低い唸り声を上げながら続く。そのどれもが、目を不気味な赤色に光らせ、尋常ではない凶暴性を剥き出しにしていた。
「来るぞ! イグニス、イノシシを頼む!」
勇太が叫ぶと同時に、イグニスが雄叫びを上げて前に出た。
「おう、任せろ! こいつの突進、止めてやるぜ!」
彼は大盾を地面に食い込ませるように構え、全身でイノシシの突撃を受け止める。
ゴッガァァン!!
凄まじい衝撃音と共に、イグニスの巨体が数歩後退するが、彼は歯を食いしばって耐え抜いた。
「ぐっ……こ、の、バカ力……!」
イノシシが怯んだ一瞬の隙を、勇太は見逃さない。
「キャルルさん、左のオオカミを! 僕が右をやる!」
勇太は薙刀を構え、右側のオオカミに斬りかかる。オオカミは素早い動きで薙刀をかわそうとするが、勇太は冷静にその動きを読み、柄で側面を強打して体勢を崩した。
「はあっ!」
キャルルは左のオオカミに対し、持ち前のスピードで翻弄する。トンファーで鋭い爪を受け止め、的確な蹴りを叩き込んでいく。
「アイスランス!」
後方からリーシャの援護魔法が飛ぶ。氷の槍がイノシシの側面に突き刺さり、その動きをわずかに鈍らせた。
「助かるぜ、リーシャ!」
イグニスは体勢を立て直し、戦斧をイノシシの頭部めがけて振り下ろす!
戦闘は熾烈を極めた。凶暴化した動物たちは、通常の個体よりも明らかに動きが素早く、力も強い。勇太もキャルルも、何度か危ない場面があったが、互いの連携と、リーシャの的確な魔法援護で切り抜けていく。
(こいつら、ただ興奮しているだけじゃない……何か、異常な力で突き動かされている感じだ)
勇太はオオカミと斬り結びながら、その異様な執拗さに違和感を覚えていた。彼はふと、出発前にポイントで購入した「動物鎮静装置の試作品」を思い出した。円盤状のその装置は、特殊な低周波音を発して動物の興奮を抑えるという触れ込みだったが、効果は未知数だ。
(ダメ元でも、試す価値はあるか!)
勇太はオオカミを一時的に突き放すと、リュックから装置を取り出し、スイッチを入れた。
キィィィン……という、人間にはほとんど聞こえない高周波音が周囲に広がる。
すると、あれほど凶暴に襲いかかってきていたオオカミたちの動きが、ピタリと止まった。赤い目の光が少し和らぎ、混乱したように首を振っている。イノシシも、イグニスの斧を受けて倒れ伏しながらも、どこか焦点の定まらない目でこちらを見ていた。
「効いた……のか?」
「ユウタさん、あれは?」キャルルが驚いて尋ねる。
「僕の世界の……動物を落ち着かせる道具だよ。まだ試作品だけど」
動きの止まった動物たちに、リーシャが静かに近づき、何かの呪文を唱えると、彼らの体からふっと黒い靄のようなものが抜け、そのままおとなしくなった。
「……浄化の魔法よ。これで、少なくとも彼らの凶暴性は取り除けたはず。でも、根本的な原因は別にあるわね」
勇太は、鎮静化したオオカミ(まだ警戒はしているが、襲いかかってはこない)の口元や、先ほど採取した光る苔のサンプルを、簡易検査キットで比較してみた。
「……やはり、あの光る苔に何か関係がありそうだ。動物たちの唾液から、苔に含まれるのと同じ未知のアルカロイド成分が検出された。これが神経を興奮させているのかもしれない」
「アルカロイド……。あなたの言う『かがく』の言葉は難しいけれど、つまりあの苔が原因で、森の動物たちが操られているかのように凶暴になっている、ということね」
リーシャが勇太の分析に頷く。
「ああ。そして、その苔は森の奥に行くほど濃密になっている気がする。この異変の核心は、もっと先にあるはずだ」
イグニスも、戦斧を肩に担ぎ直し、頷いた。
「行くしかねえだろ、こんな気味の悪い森、さっさと元に戻さねえとな!」
キャルルも力強く頷く。「はい! リーシャさんとユウタさんのためにも、頑張ります!」
四人は互いの顔を見合わせ、頷き合った。危険は増すだろう。しかし、謎を解き明かし、この森を、そしてルナキャロット村を守るため、彼らはさらに「囁きの森」の奥深くへと足を踏み入れる決意を固めたのだった。
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